【 御主人様のお気に召すまま-104 】
「痛・・・・・」
物置きの棚の上の物を取ろうとして、顔をしかめる。
昨日変な体勢で事に及ばれたから、身体がちょっと痛い。
元々身体の柔らかいイワンは肩こりなどは殆どないが、流石に筋肉痛くらいは起こす。
肩を動かしてどこがどう痛いのか確認していると、声を掛けられた。
慌てて姿勢を正して振り返ると、笑って楽にと言われてしまった。
柔らかく笑む、年齢を重ねた顔。
なのに、いつ見たって力強い瞳。
「カワラザキ様、如何なさいました?」
「あぁ、お前さんを探しておってな」
「何か・・・・・?」
首を傾げるイワンに、手を振る。
「いや、仕事と言う程の様でもない。ただ、茶に付き合ってもらおうかと思ってな」
「あ・・・・はい、喜んで」
微笑んで頷くイワンを伴って自室に帰り、カワラザキは茶を淹れた。
イワンに座っているよう言い、ゆっくりと茶を淹れる。
イワンは初め手持無沙汰のようだったが、給仕を諦めると部屋を見回した。
調度品は余りないが趣味が良く、やや和風。
箪笥の上に積まれた小さなサイコロ。
隣には、一か所口が欠けた青い丼。
不思議に思っていると、茶と茶菓子を持ったカワラザキが戻ってきた。
「あぁ、あれか」
「ええ・・・・欠けてしまっていますが」
「そう高いものでもないのだがな」
苦笑しながら座って、カワラザキは茶を啜った。
「わしもそう諜報に秀でた方ではない。だが、リーダーを受け負うとどうしてもという場合が多々あってな」
「はい」
相槌を打ったイワンに目をやる。
懐かしげな瞳だった。
「カードもルーレットもイマイチでな。十傑の頃はそれで良かったものが、もっとと言われて困った。
・・・・修練したが、盟友組にもチェスやポーカーは勝てん。が、これだけは昔から負けた事が無くてな」
「サイコロですか?」
「少々ガラの悪い遊びに『ちんちろりん』というものがある」
カワラザキの手に、ふわりと漂う丼とサイコロが乗った。
「こうして」
「?」
ころころ・・・・ちりん
出たのは、5が2つと3が1つ。
「二つ揃った数が自分の手でな。三度振ってゾロが出なければ『しょんべん』で負け。数の多い方が勝ち」
「変わった遊びですね」
「まぁ、のぅ。そしてこうして」
ちろりんちろちろりん
「1,2,3、又は4,5,6の連番で『嵐』となり、これは最強役になる。互いが嵐だった場合は大きいほうの勝ちじゃ」
「・・・・・あの」
「ん?」
説明通りに出る役に、伺う様に見やる。
カワラザキが笑った。
「勿論如何様じゃがな、カードの擦り変えは出来んでもこれは出来る」
大抵のギャンブラーはどんな勝負も受けて立つ。
弱いものに申し込みはしないし、弱い者から申し込まれれば必ずハンデに先行を譲るものだ。
「わしは元々そう負けん気の強い方でも無くてな。終いが良ければ少々泥を被っても構わんと思っておるよ」
「ええ、リーダーとなられる方にはそちらの方が必要だと思います」
イワンの飾り気ない素直な答えに、カワラザキは嬉しそうに目を細めた。
「昔はやれ男気が無いだの情けないだのと言われたが、お役御免にならなかったのが答えじゃからな」
「・・・・・幽鬼様ですか?」
「隠せんのぅ」
肩を揺すって笑って、カワラザキは頷いた。
「あの子はとても気にしていた。皆の心が読めるから、益々躍起になってわしに詰め寄ってな」
カワラザキの瞳に微妙な色が混じる。
何処か、自嘲する様な。
でも、悔いのある目でもない。
「ある日とうとう泣きわめき激高して当たってきてのぅ。わしも確かに若かった。思わず自室を飛び出して、な」
当時の責任者に『もう賭け事絡みの任務は受けん!』と啖呵切ってしまった。
そうしたら、任務が回ってきてな。
「到底一人では手に負えんものじゃった」
「嫌がらせ、ですか?」
「いいや」
カワラザキは何の不満も感慨もなさそうに笑って言った。
「従えんなら死にに行け、と言う事じゃな」
「・・・・・・・っ」
思わず言葉に詰まったイワンの頭を撫でる。
「当時は今よりまだ厳しい時代。十傑と言えど扱いは捨て駒」
仕方がないと覚悟した。
泥を被っても良いとはいえ、流石にその啖呵を訂正する程性根が腐っていたわけでもない。
「じゃが、な」
任務に立つ前に身辺整理をして、少しばかり殺風景な部屋で。
幽鬼にこれからの事をとくとくと説いた。
だが、俯いて頷くばかりでな。
まだへそを曲げているのかと叱ろうとしたのだが。
「感情の起伏乏しくて手を焼いた子供が、初めて泣いてなぁ」
顔をくしゃくしゃにして、涙と鼻で顔を汚して。
「縋りついて、謝ってきた」
爺様、ごめん。おれが悪かったんだ。皆の心を覗いて回って、爺様が大変な思いをしていると知ったんだ。
「人の心を覗くのに怯えていたあの子が、気を奮って噂の真意を確かめ、そして芋蔓式にわしの真意を知り」
それはもう、べそをかいた。
「そうまでされちゃ、皆殺して破壊しつくしてでも・・・・・帰ってやらねばなるまいよ」
悪戯っぽく笑った瞳が優しくて、イワンは心が温かくなるのを感じた。
二人の絆はとても素敵だと思う。
こんこん
「開いておる」
「爺様、この前借りた・・・・・なんだ、イワンが居たのか」
「あっ、直ぐにお暇しますから」
立とうとして走った痛みに、イワンは思わず動きを止めた。
幽鬼が音少なに近寄って、肩に触れる。
「寝違えた・・・・・にしては場所が微妙だな」
肩甲骨のやや下に手を当てる幽鬼。
カワラザキが茶を啜ってにやと笑う。
「おかしな体勢で事に及んだんじゃろうて」
「あぁ・・・・成程な」
頷きあう義理の親子に、イワンは頬を染めて口をぱくぱくさせた。
否定は出来ない。
しても嘘だとばれてしまうし、もっとからかわれるだけだ。
恥ずかしさに耳まで真っ赤にして俯くと、幽鬼に抱きあげられる。
「揉んでやろう」
「えっ・・・・そ、そんなお手数は」
「まぁ、遠慮するもので無い」
カワラザキまで立ちあがって手をぱきぱき言わせている。
押しの強いカワラザキと、暖簾に腕押しの状態で我を通す幽鬼に押し切られてしまう。
「よ、よろしくお願いします・・・・・」
背もたれの倒されたソファにおずおずうつ伏せていく。
背中に大きな手が、脚に少し骨張った手が触れる。
「ん・・・・・」
ぐっと押されて身体が強張った。
ちょっと痛い。
だが、揉み解されていくうちに力が抜けてくる。
体が温まってきて、少し眠い。
いけないと思いつつ、瞼が。
「ん・・・・・・・・・・」
くたっと沈んだ身体に、幽鬼が熱のこもった目を向けた。
カワラザキが苦笑する。
「・・・・・・爺様」
「ん?止めはせんぞ」
小さく喉を鳴らし、幽鬼はイワンの身体を仰向けに返した。
しどけない身体を扱いやすいように押し広げ、白い肌を晒す。
窓から差し込む日光に反射する瑞々しく白い肌。
指を這わせようとすると、カワラザキがくくっと笑う。
「言い訳は、考えておるか」
「・・・・・マッサージ、だろう?」
「ふむ」
「赤くなっているのは炎症かもしれないが、硬いのだから恐らく凝りから来るものだ・・・・・」
言いながら指が捕らえるのは、胸の尖り。
うつ伏せで敷き込まれていた為に少しだけ赤らんだ淡い尖りを、ねっとりと押しつぶす。
「爺様、凝りが酷くなっている」
笑う幽鬼ににやりと笑って頷き、カワラザキは腰を上げた。
幽鬼が反対の尖りを弄るのを見ながら、尖りに息を吹きかける。
「凝りと言うものは、温めるのも効果がある」
チュ・・・・と小さな音を立てて吸いつくと、白い身体がひくんと跳ねた。
だが、思考の沈み具合とどの程度で起きるかを知っている2人は、起こさぬギリギリで戯れた。
スラックスを抜いて、窄まりを晒させ。
じっくりと眺め、息を吹きかける。
「ぁ・・・・・」
甘い呟く様な吐息。
ひくひくと締まるそこを眺めていたが、カワラザキは不意に能力でイワンに服を纏わせた。
幽鬼も立ちあがってしまう。
起きる、と感じたのだ。
「ん・・・・・」
うっすらと開いた瞳に、幽鬼が微笑む。
「少しは良くなったか?」
「え・・・・あっ」
すぐさま置き上がって頭を下げようとするイワンに苦笑し、引き留めて悪かったと言っておく。
一緒に、余り根を詰めると身体を壊すとも。
申し訳なさそうに退室するイワンを見送ると、カワラザキは湯呑を片付けて新しく湯を沸かし始めた。
するとそこからは幽鬼が引き継ぎ、低温の甘くまろやかな茶を淹れる。
茶菓子のおかきをぽりぽりしつつ、サイコロを摘み上げるカワラザキ。
戻ってきた幽鬼に気づき、丼に入れぬまま、箪笥の上に返した。
「・・・・・あの日も、天気は良かった」
「あぁ、そうじゃな」
二人の脳裏を掠めていった、昔の記憶。
遠い遠い。
あの真夏の記憶。
***後書***
シリアスな話にエロやセクハラを突っ込んで台無しにしている気がする。