【 艶声 】



「ゥ・・・・・・・」

目が覚めて、魏延は軽く頭を振った。

昨日の情事の所為か、二日酔いと言うほどではないが、少しばかり体がだるい。

寝台に座ると、は既に起き出して書き物をしていた。

その姿をぼーっとみていると、気付いたが手を止めて振り返る。


「起きたか。どうする、朝餉には間に合うが。・・・・食えるか?」

「我・・・・空腹・・・・・・・」


人間大抵の場合は多少体調が不良でも空腹は感じるものだ。

くつりと笑って、は筆を置いた。

魏延が身支度するのを待ち、二人一緒に部屋を出る。

の部屋から魏延が出てくるのにも、もう違和感のない皆だった。





「おい、魏延!」

朝から元気に粥4杯目を食べながら、張飛がにやにやと話しかける。

魏延はゆっくりと青菜を咀嚼しながら張飛に視線を向けた。


「昨日は凄かったみてぇだな」

「何ガ、凄イ」

「声声。スゲぇ喘ぎ声がだだ漏れよ。お陰で寝るに寝れねぇっつーの」

「!!!!!!!!!!!!!!」


かーっと魏延の顔が赤らむ。

可哀想な位に動揺している彼に、劉備がフォローを入れた。


「だ、大丈夫だぞ、魏延。私は聞いていないぞ。部屋が遠いからな!」


それはつまり部屋が近いと聞こえてしまうという事。

張飛や趙雲、馬超等は比較的部屋が近い。

さっと目を逸らしていた。


「声ぐらい良いだろぅに。実害は無かろう?」


が粥に匙を入れながら言う。

張飛は「まぁそうだけどよ、微妙なんだよなぁ」と粥を食っていた。

確かに魏延の艶声で欲情できる男は少ないだろうが。


「第一魏延は俺の肩をもよう掴まん。その分声に回るのであろぅよ」


そう言っては粥を口に運んだ。

彼は白粥に塩もかけずに食うのが好きだ。


「ふーん・・・・じゃあ背中も奇麗なまんまか」

「俗に言う男の勲章か?殆ど無いな」


粥だけ一杯食べると、は席を立った。

朝はあまり腹に入らぬらしい。

居辛くなった魏延も、粥をかっこんで席を立ってしまう。

図らずも一緒に出ていく二人に、皆は感心してしまう。


「翼徳、余り魏延を苛めるものではない」

「やー・・・つい面白くてよ」


嗜める劉備に、張飛がへらりと笑う。

劉備は溜息をついて、思わず呟いた。


「私の部屋の壁を厚くするか、の部屋の壁を塗り足すか・・・・やはり後者であろうな・・・・」





「我、今日カラ声出サヌ」

「また急な話だな」

夜になって、の部屋。

魏延は宣言した。

どうやら張飛の言葉がよっぽど堪えたらしい。


「声ぐらい聞かせてやれ。お前の声は耳に好い」

「・・・・・・・ソレ、オ前ダケダト思ウ」


しっかり常識の範囲内で答えた魏延に、が軽く笑った。


「それは俺の腕を試すという事か?」


色のある笑みを浮かべて問えば、魏延が無言で一枚の布を取り出した。

真中を咥えて、後頭部で端を結ぶ。

は思わず目を瞬かせた。

次いでぷっと吹き出す。


「猿轡か。自分でするのを見ると面白いな」


は轡をかけた魏延を寝台に伴った。

そしてそっと、気付かれぬように魏延の右肘の裏下方に針を打つ。


「さぁ、どこまで堪えられるかぇ?」


の指が魏延の服をするすると脱がせていく。

口付けもなしに胸の尖りに突然触れられて、魏延は体を仰け反らせた。


「ウゥ?!」


がさっき針を打ったのは快楽が倍増するツボ。

撫でられただけで雄がぴくぴく動いて、魏延は思わず手で其処を押さえた。

間から見える赤黒い肉が厭らしい。


「ふふっ。指でそんななら・・・・こうしてはどうか?」

「ウウッ!!」


ちゅうと吸いつかれて、魏延の体ががくがく震える。

押さえていた雄は中指と薬指を押しのけて立ち上がり、蜜をはしたないほど垂らしている。

は魏延の体を眺めまわして、まず頬に口づけた。

次に肩を噛み、胸を吸って腹に跡を残す。

腿を激しく噛んで内腿はキツク吸う。

痕が残った其処を舐めて、足を持ち上げて甲に口づける。

足の指を口に含んで一本一本吸うと、魏延が身を捩った。


「これが好きか」


踝を噛みながら言うと、魏延は嫌がるように首を振った。

それがいじらしくて、足の小指をきつく噛んで吸う。

びくっと魏延の体が強張って、ぱたぱたと精液が散った。


「ウゥ・・・・・・ゥ・・・・・」


魏延の目から一滴の涙が零れ落ちる。

それは恥ずかしさの為か、過ぎた快楽の為か。

恐らくは両方であろうが、兎角は楽しかった。

この男らしい魏延が泣き、喘ぎ、よがるのを見るのはとても楽しい。


「そう泣くな。お前が一番楽しみにしていることはこれからだぞ?」

「ウゥアゥ、ウウァ」


多分に「楽しみにしてなどいない」と言いたいのだろうが、は耳を貸さない。

魏延が零した精液を指で掬って、窄まりに塗りつける。

魏延が腰から力を抜く。

少しだけ和らいだそこに指を差し入れると、激しく絡みついてきた。

魏延もくぐもった声を漏らしているが、痛みの為ではなさそうだ。


「ンウ!」

「良さそうだな」


魏延の雄は再び力を取り戻して、天を衝いている。

はそれには触れなかった。

自分の針の技量を熟知しているからだ。

今触れば達してしまう。

快楽を最小限に抑えて後孔を解し、受け入れさせる準備をする。

魏延は轡の所為でくぐもった声しか出せなかったが、それでも快感は強いようだった。


「・・・・・そろそろいいか」


指を引き抜くと、魏延の身体がぶるっと震えた。

脚を抱え上げて其処に己の雄を押し当てる。

魏延の濡れた目がを捉えた。


「いくぞ」


押し入る痛みの声も今日は無い。

轡を力一杯噛み締めて、魏延は我知らず後孔を窄まらせた。

痛みを感じるだったが、やめはしない。

全部一気に押し込むと、涙の伝った魏延の頬をペロッと舐める。


「よく堪えたな」

「ゥウ・・・・・・・・」


魏延の手がの背に回る。

珍しい事だった。

普段は華奢なを傷つけそうで、魏延は余り縋らない。

自身、珍しいと思いながら、この日初めての口づけをする。

軽く、下唇を噛んだだけ。

好きな接吻が轡をすると出来ぬのだと気付いて、魏延は少し寂しかった。

は分かっていながら、轡などした罰に知らぬふりをする。

腰を揺すると、魏延が耐えきれずにの背に爪を立てた。

皮膚が裂ける感触がしたのに気づいたのはだけで、魏延は快楽に耐えるのに精一杯だ。

普段なら声を出して軽減できるのに、今日はそれが出来なかった。


「ウゥ、ゥ、ウウウ!」


鳴く魏延を責め立てると、針の所為か轡の所為か、今日はかなり早い終わりを迎えた。

強く絡んでくる淫肉に、も奥で精を吐く。

鼻で呼吸するのが辛そうな魏延から、唾液の染みた轡を取ると、彼は初めて我に返ったようだった。

血に塗れた己の指先に、さっと青ざめる。


、背・・・・・」

「気にするな。ま『男の勲章』だ。戦傷ではない方のな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


それでもしょんぼりする魏延に苦笑し、は意地悪く諭すのだ。


「ほら、声を堪えるからこんな事になるのだよ」

「ウゥ」

「声を殺すな」

「・・・・・・・ワカッタ」


後日廊下ではち合わせた劉備と魏延が、同時に部屋の壁を厚く塗ることを申し出たのは言うまでもない。

秘かに笑うはだけかな。





***後書***

針ネタはナナシ様から頂きました。

彼女は私の作品どんどん読んでくれます。ありがたやありがたや。

轡は単に私の趣味です。

ほら、魏延って野性児だから(?)躾にはやっぱり轡が要ります。よね?