【 華厳の滝 】



「薬・・・・・・・」

「要らん」


また血を吐いたに、魏延が頓服を渡す。

だがは寝台に横たわったまま拒否した。

そして身体を起こすと、咳き込みながら執務を続けようとする。

これにはさすがの魏延も切れた。


ッ!」


寝台に引き戻して、うつ伏せに倒れたその尻を思いっきり引っぱたく。

所詮尻叩きと言う奴だが痛みの割にダメージは少なく、屈辱は大きい。

の目がきつく吊り上がった。


「お前・・・・・・」

「オ前ガ悪イ!」


魏延は薬を投げつけると、部屋を出てしまった。

悔しさと怒りで唇を噛む。

廊下を早足で歩いて自室に戻ると、魏延は寝台に身を投げた。

こんな時は不貞寝に限る。


、何故」


唇から洩れた小さな呟きは、宙に溶けた。





「ン・・・・・・」

魏延が目を覚ますと、外は夕暮れだった。

余程精神的にキテいたのか、だいぶ眠ってしまったようだ。

起き上がって、赤い夕日を眺める。

唐突にの事が気になった。

あんなに腹を立てていたのに、今は心配で仕方がない。

魏延は部屋を出て、の部屋へと歩いた。

きっと怒っている。

プライドの高いが、子供扱いされるのを嫌うが、尻叩きという屈辱を受けたのだ。

簡単には許してくれそうもない。

だが放っておくのは無理だ。

の部屋の扉の前で、戸を叩こうとしたまま固まってしまう。

だが覚悟を決めて戸をコツコツと叩く。

中からは不機嫌な返事が聞こえた。

扉を開けて入り込み、閉める。

は寝台に腰掛けて書簡を読んでいた。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


完全な無視。

ちらとも見ないし返事もない。

まるで魏延がそこにいないか様に振舞うに、魏延は切なく胸の内を吐露した。


「我、ト生キタイ・・・・!」


は書簡に目を落したまま、すげなく冷たく答えた。


「訳の解らぬ我儘を言うな。俺は死ぬ、近く」


感情の籠らぬ声で言われて、魏延は悔しさと悲しさから叫んだ。

悲痛な叫びだった。


「死ヌ時、連レテ逝ク、構ワヌ。其レマデハ共ニアリタイ!」

「何を・・・・・」

「死ンダ様ニ眠ルダケノオ前ノ傍ニ居タイ違ウ!話シタイ、瞳ヲ見タイ、触レテ欲シイ・・・・!」


感情の昂ぶりから、仮面の下を涙が伝う。

は書簡を置くと、魏延に近づいた。

涙を親指で拭う。


「そうか・・・・・そうだな・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」


夕日が地平線に消えて、辺りに闇が落ちる。

薄暗い中、は魏延に囁いた。

甘く切なく。


「もし俺が最早お前を殺せぬほどに擦り減ってしまったら」

「・・・・・・・・・・」

「追ってくれるな?俺の後を」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


魏延はしっかりと頷いた。

が笑う気配がする。


「一緒だ。何処までも、何時までも」


それは狂気の愛なのか。

それとも華厳の滝に身を投げた二人の如く純情なだけなのか。

答えは誰にも分らない・・・・・・。





***後書***

ナナシ様リクエスト「尻叩きされる」でしたw攻主君がね。

後で万倍返しとも仰られましたが何でかな、エロが抜けたw

どうも魏延絡みの話はシリアス純愛ものが多い。

魏延が純情だからかな?

サディストと純朴、こりゃ無理があるよ。

でも魏延は軽くマゾだといいな(死んで)。