【ご主人様のお気に召すまま-001】



セルバンテスは仲睦まじい・・・変な意味でなく・・・従者として完璧な動きのイワンと、ゆったりと紅茶を飲むアルベルトを眺めていた。


『一体いつになったら進展するのかなぁ・・・・・』


セルバンテスが余計な茶々を入れたくなる程、二人の距離の縮まりは緩やかだ。

盟友は自分から思いを告げるような男ではない。

イワンは仕える事が既に幸福らしく、盟友のさりげないアプローチにもぶっちぎりの天然度合いで全く気付かない。

セルバンテスは自分の事でもないのに煮詰まってきていた。


『こうなったら私が一肌脱ごうじゃないか』


そんなはた迷惑な決意をさせる程に。





思い立ったが吉日。

セルバンテスはその日の夜に、廊下に立っていた。

エージェントとしての仕事を終えたイワンが高確率で通る廊下だ。

果たして予想通りイワンが歩いてくる。

セルバンテスが手を振ると、気付いて急いでやってきた。


「セルバンテス様、どうかなさいましたか?」


セルバンテスはわざと寂しげな表情を作ると、イワンをぎゅっと抱き締めた。


「セ、セルバンテス様?」


控えめな抵抗を封じるように手首を掴んで壁に押しつける。

唇が触れそうな距離で甘く囁いた。


「イワン君、二時間後に私の部屋へおいで」


白い首に吸い付いて赤い花弁を残すと、セルバンテスはさっと身を翻した。

いくらイワンでもここまでされて意味が分からぬ程鈍感ではない。

イワンは困惑しながら屋敷に戻った。

それでも主の世話をする時はなるべく平静を装う。

そしてセルバンテスが指定した二時間に手が届きそうな頃、イワンは主に控えめに申し出た。


「あの・・・・セルバンテス様に呼ばれておりますので・・・・・・」

「何度目だ」

「は?」


地を這うような声で問われ、イワンは反射的に聞き返していた。

アルベルトが軽く、だがいつもより些か強く葉巻で灰皿の縁を叩く。


「奴に抱かれるのは」

「?!」


いつもならアルベルトはこんな事を口にしないだろう。

下世話な、と一蹴だ。

所有物が勝手な行動をするのが気に食わないのだと思い至り、イワンは慌てて弁解した。


「っ申し訳ありません!あのっ・・・・今日が初めて、です」


男に抱かれる自分など要らぬと言われるのではないかと、イワンは戦慄した。

握り締めた手の中に汗が滲む。


「貴様はそれで良いのか」

「・・・私など・・・・・拒める身分では・・・・・・・」


従者の言葉に、アルベルトは灰皿で葉巻を揉み消した。

ついと立ち上がるとイワンに背を向ける。


「拒めぬと言うなら選ぶ事を許してやる。あやつを選ぶのならベッドメイクを済ませて行くがいい。選ばぬなら・・・・シャワーを浴びてベッドメイクをしに来い」


部屋を出ていく主を見つめたまま、イワンは呆気にとられていた。

だがその意味を理解して顔を赤らめる。


「っアルベルト様・・・・・」


気難しい主でも、イワンが恋い慕う主だ。

イワンはセルバンテスから叱りを受ける覚悟を決めた。





「失礼致します」

ウォーターリリーの清い香りを纏った従者が、アイロンの掛かったシーツを手に入ってくる。

彼は香水を付けない。

ウォーターリリーの香りはボディーソープの匂いだろう。

スーツも先程着ていたものとは違う。

ベッドメイクを行うイワンを眺めながら、アルベルトは脚を組み替えた。

終わる寸前でウイスキーのグラスを置き、従者がベッドから数歩離れた所で口を開く。


「・・・・・脱げ」


イワンがびっくりしたように振り返り、次いで顔を赤らめる。


「し、少々お待ちを・・・・・」


緊張しているのか、たどたどしい手つき。

上着を脱いだところで固まった従者に顎をしゃくって先を促すと、羞恥に泣きそうになりながらワイシャツを脱ぎ始める。

指がもつれて食う時間も、初々しくて良い。

北国育ち特有の白い肌が、ワイシャツの隙間から覗く。

アルベルトは椅子から立つと、従者のワイシャツの釦に指を掛けた。


「遅い」

「も、申し訳・・・・・」

「くどいぞ」


黙らせるように唇を吸えば、従者はおとなしく唇を開いた。

舌を入れると、さらりとした滑らかな舌が奥に引っ込んで震えていた。

それを吸い出して舌を絡ませる。

イワンは小さく呻いて瞼を震わせた。


「・・・・ふ・・・・・・・」


唇を離すと、濡れた唇を銀糸が繋ぐ。

アルベルトはイワンを抱き上げるとベッドの上に押し倒した。

うろうろと目を泳がせる従者。

アルベルトは目を細めてそれを見遣ると、肌蹴たワイシャツの中に手を差し入れた。

なめらかな肌がふわっと粟立ち、指先を愉しませる。


「っ・・・・・」


胸の尖りを弾かれ、イワンの身体が小さく跳ねる。

アルベルトが組み敷いたイワンの耳をがりっと噛んだ。


「セルバンテスに抱かれた事はないと言ったな」

「は、はい」

「ならばこの痕はどうした」


武骨な指が、首筋の赤い痕に触れる。


「あ・・・・それは・・・・・・」


廊下でお会いした折に、と答えると、アルベルトが舌打ちした。


『狸めが・・・・いっぱい食わせおったな・・・・・・』


盟友の軽い笑い声が聞こえてきそうだと思うが、あの状況にならなければ踏み切れなかったのも分かっている。

素直に感謝は出来ないが、鉄拳の制裁は勘弁してやろうか。

一人ごちて、アルベルトは従者の肌を撫でた。


「・・・あ・・・・・・・」


胸の尖りをちろりと舐められ、イワンが小さく声を上げる。

レッド辺りなら執拗に「イイのか」と問い詰めるのだろうが、生憎アルベルトにはそんな不粋な趣味はない。

尖りを含んで軽く吸ってやれば、従者の身体が軽く反る。

随分と感じ易い身体に、アルベルトは唇を歪めた。


「アルベルト様・・・・・っ」


切なげに呼ばれて顔を上げれば、従者が弾む呼吸を抑えて自分を見つめている。


「あ、の・・・・・ご奉仕、致します・・・・・・・」


恥ずかしげに顔を赤らめて言うイワンに、アルベルトは一瞬考え身を退いた。

イワンが後ろ手をついて上半身を起こし、ベッドから降りる。

アルベルトが黙ってベッドに腰掛けると『失礼します』と断ってスラックスのジッパーを下げた。


「・・・・・・・・っ」


堂々たる立派な大きさに、イワンはこくんと唾を飲み込んだ。

恐る恐る唇を寄せ、先端を柔らかく舐め上げる。

雄がぴくりと反応すると、まるで生娘のようにおっかなびっくりと言った様子を示した。

同じものが付いているだろうと言いたくなるが、これはこれで中々面白い。

好きにさせていると、従者はぎゅっと目をつぶって亀頭を口に含んだ。

観察していると、顔を真っ赤にしてそれを喉の奥まで招き入れる。

口内で優しく揉み、溢れる唾液と先走りを飲み下す。

必死になって奉仕するその姿勢が可愛らしくて、アルベルトは従者の頬を軽く撫でた。

息苦しさに潤んだ瞳が見上げてくる。

その姿に軽く反応する。

従者は突然硬さを増したそれに驚き口から出したが、力強くそそり立つのを目にすると、そっと浮いた血管に舌を這わせた。


「ん・・・・ふ・・・・・・・・」


ちゅっちゅっと音を立てて舐める。

はしたないが、悪くない振る舞いだ。

必死になって高めようとする姿勢が好ましい。

とは言え。

男に奉仕するなど今迄に経験が無いイワンの手管では、アルベルトを達かせる事は難しい・・・というか無理だ。

若い時分に遊び倒した男が軽く堪えればやり過ごせる波。

イワンの顎はもう怠く、舌も疲れていた。

だが熱くぬるんだ口内での愛撫をやめはしない。

息苦しさに潤んだ目、赤らんだまなじり。

大きな鼻には汗の玉が浮いている。


「もうよい」

「ぷはっ、はっ、は・・・・・・・・」


唇を離し、酸素にありつく。

口から溢れ伝う唾液を手の甲で拭いながら、媚びの無い、だが十分な可愛らしさの上目遣いで謝った。


「あの・・・・申し訳ありません・・・・・・・」

「・・・・悦くなかった訳ではない」

「しかし・・・・・・」


しょぼくれた犬のように体を縮めている従者を片手で軽々とベッドに引き上げ、アルベルトはその身体に覆いかぶさった。

盟友が残した痕を一瞥し、その上からきつく痕を付け直す。

唇を離して赤い花弁を眺めていると、白い指がその痕に触れた。

恥じらうような、喜んでいるような。

それが不思議で「何が嬉しい」と問い掛けてみる。

イワンははっとしたように指を離し、鼻先まで真っ赤にして答えた。


「あ、あの・・・・・アルベルト様の所有物(もの)の印のようで、その・・・・嬉しくて・・・・・」

「・・・・ふん」


健気な答えに、アルベルトは唇を笑ませて鼻を鳴らした。


「形が欲しいなら何時でも付け直してやるわ」

「!」


イワンの顔が益々火照る。

そのうち湯気が出そうだ。

アルベルトは従者のベルトに手を掛ける。

柔らかなベッドに沈んだ上半身を慌てて起こそうとするのを強引に押し止め、スラックスの中に手を入れた。

緩く立ち上がっている雄をついとなぞり、戯れにしては少しばかり下世話な事を問う。


「男根を咥えて感じたのか」

「っ・・・・・・・」


顔を赤らめて涙ぐんだ従者を面白そうに眺め、アルベルトは指先で撫でていた雄を握り込んだ。

イワンの身体がびくっと跳ね、その手がスラックスの上から主の手を抑える。


「アルベルト様・・・・・!」

「手を離せ、イワン」


名を呼ぶと、瞳がうるりと濡れる。

そしてゆっくりと手を離した。

アルベルトはそれに満足気に目を細め、手にした雄をゆっくりと扱き始めた。

イワンは小さく身体を跳ねさせて、自分の腕に噛み付いた。

アルベルトがそれを咎める。


「・・・・何故声を殺す」


イワンは声を震わせながら顔を歪めた。


「私の声では・・・・興醒めですから・・・・・・」

「それはワシが決める事だ」


声を出せ。

アルベルトの命令に、イワンは戸惑いながらも素直に噛んでいた腕を離した。

途端責めがキツくなり、イワンの口から甘い声が上がる。


「あっ、あ、あ!」


男にしては高めの声が耳を擽る。

アルベルトは手の中の雄を扱きながら、従者の鼻先を軽く噛んだ。

従者の身体が強張り、堪えるように息を詰める。


「くふ・・・・っく、ぅ・・・・・」

「構わん、達け」


主の声と耳に掛かる吐息に、イワンは命令に従うように吐精した。

後を引く悦楽にひくひくと震える身体。

忙しない呼吸に上下する胸に口づけ、従者の脚からスラックスを抜く。

抵抗はなかったが隠そうとするのをねめつけてやめさせ、アルベルトは白濁に濡れた指を清楚に窄まった後孔に這わせた。

イワンの身体がびくんと跳ねる。


「ん・・・・っく・・・・・・」


ゆっくりと差し込めば、うねり絡み付くように蠢く内壁。

入り口はヒクヒク収縮し、従者の口から小さく苦痛を堪える声が漏れる。

まずは中指一本でゆっくりと慣らす。

固い入り口を揉み、熱い内壁を探り。

こりこりした筋を見つけて転がすと、イワンの身体がビクンと跳ねた。


「ぁっ、くぅ・・・・・」


犬が鼻を鳴らして甘えるような声。

従者の雄は、直接的な刺激を与えていないにも関わらず固く勃ち上がっていた。

指を増やしてさらに筋を弄れば、組み敷いた身体が逃げを打つ。


「あっ、や、やぁ・・・・・!」


無意識にであろう、嫌がるように身を捩るのは、男として当然の反応か。

だがアルベルトは従者を押さえつけると、三本目の指を挿れた。

開かされた脚が強ばる。

それをするりと撫で、アルベルトは指をそれぞればらばらに動かして中を柔らかく広げた。

くちゅ、ぬちゅ、と粘着質な音が立ち、思わずイワンは腕で顔を覆った。


「あっあ、は、あ」

「顔を見せろ」


喘ぐイワンが、嫌々と首を振る。


「だ、だらしない顔を・・・・っ、して、おりますので・・・・・どうか、お許しくだ、さ」

「ならん」


力の入らぬ腕を外させると、今にも雫を落としそうに潤んだ目。

意地悪く笑うと、従者はぱっと頬を染め、後孔は激しく収縮した。

ゆっくりと指を引き出す。

スーツを脱ぎ捨てる姿、現れたその逞しい裸体。

男臭い色気滴る姿に思わず見惚れる。

アルベルトは邪魔な衣服を全てベッドの下に追いやり、再び従者に乗り上げた。

白い脚を折らせ、高まった男根を押し当てる。

その熱さにぎくりと強張った従者の身体を抱き締め、頬を撫でてやる。

鼻先を擽る葉巻の香りに、イワンはゆっくりと力を抜いた。

この方になら何をされても構わない。

従者が落ち着いたのを見て取り、アルベルトは腰を進めた。

激しい肉壁の抵抗に遭う。


「あっ、あぐっ」


イワンが痛みから逃れようと逃げを打つ。

あがる悲鳴さえ痛々しく、アルベルトは慰めるように従者の唇を吸った。

震える舌に舌を絡ませ、擦り上げる。

イワンの身体が軽く跳ねた。

角度を変え、何度もついばむ。

激しい口づけについて行けず、従者の身体からくたんと力が抜ける。

くったりした身体を固定し、また腰を進めた。

立派な雄に苦しがる従者は、抵抗しない。


「アルベルト様・・・・っ」


根元まで収めて深く繋がると、イワンの瞳から涙が零れた。

それを唇で拭い、ゆるゆると腰を動かす。

ねっとりと包まれる感覚が心地よい。

従者は従者で中を抉られるのが悦いらしく、甘く擽ったい声を出している。


「ぁっ、あ、は・・・・・・」


ぢゅ、ぢゅく、と卑猥な水音を立て、太い男根が狭い孔を突き上げる。

段々と柔らかくなる内壁が絡みつき、心地よい。

アルベルトの男根も中で反り返り、イワンの官能を刺激する。

アルベルトはシーツを掴んで震えている従者の手を取り、自分の背に回させた。


「いけません・・・・背中に傷が・・・・・」

「構わん」


躊躇う従者の身体を支え、柳腰に腰を打ち付ける。

甲高い、だが決して耳障りでない声を上げ、イワンは精を迸らせた。


「あ、あぁ、ぁ」


背中に爪が食い込むのを感じる。

男根から精子を絞る様に蠢く肉管。

吐精の衝撃に激しく収縮を繰り返す後孔にもう二突き突き入れ、快楽の波に身を任せる。

たっぷりと流し込まれる精液。


「ぁ・・・・・」


腹の中に吐きだされていく熱い粘液に、身体がびくついた。

頬を少し乾いた指が撫でる。

見上げた主は熱を孕んだ瞳をしていて。

イワンはこくんと喉を鳴らし、主の手に手を重ねた。


「どうぞ、お気の済むまで為さって下さい・・・・・・」


アルベルトは従者を見つめた。

初めて男を受け入れ相当に苦しい筈だ。

健気で愛らしい、従者兼恋人。

甘そうに色づいた唇に唇を寄せる。

必要とされる喜びを感じながら、イワンは主の手に身を委ねた。





「イーワーンー君!」

次の日はとても起き上がれたものではなかったので有給を取り、その次の日に廊下を歩いていたイワンははっとして振り返った。


「セルバンテス様、あの、先日は・・・・・・」


真っ青になって謝ろうとするイワン。

セルバンテスは「あ、いいよ」の一言であっさり許し、イワンの柳腰に手を回して引き寄せた。

白い耳に唇を寄せる。


「君の御主人様はアレを見てどうしたのかなぁ?」

「あ、あの、その」


シドロモドロになって顔を赤らめたイワンを見れば言わずもがなだ。

セルバンテスは自分の働きっぷりに心の中で親指を立て、ふと視線を上げた。

視線の先には『御主人様』。

何やら機嫌が悪そうだ。

イワンの腰を引き寄せ耳打ちするのが気に入らなかったのかと思い至り、思わず笑いそうになる。


「ほら、イワン君顔上げて」

「?」


未だ仄かに赤い頬に口づける。

呆然とする可愛い人の頬を撫で、歩き出す。

盟友の脇を擦り抜ける。


「やっと捕まえたんだから、離さない事だね」


悪戯っぽく微笑うと、盟友はふんと鼻を鳴らして葉巻の薫り高い煙を吐き出した。


「・・・・言われんでも分かっている」


余計な手出しはするな。

言外に言われ、セルバンテスははいはいと肩をすくめた。


「末長くお幸せにね」





***後書***

衝撃主従の絆は半端なかった。中呉の正念場夫婦っぷりとはまた違う。

GR野郎率高い。キャラ性は今の漫画に勝る。流石は横光先生。

話が暗いシリアスなのが意外。ニコ動のMADからの入門をお勧め。

イワンさん…ハゲ+鷲鼻+33歳+メカニック。いつもスーツのフル装備。階級B、メカ扱いは超一流。

崩れ去った故郷の瓦礫の中でアル様と出会い=彼の生甲斐はアル様に尽くす事=アルイワは外せない(証明終)