【 02 】



「んー・・・・・」

「(起きろ馬鹿!)」

グダグダのまま幕を下ろした悪夢・・・・・の筈が、起きても悪夢は続いていた。

目を覚ました小太郎が初めに目に入れた・・・・と言うか勝手に飛び込んできたのは、ドアップの美貌。

瞬間全てを思い出して、小太郎はその腕の檻から逃げようとあがいた。

身体は清められているが、裸である。

これでは何をしていたかは一目瞭然だ。

必死で逃げようとするのを嘲笑うかの如く、廊下を走る音がする。

そしてその人物が時と場合により馬鹿である事を小太郎は知っていた。


「佐助ー、この部屋に某の朱雀を置いたのだなー?」

「そーだよ」

「(あのクソ猿!)」


ガラリ。


「っ破廉恥でござるーーー!」


耳がつんざけるような大声。

それなら見るなと言いたい。

しかもこんな大声で騒げば人も集まる。

竜は待ってましたばかりに、右目と剣は様子を見にだ。


「風魔・・・・・・お前」


かすがのドン引きの視線。

小太郎は前髪で上手く顔を隠して、物凄く楽しそうな佐助に手を突きだした。

昨晩どおり縛られている。


「わぁ、無理強い?災難だな」

「(外したら全殺しの所を半分で済ませてやる)」

「それって半殺しだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「分かったって」


殺気全開で脅されて帯を解く。




「ん・・・・・・・・」

「!」


ぎゅう。

益々固く抱かれて、小太郎は焦った。

別に恥ずかしいなどという甘ったるい羞恥心ではない。

単に肋骨や背骨が不穏な音を立てているからである。


「・・・・そのままにしておくと折れる気がするんだが」


政宗の言葉はもっともだ。

早く逃げないと死ぬ。

小太郎は真剣に脱出を試みた。


「(放せ!)」


髪を毟ろうが殴ろうが蹴ろうが、兎角この鬼、起きない。

そこに救いの女神が現れる。


「あ、風魔様。同衿なされたのですね」


燕だった。

彼女の抱えた洗濯籠から出ているのが己の着物であることはこの際どうでもいい。

・・・・・正確にはあの白濁塗れの着物を洗われたのが嫌だが・・・・・・今はそれどころではない。


「起こされるのでしたら鳴神様と起風様が良いですよ」

「(呼んでくれ!)」

「はい。鳴神様、起風様ー」


彼女が空に向かって呼び掛ける。

返事はすぐにあった。


「おう、どうした」

「また起きねぇのか?」


空に見えるは二匹の鬼。

容姿云々説明するより、風雷神と端的に言ったほうが分かりやすかろう。


「はい、また深く眠っていらして。あ、雨はない方が良いです。今からお洗濯物を干しますから」

「「おう、心得た」」


それはご想像に固くないが、早い話雨の無い暴風落雷。

ガラガラドンガラ、である。

そこに至りやっと目を覚ましたは、漸く小太郎を解放した。

起き上がるを刺すのは後だ。

小太郎は直ぐ様布団の中で枕元に置いていた忍装束に着替えて兜を被り、対刀を抜いた。

が、につき立てるには至らない。

彼は着流しで縁側に行き、二匹の鬼と話をしていたのだ。

命の恩人の話の腰を折る訳にはいかない。

仕方が無いので対刀を仕舞おうとしたのだが。


「鬼の手管はどうだった?」


軽口叩く佐助に腰を叩かれそうになり、対刀は抜いた甲斐有りの輝きで佐助の喉に当てられた。


「はは・・・洒落にならないって事・・・・・・・」


流石の佐助もそりゃ災難、と思った。

腰を若干庇った風魔の姿は、割と人間らしい哀愁が漂っていたという。





さて昼時。

また集まって食事を取る面々。

別段儀式でも会議でもない。

単にが何をするかが面白くて集まっているのだ。

勿論釣り餌の小太郎は隣で忍ビーズと食事を摂っている。

故にはまた庭石の上で雲を眺めているのである。


「豆」

「何だ幸村」

「某では御座らん。佐助だろう?」

「冗談。俺様が何で突然豆とか」

「まーめー!」

「あ?」


ガァン!


全員・・・・・・小太郎以外だが、箸を落とした。

の則頭部に燦然と煌めきながら硬い事を主張する茶釜が飛んできて当たったのだ。

が、は事もなげに落ちた茶釜の蓋の輪を摘んで釜を膝に乗せた。


「まめか。置いていったのを拗ねているのか?」

「・・・・・・・・まめっ」


茶釜がもそっと揺れ、蓋から頭、後四方向から小さな足を出したのは、何と狸。

豆、とは恐らく豆狸の意であろう。

彼はよじよじと脚を動かしていたが、暫くすると元の狸に戻った。

矢張り小さい狸だ。

子狸と言う訳ではないらしい。


「まめっ!まめっ!」

「?」


彼はちょん、と縁側に座るとじっと小太郎を見た。

そして非常に素早い動きで小太郎に飛び掛かったのである。

刀を抜く事もままならないが何とか受け身は取る。

まめはそのまま小太郎の鎖帷子を噛み千切った。

流石は鬼の頭目に体当たりをかますだけのことはある。

が、次の行動には皆・・・・・・・小太郎も動きを止めた。

何と子狸は一心不乱に小太郎の胸の尖りを舐め始めたのだ。

がもう堪えられぬと笑いだす。


「っはははは!まめ、お前昨日の見てたのか!だが残念ながらそれは乳を出さんぞ」

「まめ?」

「何故も何も、そうなっている。ほら、来い」


不思議かつ残念そうに狸は小太郎から離れた。

そしてに抱き上げられて庭石に座る膝に納まった。

皆と同じく呆気に取られている佐助の膝を、かすががひっぱたく。


が言っていたのが分からないのか。あの狸は風魔の乳を吸う主を見て母乳が出ると思ったんだ」

「・・・・・あぁ」


成程ね。

硬直した小太郎を除いて、全員が腑に落ちないほのぼの感を感じた一件であった。





「・・・・・・・・と、言う事で、強情なまめを説得してくれ」

夜中にまた部屋に現れ、は件の豆狸を摘んで小太郎の前に置いた。

小太郎は余りにも馬鹿らしい事を言いだしたに一瞬殺意を覚えた。

が、狸のそれはそれは輝いた目に敢えなく撃沈。

彼は人間以外・・・・以外の妖にも恐らくだが・・・・・割と優しい。

仕方なく着流しの上半分をはだけ、肉付きや胸が女のそれとは違う事を見せる。

だがまめはしみじみそれを見てから頑として首を振った。


「ま、まめっ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「まめは強情だぞ」

「(お前よりはずっと可愛げがある)」


小太郎は仕方なく着物を全て脱いだ。

まめはじっとそれを見てから、すん、と鼻を鳴らしてうなだれた。


「(・・・・悪かったな)」

「まめ・・・・」


小太郎の腕に抱かれたまめはとても小さかった。

に返そうとすると、まめは手から逃れてとぼとぼと庭の方へ出ていった。

障子を閉めて、が苦笑う。


「まめには可哀想な事をしたな」

「・・・・・・・」

「お前の所為ではないさ。あれは人間が好きでな。聞福などと言われて寺で湯を沸かした時も三日間煮え湯を絶やさなかった程だ。

 後で火傷に七転八倒したのにそれでも人間に構って欲しがる。・・・・人などすぐに俺達を置いて逝くのに」


「・・・・・・・・・・・」


最後の一言がとても冷たくて、小太郎は何となく黙っていた。

が、着物を着ようとした時、強い力で布団に倒されるに到り、口を開いた。


「(お前の酔狂に付き合う気はない。すぐ死ぬ人間を下等と思うなら、せめて安息の睡眠を与えようとは思わないのか)」

「安息な睡眠より気が触れる快楽を与えてやりたい」

「(迷惑だ)」


小太郎が切り捨てるも、は只笑うだけだ。

なまじっか綺麗な所為で、下品さが無いのが鼻に付く。


「(兎に角・・・・・・っ!)」


少し冷たい唇が耳に触れる。

舌が這う感覚に肌が粟立った。


「・・・・・・」


ひゅう、と小太郎の喉が鳴った。


「(野太い男の嬌声が上がらぬのはさぞかし都合が良いだろうな・・・・!)」


燃えるような瞳で吐き捨てた小太郎に、が目を細める。


「・・・・・・・俺は聞けるものなら聞いてみたかった」


その瞳が余りに真摯で、小太郎は思わず口をつぐんだ。

は何故か悲しそうに笑って、冷たい指先を小太郎の身体に這わせた。


「(っん!)」


忍は己の感情を律する事が要求される。

当然欲望も同じだ。

身体的反応をも。

だが小太郎は今それをしなかった。

何故かと問われれば気紛れとしか言えぬが、抵抗はしても身体が高められるのは放っておいた。


「・・・・お前の肌は、甘いな」


へその辺りを軽く噛んで、は微笑った。

ちり、とした痛みが走る。


「白い肌と桜の花弁、鬼と揃っている。花札の役にでもなりそうな組み合わせだな」

「(はっ・・・・不吉な役だな・・・・・っ!)」


今度は腰骨を包む薄い皮膚を噛まれて、小太郎の唇がわななく。

の手が、立ち上がった小太郎の雄に触れた。


「!」


ぬるりとした感触が雄を包む。

何をされているのかなんて一目瞭然だ。

口淫をするの長い髪を引くも、やめる気配もない。

舌が雄に絡み付いて、唇が敏感な幹を擦る。

喉の奥の柔らかい部分に先端が当たったかと思うと、咽頭が引き絞られて腰が砕けそうな快感に見舞われる。


(もう、駄目だ)


膝が笑い、踵が滑る。

小太郎は目を閉じて力を抜いた。

の唇がちゅ、と音を立てた。

どろり、と口内を満たす苦い蜜。

それを二回に分けて嚥下し、幹も綺麗に清めて、は小太郎の太腿を撫でた。

くたりと弛緩した脚を開かせる。

抵抗されたが、小さく窄まった最奥に舌を這わせると、ぎくんと身体が強ばった。


「・・・・・・!」


嫌がる者が多いこの行為だが、嫌がりながらどうしてもこの行為に感じてしまう者が珠に居る。

小太郎もそのクチだったようで、上半身が狂ったように暴れる反面、下半身は歓喜に打震え、雄は立ち上がっていた。

最奥は出入りする舌と指を淫らさ極まりない動きで締めている。

それを自覚している小太郎は暴れるのを段々と弱らせ、布団に半顔を埋めて俯いた。

時折「ひゅう」と息を震わせる姿が、何とも色っぽい。


「・・・・・・・・・」


膝を折られて目を開ける。抱き締める腕が自分より余程華奢なのがいっそ可笑しい。


「力、抜け」

「(・・・・・・俺の勝手だ)」

「それもそうか」


笑いながら腰を進められ、小太郎は悶絶した。

激痛としか言えない。

普通の衆道でも怪我をする場合があるという。

ましてや人間より余程太く長く、その上でこぼこと歪なそれとの交わりだからかなり痛い。

だが素直に力を抜く程小太郎は飼いやすい忍ではないのだ。


「(早く終わらせろっ・・・・・・!)」

「お前・・・・・痛いだろうに」

「(知るか!)」


わななく唇で言い切って、小太郎はぐいと腰をくねらせた。

が目を細め、にっと笑う。


「よかろう。その気位に敬意を表し」


全力で可愛がってやる。

闇夜をつんざく声無き悲鳴に、屋根の狐がコン、と鳴いた。





「あら、主様。お早いのですね」

洗濯物を干す燕が、歩いてきたに会釈する。

は軽く手を上げて、空を見上げた。


「夕立は来るか?」

「今日ですか?今日は来ないですよ」

「ふぅん・・・・・」


ぼーっと空を見上げる主が心なしか嬉しそうに見えて、燕はにこりと笑った。


「主様がご機嫌だと燕は嬉しいです」


でも、風魔様は大丈夫でしょうか・・・・・・・優しい彼女は午後の八つ時に、小太郎の部屋の縁側にそっと、痛み止めの丸薬を置いておいたのだった。





***後書***

こたがムキムキなのがいけないんだ・・・!(何)

画集のこたがあんまりムキムキな腕して腰が意外と細くって萌!

こたはマジで飼いやすくない忍だと思います。

抵抗するよ?諦めないよ?

・・・・そんなところがおねーさんの萌を刺激するのが分からんの分かんないのですか?!(言いがかり)

きっと諜報とか不向き。

一話で言ったけど喋れないから戦忍専門だといい。

ぶっちゃけ他の仕事なんか風魔衆の誰かがやればいい。

おねーさんは生娘が好きですよ、処女大好物。

・・・・男の話ですがね。童貞は別にどうでもいい(笑)