【 ヒィッツカラルドの夢 】
「で、ですが・・・・・・」
嫌がる素振りが曖昧になってきたのを見計らい、唇を奪う。
甘く柔らかい唇に夢中になりそうなのを、理性で繋ぎ留める。
まだだ、まだ掛かっていない。
もう少し、針を呑みこませてから引き上げないと。
身体を柔くさすっていると、イワンの瞳がとろりと濡れ始める。
快楽だけでない。
優しい愛撫に溺れているのだ。
折檻じみたセックスを強要する傍若無人な恋人に疲れているのは、気付いていた。
デートの一つさえなく毎晩部屋に呼びつけられて、よくこんなに長い間我慢したものだ。
浮気すらしなかった一途な彼を、口説いて口説き落として。
漸くここまで漕ぎつけた。
此処で逃しては水の泡。
何度も甘いキスを繰り返し、顔を背けると差し出される白い耳に愛を囁いて。
とうとう、この辛い恋に疲れていた人を。
ものにした。
縋りついてくる腕を受け入れ、優しく抱きしめて。
気持ちを伝える。
伊達男だって、本気の時は本気だ。
綺麗でなくても、好きなものは好きなのだ。
抱いてベッドに運び、座らせ。
涙の滲んだ目元を拭い、新たに溢れる涙の為に柔らかめのハンカチ。
淡いグレーのそれを握らせて、台所へ。
少し一人で泣かせてあげるのと、気持ちの整理をお互いに。
その片手間にホットミルクと珈琲を煎れ、戻る。
イワンの中で、主とヒィッツカラルドの枠が分かれたらしい。
恋人の枠に入ったのは、どうやら自分。
ホットミルクを差し出し、首を傾げて笑って見せた。
「少しは落ち着いたか?」
「はい・・・・」
はにかんだ笑みが愛らしい。
髪でも梳いてやれば様になるが、生憎彼には髪が無い。
代わりに鼻頭を軽く指で擽り、隣に座った。
すると、擦り寄られた。
彼には他意が無いようだが、自分は珍しく余裕が無い。
が、ここで外させると誤解を招くだろう。
さてどうしたものかと思うと、イワンが小さく囁いた。
可愛い小悪魔のぎこちないお誘い。
自分を気遣ってくれているのは分かっていたが、あえて触れずに甘えさせてもらう。
頬に、額にとキスの雨を。
彼は酷く吃驚したようだった。
どうしたのかと思えば、こんなのはお話の中だけと思っていたらしい。
何とも複雑だ、どんな行為を強いられていたのか。
キスもなく、デートした事もなく、夜明けには自室に帰る。
そんな寂しさから引っ張り出せてよかった。
絶対に、守って見せる。
誰に言うでもなく誓って、イワンを抱きしめる。
甘い体臭に頬を緩め、服をそっと脱がせる。
滑らかな肌には、接吻の痕さえなかった。
まっさらなそこにきつく吸いついて、赤い花弁を。
お前は私のものなのだという、証。
所有の証などという勝手なものを、イワンはしげしげ眺めて目を瞬かせていた。
そして、次の瞬間。
なんとも愛らしい、幸せそうな笑み。
彼を喜ばせる為に、自分の欲望を満たす為に、何度も何度も花弁を散らす。
胸も腹も、脚も腕も、埋め尽くして。
残った部分に散らしていいかと問うと、恥ずかしそうに頷いた。
秘めた花弁も散らしたいのだと請うと、イワンは頬を染めて戸惑いながら頷いてくれた。
嬉しくなって、唇にキスを。
ゆっくりと脚を開かせる。
ちゃんと感じてくれているらしく、雄は反応して蜜を滲ませていた。
ちょんと先をつつくと、蜜が糸を引く。
ぺろりと舐めれば、甘くも苦い。
後ろの窄みは物欲しそうだ。
舐め濡らした指を差し入れようとして、戸惑う。
イワンは大丈夫と微笑んでくれた。
この、狂気の指が。
怖くないのだと。
切なさとともにあたたかさを感じ、ゆっくりと差し入れてみる。
中は熱く、反応は初心だ。
しかし、男を知っている絡みつき方。
初物に拘るつもりは無い。
どちらかと言えば、もたもたしてこの人がこんなに疲れるまで放っておいた自分に腹が立つ。
指で慣らすが、綻ぶのは早かった。
それは力の抜き方を心得ているからだ。
きっと、そうしないと主の機嫌を損ねるから必死で体得したのだろう。
引き抜き、もう一度唇を吸う。
吐息を交換し、口に指を差し入れ噛ませる。
食い千切られたって構わないのだ。
苦痛を軽減する方が先だ。
「あ、ぅあ、あ・・・・・・」
ずずず、と沈めていくと、イワンが辛そうな声を上げた。
慣れた形と全く違うのだから当然だ。
奥まで填め込み、宥めるように腹を撫でる。
縋るのを抱きよせ、身体を合わせて腰を使った。
甘く甘く、甘やかして。
この人の心の傷を癒せればと願って。
【 怒鬼の夢 】
「怒鬼様?」
覗き込まれ、はっとして瞬きする。
目の前には、もうずっと想っているひと。
夢のように、間近に。
夢のように。
現実でないのだ、ないのだから。
願望じみた言い訳を渦巻かせ、引き寄せ抱きしめる。
不思議そうにしながらそっと抜け出ようとするのを強く抱きしめて、逃がさないように捕まえた。
あたたかい、柔らかい、良い匂いがする。
泣きたいぐらいに、求めている人。
泣いたって手に入らないと知っている。
その愛らしい唇を吸った瞬間、頭に痛み。
はっとして瞬けば、目の前には大好きな人。
ぷんすこ怒った顔は、それでも愛らしい。
「いい加減起きてください。お布団干さないと、4日目でしょう」
叱られ、ぽけっと見上げる。
ボケてしまったじじわんこのようにぽけっとしているのに、イワンが首を傾げる。
惚けている怒鬼が心配になってほっぺたに触ってみると、引き寄せられて抱きしめられた。
「ど、怒鬼様!」
そうだ、この人はもう自分の妻になったのだ。
経緯はややこしいし、色々と複雑だった。
でも、どうにか自分のもとに来てもらったのだ。
初夜に恥ずかしそうにしていたのも、覚えている。
思い出し、興奮に任せてそのまま致そうとすると、飛んできた血風連に大変叱られた。
叱られたと言っても大したものでないが、怒鬼様命の彼らからすれば決死のお諫めだ。
怒鬼は素直にイワンから手を放した。
連れて行かれてしまう人を見ていると、引っ張られる。
「何をやっておいでですか。怒鬼様もお着替えを」
「・・・・・・・・・・?」
渡されたのは、紋付き袴。
何故、と思ったが、よく考えたら今日は。
ばたばたして出来なかった、婚姻の儀をするのだった。
簡単に三三九度の杯くらいだが、悪くない。
あの人との仲を認められるのだから。
着替えて暫く待ち、式場へ。
角隠しに鼓動が跳ねる。
白無垢の後ろ姿が、そっと振り返った。
「あ・・・・・怒鬼様・・・・・」
はんなり微笑んだイワンの目元と口元は、少しだけ化粧がされていた。
白い肌に白粉はいらないし、愛らしい口元は透明なグロスだ。
だが、白い身を白無垢に包むのに艶を加えるための、赤の色粉。
眦にほんの僅か、目のふちに乗せられた赤。
何とも、愛らしく色っぽい。
隣に座って、祝詞を聞き、杯を。
終わって自室で一息ついていると、襖の向こうに気配。
開けてみると、イワンが吃驚して固まっていた。
白無垢のままの身体を部屋に引き込んで、襖を閉め。
甘い唇を吸った。
柔らかな身体を包む白無垢を脱がせれば、境界が曖昧なほどに白が美しい身体。
軽く吸うと、仄かな梅の花弁。
強く吸えば、鮮やかな桜の花弁に。
花の姿も良い、だが。
香りを楽しむべきだ。
肺腑いっぱいに吸い込んだ香りは、甘く芳しく、妖しい。
春の夜の風のように、身体に絡んで心をかき乱す。
そっと腕を上げさせると、イワンが恥ずかしがって顔を背ける。
初夜でやった時は、翌朝酷く拗ねてしまった。
初床の葵上の如く。
確かに、了解を取らずにやった。
行為自体の話でなく、匂いを嗅いだ事。
手に入ったのに有頂天になっていて、押さえつけて匂いを嗅ぎ倒した。
イワンは酷く恥かしがって泣き、そして怒った。
が、最近は我慢してくれている。
それに、鼻を鳴らして局部の匂いを嗅ぐと、もじもじしながら蜜を零す。
じっと見ているとご機嫌斜めになってしまうので、あまりまじまじ見れないが。
白い腋の匂いを嗅ぐ。
刺激臭がしないのが非常に残念だ。
頭が痛くなるような悪臭の方が興奮するのに。
確かに、この人の身体で臭う場所は無い。
だが、今掴んだ可愛い雄の先端からは、蜜と粘膜の匂いの混じった性的な匂いがする。
鼻先を近づけて、嗅ぐ。
腰を捩るのを掴んで先の匂いを嗅ぐと、イワンが泣きを入れてくる。
でも、もうちょっと。
そう思って嗅いでいる内に、痛いくらいに勃起してしまって。
鼻先のものも、興奮してびちょびちょだ。
甘くいやらしい蜜の匂いに微笑んで、軽く扱く。
跳ねる腰から手を放して自由にし、濡れそぼる雄を絞る。
「ひぅっ・・・・・!!」
ぴゅっぴゅっと噴き出す白い蜜を舐める。
甘くも苦く、美味しい。
全部舐めとってしまうのはいつもの事だ。
潤滑用の油を指に絡めて、差し入れる。
苦しがるのを宥めるように、ゆっくりと解した。
「ぁ・・・・・・」
とろりと濡れた唇が薄く開く。
どきさま、と言われ、頷き乗り上げた。
押し当てて角度を調整し、押し込む。
「っ・・・・・・」
「ひぐ・・・・っ」
ずにゅ、と入りこんでいく男根に絡みつく肉。
息を詰め、歯を食い縛る。
すぐにでも出してしまいそうなくらいに気持ちが良い。
根元まで填めると、根元に来ている筋肉の輪がぎゅっぎゅっと締まる。
何とも良い締め付けに喉を鳴らし、脚を掴んで大きく開かせる。
晒された雄は濡れてとろっと光り、窄みは男根を含まされて限界まで開かされている。
可愛い孔を見ながら注挿すると、直ぐに興奮が限界に。
ぐりぐり押し付けて、奥の奥に種をまく。
身悶えながら精液を噴き零すのが可愛くて、グロスがすっかり剥げてしまった唇を吸った。