【 御主人様のお気に召すまま-006 】



十傑衆各人に今後の大まかな任務予定が渡される。

大きな作戦や長期任務、長期休暇の予定だ。

先も言った通りこれは十傑衆の予定であり、イワンは除外される。

彼はB級エージェントの予定にアルベルトの従者としての仕事が重なるだけだ。

一応従者としての仕事が先になり任務は手心が加えられている。

アルベルトの任務に同行して機械系を扱ったりするのだ。

余談だが彼は車やバイクからヘリまで動かせるし意外と飛ばし屋である。

・・・・・さて。そうは言ってもどうしても、という場合が存在する。

孔明から紙を手渡されたイワンは目を丸くした。


「残月様と任務・・・・・・ですか?」


思わず孔明の顔を見てしまう。

孔明は溜息を吐き吐き頷いた。


「貴男は囮。ターゲットの好みの毛色がBF団で貴男だけなのですよ」


毛色。

一般にそう言われると容姿の事を指す。

だがイワンはそう見目麗しいという訳ではない。


「はぁ?容姿云々だったらそこのカルバン・クライン馬鹿でもいいだろう」

「馬鹿とは何だ」


ヒィッツがぱちんと指を鳴らす。

レッドの予定表が二つに切れた。


「毛色が、と言ったはずですが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


流石にハゲとは言わなかったが、言う寸前の空気が漂う。

が、レッドはあぁ、と頷いた。


「銀か」

「左様」


頷いた孔明に、訝しげな視線が集う。

レッドはにやにやして人差し指を下に向けた。


「誰も髪とは言ってない」

「「!」」


イワンは下を向いて唇を噛んでいた。

耳が酷く熱かった。


「あー・・・・・それは・・・・・・・・」

「仕方がない・・・・か」


白髪が下の毛に混じり始める人もいるが、イワンの陰毛は生まれた頃から美しい銀色の直毛なのだ。

エージェントは容姿や能力を細かに調べられて任務に当てられる。

故にイワンもちゃんと書類を提出していたのだが、まさかこんな・・・・・・・


「ターゲットの好みは細身の白人男性であり、アンダーヘアが白や銀色であると異常な執着を見せるのです」

「ただの変態だな」

「同感だ」


だが任務は任務。

不機嫌そうな主を申し訳なさそうに見てから、イワンは憂鬱な仕事に目を通した。





DomDom・・・・・

薄暗い照明の中、低音のパーカッションを基調にした音楽が鼓膜を震わす。

ここは人間が物として取引される場所。

幼い子が借金の形に、娘が男に売られ・・・・・そんな場所。

残月は『買い手』として既に席に着いている。

イワンは一糸纏わぬ姿で首に首輪、手首に枷、口にはホールギャグを噛ませられて一段高い『商品棚』を歩かされていた。

胸には赤で番号、青で『Used』の文字。

大人の男で此処に来ると大抵解体されて臓器を売られるのがおちだが、彼の何処か禁欲的なのに色っぽい様子に何人かが食い付いた。


「・・・・・・流石衝撃ののお気に入り、か」


残月は小さく口元を笑ませて最高値を叩きつける。

そこにケタの違う高額を出した男がいた。

今回のターゲットである。


「・・・・・・・終了!では次の・・・・・」


次の商品が歩いてくるのに目もくれず去っていく男が足を向けるは商品受け取り所。


「・・・・・・・あまり無理はしないよう言っておいたのだが」


いつもの煙管でなく細身のシガレットに火を点けながら、残月は僅かに目を細めた。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

男に連れられて歩くイワンは一言も喋らなかった。

残月が行動を起こすまで飽きられる訳にはいかないので、諸々小出しにしていく様にと言われている。

男は上機嫌であり、イワンの肩を抱いていた。


「君は美しい」


囁かれても嬉しくない。

イワンは憂いを含んだ瞳を男に向け、直ぐに外した。

それが男の欲を煽ると知りながら。


「大丈夫だ。悪いようにはしない・・・・・・・・」


触れる手が気持ち悪い。

上辺の笑みに悪寒が走る。

イワンの右手が無意識に左肩へ回り、身を守るように自身を抱いた。


(組んだのが残月様でよかった・・・・・・)


彼ならきちんと時間通りに来てくれるだろう。

それまでの時間を思いながらイワンは誰にも気付かれないように小さく、溜息を吐くのだった。





「・・・・・・・・・・・・・」

深緑の薄い天蓋が掛かったベッドに、イワンは横たわっていた。

服は与えられなかったが、代わりに拘束具もない。

大きな窓は開け放たれて、直に差し込む月明かりの愛撫に身を委ねる。

白い肌は青白く輝き、銀の毛並みが煌めいていた。


「・・・・・・・・・・・・・・」


どうせ監視はされているのだ。

イワンはそれに気付かないような振る舞いをしながら、シーツの海を泳いでいた。

一生縁が無いと思っていた色系の仕事に、イワンは些か疲れていた。

この四日睡眠は浅く、四六時中監視の目に気を配っている。

男は一日数回顔を出して、イワンを眺めたりキスしたりだった。

その視線が舐めるように『毛色』を見るたび吐き気がしたが、顔には出さずにただ黙っている。


(頃合いか・・・・・・)


そろそろ出し惜しみしていた声を出してもいい頃だ。

余り煮詰まられて暴挙に出られても困る。

イワンは小さく、遠く懐かしい故郷の街の名を口にした。

寄せる感傷に表情が曇り、唇がわずかに開閉する。

身体を反転させて冷たいシーツに頬をつけていると、ドアが軽くノックされた。


「入っても良いかな」


この男はこうやって疑問形で話を締めて、イワンの言葉を待つ。

今もドアは開けておいて靴はきっちり廊下を踏んでいる。

イワンは身も起こさずに男に視線を向けた。

男の喉が鳴る。


(・・・・・何に欲情するんだか)


考えてみる気にもなれなくて、イワンはまた懐かしい街の名を唇に乗せた。


「・・・・・・綺麗な発音だ」


男がベッドに腰掛ける。

イワンは黙ってゆっくりと瞬きをした。

気怠げなその表情が、どんなに男を煽りつけるか彼は知らない。


「淋しい?」


頬を指が這う。

首筋を甘く噛まれたが、その気持ち悪さにイワンの膝が軽く曲がった。


「あぁ・・・・・・・矢張り君は美しい・・・・・・・・・・・」


男の手がアンダーヘアを撫でる。

イワンは突飛ばしそうになるのをぐっと堪えて顔を背けていた。

が。


「!」


男の舌が胸の尖りに触れる。

急性に身体を求められ、イワンは焦った。


(たかが街の名を口にしただけで・・・・・・)


何が人を刺激するかは分からない。

イワンは対応を考えながら控えめに抵抗した。

本当は力一杯暴れたかったが、それでは残月にまで迷惑を掛けてしまう。

残月は明日この屋敷に忍び込んでくる手筈になっている。

男を殺してイワンを連れだしてしまえば、疑いは数日前に購入したペット・・・・・・つまりイワンにかかる。

が、非合法なペットなので表立って騒げないと言うわけだ。

だが先も言った様に残月が来るのは明日である。

男の舌は胸の尖りを刺激している。

もう『その気』らしい。


(まずい)


腕力では適うまい。

この男は右手が特殊義手で、握力も力も半端ではないのだ。


(っ・・・・・・・・・!)


一瞬脳裏にアルベルトの顔が浮かんだが、イワンは直ぐにそれを振り払った。

仕事に私情を挟むべきではない。


(堪えろ)


噛み締めた奥歯が嫌な音を立てた。

その時。


「・・・・・魅力も善し悪しだな」


頬に温かな血飛末が飛ぶ。

男は声もなく絶命していた。

温かい血がイワンの肌に落ちる。


「残月様・・・・・・」

「大丈夫か?」


監視カメラは既に針の餌食になっており意味を為さない。

優しい声音に安心感を覚えた。


「やれやれ・・・・・・早めに来てよかった」

「申し訳ありません・・・・・」


残月から渡されたスラックスを穿いて、ワイシャツを羽織る。

釦をとめながら、二人は屋敷を後にした。





「・・・・あの・・・・・・?」

「黙っていろ」

帰還して早々、アルベルトに呼び出され、イワンは主の部屋に来ていた。

アルベルトはイワンの服を脱がせて彼を眺めている。

所在無げに立ち尽くして、イワンは目を泳がせた。

主が下衆な戯れで己を見ている訳では無いことは分かっている。

アルベルトは観察しているのだ。

今まで気付かなかった『毛色』を。


「生まれつきか」

「あ・・・・・はい」


素直に頷くと、アルベルトは顎をしゃくってイワンをベッドに上げた。

イワンはおとなしくしていたが、アルベルトを見つめる視線は恥ずかしげに逸らされてしまった。

アルベルトは喉の奥でくっと笑い、イワンの腰に手を這わせた。

薄い皮膚に包まれた腰骨を軽く引っ掻くと、イワンの身体がひくりと跳ねる。


「・・・・・・・・・・・」

「アルベルト様っ」


アンダーヘアを梳かれて、イワンが驚く。

アルベルトは銀糸を撫でながらイワンの雄に軽く触れた。


「・・・・・・・・・!」


イワンの身体が強ばる。

優しく揉みこまれて吐息が震えた。


「あ・・・・・っ・・・・・・・・・」


イワンは非常に感じやすい。


弱いところを心得たアルベルトに触れられれば尚更だ。

目がうるうる濡れて眇められる。

息を弾ませ脚を強ばらせて耐える姿は男を燃えさせる。


「あ・・・・ぁ・・・・・・っ」

「達け」

「んんっ・・・・・・・!」


アルベルトの手の中に、イワンの快楽の証が残る。

どろりとしたそれをイワンの最奥に塗り付けると、イワンの指がシーツに食い込んだ。


「ふ・・・・ぁ・・・・・・・」


中を掻き混ぜると、入口が強く締まる。

微かな水音を立てながら慣らしていると、イワンが震える声で主を呼んだ。


「もう・・・・・・・」


ねだるなど彼らしくない。

悪くないが訝しんでいると、イワンがそっと身体をずらした。

・・・・・・・どうやらアルベルトの昂ぶったものが当たっていたらしい。

どんなに切羽詰まっていても主を優先する姿勢は嬉しいが・・・・・・・思わず苦笑してしまう。

アルベルトはスーツを脱いでイワンに覆いかぶさった。

細めの足首を掴んで脚を折らせ、昂ぶりを押しつける。

ぐっと身を割ると、イワンが切なく鳴いた。


「く・・・・・ん・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


奥まで収めてしまうと、イワンが落ち着くまで待つ。

呼吸が整ってきたのを見計らって勢いよく引き摺りだすと、イワンの目から涙が散った。


「あ・・・・・・・!」


何度も突き上げて声を楽しむ。

首筋に歯を立てて甘い味を楽しむ。

己の下でくねる白い肌を楽しむ・・・・・・・・

それらが万が一無くても男を狂わせるに十分な締め付けに、アルベルトはぐいと深くを突いて熱を吐き出した。

既にイワンは揺さ振られながら一度達していた。

白濁を溢しながら揺れているそれは中に出された熱に反応して新たな白濁を溢れさせる。

アルベルトはイワンの震える喉に唇を寄せてついばむと、小さく笑った。





「髪は何色だった?」

イワンが報告書を提出すると、残月はPC画面を見た儘に問いかけた。

イワンは首を傾げて答える。


「髪・・・・ですか?」

「あぁ、いや」


下が見事な色だったのでな。

続いた言葉に面食らうイワンを面白げに見やって、残月は笑みを浮かべた。

しどろもどろのイワンは矢張り可愛い。

年上と分かっていてもついつい忘れてしまう。


「あ、あの」

「まさか水色やら桃色ではあるまい?」


暫くイワンをからかう事で、残月は任務の疲れを癒すのだった。





***後書***

イワンの胸に『Used』と書いたのは既にお手付きだからです。

「男を知っている」体は隠しようがない、って事で。

だからこそ生まれる色気もあるし(黙れ)