【 飼育企画 】



セルバンテスがペットを飼いたいと言い出した。

絶対に世話をしない男に皆呆れ顔だが、彼は本気だという。

せめて3日でもいいから飼うのだと駄々をこねるので、アルベルトはサロンの隅の段ボールをセルバンテスに投げつけた。


「これにでも入れておけ!」

「え・・・・可哀想じゃないかっ」

「知るか!」


ドカッとソファに座って葉巻をふかしまくるアルベルト。

悪乗りしたレッドがマフラーを投げてよこす。


「これで括っておけ」

「これぇ・・・・・?」


嫌そうなセルバンテスに、幽鬼が歩み寄って差し出す。


「誰かに勧めたいと思っていた」


首輪。

持ち歩いている時点でいつでもどこでも拉致監禁的な思考が丸わかりだが、有難く貰っておく。

すると、怒鬼がやおら立ち上がって別の段ボールを引きずってくる。

小刀で手際よく作ったのは、犬猫用と思しきトイレ。

セルバンテスの傍に置いてくれた。

動物好きな彼は世話は下手でも、こういった工作は得意である。

すると参加したくなってきたのか、ヒィッツが自分の持ち物を確認し始める。

考えた末に差し出したのは、ペンチタイプの爪切り。


「指を切ると信頼を失うぞ。猫は兎も角、犬の爪は血管が通っているからな」

「知ってるよ。うまくやるから大丈夫」


嬉しそうなセルバンテスに、十常寺が差し出すのは瓶詰肉。

どうやら彼式の猫缶らしいが、中身が何かは聞きたくない。


「増えること間違いなし」


にたぁ、と笑ってその台詞。

ブリード的な言葉と裏腹に、獣姦を期待しているのが丸わかりだ。

すると、樊瑞も頷いて立ち上がり、渡されたのはおしめ。

スカ将軍と一部重なっている、洗濯物ハンターとも。

コスプレに関わるこれを持たせ、樊瑞はセルバンテスに言い含めた。


「雌なら去勢までは必須だ、雄が嗅ぎつけてくる。雄ならば、躾け中は穿かせると良い」

「有難う、すごく楽しみだよ」


笑顔の胡散臭い男はいそいそとそれを傍らに置いた。

すると、その目の前に薄灰色の丼が差し出される。

差し出されるといっても、浮かんでいるのだが。


「ちゃんとしたものを選ぶまではそれに餌を入れておくと良い」

「ああ、そっか・・・・餌の事あんまり考えてなかった・・・・」


危ない危ないと汗を拭うセルバンテスに自然な動きで鎖を渡しながら、残月は首を傾げた。


「それで?いつイワンは来るのだね?」

「・・・・・え?」


居合わせたイワンが首を傾げると、残月とセルバンテスが首を傾げる。


「え、って・・・・・イワン君、昨日私に飼育して欲しいって言ったじゃない」

「し、飼育・・・・昨日・・・・?」


混乱中のイワンに、セルバンテスが嬉しそうな溜息をついた。


「首輪をつけて鎖に繋がれたイワン君がね、丼から猫缶を食べているのを想像するだけで楽しいよ。

 赤いマフラーの引き綱でお散歩して、おむつのお尻がちょっともたっと重そうで可愛いよね!

 帰ったらおむつ外してあげて、爪切ってあげてたら逃げちゃってね、トイレに行っちゃうからその前にしゃがんでじっと・・・・」


言いかけたセルバンテスを衝撃波が襲う。

が、本気ではない。

勿論妄想を諌めるんでもない。


「馬鹿者。あやつは飼われていると死んでしまうのだ」

「君は違うの?」

「いや?強いて言うならあやつはコリータイプだからな」


羊を追うのが楽しくて仕方が無い。

追わせてもらえないと、悲しさが募って病気になってしまう。

羊番をしないと死んでしまうコリーのようなんて、可愛すぎる!


「ああ、イワン君飼いたいなぁ・・・・・」

「つまり、昨日云々は妄想で、あわよくばだまくらかして良い事しちゃおうなんて思っていたわけですね?」


年季の入った指さばきで携帯用テトリスをやっている孔明。

余談だが彼は最初からサロンにいた。

その肩をイワンが揉んでいる。


「まぁ、色々な装備は別として、衝撃のアルベルトが寄越した段ボールに入れておくのは賛成ですね」

「何でそれだけ?」

「捨て犬の様で可愛いからです」


孔明の言葉に、イワンが苦笑する。


「他の犬は、皆拾われてしまったのですね」


可愛いのから拾われて残ったのが彼。

いやいや、そんなこと言っても駄目だ、その発言が既に可愛い!

そう叫びたいのを堪えていると、孔明が舌打ちした。

どうやら長い棒を入れそこなったらしい。

彼は電源を切って、それを仕舞った。


「残っていたかは別として、犬を拾ったらまず洗って餌を与え、躾けです」


にたぁ、と笑う顔は策士でなくテイマーだ。


「芸を仕込むのは勿論、命令に従わない場合は容赦なく尻叩き。鞭でも棒でも、怪我をさせなければ正当な理由」


厭らしい視線が、イワンを振り返る。


「勿論、噛まなくなったらワクチン接種です。注射」


注射!

針で刺す以外に自前の槍でブッ刺して白いワクチン注射する気満々だ。

抗体が出来る事のない白い液に身体を犯されていく可愛い・・・・


「うわぁ、超燃える!」

「飼育願望を刺激しますね」


次々会話に参加する男たち。

イワンはそれを茫然と見つめていた。

主まで参加しているのには本気で泣きそうだ。


「・・・・貴方様の飼い犬でありたいのに・・・・」


思わず呟いた小さな言葉。

俯いて切なそうな顔と相まって、非常に愛らしい。

会話を止めてぐびっと唾を呑む11人。

それぞれが抱きしめよう頭を撫でようと手を伸ばし、当然ぶつかり合う。

火花が散り、またいつもの乱闘。

始末に負えない大きな子供たちに溜息をついて、イワンは飼育セットを片づけ始めた。


「何だか・・・・大型犬の面倒見ている気分だな・・・・」





***後書***

妄想は単なる妄想でなく、利用してイイコトしちゃう武器でもある。