【 白日企画 】
押し倒しているのに慌てない。
このひとは聡い。
今は本気でないと分かっているのだ。
暗い、欲。
手元に置きたい。
いや、この手で切り裂きたい。
流れだす生命の赤にまみれたい。
いや、搾りだした生命の白を舐め、また飲ませたい。
支離滅裂で収集のつかぬこの想い。
いつも垣間見せているこれを今日は隠して。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「私の傍に居ろ・・・・」
右に隣り合って縁側に座り、茶を啜る。
そろそろ言わねば正座に慣れぬひとの足を痛めさせてしまう。
さて、どうしたものか。
全てを伝えれば怯えよう。
獰猛な欲望。
涎を垂らして肉を咬み千切りたがる本能。
白い肌を汚す妄想すらこんなにも甘美で。
薄ら笑む自分にはっとする時がある。
余りに酷薄な、己の惚けた笑み。
悟られぬよう、気付かせぬよう。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
貴方にしか聞こえぬ小さな声で。
「・・・・・・・・・・・」
斜め前に座る人を見やる。
この人は知らない。
時折起こる、衝動を。
あらゆる物を叩きつけたくなる。
このひとに。
このだいすきなひとに。
昔に一人の女性を肉塊にしたように。
この人が疲れてしまう前に。
はやく、はやく。
自分を好きでいてくれるうちに。
はやく、はやく。
口づけて、貪って、刻み込んで。
自分だけのものに。
それが互いの不幸と知っている。
今はただ。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「いつまでも、変わらずに・・・・」
左に座り、手を握る。
左手は針を弄んでいる。
いっそ針に変えてしまおうか。
きっと白く美しい、硬く脆い針だ。
撫でたらどんな感触なのだろう。
舌を這わせたらどんな味がするのだろう。
折ったらどんな音がするのだろう。
好きなだけ撫で回して愛で。
気の済むまで舐めしゃぶり愛撫して。
パキン。
破片は絹の袋に入れよう。
勿論自らの手で縫おう。
折る前にそれで袋を仕立てよう。
肌身離さず持ち歩き、いつか弟に紹介しよう。
私のあいするひとなのだと。
だからその前に。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「いつも共に・・・・」
椅子に向かい合って座ってもらい早三十分。
言いたいのだ。
言えないのだ。
言わなければ伝わらないのだ。
伝えたいのだ。
このひとが自分と同じ能力を持っていたなら。
いや、駄目だ。
そうすればこの醜い想いを知られてしまう。
その肌を暴きたいのだ。
壊れる程に抱き締めたいのだ。
狂うまで貪りたいのだ。
忙しいのに、何も言わずに待ってくれるひと。
意を決し、顔を上げる。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「お前が大切だ・・・・」
向かい合って立ち、見つめる。
首を傾げて言葉を待つひと。
その身体からぬくもりを奪おうかと考えているなんて知らないひと。
鼓動を止めたままに、この能力で。
仮初めの命を。
自分だけの、人形。
溶け崩れる腐食でこの力及ばなくなるまで。
この歪んだ欲望をぶつけ。
愛し。
それは誰の幸せか。
自分。
否。
このひとをあの男から解放し、愛を与えるため。
いつか来る日の下地をととのえようではないか。
今は。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「辛き時は頼るべし・・・・」
背中合わせで座り、暫く。
時折鳴る指の音。
ぱちん。
標的はぬいぐるみ。
この間の女が寄越した。
お揃いらしいがゴミの日を待っている。
ぱちん。
綿が飛び出す。
目が飛んだ。
いつか、ぱちんと。
その白い喉に指を突き付け。
ぱちんと。
落ちた首を持って何処にいこう。
初デートなら矢張り強めに出たい。
服は何にしようか。
靴は。
髪型は。
香水は。
夜の予約も抜かってはならない。
夜景の綺麗なホテルがいい。
その閉じた唇を開けさせ。
ゆっくりねじ込んで。
しかし今は時でない。
今は下準備。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「その唇の味が知りたい・・・・」
斜め後ろを歩くひと。
知らず耳を澄ませてしまう。
このひとの奏でる音が好きだ。
楽器も、足音も、声も。
笑い声を知りたい。
泣き声を知りたい。
悲鳴を知りたい。
柔肌を舐め、骨が軋む程に突き上げ、絶頂の悲鳴を。
どんな音楽もかなうまい。
堪らなく心地が良いだろう。
いつの日か、きっと。
逃がしは、しない。
けれど今は。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「おぬしの声で愛を捧げられてみたい・・・・」
後ろから抱きすくめ、愛を囁く。
愛しているよ。
冗談だと思っているひとの耳の後ろに鼻先を埋める。
清廉な香り。
君の血はもっと芳しいのかな。
お腹いっぱい飲ませてくれないだろうか。
君の蜜はもっともっと甘いのかな。
気が触れるまで飲ませてくれないだろうか。
勿論気が触れるのは君だ。
痛みに、快楽に。
私はギリギリまで正気をたもつよ。
でないと君の味が分からないじゃないか。
飽きはしないだろう。
吐いたらそれすら飲み下してしまうよ。
だって君の血液は精々5リットルしかないんだよ?
この世にたった5リットル。
どんなにか貴重なご馳走だ。
精液なら二百ccいかないよ。
よく味わって頭にたたき込まないと。
皮膚に与える愛撫より、肉を貫く原始の快楽より。
皮膚を噛み千切り肉を咀嚼する方が素敵じゃないかと思うんだ。
どうかな。
君が許してくれるなら今すぐにでも。
ああ、その前に気持ちを伝えておこう。
そうでなければあの男と同じになってしまうから。
まず。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせ。
視線を絡め。
出来得る限り甘く。
「大好きだよ・・・・」
ドアの向こうにいるこいびと。
ここにいる事を知りもせずにいる。
明け方にさえ早い時間に立ち尽くしても知る由はないが。
いっそ殺してしまおうか。
たっぶりと時間を掛けてなぶり殺してしまおうか。
丁寧に愛撫し。
何度も犯し。
溢れる程に上や下から飲ませ。
肌に塗り付け。
刻んで刻んで、刻み込んで。
そうして肉を刻み始める。
泣き叫べ。
許しを請え。
愛を誓え。
その瞳に最後に映るのは自分以外であってはならない。
最後はそうと決めているから。
今はまだ。
想いの上澄みの、綺麗な部分だけを、貴方に。
目を合わせる事はなく。
視線を絡める事もせず。
聞こえぬように、出来得る限り甘く。
「愛している・・・・」
***後書***
今回のルール…十傑による口説き落とし。章の末尾…口説き文句。
何か皆さん怖い事に。素晴とか白昼はまだいいけど幻惑とか十常寺やばくね?