【 白い貝殻 】



「やる」

夜明け前のほの暗い寝室で、目覚めながらもまどろんでいた魏延に、が手を差し出す。

反射的に受け取ると、それは小さな貝殻だった。

だが、川の黒や茶の貝とは違う。

魏延の知らぬ純白の貝殻だった。

思わず起き上がり、蝋燭の炎に照らしてまじまじと見る。

は起き上がった魏延の腿に頭を乗せると、珍しく懐かしそうな眼をした。


「昔揚子江の逆流の跡を歩いた時に見つけたものだ。大方海のものであろうよ。まだ六つの時だった」


六つで揚子江の反乱の跡を一人歩いたというのだから大したものだ。

大人でも後災を恐れて余り近づかぬというのに。


「ソレ・・・・大切、違ウノカ・・・・?」


魏延がの顔に視線を落とす。

はふふっと楽しげに笑って言った。


「良い、良い。貝殻なんて言うものは俺には似合わん。お前が首から下げた方がよっぽど似合う」

「ム・・・・・・・・・」


確かに魏延の出で立ちからすると、それも似合うかもしれない。

だがは別にそれを強要するわけではなかった。


「小さい頃は血反吐を吐く度怖くて泣いた。それを握りしめて泣いた。だからもう涙の染みた貝は要らん」


むしろ。


「お前が持っておけ。それを握り締めて俺の涙を想え。さすれば俺の涙も報われよう?」


魏延は貝を見つめた。

真白なそれにどれだけの涙が染みたのだろう?

もうの涙は尽きてしまったのか。

出来るならば己の武運が尽きた時には一粒でいい、涙を。

陽光が昇り始め、魏延の手の中の貝殻が純白に煌めく。

それをゆっくりと握りしめ、魏延は目を閉じた。

染みた涙は、途方もない。

それだけが唯、切なかった。





***後書***

詩調第二弾!

今度は貝殻です、プレゼント。

海に行った事にするには長旅できる歳じゃないし、揚子江の逆流使いました。

エロもいいけど詩調の悲しさ漂うのもいいと思ってしまいます。

でも基本は明るい凌辱です(え?)。