【 御主人様のお気に召すまま-005 】



「イワン」

「はい、レッド様」

廊下で声をかけられ、イワンは振り返った。

何でしょうかと軽く首を傾げると、レッドが妙に楽しそうににやにやしている。

嫌な予感がした。


「あの・・・・・っ!」


突き飛ばされて背をしたたか壁に打つ。

前回アルベルトに言われたように逃げ出そうとするが、すぐに捕獲された。

こんな時に限って周りに人は居ない。

前回よりはまともな抵抗をしてくるイワンにレッドは至極ご機嫌だ。


「あっ」


悪い意味で器用な指が、イワンのベルトのバックルを外す。

ボタンとジッパーも外すと、手をイワンの後ろに回した。

強張った体を抱くと首にイワンの頬が当たる。

レッドは手に忍ばせていた小さな楕円球を指に持ち直した。


「!」


濡れてもいない物体が入り口を引きつらせながら入ってくる。

痛みにイワンの吐息が震えるのが分かった。


「ゃ・・・・・・・・・」

「何だ、こんな事でも感じるのか」


嘲笑うように言ってやれば、イワンがきゅっと唇を噛む。

異物を噛まされただけにしては随分と膝が震えているのが、彼の敏感さを表していた。


「何を・・・・・・・・・」

「何だ、お貴族様な旦那はこんな物も使わんのか?」


ヴヴヴ・・・・・・・


「っあ?!」


レッドの右手の中の小さくシンプルなリモコン。

それを操作するたびイワンの身体が小さく跳ねる。


「おやめくださぃっ、レッド、様・・・・・・!」

「くく、随分色気が出たな。来い」

「っ」

「衝撃のに告げ口するぞ」


その一言にイワンの顔が青ざめた。

とぼとぼとレッドの後を付いていく。

着いたのはサロン。

逃げ出そうとしたがレッドに襟首捕まれ放り込まれた。


「おい衝撃の。貴様の従者は躾が悪いな・・・・・・イワン、いつまで床に這いつくばっている」

「はい・・・・・・申し訳ありません・・・・・・・・」


俯いていたイワンが潤んだ目でレッドを見上げる。

頬が紅潮していて随分と・・・・・・・・・


「今日のイワン君何だか色っぽいねぇ」


セルバンテスが言うと、イワンは小さく「そんな事は・・・・・」と言った。

だが今の彼は本当に色っぽかった。

官能を理性で抑えつけている分、見えない色香が漂うのだ。


「また何かしたのか」


ヒィッツがレッドを見やると、レッドは「さぁな」と言って唇を歪めた。

イワンはふらふらと立ち上がってレッドの横を抜けドアを目指したのだが・・・・・・・


「何の為に此処に来たと思っている」

「っ」


レッドに腕を引かれてまた倒れる。

無意識にか、身を守るように右手が左肩を掴んでいた。


「申し訳ございません・・・・・」


甘く擦れた声が耳を擽る。

膝を着いて軽く息を弾ませる姿は何処か禁欲的で男を煽った。


「いいの?イワン君レッドに遊ばれてるよ?」

「知らん」


どうやらイワンが言い付けを守れずレッドに捕まったのが気に入らないらしい。

イワンは泣きたい気持ちでいっぱいだったが、堪えて立ち上がった。

その耳にレッドが小さく囁く。


「あと20分もったらそれを取ってやろう。別に衝撃のに取ってもらってもいいがな?はしたない姿を見せたくはあるまい?」


それが甘言であると見抜けぬままに、イワンは小さく頷いた。

それからの時間はイワンの精神を疲弊させるに十分なものだった。

不安や恐怖が入り交じり、身体は益々鋭敏になる。

だがイワンはとうとうそれを堪え通した。

機嫌を損ねている主を悲しそうに見てから俯いて、イワンはレッドに引きずられてサロンを後にした。





「ふ・・・・・・・・っ」

「・・・・・・・・貴様本当に良い歳の男なのか?」

ベッドに転がした途端、堰を切って泣き出してしまったイワンに、レッドは溜息を吐いた。

いくら何でもこんなに子供じみた仕草でしゃくりあげるイワンに手を出す気にはならない。

頬を伝う小さな雫は彼の内面同様純情可憐で、手を出すに出せない。

レッドは溜息を吐きながら舌先でそれを舐めた。


「甘・・・・・・・・・・・」


感情の起伏により桃の果実のように色付いた頬を、レッドの赤い蛭にも似た舌が這う。


「レッド様・・・・・・・・」


熱を含んだ瞳が悲しい色を湛えて見つめてくる。

レッドは頭をガリガリ掻いてイワンの鼻に噛み付いた。


「・・・・・・・・・取ってやる。脱がせるからな」


煌々とした日の差し込む部屋の寝台で下半身を晒し、イワンは袖で顔を覆った。


「んんっ・・・・・・・・」


唾液のぬめりを借りた指が入ってくる。

アルベルトの指より些か細い指に違和感が募った。


「ひっ、く・・・・・・・・・・」

「少し我慢しろ」

「あ・・・・・っ!」


ぐり、と指を曲げられ、イワンが痛がる。

白い脚に慰めるように口づけると、イワンの脚がひくついた。


「・・・・・・っアルベルト様・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・やれやれ」


ここまでくると何だか苦笑してしまう。

イワンの一途な気持ちに毒気を抜かれてしまうのだ。


「指先に集中しろ」

「っん・・・・・・・・・」


レッドの指が管をなぞり拡げるのに続いて、硬く無機質な感触が降りてくる。

目を硬く閉じて身を震わせるイワン。

詰められた息は異物の除去によって再開された。


「は・・・・・・・・・」

「貴様はどこの生娘だ。衝撃のとどんな情交を行っているのか甚だ疑問だ」

「あ、の・・・・・・」

「よって」


私が色々教えてやろう。

・・・・・・・・・・矢張りレッドはレッド。

それ以上でも以下でもない。

イワンの色の無い泣き顔は見逃せても、泣いた跡の残る顔は欲情を誘う。

上がスーツで下が諸肌と言うのは中々視覚を刺激するものだ。

局部がワイシャツの裾で隠れているのも良い。

思わず捲りたくなる。


「さて早速・・・・・・・・・」


レッドの手が伸びる。

と。


「はいそこまで」

「・・・・・・・・・・・何の用だ、幻惑の」


開いた出窓に座っているセルバンテスに、レッドは気分を害したようだった。

だが直ぐにイワンに向き直り、行為を続けようとする。

彼にとって人目の有る無しはそれほど問題ではないようだ。


「帰れ。私は忙しい」

「私だって忙しいさ。でも親友の奥さんが誑かされるのを見過ごすのは難しいな」


にこやかだが目は笑っていない。

睨み合う二人に、イワンの瞳が揺れた。


「・・・・・・アルベルト様・・・・・・・・」


ぽつりと零した名には万感の想いが籠められていて。

切なく苦しい慕情はどこまでも無償。

見返りは要らない恋心。

レッドが詰まらなそうに鼻を鳴らした。


「ふん。興が醒めた。勝手に持っていけ」

「そりゃよかった」


シーツごとイワンを奪回し、セルバンテスは部屋を出た。


「少し休んだほうが良い」


反論はなかった。

セルバンテスの言葉と共に投げられた視線で、イワンの意識は深い眠りに落ちていたから。





「・・・・・・・・・ん・・・・・・・・」

小さく呻いて寝返りを打ったイワンを見やりながら、アルベルトは葉巻の煙で肺を満たした。

イワンを届けてきたセルバンテスの言うには、またレッドにちょっかいを掛けられたらしい。

内容は至極下賤で、呆れる。

だがB級エージェントの彼が十傑衆屈指の身体能力を誇るレッドに適うはずが無いのは当たり前といえば当たり前だ。

だがイワンはアルベルトの庇護を必要とする程甘えてはいない。

否、その位は甘えではなく自己防衛に必要なのだが、彼はよしとはしないだろう。


「・・・・・・・・・」


すっかり皺になったスーツに、弛んだネクタイ。

横向きで軽く丸まった身体の下半身は諸肌だ。

セルバンテス曰く「目の保養だから暫く見ていたらどうだい?」との事。

呆れついでに殴ってやったが、スラックスを穿かせていないところを見ると、アルベルトも少し乗り気らしい。

白く瑞々しく、体毛の薄い脚。

爪も綺麗に切り揃えられていて好ましい。

ソファから立って傍に寄ってみた。

イワンの目蓋が震える。


「・・・・・・・ん」


もぞりと起き上がって眠そうに目を擦るイワン。

未だ完全に覚醒してはいないらしい。

アヒル座りで身を起こすと、彼は少しぼーっとした瞳を瞬かせながら、アルベルトを見上げた。


「アルベルトさま・・・・?」


小首を傾げ何処か幼い言い方で呼ばれ、アルベルトは思わず目を逸らした。

どうやらワイシャツの裾でチラチラする生足に弱いのはレッドだけではないらしい。


「アルベルト様・・・・・・・」


イワンの瞳がうるりと濡れる。

悲しそうに俯いた頬から涙が落ちる微かな音がした。


「ごめ、なさ・・・・・御免、なさ、い・・・・・・・」


子供のような物言い。

どうやら精神がかなり疲弊しているらしい。


「ぁ・・・・・・・・・」


顎を掬って上向かせる。

小さく開いた口に唇を重ねると、奥で甘く柔らかな舌が震えていた。

絡め取ってゆっくり擦り合わせる。

ざらざらとした舌がぬめりながらの絡み合いは、イワンの中途半端な状態で捨て置かれていた身体を瞬く間に情炎でまいた。


「ん、ん・・・・・・・・」


唇を合わせたまま押し倒すと、イワンの手がアルベルトの胸元に縋る。

唇を離してそっと舌先でイワンの濡れた唇をなぞり、そのまま耳たぶを口に含む。

軽く噛むと、組み敷いた身体が僅かに腰を捩った。


「ぁ・・・・・っ・・・・・・・・・・・・」


小さな喘ぎは艶に濡れている。

いつもストイックな印象を受ける彼がこんなに艶めかしい事は殆ど誰も知らない。

たがを外した姿も見てみたいと思うが、それは今度だ。

首筋を甘く噛みながら、アルベルトはイワンの太腿に手を這わせた。

ワイシャツの裾に染みを作っているそれをゆっくりと扱くと、イワンの腰が跳ねる。


「あっ、ゃ・・・・・・んっ」


高い声が耳を刺激する。

サイドテーブルのオイルを指に絡ませて、意識が危ういイワンの最奥を探る。

指を差し入れるといつもより少しだけ柔らかかった。


「は・・・・ん・・・・・・・」


レッドの指とは違う主の指に、イワンの肉管がわななき絡み付く。

アルベルトの眉間に皺が寄った。

ぐいと指を入れると、イワンが甘い悲鳴を上げた。


「アル、ベルト様・・・・・ぁ・・・・・・・・!」


反射的に呼ぶのが己の名である事を確認する。

指を抜き取ってズボンのジッパーを下げ、アルベルトは自身を取り出した。

ぐいと押し当てると、オイルで滑りやすくなっている入り口がひくつくのが分かった。

本人の貞淑な性格とは裏腹に淫らな身体は、その落差が男を楽しませる。


「ぁあ・・・・・っ!」


ズズッと音を立てて入ってくる征服者に、イワンのまなじりが赤らむ。

1センチ毎に締め付けてくるような名器に口端を小さく歪め、アルベルトはゆっくりと律動を開始した。


「あっ、あ、は、ぁ」


ぬぢゅぬぢゅと音を立てる結合部。

イワンは主のスーツは掴まずにシーツに縋っているため、腰がいつもより高く上がって苦しかった。

律動の度身体がずり上がっていく。


「っあ・・・・・ぁ・・・・・・!」

「・・・・・・・・・っ」


中に吐き出された熱いものが糸を引きながら伝い落ちるのが分かる。

イワンのワイシャツは白地の上に自身の白い粘液を留め、派手に汚れていた。

その禁欲と淫猥が混じった姿がまたアルベルトの欲望を煽る。


「・・・・・・・・・」


くたりと弛緩したイワンの顔を見ると、達した余韻に浸る恍惚とした表情。

勝手に身体をまさぐっても擦れた喘ぎと身体的反応は返ってくる。

自分の意外な若さにシニカルに笑って、アルベルトはまた、イワンに溺れる事にした。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「バカだな」

「煩い」

次の日。

もはや何の捻りも言い訳もない顔でぶすくれているレッドに、ヒィッツが呆れた顔をした。

「私はイワンに手を出してアルベルトの制裁を受けました」の印と皆が言うパンダ痣をこさえているのである。


「大体・・・・・・・・・・」


早口でアルベルトの悪口を言い始めたレッドに溜息を吐き、ヒィッツはソファの肘掛にもたれた。


「イワンも罪作りだな・・・・・・・」


面倒そうに言いながら、ヒィッツは小さく笑った。

斯く言うヒィッツも、あの実直な青年が気に入っているのだから。





***後書***

一年ぶりかにゃ?

舞い戻ってしまうGRアルイワ。

殺人犯が現場に戻る様に私はたまに昔の小説の続きを書いたりしてしまう。。。