【 02月22日 猫日企画 】
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
じっと見上げて、連れて行ってとアピール。
戸惑いながら、抱き上げてくれた。
部屋で書類整理をするのを暫く眺めたが、飽きてきた。
構ってと言うのを含め、壁にて盛大に爪研ぎ。
鳴らせないなら研ぐまでだ。
慌てて来たら叱られる前に可愛くにゃーん。
すりすり脚にまとわりつき。
そしたら膝に乗せられ。
構ってくれるのかと思ったら、手に爪切り。
切られてしまった。
つまらないなと思っていると、肉球をふにふにし始めて。
構ってもらえるならこれでもいいか。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
見つめ合う。
首を傾げ合う。
笑い合う。
飛び降りて、見上げる。
そのひとは手を振って行ってしまった。
そっと後をつける。
そのひとは自分の部下であり家族である血風連と話をしていた。
話題は自分の事。
嬉しくなって後ろから飛び付き肩によじ登った。
驚き、次いで微笑み、また話に戻り。
しかし自然に構ってくれる指先。
ああ、やはりこのひとが好きだ。
こんなに近くに居られるならば。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
鼻先を舐めてやろうと思ったら、くぅと腹が鳴った。
そのひとはくすくす笑っていた。
格好がつかなくて不貞腐れていると、連れ帰られ。
鍋を火に掛け始める。
芳しい、匂い。
テーブルに乗っかって眺めていると、気付いて床におろされた。
気に入らなくてもう一度乗ってやる。
困った顔をするからつーんとそっぽを向いてやる。
仮面が無いからきつい目を惜しみなく使って不服を表す。
苦笑いして、皿をテーブル上に置いた。
食らい付こうとしたら、首根っ子を掴まれた。
匙で掻き混ぜて冷やしてくれる。
手から逃れて、ぺろり。
吐息で冷ます少し尖った唇は、とても美味しく。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
頭を撫でてくれた。
そっと下ろしてくれる。
ついていくのに気づくと、小さく微笑み。
部屋に入れてくれた。
うろうろしていると、抱き上げられクッションに下ろされる。
老猫を労ってくれる優しさが嬉しい。
とはいえ膝の方が良かったなんて思ってしまう。
知らん顔で、カップに触れず倒して、クッションに。
濡れたからとばかりにさっさと膝に飛び乗って丸くなる。
苦笑する気配。
優しく背を撫でる手。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
だがここで擦り寄るべきか。
猫好きは気紛れで我儘なところがいいという。
統計とはいえ、この知識に間違いはないはずだ。
飛び降りてつんと背を向けてみた。
五秒後に振り向いたら。
踵を返すところ。
しまった、失敗った。
このひとは自分の都合で可愛がったりせぬひとだ。
嫌と示せば引いてしまう。
追い掛け、脚にまとわり付く。
転けかけた人を見上げ、にゃう。
目を瞬かせ、笑ってくれた。
行かないで欲しいのが分かったらしい。
もう一度抱き上げてくれたので、にゃうと鳴いてみた。
とても近くで見られる、優しい優しい、大好きな笑顔。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
抱かれたまま前足を伸ばす。
爪はしまって、先で頬に触る。
柔く瑞々しい肌。
ふにふにしていると、お返しのようにうりうりされた。
幼い頃からの奇異の目が染み付いて、余り人に触れられるのは好まない。
だが、このひとには沢山撫でてほしい。
ふにふに、うりうり。
もにもに、むにむに。
沢山撫でて。
沢山触って。
こんなに構ってもらえるなら。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
目が合ったのでにゃあと鳴くと、手を離された。
驚き見つめると、それ以上にびっくりした顔のひと。
腹が立つより、心配になる。
目を真ん丸にして、もう一度抱き上げ。
あちこち眺め。
にゃあ、と鳴くと、大きな目が瞬き。
はて、何をそんなにと思っていると、硝子に薄く映るそれはそれは珍妙な。
一見して大抵の者が狸と判断するであろう猫。
狸がにゃあと鳴けば取り落としもしよう。
太く先が丸っこい尾をぶらぶらさせて、にゃあ。
くすくすと愛らしく笑ってくれるのが、嬉しい。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
もっと抱いてほしかったが、気が引けた。
今しがた藪を突っ切り小枝だらけなのだ。
降りねば、いやしかし、もう少しなら。
リーダーとは思えぬ情けない迷いのうちに、部屋に連れていかれた。
銀色に光る、鋏。
毛を掴まれ、近付く刄。
ざくり。
がんじがらめにむつばった毛先が切られ。
どうしようもない部分が落ちたら、ブラシで念入りに梳いてくれた。
もっと切ってしまえば簡単なのに、根気良く。
ふわさらになったら、嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あのひとがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
だいすきな、あのひとだ。
にゃぁん、と鳴いて目を瞬かせる。
能力抜きにしても目力には自信がある。
だが。
艶めかしい黒真珠のような瞳は無垢に澄み。
無垢な白真珠のような肌は艶めかしく。
とても、我慢ができない。
どうにかして、自分のものに。
どんな手を使ってでも、自分だけのひとに。
残酷な愛に身を沈めるひとを、無二の盟友から奪いたい。
ああ、ああ。
どうかどうか、私のものに。
胸を支えた親指を含み、歯をたてる。
かりり、と。
所詮猫と許してくれる。
猫だから許してもらえる。
猫もまあまあ、悪くない。
朝起きたら猫になっていた。
どうして、とか。
困った、とか。
それより先に思ったのは。
あれがなった方が楽しめたのになんていう自分でも呆れるもの。
仕事を放り出して取り敢えず歩き回ってみた。
猫の世界は不思議なものだ。
きょろきょろしていると、抱き上げられた。
たいせつな、こいびと。
だが猫に撤して振る舞うのもどうかと思い、取り敢えずむくれてそっぽを向く。
猫の正体を知らぬ人は、一日自分を傍に置いてくれた。
夜に、枕元で丸くなると撫でてくれた。
いつのまにか眠った人は、夜中に小さく呟いた。
深い眠りの中で、自分を呼んだ。
閉じられた目から溢れ伝う涙を舐めとる。
人であれば決して拭ってやれぬこの涙。
何度も舐め取り、思う。
猫もまあまあ、悪くない。
***後書***
今回のルール…十傑猫化話。固定ワード…「猫もまあまあ、悪くない」
正直こんな面倒臭い猫は他にいまいよ。っていうか十常寺・・・(笑)