【 御主人様のお気に召すまま-007 】
「教えなさいよ!」
「・・・・どうだっていいだろう・・・・・・」
腕を掴んだまま食い下がる娘は意外と愛らしい顔立ちをしている。
これで中身がもう少しお淑やかだったらとイワンはしばしば思うのだが。
生憎彼女はお転婆どころの騒ぎではないトラブルメーカー。
今もイワンに齧り付いて首筋の・・・・所謂『キスマーク』の相手を問い質している。
「あんたにこんな甲斐性あるなんて信じられないわ。どこの女を手籠めにしたのよ!」
「煩いな・・・・・・・」
書類を整理しながらイワンは溜息を吐いた。
何でこう女というのは歳に関係なく色恋沙汰が好きなのか。
イワンは別に自分の気持ちを恥じてはいない。
だが如何に悪の秘密結社と言えども世間体は存在する。
団内でアルベルトの悪い噂が立つのがイワンは嫌だったのだ。
「・・・・兎に角お前には関係ない」
「あっ、この間ウエディングドレス着てたのって」
「少し黙らないか・・・・・」
疲れた声の端が擦れている。
ローザはぶぅと頬を膨らませた。
「何よ。もったいつけちゃって」
「・・・・・・・・・・」
黙っているイワンにローザは唇を尖らせた。
が、直ぐに悪戯を思いついて機嫌が直る。
イワンが上手く引っ掛かればもっと機嫌は上昇するだろう。
「イワン」
「何・・・・・・・むぐ」
口に押し込まれた甘い欠片。
「それ舐めてる間は黙っててあげる」
「・・・・・・・・?」
彼女の意図するところは分からなかったが、飴を舐めている間は黙っているという。
イワンは苦笑して口の中の飴を転がした。
「・・・・・・・・・?」
書類を提出して自室に戻り次の書類整理をしていると、何故か妙に喉の渇きを覚えた。
グラスに水を汲んで一気に呷る。
「は・・・・・・・・・・」
渇きは癒えない。
鼓膜に心音が響いて煩い。
身体が熱い。
「ぁ・・・・・・・・・」
上着を脱ぐと、ワイシャツを胸の尖りが押し上げていた。
「っん・・・・・・・・」
触れると腰にじんと響く。
元々イワンは精神面がストイックに出来ているため、余り自慰行為をしない。
しても正に「処理」と言った感じで事務的だ。
それが目元を染めて胸の尖りを弄る姿は酷く淫猥だった。
「は、ぁ・・・・・・」
頭のどこか冷静な部分が警鐘を鳴らす。
だがもう止められなかった。
座り込んで尖りを転がす。
「ん・・・・・・・・・・」
指先に心地よいそれを押し潰すたび、軽く腰が浮いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
イワンの手がベストのバックルを外す。
スラックスの中に手を突っ込むと、昂ぶったものは既に濡れていた。
「く・・・・・・・・・・」
ぬめる指先でなぞると息が詰まる。
何度も鈴口を指先で刺激していると、透明な蜜が新たに湧いてきた。
舌先で舐めると甘く苦い味がした。
「ん・・・・・・・・・・」
くちゅくちゅと幹を扱くと、身体が小さく跳ねる。
イキそうなのに、イけない。
それが意味するところに思い至り、イワンは恥ずかしそうに俯いた。
「・・・・・・・・・・」
スラックスをもう少し下ろし、手を突っ込む。
指を最奥に這わせると、そこは物欲しげにひくひく蠢いていた。
「アルベルト様・・・・・・・・・・」
切なげな声で主を呼んで、イワンは濡れた指先をそっと差し込んだ。
痛い。
片目を眇めて我慢し、奥を探る。
「は・・・・・・・・・」
柔らかであたたかい感触が自分の腹の中であることに嫌悪感を覚えながら、イワンは快感に流された。
筋をクイと押すと、背に電流の様なものが走る。
「っん、く・・・・・・・・」
くちゅりと音を立てて抜き差しをすると、肉襞は慄きながら絡み付いてくる。
「あ・・・・・っ・・・・・・!」
イワンの身体が大きく跳ねる。
引き出した手は白濁に濡れていた。
「ん・・・・・は・・・・・・・・・・」
もはや正気など一片も残さずに崩れてしまった。
イワンの意識はもう虚ろで、本能が意識を支配する。
「アル、ベル、ト、様」
甘く呼ぶイワンの中にはもう主の姿はなかった。
追い求める虚像の名を呼び、イワンはまた快楽を追った。
「あれ?イワン君いないの?」
サロンに盟友の姿を認め、セルバンテスは首を傾げた。
アルベルトは黙って本のページを捲っている。
その背後には。
「お久し振りです、セルバンテス様!」
嬉しそうにアルベルトに紅茶を煎れるローザ。
何でも師匠であるアルベルトに会いに来たらしい。
「やあローザ。久し振りだね」
セルバンテスは相変わらず元気な娘に小さく笑ってソファに座った。
差し出された紅茶を受け取る。
柔らかな香りが広がった。
「これ何の茶葉だい?」
「イングリッシュブレックファーストですが・・・・・・?」
不思議そうに返されて、セルバンテスは苦笑した。
案の定アルベルトのカップは一口分しか減っていない。
不味くはないが、一番好む味ではないからだ。
「ローザ、一度イワン君に教えて貰うと良い」
悪戯っぽく笑って言ったセルバンテスに、ローザは目をぱちくりさせていたが、ややあってにまっと悪い笑みを浮かべた。
「イワンは忙しいんです。今日発見したんですけど・・・・何と首筋にキスマーク!あのイワンが、ですよ?」
「あぁ・・・・・」
そう言えばイワンは主との関係をひた隠しにしているらしい。
ひけらかして虎の衣を借る狐のように振る舞うことも簡単なのに、彼は絶対にそんなことはしない。
「んー・・・・・彼も色々あるからねぇ」
「今頃はお楽しみ中です」
「?」
「S-hell使ってみました」
セルバンテスはちらりとアルベルトに視線を移した。
S-hell・・・・・綴りは『貝』を表し、貝のようにガードの堅い女でも・・・・・・という媚薬だ。
また区切られた『hell』は文字通り地獄。
即ち快楽の地獄に叩き落とされるわけだ。
相手が居れば問題はない。
だがイワンがアルベルトを裏切るとは考えられなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぱたん、と本を閉じてアルベルトが立ち上がる。
セルバンテスは苦笑して溜息を吐いた。
「ローザ、ちょっと耳を貸して」
「は、ぁんんっ」
責め苦のような快楽に、イワンはいつになく素直に声をあげた。
いっそ苦しい程の快楽になぶられて涙が落ちる。
ワイシャツは汗に濡れて透け、スラックスの中は放ったものでどろどろに湿っていた。
「ふ・・・・・・ぁ・・・・・・・・・・」
差し込んだ指を締め付ける最奥はもう三本も指をくわえてまだもの欲しそうだった。
熱い息を吐いて、イワンはまた雄に手を伸ばしたのだが・・・・・・・
こんこん
ノックにイワンの肩が跳ねる。
「イワン」
そんなに落ち着いた声で呼ばないで欲しかった。
焦がれた主なのに、この姿を見られる事が唯恐ろしくて返事が出来ない。
後退して壁に背を付け、自分の身体を掻き抱いて、イワンは身体を丸めた。
どうかそのまま立ち去ってほしい。
だが願いは虚しく破れ、ドアノブが嫌な音を立てた。
小さく丸まって蹲るイワンの耳に、あたたかな手が触れる。
「辛いのか」
聞かれて、イワンは顔を膝に埋めたまま身を震わせた。
「・・・・・・来い」
「ぁ」
アルベルトがイワンの腕を取る。
反射で立ち上がったイワンだったが、すぐに膝が崩れる。
アルベルトは咎めずに、イワンを抱き上げてベッドに下ろした。
唇をついばまれ、思わず薄く開ける。
ぬるりと舌が入ってきて、イワンの舌を絡め取る。
「ぁ・・・・・・・・・・・・」
上顎を舐められて思わず声が漏れた。
歯列をなぞられる心地好さに、瞼を閉じて口づけに酔う。
いつもならシーツを掴む事が殆どの手は珍しくアルベルトのスーツを掴んでいた。
「ん・・・・・・・」
苦しげな溜息に唇を解放すると、けふっと軽く咳き込む。
だがその濡れた瞳は熱を孕んでアルベルトの唇を見つめている。
物足りなさそうな瞳。
「アルベルト様・・・・・・」
擦れた声で呼ばれてぞくりとする。
喉元を軽く噛みながらワイシャツを脱がせると、妙に赤く色付いた胸の突起が目についた。
イワンを見やる。
彼はその僅かな間さえも苦痛らしく、快楽を追って自分の手で赤い突起に触れた。
「ぁ・・・・・は・・・・・・・・・・」
その顔が淫らな笑みではなく辛そうに眉を寄せているのは彼のストイックな性格故だろう。
アルベルトはイワンの白濁塗れの下腹部を撫でてぬめりを掬うと、脚を上げさせて最奥に触れた。
「・・・・・ふっ」
思わず小さく笑ってしまう。
柔らかくひくついているそこをこの貞淑な従者が自分で解したと思うと中々気分が良い。
いつかは正気でいる時に目の前でさせてみたいものだ。
「ん」
甘い唇を吸いながら、自身を押し当てる。
ぐっと押し入ると、熱くぬめる内壁が絡み付き、入り口がきゅぅとアルベルトを締め付けた。
「ん・・・・・ぁ、はっぁ・・・・・・!」
唇を離すと、互いの間を銀糸が繋いで切れた。
イワンが甘く鳴きながら腰を捩る。
強い突き上げで中を掻き回され擦り上げられる快感は例えようもなく、唯混線した思考回路がショートする。
「ぁあ、あ、ぁぁあっ!」
珍しく我慢せずに声を上げ、イワンは果てた。
腹の中に主の熱いものが吐き出されていくのが分かる。
「ん・・・・・・・・・」
再び胸の突起に手を伸ばすと、その手を取られて深く口づけられる。
「こう乱れたお前も悪くはない」
首筋にちりとした痛みを感じながら、イワンはまた、快楽に溺れた。
「・・・・・うぅ・・・」
次の日。
痛む腰を歯を食い縛って立たせ、イワンは書類の提出に行った。
その途中に待ち受けるは
「・・・・・ローザ?」
「・・・・・・・・・・・・」
ぶすっとして壁にもたれている娘はかなり不服そうだ。
「何で黙ってたのよ」
「?」
「アルベルト様との事!」
「!」
イワンの手から書類が滑り落ちる。
彼は気まずそうに視線を逸らし、辛そうに言った。
「・・・・・・・・誰にも言わないでくれ」
「・・・・・・あんたまさかアルベルト様との事恥じてるの?」
きつい視線で言われて、イワンは力なく笑った。
「そんな訳ないだろう?私は嘲られようと指を差されようと構わない。だが・・・・・・」
「・・・・・あんたって本当に馬鹿」
遮ったローザはイワンを睨んでいたが、ひとつ溜息を吐いて苦笑した。
「あんたの事もう何年も見てるのよ?アルベルト様の事本気なら、胸張っていいじゃない。
あたしの前だけだっていい。泣いて喚いて愚痴って惚気なさいよ。あんた溜め込む質なんだから」
まさかイワンとギャルトークする日が来るとは思わなかったわと笑う彼女は侮蔑も嘲笑も浮かべずにけらけら笑っている。
イワンの心臓にこびり付いていた氷が溶けていく。
「・・・・・・ありがとう」
「お礼言われる事じゃないわ」
綺麗にルージュの引かれた唇を笑みに歪めて、ローザは踵を返した。
イワンは落とした書類を拾って歩き始める。
少し、心が軽かった。
***後書***
ローザとイワンさん。
ローザはアル様の所に弟子入りした時にイワンと出会った設定(my 設定)。
ローザはアル様大好きだけどそれは尊敬、イワンさんはいい友達。
イワンは階級B、ローザはA、だけどプライベートでは二人はためでお話とかしちゃう。
これから恋バナとかしてくれ。