【 懐物企画 】



「これ何?」

カワラザキの抱えてきた箱から落ちた紙きれを拾い、セルバンテスは首を傾げた。

武者絵の描かれた厚紙。


「ああ、面子じゃ」

「めんこ?」


ひっくり返して眺めるセルバンテス。

レッドが茶々を入れた。


「自称日本マニアが面子を知らんのか?」

「えー・・・・そんなこと言っても、知らないものは知らないし。知ったかぶりしようにもこれじゃわからないよ」


光に透かしてみるセルバンテスだが、勿論面子はそういう使用法でないし、厚過ぎて何も透けない。


「ねえ、これ何なの?」

「これをこうして・・・・・レッド、やらんか?」

「・・・・構わんが、激動のに勝てるほどやった覚えもないぞ」


言いながら立ち上がるレッドも、昔ほんの僅かにやった人間らしい遊びが懐かしいらしい。

カワラザキの差し出した面子のうち一枚を手に取り、置かれた面子の傍に叩きつける。


「あっ、凄い凄い」

「煩い男だな・・・・・」


少し照れているらしいレッドに、セルバンテスは本当に感心していた。

置かれた面子は随分大きなものだったのに、レッドが叩きつけた中くらいの面子で簡単にひっくり返ってしまった。


「激動のならもっと小さなものでも出来よう」

「うむ、まぁ・・・・・運もあるがのう」


かなり小さい面子を3枚とって、カワラザキは面子の傍に叩きつけた。

1個目は惜しかったが、2個目であっさりひっくり返す。

セルバンテスがねだった。


「教えて、面白そう!」





・・・・そういうわけで始まった面子大会。

簡単な講座の後にそれぞれ好きな面子を選び、戦う。

一人3枚持って、トーナメント。

レッドとカワラザキはシードだ。

優勝者には好きな人間を指名して膝枕させる事が出来るという素敵な賞品付き。

全員同じ人間を指名する気満々で、気合が入っている。

第一回戦は、幽鬼と怒鬼。

怒鬼は中面子3枚、幽鬼は小が2枚と大1枚。

置かれた面子は中が1枚、これと互いの面子をひっくりかえした回数などで点数が決まる。

まず、怒鬼から。

一応出来るらしく健闘したが、爺様仕込みのテクで容赦ない猛攻をかける幽鬼にあっさり敗北。

しかし彼は特に気にした様子が無い。

というか、勝負がやや上の空。

どうしたのかと思ったら、鼻が。

ひごひごしている。

どうやら古びた紙の臭いに興奮しているらしい。

幽鬼は自分の面子の一枚を差し出し、彼に残念賞をあげていた。

次はヒィッツと十常寺。

彼らは最近の葉物野菜高騰について話しながら戦っていた。

十常寺が魚を蒸す時に葉物が無いのが困るというと、思い切ってオリーブオイルがけにしてみたらどうかと。

オリーブオイルとペッパーをかければ簡単なつまみだし、新しいジャンルも中々良い。

第一にこうも葉物が高くてはトータルで完成されたものと言うより、単に高いものを使ったものになりかねない。

そういう議論が理解できない8名と、感動すら覚えているイワン。

何だか何をしていたのか忘れそうになるが、これは面子バトルである。

そして、十常寺は戦いを放棄。

ヒィッツカラルドも放棄。

二人してオリーブオイル漬けのサーモンを作り始めてしまった。

終わったら食べてくれと言われ、一応返事をする十傑。

膝枕に執着しないところが伊達男の株と狸爺の不思議度を上げる気がした。

続いて樊瑞とアルベルト。

アルベルトは中面子1枚と大面子2枚。

完全に武器に頼っているが、彼の盟友は三枚とも大面子なのでそれよりはまだ大人だろう。

樊瑞は小面子3枚だが、彼の腕力を考えればそれで十分いけそうだ。

いけそうだが、いそいそとものを取り出すのは勘弁だ。

面子の勝負に万全を期すのは良いが、そんな事をしたら・・・・・。

ぼろんっ、ぼろんっ、と激しく揺れている。

振りかぶって叩きつける度に、ぶらんぶらんしている。

泣きそうな光景だが、もう皆慣れているので誰も気にしない。

それに突っ込みを入れもせず本気で面子を叩きつける38歳にも涙が出そうだ。

衝撃波まで使っているが、そこまでして勝ちたいらしい。

結局勝負は長引き、しかし何とかアルベルトが勝利。

樊瑞はイワンによって回収され、彼式身支度から十傑通常身支度に戻されていた。

1回戦最後は残月とセルバンテス。

変質者の仁義なき戦いが幕を開ける。

セルバンテスは浣腸の良さについて残月に意見を求めた。

残月は下着を穿かせたまま行って後で下着、ないしおむつを回収したいと答えた。

残月が洗濯物の良さについて問うと、セルバンテスは一週間はいた下着の良さを語った。

あの刺激臭はともかく、穿いた事実が得も言われぬのだと。

握りしめて3発は硬いとぬかした男に、残月が白旗を上げた。


「駄目だ、そんな同志から勝利を奪う事は出来ん」


何の同志かは言わずと知れた変質者どもだが、誰も何も言わなかった。

負けを認めた残月が脱落し、2回戦はシード含めて4人。

カワラザキはさらにシードで最終選考で戦える。

まず、レッドとセルバンテス。

もう勝負は見えたが、幻惑の大人げない大面子で苦戦。

しかし技術が余りに違い、へたっぴの幻惑はいとも簡単に敗北した。

悔しそうだが、元々勝てるとは思っていなかったらしい。

日本の昔の遊びを堪能出来て御満悦の男を押しのけ出陣するのは帝王アルベルト。

幽鬼も嫌な笑いを浮かべて面子をぴたぴたしている。

そして始まった戦いは、苛烈を極めた。

先の手を読もうとする幽鬼に容赦なく爛れた妄想を突きつけるアルベルト。

幽鬼が『ちょ、貯金箱?!』『醤油さし?!』『貴様は鬼だ!』と叫んでいるのが不安だ。

貯金箱と醤油さしで何をするのだろうか、逆に聞きたいが、幽鬼が絶叫するなら相当だ。

息も絶え絶えの幽鬼の投げる力無い面子では太刀打ちできず、アルベルトの勝利。

そんな異常な妄想がそんなに良かったのか、前かがみなのが悲しい。

そして、レッドとアルベルトの対戦。

今回でアルベルトの脳内妄想が白昼のもとに晒された。

純愛忍者に拷問セックスの妄想を容赦なく語り、忍者は耐えきれず面子を投げ出してしまった。

苦無に持ち替えて攻撃してくる同僚にイワンを押しつけて黙らせる。

レッドは拗ねた子供が母親に甘えるように、イワンに懐いてぶーたれていた。

最終戦は、カワラザキ対アルベルト。

戦いは苛烈を極めるかと思いきや、爺様にとっては大面子もにわか仕込みの技術も児戯ですらない。

あっという間に負けたアルベルト。

カワラザキがイワンを引き寄せる。

すると、イワンが微笑んだ。


「お強いのですね」

「うん?やってみるか?」


誘うと、イワンは嬉しそうに頷いた。

そして。

ぴしっ。


「あ、本当だ」


ぴしっ。


「面白いですね、大きいものが強いんじゃないなんて」


ぴしっ。


「・・・・・どうされました?」


きょとんとするイワンは、さっきから小面子で容赦なく大面子をひっくりかえしている、それも百発百中。

当てる部分や角度がうまいし、強く叩きつけるだけが全てでない。

爺様の面子魂が過熱した。


「うむ、鍛えてやろう!」

「えっ?」

「む、無理だ爺様、イワンにあんな過酷な・・・・・!」


幽鬼が止める過酷な修行に駆り出されていくイワン。

2日後に帰ってきたイワンは、アルベルトに縋りついて泣いたという。


「お風呂は一人で入りたかったです・・・・・」


何の修業をしたと聞きたかったが、直行した部屋で身体と具合を確かめたアルベルトは、翌日サロンで言い切った。


「ワシ一筋だな」


殺してやろうかこの惚気男。

そう思ったのは1人2人ではなかったらしい。

まぁ、アルベルトに抱えられて眠っているイワンを前に騒ぐ者もいなかったが。

ただ、幻惑が手にした面子を見て呟く。


「・・・・・私は子供の頃より今の方が良いよ」


誰も何も答えず、昨日から次々重なるサーモンのオリーブオイルがけを摘まんでいた。

遠い孤独な日より、騒がしく迷惑な同僚でもいた方がましだと思いながら。





***後書***

爺様は場の雰囲気でうやむやにしつつ楽しい事が出来る男。いつだって夜の帝王ですが、無理強いはしない紳士!(うるさいわ)