【 月下香 】



の腕に抱かれたまま、魏延はふっと覚醒した。

外はまだ暗い。

夜明けは遠いようだ。

は昨晩は身体を求めず、ただ一緒に眠ることを望んだ。

どうやら病に蝕まれた身体で激務をこなすのに些か疲れていた様だ。

魏延は違和感を感じつつもその白い腕に抱かれて、いつの間にやら眠っていた。

夜中に目が覚めたのは、香りの所為だ。

涼しげで清廉、且つ甘く。

まるで月下香の様に夜香るそれはの香りに他ならない。

魏延はそっとを抱き込むと、その香りに酔い痴れた。

が身じろぎ、小さく呻く。


「・・・・・・どうした・・・・・・」

「スマヌ、起コシタカ」

「いや・・・・・・・・・・・・」


眠たげながら薄らと笑うその顔は妖艶で。

魏延はの首筋に顔を埋め、香りを肺に満たした。


「何だ・・・・・何もつけていないが・・・・・・」

「月下香ノ・・・・香・・・・・・」

「俺がか?」


面白そうに笑って、は魏延に抱きついた。

その髪の香を吸い込んで、小さく笑う。


「お前はお前の香りがするよ。俺の一番好む香りだ」


どんな香油より、麝香より芳しい。

狂おしく俺の心を掻き乱す。

情熱的な告白に、魏延は少しだけ顔を赤らめた。

これが他の者であったならもう真っ赤に赤面しようが、彼は些か鈍いきらいがある。


「我モ・・・・オ前ノ香、好ム・・・・・・」

「ふふ、そうかい」


楽しげに笑っては魏延の身体にすり寄った。

ずり落ちかけていた掛け布を掛け直す。


「もうひと眠りせんか。起き出すには些か早過ぎる」

「アア・・・・・・・・・」


二人ゆっくり目を閉じる。

互いの香りを纏いながら。

それが身体に染み込めばいいと思いながら。





***後書***

月下香…チューブローズ

和名の余りの素敵さに書いてしまった一品。

体臭って欲情しますよね?

それが良い香だったらなおよし。

まぁ汗の匂いって言うか漢の匂いでもいいですが、ここはひとつ。