【 鬼と一緒に踊りゃんせ! 】
風魔小太郎は伝説の忍である。
存在を知られながら確証は無き風の悪魔。
風を読み今は北条家に仕えているが、彼は今死の淵に立っていた。
「(・・・・血が止まらない)」
雪深い山で、小太郎は樹上に居た。
止血しようにも傷は横腹、縛っても知れている。
流石に小太郎が伝説の忍であっても、続く任務で疲れを感じ始めた頃に雪山で野盗集団三連発は痛手だった。
全員殺しはしたが受けた浅い傷が血に滲む。
毒だろう、血が止まらないのだ。
「(・・・・・・死ぬのか)」
どうあがいてもこの状態では小田原までは帰れまい。
諦めて枝に膝をついた時だった。
「何だ詰まらん。もう諦めたか」
「!」
突然掛かった声に敵意はなかった。
だが忍の習性、さっと立って警戒する。
「何だ、まだ死なないのか」
声の主は少し離れた雪の中に立っていた。
一目見て分かったのは黒い着流しに派手な女物の着物を引っ掛けて足は裸足だと言う事。
数瞬後に判断できたのは、恐ろしく美しい貌だがどうやら男であると言う事だった。
「その傷じゃあと半刻もたんな」
「(・・・・・煩い)」
「はは、活きの良い」
僅かな唇の動きを読んだ。
この男、只者ではない。
それを感じて小太郎は益々警戒した。
だが男は樹上の小太郎を見上げて紅い唇を笑ませた。
雪より白い歯が煌めく。
「お前は中々丈夫そうだ。何なら生きて帰してもいいぞ」
・・・・・意味が分からない。
死にかけの人間を生き返らせる秘術でもあると?
「はは、頭も鈍り始めたか。まぁいい。俺の血を飲めばお前は助かる。が、一生俺が望むまま血を与えて俺を飼い馴らし続けねばならない。
そして死んだら俺に血肉を食らわれる・・・・・・どうだ?」
小太郎の判断に迷いはなかった。
忍に感情が無用ならば、生き長らえる術を選り好みする必要もない。
小太郎は直ぐに頷いた。
男は軽く笑うと、小太郎に降りてこいといった。
もう死にかけの身だ。
従って野盗に殺されてもそう死期に変わりはない。
木から雪の中に降り立ち、男に近付く。
男はついと襟元を崩し、そのくらくらするような色気の首元を晒した。
「食らい付け。幾らでも貪るが良い」
「・・・・・・・・」
言われる儘に唇を寄せた。
ああ、白百合のような香りがする。
今から行われるおぞましい儀式とはまるで裏腹・・・・・・・・・・。
ぷつり。
小太郎の歯が白く柔らかな肌に食い込む。
溢れる血はもはや血ではなく甘露。
我を忘れて飲み込めば、身体は軽くなり、血が巡る。
正に『生き返って』いく。
「余り飲むと『戻れなく』なるぞ。俺はそれでも一向に構わんが」
「!」
笑いを含んだ声にはっとし、小太郎は身を離した。
血塗れの口元を拭う。
「三日程度、普段の倍程度の力を得られる。走って帰るか?」
「(・・・・お前はどうするつもりだ)」
問うた小太郎に、男は軽やかに笑った。
「はは、お前面白いな。約束を破るのが人間だと思っていたが」
「・・・・・・・」
「まあ、近いうちに行く」
そう言って、男は早く行ってしまえと手を振った。
身を翻した小太郎が一瞬振り返った時には、そこには只雪の中、忽然と途切れた足跡が残るのみだった・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・この小田原に君主が大集合・・・・とはいえ暑いな」
石田三成包囲網として、伊達、上杉、武田、そして北条が顔を突き合わせていた。
場所は小田原城である。
因みに扇子片手にぼやいたのは政宗だ。
上座から年長順、但し忍は下座の先の隣の部屋だ。
襖は開いているが。
よって佐助と小太郎は立った儘、かすがは片膝付いている。
「まぁ、小田原は奥州と違うからのう。すまんが堪えてくれ」
斯く言う氏政も中々にキツいらしい。
暑さに皆だれ始めた頃だった。
「氏政様!」
「何じゃ騒々しい」
襖越しの家臣の声に、氏政が肘掛から手を離す。
「申し訳ありません!しかし」
「言うてみい」
「栄光門が、破られました!」
「石田か!?」
「いえ、一人の男が蹴破りました」
はあ?
皆思わず顔を見合わせた。
「風魔」
「・・・・・・・・・・・」
少し顎を引いて了解の意を示し、小太郎は風を纏って、消えた。
さてぴりぴり緊張感が漂う中、一番に足音を聞き付けたのは佐助だった。
佐助に続いてかすがも反応する。
「・・・・・・・風魔じゃないな」
その言葉に、益々緊張が高まる。
だが、庭先に現われたのはぞっとするような美貌の男だったのだ。
彼から敵意は感じない。
故にどう出るべきか。
彼は当然のように肩から『荷物』を下ろした。
それは、完全に昏倒した小太郎だったのである。
「んー・・・・・・・どれだったかな」
縁側に巾着を引っ繰り返し、小さな丸薬を選り分ける。
その内一つを取って小太郎の口に押し込んだ。
暫く様子を見る。
と、小太郎ががばっと飛び起きて激しく咳き込んだ。
「起きたか」
よしよしと小太郎の兜を軽く叩き、男は満足そうに笑った。
巾着を元に仕舞い込む。
一番に反応したのは佐助だった。
「あんた・・・・・何者だ」
「返答によっては殺されそうだな」
見透かした答えに、佐助の目が細められる。
が、それに男は答えなかった。無視したわけでなく、単純に横槍が入ったからだ。
小さな黒い影が空を横切ったかと思うと、ぱんっ、と栗が弾けるような音がして、空から娘が降ってきたのだ。
男はそれをひょいと受け止めた。
華奢な白腕で。
「主様(ぬしさま)、お洗濯終わりました!」
顔を包帯でぐるぐる巻きにしたその娘は、とても明るく言った。
男が足から地上に下ろしてやると、嫌味のないはしゃぎ方で、これからは暫く暑いです、でも明日は夕立が来ます、と報告していた。
「あと、楓さんが」
「楓?あいつまた喧嘩を吹っ掛けたか」
溜息はつくものの、表情は楽しげだ。
その内に燕がぱっと振り返る。
「楓様!」
「燕、主様も」
「ああ、早かったな」
夜叉の面を着けた着流し姿に帯刀、しかし声も体付きも確かに女のもの。
男は一目見て「峰か。まぁいい」と笑った。
「どうだ、誰か骨のあるのは居たか」
「はい。中々気骨のあるのが。負かしたら「梵には絶対言えねえ」と悔しがっておりました」
楓の言葉に、政宗と小十郎が反応する。
「成実だな」
「・・・・・・おそらくは」
そこに又現われる珍客。
「主様」
腕に子猫を抱えた娘の顔つきは半人半猫。
綺麗な振り袖を着ていた。
「どうした花火」
「この子、動かないんだ」
差し出された子猫は、生まれだばかりだろう、濡れていた。
男はそれを受け取ると、様子を見て子猫の鼻先に唇を寄せた。
詰まった羊水を吸いだしているのだ。
だが動く気配はない。
男は小太郎を振り返った。
「手伝え。俺は首の支え方が下手でな」
全員はっと我に返り、次いで小太郎に視線が集まる。
小太郎は黙って立つと、小さな子猫を受け取り、きちんと支えてから・・・・突然がしがしと毛皮を擦り始めた。
「なっ、何すんだい!」
「花火、あれは正しい。俺はもっと乱暴だぞ」
鼻白んだ花火に、男が笑う。
にゃ・・・・にゃあー!
小太郎の手の中で子猫が鳴き始める。
小太郎は黙ってそれを花火に返した。
「・・・・ありがと」
少々不服そうに言って、花火は子猫をしっかり抱いた。
「母猫は」
「・・・・・この子の事はもう諦めちまった。あたいが育てるよ」
花火か言うと、この場の人間で小太郎の次に平常心を保っているであろう佐助が軽口を叩いた。
「猫娘が猫を育てるか。なんか不思議だな」
すると、男が小さく笑う。
「花火をそこらの化け猫と一緒にすると痛い目見るぞ」
その言葉に、花火が頬を膨らませる。
「あたいが悪いんじゃないさ。天照が狭容なんだ。ちょっと寝所に火を点けただけじゃないか」
「最高神の寝所に火を放つお前もどうかと思うぞ」
「主様はちゃんと知ってるじゃないか。それで落されてなお火狂猫なんて言われてたあたいを拾って「花火」って名前をくれたんだろ?」
「まあな」
男の目が人間達を一瞥する。
恐ろしさを知っておけとでも言うように。
「俺も妖だ。人とは違う。だが小太郎と約束があってここを訪ねてきた。基本的に畳を踏むつもりはないが、約束の施行の時は少し上がり込むぞ」
妖と交わした約束が何であるかは聞くまい。
只氏政は名を問うた。
男は何の躊躇いも凄味も無く、答えた。
「俺は。人が言う酒呑童子とは俺の事だ」
・・・・・・さて夕方。
は宣言どおり、ずーっと庭石に座っていた。
どうやら皆の動きを眺めている。
特に誰と言うでもないらしく、本当に只、眺めているのだ。
「何?そんなに風魔が気になる?」
佐助がにやにやしながら水を向けると、はああ、と気の無い返事をして首を傾げた。
「矢張り、一番食べごたえがありそうな身体だと思ってな」
「・・・・・・・・へーえ」
下手に下世話な話にも持っていけない。
何せ相手は鬼の頭目酒呑童子なのだ。
『食う』が正しくそのまま口に入れる可能性も十分ある。
「しかしここは暑いな」
汗もかかない白磁の肌だが、太陽を見上げる目は少し疲れている気もする。
「大江山は、夏でも雪が残るのだがな」
この国は場所によって暑さ寒さが違いすぎる。
そうぼやいて、はまた空を見上げるのだった。
さてさて、もう少し時間を下げてみよう。
少しと言っても時刻は深夜。
小太郎は哨戒を命じられなかったので、自室に帰っていた。
小太郎を孫のように可愛がる氏政が与えた破格の待遇により、彼には八畳の自室が与えられている。
場所も代々忍を使う故の知識からか、角部屋である。
小太郎は今、布団に横たわって、デッドオアアライブの瀬戸際にいた。
「(約束が違う)」
「別に今は約束の施行を求めてはいない。単なる夜這いだ」
の肩を砕く勢いで掴み、何とか突っぱねる。
だが流石は鬼と言うべきかな、彼は小太郎の腕を捻り上げ、その帯を抜いて腕を拘束したのだ。
「(!)」
「あぁ、矢張り美味そうだな」
首筋に少し冷たい唇が触れる。ちり、とした痛み。
嫌がり全身で抵抗する様は、の本能を刺激する。
しなやかに、されど忍としては若干筋肉質といえるような肉付きの身体は喰うにしろ犯すにしろ中々お目にかかれない逸品だ。
「接吻しても噛み付かれるのが関の山、か」
兜を外した小太郎の顔は、佐助より二三上のようだった。
顔立ち自体は中々鋭く整っており、長い前髪から垣間見える瞳は赤。
化け物らしい深紅のよりは若干人間臭い色だ。
「・・・・・・美しい肌だ」
肌理の細かい滑らかな肌を撫でると、小太郎が震える。
胸の尖りに唇を寄せると、息を呑むのがわかった。
最初は軽く吸いながら丁寧に舐める。
固く尖ってきたら、少し強く吸いながら甘く歯を立てた。
小太郎の身体がひくっと跳ね、膝が軽く曲がる。
その様子から察して、は小太郎の膝を割った。
無理に開かせて身体を割り込ませる。
立ち上がりかけの自身を晒され、小太郎は唇を噛んだ。
「忍の割に余り使われていないと見える」
・・・・・・実際にそうだった。
女を抱くくらいは経験がある。
だが小太郎はもともと声帯の異状で声が出ない。
『風魔小太郎』という『里長』であり『戦忍』でいられるからこそ彼は忍でいられるのだ。
そうでもなければ諜報にすら支障をきたす彼は、下忍以下の扱いを受けるだろう。
「!」
膝頭を捕らえられ、髪と同じく赤色の茂みに暖かい息がかかる。
察してバタバタと暴れたが、何の効果もなかった。
「!」
ぴちゃ、と音がして熱い舌が這い回る。
ぬるぬると滑るそれが与える快感は例えようもなく、手管はとても常人の耐えられるものではない。
だが小太郎にも意地がある。
ぎりぎりと歯を食い縛って耐える。
だが所詮二十数年しか生きぬ人の子。
理性は溶かされ目は潤み、薄く開いた唇からは上手く飲み込めない唾液が一筋伝う。
上気した頬と時折思い出したような抵抗。
手慣れた熟女より生娘を好むには堪らないものだった。
するりと膝裏に手を入れて、ぐっと足を開かせる。
小太郎の足が力なく宙を蹴った。
の白魚の指に油が絡むのを、小太郎は荒い息をつきながら見ていた。
頭がぐらぐらして、何が何だかわからない。
だが最後の力を振り絞って逃げを打つ。
が、は簡単にその身体を捕まえて、秘められた最奥にクイと指を差し入れた。
「!」
「きついな」
嫌がる小太郎だが身体は正直だ。
の手管に翻弄され、最奥は妖しい蠢きで指を二本三本と呑んでいく。
はとてもゆっくりと時間を掛けて小太郎の身体を開かせた。
そしてが自身を取り出すに至り、小太郎は必死で身体を捩った。
「ふふ、怖いのか?」
首を縦に振らなかったのは忍として、と言うより男としての意地かもしれない。
だがは小太郎にのしかかり、その腰を押さえ付けた。
「!!!」
言葉にならない痛み。
見ていないので定かでない、なんて事はなく、その歪な形の上大き過ぎる雄は、小太郎の中に入ってくる。
痛いと訴えても苦しいと泣いてもそれは繰り返され、小太郎の意識が沈むまで続いた。
何より小太郎の吟持を傷つけたのは、無理矢理犯されて尚声無き嬌声を上げ何度も達した自分自身の身体だった・・・・・
意識は深く闇へと沈む。
鬼と一緒に踊りゃんせ・・・・・・
***後書***
新連載スタート?
というか色々手を出したけど今はちょっと休憩。でも休止にするには創作意欲がある・・・・よって続投?です。
次のハマりモノが出るまで今火鉢の中のようにぼよよんとぬくいBASARAに手を出してみた。
鳥山石燕の百鬼夜行画集が素敵過ぎた。妖怪好きだw
こんなこと言ってるからサイトがヨロヅ化するんだ(死)