【 御主人様のお気に召すまま-101 】



この間利尿剤でひと騒動あったのは記憶に新しい。

流石のアルベルトも懲りた。

暫くは利尿剤は我慢しようと思う。

だが、投薬系の異常性は麻薬の如くでやめられない。

投薬される本人は真剣に遠慮しているが、投薬する方が中毒を起こしているのだ。

だが、利尿剤は今は自重すると決めている。

2週間はやめておこうと思っている。

ならば、何か他のものを。

惚れ薬・・・・既に夢中なのに惚れさせる必要は無い。

媚薬・・・・在り来たりだ、今はいい。

寧ろ不能にしてハメ倒した方が・・・・・それが良いな!

思いついたら即行動、衝撃のアルベルト38歳。

化学班に足を向けた。

化学班の主任はこれが変わり者で、作るのはそういう系統のものばかり。

部下がまともなものを作っている間に、安全性が確立したら自分の試作品を配って歩く様な男だ。

中々変わった薬品が揃っているので、諜報部の女性や恋人とうまくいかない男女には重宝されている。

そこで手に入れたのは『不能薬』。

快感はそのままなのに、全く立たなくなると言う。

立たないものを挿入は出来ないので、フェラチオ検証くらいしか聞いていないと言った主任はとてもイイ笑顔だった。

人懐っこい童顔の癖に、頭の中は爛れている。


「前立腺をガンガン突き上げてみてくださいねっ」


どのくらいで立つのか気になりますし。

結果を教えると言う約束のもとそれを手にし、アルベルトは自室に帰った。

ドアの前に佇む恋人を見つけ、腕時計を見る。

いつの間にかもう9時を過ぎていた。

今日は半日勤務、明日は休みと聞いていたから9時に来いと言っていたのだ。

気配を消して背後から近づき、腕の中に閉じ込める。


「!」

「・・・・シャワーを浴びたのか」

「アルベルト様・・・・・」


一瞬身を竦めたイワンは、声を掛けられて力を少し抜いた。

頬をやや赤らめて頷く。


「調理中に粉をひっくり返してしまったので・・・・」


腕の中の大きめの箱。

頬を指の背で擽りながら何だと問うと、少し不安そうに揺れる瞳。


「タルトを、作ってみたのですが・・・・・」

「?」


料理上手と定評あるのに、やけに不安げな表情。

取り敢えず部屋に引き込んで、ソファに座らせた。

給仕しようとするのを『たまにはよかろう』と押し留め、紅茶を淹れる。

自分好みにしか淹れられないし、従者に比べればやはりややえぐ味が残る。

だが、料理もそう得意でない自分が廊下で冷えた身体を温めてやれるのはこれか体温しかないのだ。


「失敗したのか?」

「い、いいえ。失敗作などお渡しできません」


ふるふる、と首を振って必死に言うのが可愛い。

ならばどうした、と隣に座って茶を飲みつつ問うと、イワンは渡されたカップを持ったまま、少し恥ずかしそうにテーブルの箱を見た。


「レッド様が、お望みになられまして・・・・」


むかっとしたが、黙って茶をすする。

頬を染めて他の男の話をするな。

そう言いたかったが、続く言葉に口元に寄せたカップが止まる。


「到底、お好みで無いとは承知しています。ただ、その・・・・」


初めて作るタイプでしたから、ひとかけでも食べていただけたらと・・・・。

甘い可愛い我儘・・・・いや、我儘と言うには余りにささやかな『お願い』に、アルベルトは思わず溜息をついた。

あぁ、こんな甘えをどれだけ渇望した事か。

焦げ付いた卵焼きを食べろと詰め寄られたって幸せだと思う。

それには到底及ばぬ控えた願いだが、何とも嬉しい。

先の溜息を不愉快と取って泣きそうになっているイワンを抱き寄せ、手を握る。


「貴様が給仕しろ。切り分けるところから、口に入れるまでやれ」

「あ・・・・はい!」


とても嬉しそうに笑って、滲んでいた涙を拭う。

少々どころかとんでもない事でも大概泣かぬのに、自分の機嫌に一喜一憂するのさえ愛しかった。

開けられた箱から覗くのは、フルーツタルト。

果物が多量にあしらわれて、確かに好みではない。

それにこれほど多量に乗せてしまうのなら、切った果物をゼラチンで軽く固めてしまったって同じようなものだ。

不思議に思っていると、イワンが照れたように笑う。


「レッド様が、何処かでご覧になったそうです」


雑誌で見ても到底唯の果物盛りと興味が無かったのが、実物を見て気になられたらしくて。

その時は残念ながら買う時間が無かったそうです。

他の店では余りお気に召さなかったらしく、私に再現をと。


「子供の様な御命令ですが、大真面目でいらっしゃいました」


試作しますからと猶予を頂いておりますが、恐らく良さそうなものが、出来たので。

レッド様とのお約束は明後日ですし・・・・その・・・・・。

頬を真っ赤にして恥じらっている癖に、何でも無いようにタルトを切り分けているのが好ましかった。

強がりも、こんな可愛いものなら歓迎だ。

初めて、は何でも捧げたいと言う気持ちが嬉しい。

タルトがひと切れ乗った皿を持って隣に座った従者にくすりと笑んで、見つめ合う。

もじもじしながらタルトをフォークで切って差し出すから、口を開けた。

そっと押しこまれたタルトは甘さが控えられている。

果物も市場のニーズに応えて糖度ばかりが上がる中、酸味や微細な苦味をきちんと味わえるものを選んだらしい。

舌は確かでも甘いものを好む同僚へ作った『試作品の良さそうなものが出来た』にしては、余りに自分の好みだった。


「あぁ・・・・中々良い」

「有難うございます」


ほっぺたをピンクにして嬉しそうな従者は、尻尾が付いていれば千切れんばかりだろう。

差し出されるタルトを口に入れて噛み砕いて、ゆっくりと嚥下する。

次に差し出されたのはたっぷりのクリーム部分だったが、バニラが利いていてほんの僅かにほろ苦さがある。

舌に乗る甘いそれを味わい、甘みが残る唇で従者に口づけた。

皿のタルトはもう殆ど無い。

箱にはたっぷり残っているが、今はもっと魅力的なこれが味わいたかった。

ソファに押し倒しながら、服を脱がせた。

ワイシャツを床に投げて、スラックスを抜く。

下着も取り上げてしまうと、恥ずかしそうに身を竦めた。

それに口元を笑ませてタイを緩める。

腕が胸ポケットを掠めて微かに音がした。

中を探ると、錠剤が出てくる。

少し考え、イワンに差し出した。


「利尿剤でも、媚薬でも無い」

「・・・・・・・・・はい・・・・」


従者は一瞬躊躇った後、素直にそれを受け取った。

従順さは矢張り健在らしい。

懲りない方ですね!とか怒ってくれるかとちょっとだけ期待していたのだが、まだ駄目らしい。

口に含んで嚥下されていく錠剤。

見届けて、もう一度唇を奪った。

甘い唇をたっぷりと楽しみたい。

舌で中を探って、砂糖の甘さ残る舌で、蜜の様に甘い舌を絡め取る。

軽く引き、吸い出してやった。

口からわずかに覗いた舌を舌先でなぞると、びくっと引っ込んだ。

だが、無意識に求める。

おずおず出てきた舌に、本人は気づいていないのだ。

だから、もう一度なぞられるとまた驚く。

口元が緩んでいると思っているのかもしれないが、違う。

もっと、と、恥ずかしがりの舌が音なく請うているのだ。

唇をしゃぶってやりながら舌を舐めていると、間近の瞳が溶けそうに潤んでいた。

甘い吐息はアップルミントの香りが色濃い。

歯磨きまでしてきたらしい。

ケーキのクリームを作りながら舐めたそのままでなく、自分のもとに来る前に身を繕ったのだ。

砂糖の甘さも、甘い匂いも、綺麗に脱ぎ棄てて。

今その身から香る甘さは、彼自身のもの。

ツンと立った尖りを軽く摘まむと、ぴくんっと身体が跳ねた。

従者は敏感過ぎて、胸に構うと痛がる場合が多い。

優しく優しく舐めて吸うくらいで無いと、指で摘まんだり擦るととても痛がるのだ。

敏感過ぎる身体が何ともいえず好ましい。

中も外も、男に優しくしてもらうとトロトロになってしまうのだ。

尖りから指を離し、ねっとりと舌で包んでやる。

がくがくし始めた腰を下から上に撫で上げてやった。

だが、雄は全く反応せずに項垂れたままだ。

握ってやると、初めてそれに気づいたらしい。

吃驚しているのに笑って、先程の薬が入っていた銀紙を摘まみあげる。

言いたい事は理解しても、主の真意を測りかねているイワンに、もう一度口づける。

くたんとソファに沈んだ身体をさすりながら、左足をソファの背もたれに引っ掛けさせる。

右足は掴んで開かせ、電燈の下で秘所を晒した。

恥ずかしさに涙をほろりと落とし、ぎゅっと目を閉じたイワン。

死にそうな羞恥に身を焼きながら、必死に抵抗を我慢する。

アルベルトはそれに満足感と一抹の苛立ちを感じながら、雄を持ち上げてピンクの窄まりに息を吹きかけた。

イワンの口から小さな悲鳴が漏れ、くにゅくにゅと窄みが蠢く。

焦らすように舌先でつつくと、腰がぎくしゃく跳ね上がる。

袋の裏から蟻の戸渡りを伝ってねとっと舐め下ろし、ひくひくしている孔を擽る。


「ふ、ぁ・・・・」


ぴくくっと引き攣った内腿に頬ずりし、尖らせた舌をねじ入れて行く。


「あぁ・・・ぁ・・・・!」


後孔を舐められる変態的な興奮と、粘膜を舌で弄られる快楽。

無意識に捩られる腰を片手で押さえつけ、ぐちゅぐちゅと舌を抜き差しした。


「ひぁん、んく、ぅ・・・・!」


全く反応しない雄の先端に焼けるような熱さを感じ、イワンは腰を捻った。

もどかしい。

身体の中を熱い濁流が逆流している。

出したいのに、気配すらない。


「ぁ、あ、は・・・・」


ぴくん、ぴくん、と反応している身体を見やり、アルベルトは唾液まみれになっている口元を拭った。

指にも駄目押しに唾液を絡め、差し入れて行く。


「ふぁぁ・・・・」


ずずず、と入っていく男の指を締めつける柔らかい淫らな肉。

毎夜のように可愛がられ、開いたり締める事で鍛えられているそこは弾力も柔軟性も申し分ない。

ひくひく締めてくるのも、甘噛みだ。

男根なら痛みと紙一重・・・・いや、まだこの頑なさではやや痛むかもしれないが、指にとっては抵抗ですらない。

優しく、しかし容赦なく奥を犯してこじ開けると、イワンが小さく舌を出して喘いだ。

可愛い顔で、こんな場所を弄られて快楽に溺れている。

中指を添えて差し入れると腰が強張った。

雄を上げていた手を離して腰を支え、ゆっくりと注挿して慣らす。


「んぁ、は、ぁ・・・・・」


潤んだ目を伏せ気味にして喘ぐイワンのこめかみに伸びあがってキスをして、指を引き抜く。

垂れている雄を持ち上げて、押し当てる。

腰を押し付けるようにすると、指を引き抜いてすぐのそこは、柔らかく飲み込んでいった。

先からぴったりと包まれていく快楽。

揉み引き絞る様に動く肉の管が排泄器官とは信じがたい。

それ専用の・・・・いや、それに特化した器官としか思えぬ淫らな動き。

生唾を飲み込んで急性に犯していくと、イワンは掠れた声で喘いだ。

快感と興奮が高まってうまく出ぬ声。

その官能的な響きに夢中になって、もっと聞きたいと腰を揺する。


「ぁ、ぁは、ぁっっ」


ズグッズグッと突き上げて行くと、肉管が熱く絡んで引き絞ってくる。

絞る様なその動きに、中で勢いよく出した。

濡れてさえいないイワンの雄を柔く揉んでやると、胸に負けぬくらいに痛がった。

初心な身体が可愛くて仕方が無い。

それ以上苛める事はせず、アルベルトは置かれた皿に残っていたタルトを噛み砕いて飲み込んだ。

少しクリームがついていたが、今日は味わえない従者の蜜の代わりには到底なりそうになかった。





***後書***

・・・・何で不能薬を選んだかっていうと、痛がるくらい敏感って言うのを強調したかった(言い訳)