【 カワラザキの夢 】



「カワラザキ様っ!」

叱ってくれる人は、33歳禿頭鷲鼻の男性。

彼と想いを伝えあって、もう1年は経つ。

彼を手放さない当時の主から隠し、この屋敷へ攫った。

彼は我儘を了承して、ここに留まってくれた。

そして、緩やかな時間の中で、今一度気持ちを伝え合い。

彼を『囲って』いる。

が、お妾さんと言うには、彼は働き者過ぎた。

別に女性を揶揄するのでない、彼は兎角いつでも動いているから、人間にしては働き者と言ったって過言でないのだ。

からかうと、彼ははっとしたように全てを放り出して側に来てくれる。

寂しいと言ったりしたら、それこそどんなにやりたい事も放り出して構ってくれる。

自分にはもったいない。

だが、手放すなんていう気もない。

可愛い鷲鼻を擽って、接吻を。

恥ずかしがりながら嬉しそうにしてくれるのが嬉しい。


「今日は、天気が良いからのぅ」


すこぅし、折檻でもしてやろう。

イワンが目を瞬かせるから、にやっと笑う。


「一人遊びが、過ぎるぞ?」

「あっ・・・・・・」


ばれた、と頬を染めるイワンを抱き上げ、縁側に。

服を脱がせ、同僚直伝の亀甲縛りで軒から吊るした。

暖かい春先とはいえ、肌を晒せば矢張りやや寒い。

それに、山の中の屋敷とはいえ、明るいうちに外で全裸なんて恥ずかしい。

もじもじしていると、大きな手が脚を上げさせる。

噛ませていた張型をつままれ、腰がびくついた。


「あぅ、あ・・・・・・・」


ずるぅ、と引き出されたものは、長い焦らしに蠢いた中の粘液に塗れていた。

糸を引くのが恥ずかしくて顔を背けるが、許してもらえない。

顔の前に突きつけられ、こくんと唾を呑む。


「ごめんなさい・・・・・・」

「何を謝る?」

「おしりに、おもちゃ・・・・・」


もごもご言うのが可愛くて、ついつい苛めてしまう。

後ろに回ってしまえば顔は見えないから、にやけても問題ない。

声だけ厳しくして問い詰めれば、半泣きで、構ってくれなくて寂しかったと吐いた。

一緒にいなかったわけでないが、もじもじするのが可愛くて焦らしたのは確かだ。


「本当は、おちん、ちんが・・・・よかった・・・・・」


泣きそうになりながら言うのがいじらしくて、苦笑してしまう。

後ろから、ぶら下げられた身体を揺らさぬように胸の尖りをつまむ。


「あんっ」


ぎしっと縄がきしむが、念動力で必要以上に揺れないようにはしている。

身体を痛めさせたいわけではないのだ。

くいくいっと引っ張ると、切なげに腰を揺らす。


「だ、だめっ・・・・・あんんっ」


胸の尖りは、初めの頃は酷く痛がった。

それをうまく仕込んでやったら、今度はここだけでいけるまでに。

厭らしい身体に、純情な心。

愛らしい笑顔の威力は計り知れない。

胸の尖りをくにゅくにゅと弄っていると、甘い蜜の匂いが漂い始める。

白い耳に唇を寄せ、問うた。


「どうも、甘い匂いがするが」


何の匂いか、教えてはくれんか?

蜜を、吸いたいのでな。

そう言うと、目の前の耳が赤く染まった。


「イワン・・・・・?」

「ぁ・・・・・・」


イワンの喉が、きゅっと鳴った。


「い、イワンの、匂い、です」

「分かりにくいのぅ」


恥ずかしがって中々言えないのを柔く問い詰める。


「い、イワンの、おち、ん、ちん、の・・・・・」


泣きそうな顔で言ったのを褒めるように頭を撫で、縁側に下ろしてやる。

長い緊縛で痺れている身体を組み敷き、いけない遊びに和らいでいた肉孔に肉槍を沈めていく。


「あぁ、ぁ・・・・・っ」


ずずず、と入りこむ硬く熱い肉に、イワンが床板に爪を立てた。

がりりと言う音に気付き、その手を取る。

すると、イワンはそれを振り払った。


「だ、だっこ・・・・・」

「ああ、お前さんは甘えただのぅ」


服を脱ぎ捨て、まだ衰えぬ筋肉に覆われる背に、手を回させる。

一度雄を握ってやって、ついでに腰の位置を調整した。

指に絡んだ蜜を取り敢えず味見して、甘さに頬を緩める。


「爪を立てても、構わんからな・・・・・!」

「かわらざきさ、ま・・・・・っ」


激しい水音と肌を打つ音。

春の陽気の明るい景色には不釣り合いで、何とも。

淫靡な、秘め事だった。





 【 十常寺の夢 】



確かに、心のどこかで。

望んでいるのだ、そうしたいと。

人形にしたいのだと、望んでいる。

鼓動を刻むその身に紛い物の命を吹き込んで、自分に従う事しか出来ないよう。

愛らしい微笑さえ浮かべずに。

憂鬱そうに見上げてくる。

命じれば何だってする、人形。

ぼんやり考えて、溜息をつく。

削っていた人形を投げ出して、鑿を壁に投げつけて。

手に入らないあの、素敵な。

愛らしい『イキモノ』を。

柄にもなく、想い続ける。

あの人は恋さえ忘れて主に仕えている。

自分など見てはいないのだ。

でも、どうか。

今日だけは、一緒にいて欲しい。

こんな気温で、こんな天気で、こんな風の、日当たりの日は。

昔愛した人を、人形に変えてしまったのを思い出すから。

十傑権限を使って呼びつけたが、イワンは不思議そうにしながら付き合ってくれた。

優しく微笑んで、茶を煎れて。

話を聞いて、笑ってくれて。

白い耳に目が行って、突然血が沸騰した。

小さな、黒子。

否、それは黒子でないと知っている。

インクだと一目で分かる、微妙に青ずんだ色合い。

だが、あの日壊した人形を思い出す。

憂鬱な微笑みしか浮かべなかった、あの・・・・・!


「ぅあ!!」


はっとしたが、遅かった。

手の中に残るのは、白く温かで柔らかい耳。

直ぐに戻せば、治せない事もないのに。

一瞬にして、それを判断してしまった。

握りつぶして、しまった。

イワンは余りに唐突な凶行に、左耳のあった部分を押さえて呆然としていた。

真っ赤な血がぼたぼた落ちる。


「じゅ、じょ、じ・・・・さ、ま・・・・・?」


もう、遅い。

取り繕えない。

彼に嘘をつけたとて、彼の主は嘘を見抜く。

黙って、手当てをした。

耳を無くしたただの穴。

綺麗に消毒して、出来るだけ傷が残らぬように。

イワンはまだ茫然としたままだった。

今なら、言える。

呆然としているから、真正面から見つめらる事がないから。

聞こえないかもしれないとどこか安堵しながら。

聞こえるかもしれないと期待しながら。


「・・・・・愛、故」

「あい・・・・?」


ぽつり、語る、昔の話。

遠い遠い、冬の終わりの。

何とも子供じみた、恋の。

思い出。

イワンは黙って聞いていた。

話が終わっても、彼は何も言わなかった。

ただ黙って、抱きしめてくれて。

叶わなかった恋を、諦められるなら。

自分を壊してくれて構わないのだと。

血だらけの寝台に組み敷き、口づけを。

叶わなかった口づけは、恋の対象を変えて叶った。

代わりなどでない、この人の方が良いのだから。

あの人形は愛らしく残酷だった、このひとは愛らしく優しい。

私を愛さなくとも構わないのだ。

歯を食いしばってその現実を噛みしめ、身体を暴く。

白い肌を辿ると、酷く震えた。

肌は滑らかでしみ一つない。

そこで、気づいた。

男はもとより、女との痕さえ見当たらぬ。

雄も綺麗なまま、皮だけ剥けていて。

見やると、目があった。

そろりと袋の裏を探れば、蕾は柔らかそうだ。

中を探ると、何かに指が当たる。

イワンがはっとしたように身を捩った。


「お、お待ちください、今日は・・・・・」


今日は、という事は。

度々、日によってここに何か噛ませているのか。

不思議だ、情交の痕がないのに此処だけで自慰を?

男に躾けられている風でもないが・・・・。

待って欲しいと訴えるイワンだが、やや失血気味の身体ではそう長く暴れられもしない。

大人しくなり観念したのかと思えば、蕾を硬く締めて中身を見せないようにしてしまった。

此処をこうも強く、自由意思で締めるのは中々難しい。

相当鍛えていると感心して、つつく。


「んっ・・・・・」


びく、と脚が引きつって、蕾がひくひくしている。

愛らしいが、欲望を刺激する事甚だしい。

油をつけて指を這わせると、ぬるぬる滑る感触にぷくりと膨らむ。

花開きそうな蕾に嬉しくなって、もっと。


「んぁ、や、ぁんっ」


下半身を艶めかしく踊らせ、上半身をもどかしげに寝台に擦り付ける姿。

下衣を緩めて自身を取り出し、締めつけからの解放に一息。

改めて、中のものを取り出しにかかる。

つついて苛め、ゆっくりと差し入れ。

入口からそれまでの間を、何度も指で往復して刺激を繰り返す。

そして、惰性に勢いがついたところで、ずるりと抜き取った。


「あ、あ、だめ、だめっ」


ぷっくりと膨らんだ蕾が花開いていく。

顔を真っ赤にして涙ぐみ首を振るのも可愛いが、愛らしい花に釘付けだ。

唾を呑んで注視していると、何とも意外なものが顔を出した。

前に彫った、小さな人形。

木彫りで簡素な、木偶。

思わず顔を見やると、泣き出してしまった。

しゃくりあげて泣くのを宥めつつ聞けば、それは。

自分にされているつもりだったのだと。

人と情交した事がないのは偶然だったが、そのうち自分を遠くから見つめるようになり。

言い寄られても、断った。

そうして、自分が押しつけた木彫りの人形に触って自慰をしていたのだと。

だがそれは段々とエスカレートし、そのうちそれ自体を体内に埋め。

いけないと思いつつ、でも自分を見る事が出来るのはその時だけで。

仕事中に、悪い事と知りながら。

羞恥に死にそうな様子のイワンを、ぎゅうと抱きしめた。

代わりで無いのだ、お前の方が上等なのだと刷り込むように言い聞かせるが、中々信じない。

それで、がちがちになって汁を纏った男根を握らせる。

イワンは酷く驚いたようだった。

思わず手を引いて、指に絡んだ汁を眺めてしまうほどに。

だが、男で、冴えない姿でも勃起するという事実に、少し安心したらしい。

照れたように笑って、縋ってくれた。

嬉しくなって、手に擦りつける。

すると、耳を噛まれた。

食い千切られても構わぬが、耳を襲うのは甘い吐息と可愛いおねだり。

要望通り身を沈めれば、先が丸めでかりは少ないが先から太いもの。

イワンが苦しげに呻くが、締めあげる痛みの次に来たのは、とろけるような締め付け。

歯を食いしばって、腰を揺らす。

奥まで犯して汁をなすり、もっと濃い汁を奥の奥に。

包帯に包まれた、耳があった部分に、接吻を。

やっと手に入れた恋人は、愛らしく笑ってくれた。

憂鬱な笑みより、ずっとずっと、魅力的に。