【 紅き華 】



その日は朝からが静かだった。

言葉少なで、動きもゆっくりしている。

どこか違和感を感じた。

が朝餉の後に席を立った時だった。

戸の所でばっと口元を押さえ、咳き込む。

嫌な音がして、白魚の指の間から朱が滴った。


!」


孔明が駆け寄って、支える。

ホウ統は勝手知ったる、と頓服を取りに行った。

魏延も傍によっての口から手を外させる。

堰き止められていた血が溢れ零れた。

他の者は身じろぎさえできない。

の死という事象に対して最も理解の深い三人だからこその対応だった。


「ぁは、迷惑掛けるね」


あくまでも飄々と、口元を血に濡らしながら嗤うに、皆胸を痛めた。

たった16でこうなろうとは。

病もそう。

性格もそう。

は口元を手の甲で拭うと、水を欲しがった。

魏延が水を持ってくると、丁度ホウ統が薬を持ってきた。

はそれを口に入れ、水を飲む。

吐き戻さない様に横になるから、と言って、は部屋を出て行った。

一瞬迷う魏延に、孔明が複雑な顔をする。


「一緒にいてあげなさい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


魏延が部屋を出る。

追う背中は儚い華の様だった。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あぁ、来たのか」

の部屋の戸を開けると、は寝台に中途半端に臥せっていた。

膝は床、上半身は寝台。

どうやら途中で力尽きたらしい。

魏延はを抱え上げると、静かに寝台に下ろした。

は大人しくしていて、と言うよりぐったりとしていて。

どうやら相当きついらしい。

傍に椅子を持ってきて座ると、が薄らと目を開く。


「そんな顔をするな」

「ソンナ、顔?」

「切ない顔だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


切ないなんて言うものじゃない。

胸が張り裂けてしまいそうだ。

だが言ったところでを責めるようなもの。

魏延は黙っての髪を梳いた。

は「ただの発作だ」と呟いて、死んだように眠っていった。

魏延はただ、そのぬくもりだけでの生を感じながら、ただ黙って髪を梳いていた。

まるで自分の命がに移り、均等に配分されて、一緒に死んでいけばいいとでも言うように・・・・・。





***後書***

はい、久し振りのシリアスですね。

ただ喀血する君が描きたかっただけ、という何とも不純な動機のこれ。

だって儚い美人は喀血するのが華じゃありません?

なーんて勝手なことを思う午前4時。

頭寝てるだけかもです。