【 御主人様のお気に召すまま-009 】



「あ、あの」

「口を開けろ」

「流し込む気か?やるなら口移しだな」

柄の悪い仮面と見た目マフィアの白スーツに絡まれて、イワンはたじたじと後退った。

今日は定例報告があったのだが、それにはよく任務先から持ち帰った副産物・・・・・即ち土産を持ってくる者がいる。

今回はヒィッツがフランスからマロングラッセ、幽鬼が日本から鰰(はたはた)、怒鬼がロシアから酒を持ってきていた。

マロングラッセはともかく、残りの二つが手に入ったならやることは一つ。

もう呑むしかない。

この発想はレッドのものだが、皆反対はしなかった。

孔明も黙認したので、もはや遮るものはない。

濃度が高い蒸留酒が口に合わない者は勝手に自室から酒を持ち込んで呑んでいる。

普段余り呑まない幽鬼なども、珍しくグラスを傾けていた。

イワンは空いた酒瓶を回収したり、グラスを洗ったりしていたのだが、まだ軽くしか酔っていない様子の不良二人に絡まれてしまったのだ。


「私は仕事が・・・・・・・・」

「私の酒が呑めんのか?」


社会の悪い慣例そのものの台詞を吐いたレッドに、イワンが困った顔をする。

だが逃れられそうに無い事を悟ると、小さく溜息を吐いてグラスを受け取った。

珍しい行動に、皆視線を向ける。


「種類は選んで良いぞ」


レッドの言葉に、イワンはテーブルの上を見た。

見慣れたロシアの酒の数々。

イワンはそれの一つを取った。


「これを頂いてもよろしいでしょうか」


イワンが選んだのは「スピリタス」。

アルコール度数96度の世界最強の酒だ。

ヒィッツがまじまじとイワンを見る。


「・・・・・大した自信だ」

「だがグラスに一杯干すまでは帰さんぞ」


透明だが物凄いアルコール臭を放つ液体が、グラスになみなみと注がれる。

その凶行に驚いて、セルバンテスが止めた。


「ちょ、蒸留酒を割りもしないで普通のグラスに注いでどうするの。吐くに決まって・・・・・・・・」


場がしんと静まる。

イワンが一気にグラスの中身を干してしまったのだ。


「有難うございました」


顔色一つ変えずに微笑むイワン。

元々ロシア出身の彼はこの手の蒸留酒は呑み慣れているからえづいたりしない。

しかも彼は滅多に酔わない笊だった。


「はっはっは!良い呑みっぷりじゃのう!」


カワラザキが笑い、酒瓶が数本浮いた。

レッドは当てが外れてつまらなそうに鼻を鳴らし、イワンはもう酒の補充に走り回っている。

全く問題はないようだ。


「君知ってたかい?」


ウォッカトニックを呑んでいるアルベルトに、セルバンテスが尋ねる。

アルベルトはちらと視線を向けると「知っている」と短く答えた。


「あやつは滅多に酔わん」

「一緒に呑んだの?」

「いや」


戯れにポーカーをやり、負けるたびに酒を飲ませてみたのだという。

アルベルトはポーカーがかなり強いから、きっと相当飲まされたに違いない。


「ふーん・・・・酔わせて・・・・なんて思ってた?」

「馬鹿者が」


呆れたように言う盟友に、セルバンテスが軽く笑った。


「だってイワン君が酔ったところ見てみたいじゃないか。白い肌がピンクになってさ、舌っ足らずな感じで「せるばんてすさま」とか呼んで欲しいなぁ」


絶対可愛いよねぇと言いながら頬杖をつき、セルバンテスはアルベルトに視線を流した。


「君だって見てみたいだろう?」

「・・・・・・・・・・・・・」


じろりと睨まれ、セルバンテスは笑う。


「流石にアルコールを血液中に直接流し込む訳にはいかないけれどね。もっと他にとても楽しくて良い方法があるんだよ?」


どうやら少し酔っているらしい。

いやに楽しげだ。


「粘膜摂取」


囁くように言われて、アルベルトは眉をひそめた。


「酔っ払いが」

「そんなに呑んだつもりはないんだけれどねえ」


言いながらまたグラスに口をつけるセルバンテス。

アルベルトはこの盟友が酔うと始末が悪いことを知っていたため席を立とうとしたのだが。


「まぁたまには酔ってもいいじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・・」


差し出されたのは「スピリタス」。

明らかに挑発だ。

分かってはいたのだが・・・・・・・・・アルベルトは再びソファに掛け直し、黙ってグラスを受け取った。





十傑衆+笊のメカニックという面子で呑んだ結果は惨嘆たるものだった。

中国組は漢方酒まで持ち出して呑んだため悪酔いして三人とも無言。

ヒィッツとレッドは屍よろしく横たわり、怒鬼は血風連に介抱されている。

幽鬼は爆睡中のカワラザキに毛布を掛けているが、足元はガタガタだ。

セルバンテスはケタケタ笑いながらまだ呑んでいる。

アルベルトは流石に頭が痛いらしい。

それもその筈、ペースを崩さないセルバンテスに乗せられて彼より遥かに呑んでいるのだ。


「ご気分が悪いのでしたら薬もございますが・・・・・・・」


唯一平気そうなイワンも何回か捕まりかなり呑まされたはずだ。

だが彼は全く平気らしく、心配そうに主を見つめてよく冷えた炭酸水を差し出した。

只の氷水でないところが気が利いている。

彼は樊瑞や残月、幽鬼にも水や薬を渡し、残骸を片付けている。

アルベルトは軽くこめかみを押さえて炭酸水を口にした。

だがここで忘れてはいけないのは


1酔うと人間はたがが外れる

2アルベルトは酔っている

3アルベルトは負けず嫌いである・・・・・・・


と言う事だ。


「お前は平気なのか」

「はい」


淀みなく答えられて、アルベルトの眉間に皺が出来る。


「来い」

「は?・・・・・・・っ」


強制連行されるイワン。


「イワン君頑張ってね〜」


盟友の手がさり気なく酒瓶を引っ掴んでいったのを楽しげに見やり、セルバンテスはまたグラスに口をつけた。





「アルベルト様っ」

壁に向かって押さえ付けられ、イワンは慌てた。

まだ絶対に酒が抜けていない主は屋敷に帰るまで始終無言であった。

何が悪かったのかは思い当たらないが兎角機嫌を損ねてしまったらしい。

耳をがりりと噛まれる。


「あの・・・・何か粗相を・・・・・・・・・?」


控えめに聞かれて、アルベルトは更に歯を食い込ませた。

手がイワンのベルトに掛かる。


「!」


足元にスラックスがわだかまる。

だが身を捩って振り返ったイワンは主のいやに凶悪な笑顔と、その舌が注ぎ口の縁を這う瓶を見て目を見開いた。


「お止め下さ・・・・・・・・・!」


冷たい瓶が最奥に触れる。

反射で窄まったそこに決して細いとは言えない瓶をねじ込まれ、イワンは壁に爪を立てた。


「ひっ、あ、あ・・・・・・・・・!」


こぽこぽと微かな音を立てて流れ込んでくる酒に、イワンは引きつった悲鳴を上げた。

腹の中が焼けるように痛い。


「ぃっ・・・・・・・」


壁に額を押しつけて耐える。

が。


「っ・・・・・・・・」


急に視界が揺れ、イワンは身体を壁に預ける他無かった。

言わずもがな、血管の張り巡った粘膜からの急激なアルコール摂取により「酔いが回った」のである。

幸い急性アルコール中毒にはならなかったものの、彼は完全に酔っ払っていた。


「ぁる、べるとさ、ま」


呂律の回らない喋りは決して不快ではない。

寧ろもっと聞きたい。


「あるべるとさま・・・・・・・・」

「何だ」


矢張り酒には強いらしく、顔はピンクに色付くにとどまっている。

だがその顔が酷く悲しそうに苦痛の色を浮かべて言った言葉に、アルベルトは動きを止めた。


「アルベルトさま・・・・わたしのことがうとましくなられたのですか・・・・・・・?」


今にも泣きそうな顔で問われて、アルベルトは頭の中が冷静になっていくのを感じた。

イワンは酷く辛そうだった。

当然だ。

突然押さえ付けられてこんな仕打ちを受ければそう考えもするだろう。


「・・・・・イワン」

「・・・・・・・・ん」


顎を掴んで斜め後ろから、熱い息を吐き出している唇を奪う。

イワンは珍しく嫌がるような素振りを見せた。

それを抱き締めたまま何度も口付けを繰り返し、アルベルトはイワンの耳に唇を寄せた。


「嫌いならば傍には置かん」

「あるべるとさまぁ・・・・・」


イワンの目から涙が零れる。

どうやら泣き上戸のようだ。


「ぁ・・・・・・・・・!」


アルコールを含まされて少し腫れた最奥に、アルベルトの指が触れる。

痛むのか、イワンが身を捩った。


「ぃた・・・・・・・・・・・」


指を差し込むと、中は充血しているらしく、熱く腫れてしまっている。

アルベルトが指を動かすたびにイワンの身体が跳ねた。


「いっ、痛ぁ・・・・・・っ」


掻き混ぜるたびに涙を零すイワン。

アルベルトはそれを眺めながら指を動かした。

別にイワンを傷つけたいわけではない。

普段・・・・・・・情事の終盤以外殆ど泣いたりしない彼の泣き顔が余りに愛らしかったからだ。

痛いと訴えるのも無理強いしているような感覚に陥り倒錯的だった。

・・・・まぁ実際無理強いなのだが。

泣き顔を堪能すべくイワンを引っ繰り返して壁に押しつける。


「あっ、る、べるとさ、ま・・・・・・・!」


指の間から酒が滴る。

掴んだのがクランベリーリキュールだった所為で、まるで破瓜した娘のようだった。


「名を呼べども拒みはせんのか」


やけに楽しそうに言われ、イワンはまた目を潤ませた。

頬が紅潮するのは決して酒のせいだけではない。


「痛いと泣く割には楽しんでいるようだな・・・・・・・・」

「っ・・・・・・・・・・」


イワンの最奥がアルベルトの指を締め付ける。

アルベルトはニィと笑って指を引き抜くと、自身を取り出しそこに押しつけた。


「っ!」


イワンが息を詰める。

彼は初めの頃からこの時に息を吐いてアルベルトに痛みを与えないようにしていたから不思議に思ったが、その理由はすぐに分かった。


「酷く扱われるのが好みか?」

「・・・・・・・・・・・・!」


喉の奥で笑った主に、イワンが耳まで真っ赤にして俯く。

彼の右手は自身の雄を覆っており、白い指の間からはもっと白い粘液が糸を引いていた。


「悪くない」


イワンの身体を壁に押しつけて突き上げる。

いつもと角度が違うせいか違和感がある様で、イワンは苦しげに眉をひそめて目を閉じた。


「あっ、は、ぁ、くぅ・・・・・・・・!」


両足が浮いているため心許ないのか、イワンの手指は壁をがりがり引っ掻いている。

アルベルトはその手を己の背に回させた。


「アルベルト様・・・・・・・!」


縋るのは片手だ。

右手は矢張り雄を覆って、アルベルトのスーツを汚さないようにしている。

酔っているくせにそういう事をするから可愛いのだ。


「ひっ・・・・・・・」


ぐり、と中で大きくなった雄に、イワンは怯えたような声を上げる。

アルベルトは熱い肉壁を強く擦り上げた。


「ぁあっ!」


イワンの口から悲鳴が上がり、肉管が強く収縮する。

そのまま奥深くにたっぷりと注ぎ込み、アルベルトはイワンに口づけた。

抱え上げていた身体を足から下ろしてやり、上半身を壁に縫い止める。

長い口づけに濡れた唇を舐めてやると、イワンが少しみじろいだ。

視線を下に向けると、アルベルトの白濁と赤いリキュールが混ざったピンク色の粘液がイワンの脚を伝い落ちているところだった。

ぞくりとくる光景に、アルベルトは一瞬考えた後にイワンを抱き上げた。


「アルベルト様・・・・・・・・?」


きょとんとする従者は酔いがさめるのも早いらしい。

もう既にほぼ正気だ。

アルベルトは自分はまだ酔っている事にして、イワンを自室に攫って行った・・・・・・・・・。





「イワン君〜!」

物凄い勢いで走って来たセルバンテスに、イワンは少しびくっとした。


「どうかなさいましたか?」

「それは私の台詞だよ!」

「?」

「私は酔うと凄く無責任になるんだ・・・・・・・・・」


よくよく聞けばセルバンテスは酔うと無責任かつ後先考えずにものを言うようになる傾向があるらしい。

しかも記憶はしっかり残るのだそうだ。


「アルベルトにとんでもない事吹き込んで君にけしかけちゃったから心配で心配で・・・・・・!」

「あ・・・・余りお気になさらないでください・・・・・・・・」


苦笑いして柔らかく言うイワンに、益々罪悪感が募る。


「イワン君ごめん〜!」


ぎゅうぎゅう抱き締めてくるセルバンテスから解放されるには、暫く掛かりそうだった・・・・・・・・・・・





***後書***

最近セルバンテスがスキンシップ過剰になってきた。

アル様は段々エロオヤジになってきたようだ。

イワンに純情フィルターも著しく効果が・・・・・。

自分で書いた文には萌えない。