【 御主人様のお気に召すまま-105 】



「・・・・・・・・暇だ」

「仕事は?」

「そんなもの・・・・と言いたいが、暇に耐えられずにやっていたら」


目下20日先まで片づいてしまった・・・・・。

なら手伝って欲しいが、生憎。


「そうなんだよね・・・・十傑が本気出すとさ・・・・・」


仕事なんて、卵ご飯作るより簡単・・・・・。

普段仕事を溜める癖に、とうとうイワンに本気で怒られたり、暇を持て余してと諸事情で仕事を終わらせた十傑。

差はあれど、あのクソ忙しい樊瑞でさえ2日間する事が無いと言う。

余談だが樊瑞は仕事が来る時に一気に集中する管理職なので、暇な時もままある事はある。

イワンはそんな十傑の耳掻きや爪切りから茶の準備話し相手、更に食事の世話までしている。

その上、仕事を片付けたからご褒美とばかりに甘えさせてくれるのだ。

レッドが空腹を訴えると、特大プリンを3個もくれた。

喜んで食べていただけるのは嬉しいですが、甘味ばかりではといつも言うのに。

セルバンテスが拗ねようとすると、目の前に、18センチタルト型仕様の巨大フロランタン。

もちろん他の十傑にも小さなものがあって、それはセルバンテス専用の、一人占めしていいものだった。

ヒィッツがカフェオレをねだれば、たっぷりミルクを甘味料で無く砂糖で甘くしてくれて。

元々自分で作る味見で砂糖を取り過ぎる傾向の自分にはいつも甘味料で、ちょっと口寂しかったのに。

怒鬼にはその場でおかきを揚げてくれた。

硬く締まった餅を綺麗に割って、低温でじっくり揚げ、高温に通してカリッと。

鍋を二つ使って忙しそうにしながら。

十常寺にはたっぷりのあんまん。

規制薬品のサッカリンを熱望したら、しょうがないお方ですねと笑ってくれた。

サッカリンで異常に甘ったるくなったあんこはこしあん。

なめらかで口が溶解しそうなそれが詰まった白い饅頭が山と積まれた大皿。

カワラザキには葛切りだ。

あの面倒くさい菓子を嫌な顔一つせずに、黒蜜から作ってくれた。

好きなだけ食べてもまだ尽きない。

好物が山ほどあると言うのは安心感を越して非常に気分が豊かだ。

その隣では幽鬼が丼を抱え込んで口をもそもそさせている。

痩せ形は往々にして嗜好が低カロリーだが、幽鬼も例にもれない。

子供の頃好きだったのは『ゼリー』や『寒天』であり、それも果物盛りだくさんなどは敬遠する。

そんな彼にも、イワンはちゃんと菓子を作った。

緑茶のクラッシュゼリー。

ゼリーはそう甘くなく、白蜜がかかった逸品。

たいそう気に召したらしく、丼抱えた彼は飽きもせずにそれを口に運んでいた。

因みに丼は計4つであり、中身が入っているのはあと2つある。

残月にはビスコッティだった。

無言笑顔で洗濯物をねだられたが黙ってスルーしたのだが、彼は切り替えが早いのでなら菓子をと。

何故かホットケーキミックスに拘って、少しでも良いから入れて欲しいと言われた。

考えたが、元々あれは薄力粉などを手軽に焼けるよう配合したもので、扱いは簡単だ。

という事で、応用してビスコッティを作成。

今も喜んでサクサクしている。

煙管をかますに仕舞ってまで齧る程に夢中でいる姿は、年よりまだ幼く見えて微笑ましい。

樊瑞はいい年してさっきからストローをずぞずぞさせている。

延々飲んでいるのはいちご水。

何でも昔山で修行中は甘味などなかったので、野苺の季節にこうやっていちご水を作って皆で分けていたのだと言う。

イワンは樊瑞の補水量に合わせて相当量を量産していた。

勿論、アルベルトの前にはブルードネージュがたっぷり皿に盛られて小さな山を築き上げている。


「とぉっても満たされてるけど、物足りないよ」

「・・・・・あぁ」


続く言葉が分かり切っているアルベルトは、黙って菓子を口に運んだ。

が、思わずごりりと噛みしめた。


「だぁってさぁ!暇で死にそう!こんないっぱいご褒美貰ってセクハラも格好悪いし!」

「そこが問題だ」

「・・・・・貴様らそれを真剣な顔で言う事に疑問は無いのか・・・・」


アルベルトの言葉にさも不思議そうに首を傾げてくる9人。

どうしようもない程に自分の恋人に夢中な奴らだ。

折角の菓子を苦い煙に邪魔されるのが惜しくて葉巻を仕舞っているから、手が癖で口元に泳いだ。


「・・・・・何かしていれば良かろう。本を読むとか誰かとはな」

「よしっ!全員円環組んで整列っ!」

「4秒以内にね!」


抱え込んでいた菓子を一時中断する十傑。

お祭り男とつりあがりが何か始めたら参加しておいた方が良い。

たなぼたが良くある。


「はい、イワン君はここね」


アルベルトのちょうど反対側に押し込まれるイワン。

主と目が合った。


「では、十傑とオロシャのイワン参加で」

「伝言ゲェェム!」


で、伝言ゲーム・・・・・。

懐かしい遊びだが、やるのは揃いも揃った非常識な奴等。

非常に不安だ。


「じゃあイワン君から。語尾は改変ok、内容が最後の人に伝わればいいんだ」

「イワンから初めて、一周。イワンが帰ってきた伝言を発表し、合っているかという遊びだぞ」

「はぁ」


勢いに押されて頷くイワンに、皆一様にやる気を見せている。

無言のアイコンタクトが飛び交った。

しかしそれに気づかないイワンは、ちょっと考えて当たり障りない文をセルバンテスに伝えた。


「明日のおやつは野菜のチップスです。ゴーヤの色が良いですよ」

「うん、分かった!」


イイ笑顔のセルバンテス。

隣のレッドに耳打ちした。


「明日のプレイは野菜のち○ち○です。ゴーヤのいぼが良いですよ!」


レッドは一瞬考え、ふっと笑った。


「任せろ」


隣のヒィッツに、耳打ちする。


「明日もプレイは野菜の●ん●んです。ゴーヤのいぼがキモチイイです」


ヒィッツは片眉をあげ、隣の幽鬼に耳打ちした。


「アクメのプレイは野菜の○ん○んです。ゴーヤのいぼが大好きです」


幽鬼は一瞬その目に暗い欲望を滲ませ、にぃ・・・・と笑った。


「分かった」


隣の樊瑞に、耳打ち。


「アクメなプレイは野菜のち○ち○です。ゴーヤのいぼじゃないといけません」


樊瑞は二度程目を瞬かせ、隣のアルベルトに耳打ちした。


「アクメなプレイは野菜の○ん○んで、ゴーヤのいぼが一番好きです。普通の物に興味はありません」


アルベルトは殺意にも似た目を樊瑞に向けた。

従者に向けない所は進歩だが、伝言がそこまで変化しているようには思えない。

レッドやセルバンテスも真面目に遊んでいるから、聞き違いでちょっと変わったとしても・・・・。


「・・・・明日のプレイは野菜挿入だ。隅々までアスパラでつついてパセリで擽って大根輪切りに出来るまでブチ込んでやるからな」


ゲームを破壊して本音の伝言を伝える38歳。

カワラザキはうむと頷いた。


「明日は皆で野菜挿入じゃ。アスパラでつつきパセリで擽り、大根をおろしに出来るまで責め苛む」


大幅改変の次の人間で人数が変わり輪姦になっている。

十常寺はうむうむと頷き、残月に耳打ちした。


「皆で野菜を持ち寄り、露特工の中に挿入。アスパラで尿道、パセリで肌、大根を根元まで入れ断ち切り、排出を眺む」


残月はるんるんで怒鬼に耳打ちした。


「皆でイワンに異物挿入。尿道、肌も穢し放題だ」


聞いた怒鬼は一度首を傾げ、イワンに耳打ちした。

イワンの顔が仄かに赤らむ。


「み、皆さま・・・・・」


恥じらうイワンに、皆「あれ?」と思った。

自分が聞いた内容と照らし合わせると、どう考えても恥ずかしがりが足りない。


「イワン君、何て帰ってきた?」


セルバンテスの答えに、イワンは恥ずかしそうにほおを染めた。


「【ピー】を○○で×××し、△△で【ピー】と・・・・・」

「・・・・・・・・あれ?」


もう現実離れな変態的プレイ過ぎて、現実味が無い為皆感覚が薄い。

この変な文章で頬を染められるイワンが凄いくらいだ。


「予定狂っちゃったけど・・・・・」


怒られなかったし、イワン君の口からいやらしい言葉聞けたからいっか!

席に戻ってまた菓子を頬張り始める十傑に給仕して、イワンはそっと溜息をついた。

すると、幽鬼と目が合う。


「・・・・ふふ、悪い子だな」

「あっ・・・・・」


正直な人が付いた小さな嘘に微笑む。

伝言がうまく伝わらなかったという事にして、逃がしてあげよう。


「次は、ないぞ?」

「ぅ・・・・はい・・・・」


意地悪く笑う幽鬼。

イワンは彼の隣に座って、その骨張った指から匙を取った。

怒ったかと思うと、ゼリーを掬って口元に差し出され。

秘密にして下さいね、と可愛い困り顔。

甘く可愛い『口止め料』に笑んで、ゼリーを食べる。

殺意の視線を9つほど感じたが。

今は、どうでも良い。

この人から近づいてきた。

だから私が一人占めしているのを、誰も邪魔出来ないのだから。





***後書***

今回のたなぼたは幽鬼。レッドはプリンのスプーン噛んで睨んで拗ねると思います。