【 微睡 ‐まどろみ‐ 】



魏延がに書簡を届けに行った時の話だ。

戸をコツコツと叩くと、中から曖昧な返事が返ってきた。

一応返事は返事として戸を開けると、は寝台に伏して微睡んでいた。

彼が寝る姿は珍しい。

は眠りかけた目で書簡を捉えると、机を指差した。

置け、という事らしい。

魏延は書簡を置くと、寝台の傍に寄った。

は更に微睡が深まってきたようだった。

うつ伏したその背を流れる髪を梳くと、が喉の奥を鳴らす。

寝台の端に腰掛けて髪を梳いていると、そのうち寝息が聞こえ始める。

魏延はしばらく髪を梳いていたが、そっと手をの頬に滑らせた。


「ん・・・・・・・・・」


起こしたかと思ったが、は呻いただけで眠ったままだった。

突然、魏延の胸の内を恐怖が通り抜ける。

このまま眠って目覚めぬのではないか。

永遠に眠ってしまうのではないか。

そんな筈は無いと思いながら、疑心は消えない。

の髪をそっと寝台に垂らし、背中、心臓の裏に手を当てる。

規則正しく、だが時折おかしな鼓動が混じる。

魏延は思う。

神、と言われるものがもし存在するとすれば。

何故神は美しいもの、聡明なもの、尊いものから順に奪っていくのだろう?

何故愚か者ばかりを残すのだろう?

この世が愚者で溢れ、また短命な尊人に導かれて新しい世を始めたがっているのか?

それを繰り返して戯れているのだろうか?

存在するか曖昧なものに怒りを覚えたところで詮無い話だ。

だが魏延は思う。

が愚者であったなら。

もっと長く共に在れたのにと。

そう、思った。





***後書***

まどろんでいます。

夢現、とはまた違う、微睡。

なんか同じようなのが続いていますが勘弁を。

魏延の切ない心と惚れ込み具合を書きたいんです。

君も魏延のこと大好きですが意地悪します、サディストですからw