【もう死んでしまうから】
「、何故、男好ム?」
酒の席、魏延がに問い掛ける。
今までも聞いたが巧く躱されてしまった。
酒の入った今ならと聞きねだると、は魏延を引き寄せて熱烈な接吻をした。
外野が囃すのをものともせずに舌を思う存分に絡めてから放すと、は片方の顔を覆う髪を軽く上げた。
「八つ半の時だった」
魏延の腕から手を離し、は杯を唇に当てた。
目立たない喉仏が上下する。
「俺は師匠の許を出て初めて戦場と言う物に立った。傍らには紗鈴と言う小娘がいた。それは12、単に俺の貌が好きだったようだが」
言葉を切り、火酒で喉を潤す。
「犬コロの様にいつもくっついて歩けば情も湧く。余計なお喋りをせぬと約束して傍に放しておいた娘だ。
戦場を駆ける力も無いそれを俺は忘れて只戦場に、戦いに魅入られた。娘は黙って傍にいた」
こくり、と酒を燕下する。
朱塗りの杯は空になった。
「初めて矢が風を切る音を聞いた。娘は俺の胸に飛び込んできた。肉を突く鈍い音がして、紗鈴は倒れ伏した。
矢を引き抜いて仰向けにさせたがもう助からぬと一目で分かった」
は杯に口を付け、それが空である事に初めて気付くと、酒を足した。
そして口を付けずに盃を揺らしてもてあそぶ。
酒の豊潤な香が今は冷たい冬の風香のようだった。
「接吻をねだられた。もう死んでしまうから早く。確かにあれはそう言った」
誰も口を開かない。
盃を手に揺らめかせているのはだけだ。
「唇に唇を当てた。初めてのそれは血の味と死の香りがした」
「・・・・・・・・・」
「ふふ、別段面白くない話だっただろぅ?」
だから俺は安全な場所でぬくぬくと生きている女が、簡単に死なん漢しか抱かぬのだよ。
そう言うと、は一気に酒を呷って傍の魏延にしなだれかかった。
「お前は俺が殺す。生きたいと泣き喚こうが、必ず」
の言葉に、魏延は小さく喉を鳴らして頷いた。
悲しい記憶はの心に刺さった儘だ。
だがそれ故に或る愛もある。
それが幸せなのか不幸なのかは判らないが。
***後書***
緋夜様リクの過去話ケルト神話ディルムット系を。
寒い時期に何故こんな寒い話を・・・・(笑)
でも話自体は素敵ですよねー・・・。
緋夜様もナナシ様も書いてる私より語りが上手いんだから(ぶちぶち)。
まァ文句垂れても仕方なし。
私の文章でよければどうぞお付き合いくださいませ。