【 肉日企画 】



「あれ、十常寺、何か作ったの?」

刷毛を11本と大きな袋を抱えた男に、セルバンテスは首をかしげた。

何となく刷毛を受け取って一緒にサロンに向かう。

刷毛を弄びながら、やけに機嫌のいい狸爺を見やる。


「何かいい事あったの?」

「否」


これから・・・・・。

にぃぃ・・・・と笑うのにふーん、と返し、セルバンテスはサロンのドアを開けた。

十常寺は中に入ると、まず最初にセルバンテスから刷毛を受け取った。

ただし10本。

残りの一本はセルバンテスに持たせたまま。


「2月9日、肉の日故、チャーシューを作成す」

「私も手伝うの?いいけど料理下手だよ?」


そういうセルバンテスにまたにぃと笑って刷毛を配り歩く狸。

彼は袋を日向に置いて、脇に蜂蜜の壺を置いた。


「叉焼とは、縛った肉に蜂蜜を塗り、乾かすようにじっくりと焼きつける」


する、と袋が開けられた。


「「「な・・・・・?!」」」


雁字搦めに縛りあげられたイワン。

勿論全裸。

彼は轡を噛まされて目を白黒させていた。

十常寺がそれを外すと、不安そうに見上げる。


「十常寺様・・・・・?」


だが、十常寺はにたぁっと十傑と何故か居る策士を見回すだけだ。


「叉焼、作成」

「「「乗った!!!」」」


だだっと駆け寄る中に恋人であり主である男が入っているのが何とも泣けるが、仕方あるまい。

慌てて逃げを打ったイワンを捕まえて床に押し付ける。

そつないセルバンテスは彼の肌に傷をつけぬようさらっとクフィーヤを広げて敷きこんだ。


「みっ、皆様!」

「怒られても今こうしなければ男が廃るのだ!!」

「は、はい?」


レッドの怒号で怯んだイワンに、蜂蜜をたっぷり含んだ刷毛が襲いかかる。


「あっ」


耳を擽るのは、怒鬼。

つぅー、と縁の軟骨をなぞられて、ぞくんとした。

くりくり、と窪みを擽られて顔を背ける。


「ど、怒鬼様、おやめください・・・・!」


一瞬ためらった刷毛。

だが、やはり欲望には勝てなかったようだ。

また一連の動きを繰り返し始める。


「や・・・・えっ・・・や、やめ・・・・・」


指先がくすぐったくて手をもぞりと動かす。

見れば、ヒィッツが爪と指の境を刷毛で擽っている。

気持ち悪いような、もじもじするような。

指先に気を取られていたら、今度は首筋を辿られる。


「ゆ、幽鬼様!」

「何だ」

「お、おやめくださ・・・・・・」

「本当に、やめていいのか?」


世界最強テレパスの意地悪さは半端ではない。

意識の中をほんの僅かに過った「あ・・・・」と言う程度の心地よさ。

それを指摘され、イワンははっとしたように息をのみ、次いで激しく逃げを打った。

もがいて逃げようとする身体は薄桃色に染まっている。

声も出ないほどの羞恥に身を焼く人を押さえつけ、さらに刷毛を滑らせる。


「ぁ・・・・・!」


下着の痕がうっすら残った腰に、その残った薄赤のラインに。

執拗に刷毛を滑らせる。

蜂蜜のぬめっとした光沢が厭らしかった。


「少々下着が緩いのではないかね・・・・?」


もっとこう、食い込むくらいのものを穿いてくれないか。

密着度が高いものほど収穫時に興奮するのだが。

変態の薄ら寒い要求も、刷毛攻撃に悶えるイワンには届かない。

それはそれで地獄に仏なのだが。


「ふぁ・・・・っ」


ぴくん、と跳ねた身体。

淡い尖りを絶妙な動きで擽る刷毛。


「か、カワラザキさ、ま・・・・・!」


刷毛の毛が寝る事もなく、突き立つことも無く、やんわり這い回る。

腰が一気に重くなった。


「あ、あ・・・・あ・・・・」


知らず胸を差し出してしまう。

気づいても引けない。

はしたない自分自身へのせめてもの抵抗に顔を背けるが、一層感覚が鋭くなるだけだった。


「あ・・・・・ぁ・・・・・」


臍を擽る刷毛がもどかしい。

見つめた先の主の同僚は、主ともその盟友とも違った、猛虎のような気迫の男で。

潤んだ眼にも、意地悪く笑うばかり。

は、は、と熱い息を逃がしながら首を振るが、許してはもらえなかった。


「や、やめ・・・・!」


ぐいと足を開かされ、雄を丁寧に擽られる。

蜂蜜を追加した刷毛はもたりと重く雫を含んだ。

黄金色の蜜と、それより甘い透明な蜜を。


「ぃ、た・・・・・!」


ぐぐっと食いこんでくる紐。

身体を拘束するものより細いそれは、血を含んで膨張する肉に容赦なく食い込んだ。

痛みに閉じかける脚を強引に割り開き、成人男子としては十分な持ち物を『叉焼』として扱う十常寺。


「ぁん、ぁんんっ・・・・・」


直接的な刺激に息が荒くなってしまう。

もどかしさと逃れたいという気持ちから腰を捩るが、刷毛は執拗に追撃してきた。

すると、それよりやや下に感じるくすぐったさ。

びっくりして目を開けると、優しげに、悪戯っぽく微笑む男がいて。


「セルバンテス様ぁ・・・・っ」

「ふふ、かぁわいい声だよねぇ」


嬉しそうに言って、蟻の戸渡りを擽る。

むず痒さに気が狂いそうだ。

もっと強く触ってくれないと、足りない。

もじもじ腰を揺すっていると、さらに足を上げさせられる。

窄まりを擽られて、腰ががくがく震えた。


「あ、あ、あ、あ」


くりくりと円を描いたのは最初の数回。

後は、執拗に上下に刷毛を滑らせる。

策士と言うだけあって、記憶力はいいらしい。

最も感じるやりかたの、摩擦と言うには弱い刺激。

気持ちよくて、物足りなくて、苦しくて。

窄まりの中心をちょん、突つかれて、悶絶した。


「ん、は・・・・・!」


主の手が視界の端を横切る。

思わず追うと、自分の手を上げさせられた。

腋を擽り始める主に、喘ぐことしかできない。

擽られると感じてしまうと知っているのだ。

厭らしく擽らなくても、感じてしまうと。


「ぁ・・・・ぁ・・・ん・・・・」


心得た加減に、身体が激しく反応する。

舌が少しだが出っぱなしになって、先が乾く。

その舌を擽り、唇を辿る甘い刷毛。

いやに真剣な・・・・いや、どこか寂しそうな、それでいて嬉しそうな。

複雑な色を湛えた瞳。

感情が欠損しているがゆえに、幼い感情が複雑に交じり合う。


「・・・・・いつか、この唇を」


お前が笑って押しつけてくれる日が来るのを待っている。

獲りに行っては壊すのが私と心得ているから、待っている。

来ないという事を知りながら・・・・待って、いる。

小さな呟きは皆に聞こえていた。

それをやわく流していくのが大人だ、そして男の優しさだ。

けれど、どこか母親じみたイワンはそれが咄嗟に出来なかった。

咄嗟に、レッドの頭を引き寄せて胸に抱きしめていた。

旋毛にだが、笑えなかったが。

唇を、押し当てる。


「・・・・私などに固執されないでください」


貴方様は、戦場でも荒野でも、花咲き乱れる庭園でも。

誰にも囚われぬ一陣の風であるのが、似合っておられます。

切なくも甘い慰めに、レッドは一瞬唇を開きかけ。

閉じ直して、笑んだ。


「ふっ・・・・そう、か」


お前がそう言うのなら、そのように振舞おう。

そしてお前と言う花を一緒に巻き上げて。

攫っていこう。

甘く囁くと、イワンは頬を染めて困った顔をした。

その唇、いや、唇からぎりぎり外れたきわに口づけを落とす。


「・・・・さて、叉焼を作ったら食うものだな」


イワンから離れる十傑。

本気の殺し合いまであと10秒。

血の滴る肉塊が転がらぬ事を祈りたい。


「・・・・・今夜の夕飯は何が良いだろう・・・・」


切り替えの早いイワンは、中途半端に煽られた身体をその強靭なストイックさで押さえつけ、夕食の献立を考える事にした。

だが、今夜のメニューに肉類はあがらなそうだ。

デザートはこの厭らしい肉付きの身体だということにも気付かず、イワンは小さく溜息をついた。


「・・・・何でこんなところに裸で放置されているんだろう・・・・・」


彼の悩みは、尽きない。





***後書***

肉の日に合わせようと思ったらpcにシロップだぱーしてお釈迦になった・・・・2か月間ののへそくりサヨウナラ!