【 春分企画 】



ある日、韓信は某国まで出掛け、任務中のイワンを捕獲した。

国警イワン狙いチームは基本的に連合軍であり、誰かが捕まえたら皆で愛でる。

連絡網の順番は韓信→張良→天童→影丸→ディック牧で円環になっており、掛けた者に返ってくれば完了だ。

今日は、取り敢えず国警内の座敷に連れ込んで、構い倒す。

イワンは優しげでまともそうなのに一種異様な目の光の男達に怯えていた。

泣くほどやわでないが、相手は元帥に正軍師に九大天王の3人。

相当怖いし、泣かないのは大したものだ。

撫でまわされるのでなく、ねちっこく視線で犯されるだけなので、いつも諦めて大人しくしている。

迎えを待つのは心苦しいが、致し方ない。

最近は、呉学人と料理をして陽志と銀鈴に摘み食いされたり、一清と茶を飲んで話したりしている。

常に後ろをひたひた付いてくる5人は気にしないよう心がける。

心がけるが、可哀想な位優しく気遣い細かな彼は、ついつい構ってしまっている。

その度呉学人に溜息と苦笑をもらい、銀鈴に注意され、陽志に笑われている。

女性2人に混ざってもまだ『嫁』っぽい男二人に、周りは苦笑するしかない。

中条と呉は新婚のような初々しさがあるが、アルベルトとイワンは阿吽の熟年夫婦だ。

中条と呉は砂糖120%の甘ったるさで腹が立つらぶらぶだが、中条が暴れると困るので皆放置している。

好きな世界を作ってその中で生きてほしい。

一方アルベルトとイワンは、「あれ」と言えば何か察知する落ち着きがある。

が、可哀想なくらい空回って涙を誘うアルベルトと、振り回されて折檻に泣くイワン。

絶対に相性が悪いが、愛し合い方は激しい。

そして、呉は恥ずかしがるのが仄かな色気を漂わせるのに対し、イワンは常にお色気むんむんだ。

人妻のいやらしさを前面に押し出し、それでいて純情に主を見つめている。

この男夫婦二組、対照的だ、見ていて面白すぎる。

視線から隠れようとうろうろするイワン。

村雨が苦笑する。


「少し落ちつけよ。うろうろしたって疲れるだけだろう?」

「そうだが・・・・・・」


軽い溜息をつくイワン。


「いつも、走り回っているから・・・・・落ち着かないんだ」


今頃はお茶を飲まれる時間なのだが。

主が気になって仕方ないイワンが可愛くて、村雨は銀鈴に目を向けた。


「君も、これくらい俺に夢中でいてくれてるかい?」

「さあ、どうかしら」


笑う銀鈴が、村雨の肩に寄りかかる。


「皆夢中になっちゃうけれど、誰も手に入れられない」


高嶺の花、っていうやつね。

一度なってみたいわ。


「何か競争して、一番になった人が一日独占、なんて出来たら面白・・・・・」

「・・・・おや、良い考えですな」


イワンからやっと視線を外し、張良が顎に手を当てる。


「・・・・・春分も、近いですし」


うっすら笑う口元が、少し怖いと全員が思った。





「では、第一回!」


春の運動会!!


BF団vs国警という無謀なルールで始まった、しかも『運動会』である。

イワンは賞品として本部に拘束されており、参加メンバーはBFのスタメンと国警の主要メンバーが駆り出されている。

元帥の名を以て『参加しない奴はボーナスカット』と言ったらかなり参加した。

が、任務でどうしても参加できなかった天鬼達は無情にも完全カットを受けている。

BFについては説明もいらないが、国警参加メンバーは以下の通り。


神行太保戴宗。

青面獣の陽志。

黒旋風の鉄牛。

不死身の村雨。

静かなる中条。

智多星呉学人。

暴れ天童。

ディック牧。

影丸。

一清道人。

韓信元帥。

張良軍師。

銀鈴。

草間大作。


14人揃ったのでまぁ良いか、という国警に対し、BF団はサニーとローザを引っ張り出して13人揃えた。

何でも良いから勝ちたい子供だが、当たっているので仕方がない。


「じゃあ、まずは選手宣誓を」


セルバンテス様、お願いします。

名指しでの指名に、セルバンテスは小首を傾げた。


「うん?私?」


じゃあ、やっておこうか。


「神と聖霊の名において、イワン君を一生愛することを誓います!」


最高に妄想が先走った宣誓だが、結構な人数が賛成したためそのまま流れていく。

中条は意外と大人なのでボーっと呉学人を眺め、村雨と銀鈴は私語。

陽志は眠そうにして戴宗の肩にもたれ、戴宗は瓢箪から酒。

まともに運動会やっているのはサニーと大作少年だけだ。


「おじさま、間違ってます」

「セルバンテスおじさんって、いっつもそうだから大丈夫だよ」


それでも話の内容はかなり耳に痛いものを感じる。

が、痛いのは主にイワンであり、他は全く気にしていない。

我関せずメンバーは生温かく笑っているだけだ。


「では、最初の種目は、ぱ・・・・・あれ?」


進行役のローザは首を傾げた。


「ぱんつ食い競争・・・・・?」


何か余計な平仮名がついたばっかりに、残月大活躍フラグが立ってしまった。

とうとう今まで隠していた十傑のあの姿が暴露されるのかと思うとすべてを投げ出して逃げ出したくなる。


「では、残月様、準備をお願いします!」


ローザがイワンにウインクする。

助かった・・・・準備を振って参加しないようにしてくれた・・・・・。

そう思ったイワンは、甘かった。

かなり高いバーに吊るされる色々なぱんつ。

残月が微笑む。


「このうち5つが当たりだ。銀鈴、陽志、サニー、そしてイワン、呉学人。残りはすべて村雨」


女性の下着を盗むのは許されない行為だ、まして幼女のものまで!

しかし、残りのはずれがすべて弟のものだと言う鬼っぷりは半端でない。

第一、弟のははずれだと兄自らが言っている。

何故か互いに知っているがけして兄さんなどと呼び合わない兄弟。

弟が軽く溜息をついた。


「・・・・・磨きがかかったな」


嫌すぎる褒め言葉だ。

だが残月はご機嫌だ。


「参加者は、旦那様4人と保護者樊瑞様、そしてイワン!」


賞品が参加しているのは、単に自分のものを回収するチャンスがあると言うだけだ。

それも限りなく絶望的な。

しかし、イワンは立ちあがった。

頑張らなければ、アルベルト様に変態の烙印が押されてしまう!!


「では・・・・・・よーい、はじめっ!」


クラウチングスタートでダッシュする6人。

先頭を走ってぱんつを掴んだのは、樊瑞。

何故か神行太保の速度を超えた。

まぁ、戴宗がやる気ないのもあるが。


「ふははっ、これがサニーのだっ!」


掴んだのは、蜜蜂がプリントされた可愛いパンツ。

サニーが恥ずかしがって顔を隠すが、気にせず高々掲げてゴールまで走っていく。

きっと後でアルベルトにシバかれてイワンに叱られるだろう。


「ふっ・・・・・これは誰にも渡さんよ!」


次にぱんつを掴んだのは、中条。

件のあの紫ぱんつを掴んだ。

一瞬めくれたあの衣装の下にどうして亡き大先生が紫ぱんつを仕込んだのかは分からないが、兎角呉は紫ぱん。

薄手のそれを握りしめて走る中条がポケットに押し込んでいるのが泣ける。

呉も呉で、いくらでも差し上げますのにと頓珍漢な事を言っていた。


「女性の下着に興奮する趣味は余りないんだが・・・・・」


次は村雨だ。

白いレースのを掴んでいる。

たったかたーと走ってゴールして、銀鈴に返してあげる紳士だ。

しかも自分のハンカチで包んでという、兄とは180度違った素敵さ。

そしてやっと、神行太保戴宗が続く。

綺麗な青のぱんつを握り、やる気なく歩いていく。

陽志は欠伸をしている始末で、まったく恥ずかしがっていない。


「ほれ。これ4日前のだろ」

「変なこと覚えてんじゃないよ」

「いや、まぁ、なぁ」


にやーっと笑う戴宗にちょっとだけ頬を染め、脳天に一発くれてやった。


「放さんか!!」

「い、嫌です!こればっかりは・・・・!」


必死で足に追いすがって首を振るイワンを蹴倒すほど鬼ではないらしいアルベルト。

だが、余計悪化した。

パン食い競争が元だし、手が使えないからと言って足で蹴るのは可哀想、と意味の分からぬ逡巡の末、口にぱくり。

イワンが潰れた悲鳴を上げて益々縋った。


「お、おやめ下さいっ!!」

「むぐぐぐ(断る)」

「何でも、何でもしますからっ」


必死な懇願への仏心など毛頭ない。

単に言う事を聞くと言うからそれをイワンにくれてやった。

スタスタ歩いてゴールし、茫然とぱんつを握りしめているイワンを振り返る。


「ブルマ生装備プレイだからな」

「ひっ」


ぽてっとぱんつが落ちたが、もう遅い。

がっくりと項垂れて洟を啜り、無気力に適当なぱんつを掴んでとぼとぼゴールした。

真面目な彼は手に残るピンクのトランクスを村雨に返し、席へと戻っていった。

それを眺めつつ、ローザが進行する。


「じゃっ、次は玉転がし!選手はカワワラザキ様と黒旋風の鉄牛!」


まったく接点のない組合わせだ。

国警のおばかたんと、BF団元十傑リーダー。

不安しか感じないスタートを切り、それは果たして現実となった。

ごろごろとひとりでに転がっていく大玉の後ろを悠々と歩いていくカワラザキ。

そして、大玉を自慢の怪力でぐいぐい押しても全く動かせない鉄牛。

念動力を最大限に使ったズルだ。

しかも、からかったりさえ、ちらとも見ずにとっととゴールして競馬新聞を見ている。

耳に赤ペンはないから新聞として単に読んでいるのだろうが、鬼すぎる。

しょんぼりしている鉄牛に苦笑する陽志と戴宗。

洟を啜る鉄牛にちり紙をさしだしたのは、イワンだった。


「ほら、泣かない」

「ああ・・・・・うん」


それでもしょぼくれている姿は大型犬のようで、イワンはぐずついているその鼻にちり紙を当てた。


「はい、ちーん」

「ん」


洟をかんでもらう鉄牛は大作君達とおつむがそう変わらないため、扱いは子供。

洟をかんでもらい、慰めてもらいつつゴール。

だが、悪意も恋慕も全くないのが感じられたので嫉妬による制裁はなさそうだ。

それに苦笑しつつ進行するローザ。


「次は、二人三脚!BF団から幽鬼様とイワン、国警から静かなる中条と呉学人!」


中条と組めて嬉しそうな呉。

その腰にさりげなく手を回す中条。

彼がライバルである事に溜息をつく樊瑞は、先程の自分の姿に何の疑問ももっていないようだ。

自分の姿が見えない男だが、自身が見えずとも相手に露出すれば興奮する男なので問題はない。


「はい、足くくりました?では・・・・・スタート!」


言った瞬間、姫を抱えて走りだした男ども。

中条のズルを幽鬼が読んだのか、幽鬼の考えている事などお見通しだったのか。

どちらにしろ結果は変わらないし、得をするのはイワン以外の三人だ。

中条に姫抱きされて頬をピンクにしている呉。

呉先生は、軽いな。などとセクハラ発言をかまして走る中条。

触れる肌を隅々まで舐めたいという欲求にはぁはぁしている幽鬼。

諦めて今日の夕飯の献立を考えているイワン。

だが、元々戦士タイプの中条と、超能力系の幽鬼。

人一人抱えて42.195kmはかなりの差がついた。


「はぁっ、はっ・・・・・くっ、そんな馬鹿な!」

「私は呉先生がいる限り誰にも負けないのだよ!!」

「ちょ、長官・・・・・」

「・・・・・最近キャベツが高騰しているからなぁ」


結局20秒の差で国警勝利。

らぶらぶであるのも勝因かもしれない。

タンクから冷えた麦茶を飲みつつ進行するローザ。

何もしていないようだが、イワンの様子をつぶさに実況して皆を煽る玄人だ。


「じゃっ、続いては障害物競走!参加は孔明様と張良軍師」


進み出た両軍最高頭脳。

互いに視線を交わし、鼻で笑ってそっぽを向く。


「障害に対して間違ったアクションをすると即失格です、ではどうぞ!」


今おかしなルールを聞いた気がする。

が、取り敢えず走ってひとつめの障害。

跳び箱。


「・・・・・・飛べと?」

「でしょうな」


8段というやや高いそれを飛び越えるが、お咎めはなかった。

次に進めば、下敷き。


「これはこうするしかありますまい」


学校でよくやる、団扇代わり。

ぺろんぺろんと扇ぐ張良に、孔明は溜息をついた。

頭を振りつつ、イワンを手招く。


「尻を出しなさい」

「こ、孔明様」

「出しなさい」


抵抗したが、結局跳び箱に腹を乗せられてしまった。

ばたばた暴れてみるが、手足が届かない。

間抜けな風切り音の後に、さらに間抜けな音を立てて尻に下敷きが当たった。


ぺしっ


一気に頬が紅潮して、熱くなる。

だが、黙って我慢した。

孔明も勝負を放り出してまで尻をシバきに走る気はないらしく、すぐに下敷きを放り出した。


「そこから動いてはいけません」

「えっ・・・・・・」


3個目の障害、黒板消し。

白い粉がもうもうと舞うのをものともせずにそれで叩きまくる孔明に、国警は半ば茫然だ。

が、十傑が普通にわいわいやっているので、これはきっと孔明の本当の姿なのだ。

偽りの姿よりずっといい、そう思わないとドン引きながら笑ってしまう。


「はぁ・・・・おや、次は1m定規ですか・・・・」

「ひぃぃっ」


孔明の目が輝いているのに、イワンは悲鳴を上げた。

1m定規を持って近づいてくる孔明が怖すぎる。

生尻出させて叩くほど鬼ではないのかと思ったが、単に叩く事に目が眩んで布などどうでもいいだけらしい。

息荒げて尻を殴打する策士と、叩かれて泣きそうなイワン。

サニーと大作君は『何にも悪いことしてないのに!』と抗議している。

セルバンテスが「イワン君、昨日宿題しなかったんだよ」とフォローを入れていた。

5分ほどして、すっかり気持ち良くなってしまった策士はやっと機嫌よくなって定規を放り出した。

ゴールまで歩いていく。

張良はすっかり生温かくなった目でにこりと笑って距離を開けていた。


「続いてはリレー!」


参加者は、韓信、銀鈴、影丸の国警と、残月、セルバンテス、レッドのBF団。

勿論アンカーは最速というのがセオリーだ。


「位置について・・・・よーい、ドン!」


クラウチングスタートで走りだした韓信に対し、通常スタートを切った残月。

そして、残月と言えばあの十傑走り。

腕組みで煙管を持ちつつ、足だけが異様に動いている。

真面目に走っているようには到底見えないのに、韓信といい勝負だ。

が、ローザの茶々が入った。


「残月様、イワン、昨日着替えてないらしいです」

「よしきた」


何がキタのか全然分からない。

だが、残月は何かキタらしい。

突如スピードが上がった。


「っち・・・・・洗濯物ハンターが覚醒したか」


舌打ちして変な枕詞をつけているのが応援席にいる実の弟である事実が涙を誘う。

しかし韓信も負けてはいない。


「白昼の残月!イワン君を攫った時に彼が装着していた『マスク』だ!」


ブンッと投げられた布製マスク。

風邪引きや給食当番がやるアレだ。

洗濯して繰り返し使うタイプ、布製使用済み、即ち洗濯物!!


「貰った!!」

「ははっ、先に行かせてもらおう!」

「ああ、勝手にしてくれ」


るんるんで拾いに走っている残月にブーイングが飛ぶが、気にしていない。

拾ってから、バトンをセルバンテスに。

渡そうとしたが、断られた。


「バトンとか、燃えないし」


そう言って取りだしたのは、いつもの400ml。

サニーと大作君が「何で注射器持ってるんですか」と質問しているのが何とも言えない。

一番フォローが得意な幻惑をフォローするのは非常に難しいのだ。


「イワン君、私の雄姿、見ててねっ」


ウインクする素敵なおじ様の手には硝子浣腸器。

疾走している早さは半端ないが、そこに盟友が人参をぶら下げた。


「ホワイトソーダ、盗撮アングル自由、カメラ3台可」

「マジでっ?!」


一気に加速した変態に涙が出そうだ。

子供二人が「ホワイトソーダとメロンソーダ1対3で割るとおいしいよね!」と微笑ましい会話をしているのが益々涙を誘う。

イワンは今夜はブルマでソーダ注入という舌を噛みそうな予告に放心していた。

銀鈴はその前を駆け抜ける時、肩を叩いて『ドンマイ』と微笑んでくれた。

そして、波乱のアンカーにバトンが渡る。

レッドは浣腸器を投げ捨てて通常バトンに持ち替え、影丸はバトンを口に咥えて本気モード。

先鋒次鋒の混乱で殆ど差はなく、忍者二人の戦いが始まった。

暗器を投げつけあいながら走り抜ける二陣の風。

影丸の投げた苦無が、何かのひもを引っかけた。

長いそれはレッドの腰からぶら下がり、先には小さな守り袋。

慌てて手を伸ばして受け止める様子に、影丸が冷たい目を向けた。


「忍びが菩薩でも信じるのか?」

「馬鹿が。そんなもの信じて何になる」


私は私が持ちたいものを持ち、それのために戦うのだ。

その言葉に、影丸が嫌そうに眼を細めた。


「ふん・・・・女の髪でも入れているのか」

「・・・・・イワンの爪だ」


微妙に視線をそらすレッド。


「・・・・・昔、遊び道具としか考えていなかった時に、小指の爪を剥いだ」


痛がるのが面白いと思った。

その泣き顔を忘れたくなくて持っていたが、最近それは違うと気づいた。


「・・・・遊女の爪剥ぎを一方的に信じている馬鹿男と同じでも、構わんのだ」


あいつのために、戦いたい。

影丸の足が、止まった。


「・・・・・お前誰だ」

「はぁ?」

「私の知っているマスクザレッドは鬼畜Sで変態だったはず」


貴様さては、もののけだな!!

あまりに飛躍した考えに、レッドは一瞬呆け、顔を紅潮させて怒りをあらわにした。


「本気で殺すぞ!いつの話をしている!」

「数ヶ月前」

「そんな昔の事を引っ張り出すな!!」


喧々囂々で騒ぎ始めた二人を放置し、次の種目へ。


「次は騎馬戦です」


上に乗るのはどなたでも結構、参加者はBF団からアルベルト様、怒鬼様、イワン組。

国警からは、青面獣の陽志、神行太保戴宗組、ディック牧、暴れ天童!

BF団に関しては、アルベルトの大人の部分に一縷の望みを掛けてイワンが上ならという3人組。

国警は、陽志が上なら3人騎馬が必要という心遣い。

が、国警は二手に分かれてしまった。

陽志と戴宗、天童とディック牧。

天童がいつも通り矢鱈楽しそうに笑いつつ、ディック牧を肩車している。

神行太保夫婦は、仁王立ちの陽志の右肩に戴宗。

戴宗が上になると、当然アルベルトは鉢巻の取り合いをしたい。

だが、そうなるとイワンが騎馬。

怒鬼と一緒とは言え、そうとうきついだろう。

さあこの帝王がどうするか、と興味深々な視線を受けるアルベルト。

しかし、彼は迷わなかった。

怒鬼の肩に問答無用でよじ登り、さらにイワンを肩車。

三階建ての肩車だが、無言でがくがくしている怒鬼がとても哀れだ。

しかし、アルベルトは人参を大盤振る舞いする覚悟だ。

イワンに2日間入浴を禁止してやると言うと、震動はおさまった。

すっくと立っている怒鬼がやる気に充ち溢れた笑顔なのが悲しい。

笑顔は結構イケメンなのに、提示された条件で趣味が薄々わかる。

対する国警、確かに逞しい嫁だが、旦那が筋肉質というわけではない為に酷く差があるように見えてしまう。

そして、この嫁は旦那が大好きだが容赦はない。

おまけに、勝負事が大好き。

開始直後に、旦那の足首をつかんで振り回した。

とばっちりで強打を受けたディック牧と天童が速攻ダウンした。

それを気にせずぶんぶん振り回される戴宗。


「くらいな!!」

「ごふっ!」


当てられた怒鬼は無言で横腹を押さえているが、戴宗は頭にぴよこがくるくるしている。

しかし戦いは激しさを増し、戴宗は完全にお花畑を走っていた。

怒鬼は『いいにおい』のために死に物狂い、こんな痛々しい戦いは類稀だ。


「ちっ・・・・・これでどうだい!」

「ぐっ・・・・・」


中段、アルベルトの背中にヒット。

宿敵に殴られるのでなく宿敵で殴られるという状況が正直人生にあるとは思わなかった。

しかし、頑張る。


「戴宗、しっかりせんか!!」

「っお、おっさ、ん・・・・助け・・・・ふがっ!」

「ええい、情けのない!」


任務明けだろうが毎晩嫁を抱く根性があるならもっと頑張らんか!!

その言葉に、ぴたと攻撃が止まる。

見れば、陽志がぽかんとしている。


「・・・・・毎晩?」

「・・・・・違うのか」

「あのね、毎晩なんて若いうちでもやんないよ」


呆れ返っている陽志に、アルベルトが一瞬視線をそらした。

陽志が目をまたたかせ、次いでにやっと笑う。


「ふーん・・・・衝撃のアルベルトも若いねぇ」

「貴様の亭主が枯れておるのだ」

「毎日変態プレイに興じる趣味はないよ」


笑う陽志にイワンが顔を赤らめる。


「娘が、はしたない事をいうものではない」

「・・・・・・へ?」

「青面獣、折角魅力的なのだから、もう少し慎みを持て」

「え、あ、あぁ・・・・・」


吃驚して目をぱちぱちさせていた陽志の頬が桜色に染まる。

豪快な嫁が恥ずかしがるところを始めて見た戴宗は口が開いている。

プロポーズしたときだって、カラカラ笑って抱きしめてきたのに。


「お、オロシャのイワン!!」

「は、はい?」


戴宗の剣幕にイワンが顔を向ければ、逆さづりに足を掴まれたまま、人差し指を立てている戴宗。


「もう一回!!」

「あ、あんた何言ってんだい!!」


思い切りブン投げられ、戴宗は星になった。

帰ってきた時には、嫁は平常通り、次の競技が始まらんと言うところでちょっと残念だった。

が、隣に座り込んで懐くように寄りかかっても怒られない。


「じゃ、続いて借り物競争!出場者はヒィッツカラルド様、一清道人、サニー様、草間大作!!」


ヒィッツと一清に関しては全く期待が持てない。

ヒィッツは元々闘争心が低く、一清は兄弟子樊瑞をお山に連れて帰るために国警にいるため、使命感しかなく。

しかし、これ以上兄弟子がダメな部分を晒す前に連れて帰らねばと奮起した一清。

ヒィッツはそれを面白そうに見ているし、きっとひっかきまわすつもりだ。

と、言う事で開始。

走って封筒を取りに行く4人。

何とも競技らしい。

今までのはなんだったのか疑問だ。

封筒を開封してみる。

一清は樊瑞のもとへ走った。


「兄者、寝巻をお貸し願います」

「寝巻か・・・・・残念だが、貸してやれん」


出先にまで寝巻を持ち歩かないという意味かと思うが、一清は苦笑しただけだった。


「せめて下着くらいは穿きませんと、風邪をひかれます」

「いや・・・・人が来た時にまずい恰好で寝るのはな」


話がおかしいようだが、成立している。

いつ何時に人が来ても見せびらかせる状態で寝たい男だ。


「すまん一清・・・・」

「いえ、良いのです・・・・・」


葬式のようなしんみりさが漂うのはなんとかならないか。

その横から、ヒィッツが茶々を入れた。


「魔王の寝ている時に身につけているものがいるなら、その鬱陶しいカツラでいいんじゃないか?」

「かつ・・・・兄者、とうとう・・・・・!!」

「ひ、ヒィッツ!違うのだ一清、これは地毛だ!」

「いえ、数年前から思っておりました。そんな半端な髪形を為さっているのはバーコードのためでしたか」


それまでは、カツラで隠しつつ、と言う事でしょう。

かなりの天然の弟弟子に、樊瑞は早々に諦めた。


「あぁ・・・・ストレスでなぁ」

「おいたわしい・・・・・」


益々しんみりしている二人を放置し、競技はつつがなく続いている。

ちなみにヒィッツは掻き回して満足したらしくとっとと棄権した。

大作が、鉄牛と村雨を引っ張る。

いつも大喧嘩ばかりしている男をわざわざ選ぶのが不思議だ。

いつも通りいじわるな村雨が、大作からカードを取り上げた。

目をまん丸くして、苦笑い。


「おや、そう嫌われてはいないようだ」


『きょうだい』と書かれたカード。

ちょっと照れて不貞腐れている少年に、鉄牛も同じ顔で不貞腐れる。

年の離れたお兄ちゃんと、年子の兄と言ったところか。

いつも喧嘩ばかりしている鉄牛と、意地悪をして嫌われているはずの自分を選んでしまう素直さに笑って、カードを仕舞う。


「やれやれ、行こうか」

「ふん、仕方ねぇな」

「ちぇ・・・・・変なカード引いちゃった」


それでもそう嫌そうでない雰囲気で走る三人。

その後ろを走って追いかけるのは、アルベルトとイワンを連れたサニー。

結局サニーがいるので負けたが、満面の笑みにどうでもよくなる。

カードを見たアルベルトが、軽い溜息をついてそれを仕舞う。


『おとうさんと、おかあさん』


今従者に見せても、酷く気にするだろう。

いつかそれを喜ぶようになったら、写真立てにでも入れて渡そう。

勝っても負けても嬉しそうな子供二人に、取り出しかけた葉巻を仕舞った。





「結果発表!」

口をもぐもぐさせながら、ローザが色々計算している。

隣はイワンで、忙しい友人に時折『あーん』をしてあげていた。

勿論弁当はイワン特製。

BFも国警もまかなえる多さ。

十常寺も弁当持参で、こちらは点心。

弁当をつつきつつ、結果を聞く。

各競技の細かい採点が終わり、皆箸を置いた。


「総合結果、引き分けです」


あっさり言われて、ブーイング。

しかしローザはにっこり笑っただけだった。


「よって、今夜どこに行くかはイワン次第です」

「「「!」」」


一気に色めき立った男達。

ローザにマイクを突き付けられ、イワンはきょとんと首を傾げた。


「どこに行くって・・・・・帰ったらアルベルト様のお世話をしないと・・・・」


何の疑問もないご主人様のお気に召すまま発言に、皆溜息と苦笑しか出ない。

が、それがどこまでもイワンらしく、そうであるから惚れているのだ。


「やれやれ・・・・・皆大人げないけど、腰抜けよね」

「ま、押しの強さの加減が出来ない奴らばかりだからね」


こそっと話す銀鈴と陽志。

その顔はどこまでも嬉しそうだ。


「あの人も、不思議な人よねぇ」


そこにいると、だんだん人が寄ってくる。

そして、寄ってきた人間がのいがみが抜けていく。

戦いという意味でなく、大作と鉄牛たちのように。

世界の破滅の結社にいる、不思議な人。


「本人は自覚がないんだろうけれど」

「そうだねぇ」


笑って、陽志は旦那から瓢箪を取り上げた。

一気に中身を飲みほして、返す。


「さぁ、帰ろうか」





***後書***

あほなネタだけど、大作君と鉄牛と村雨の半端ない仲の悪さの救済も兼ねて。

何より、イワンさん大人気なんだぜ!っていう話をやりたくてたまらない(言ったよ)