【 御主人様のお気に召すまま-107 】
「先日こんな本を買ったんだ」
幻惑の手にあるのは独特の雰囲気醸す表紙の冊子。
エロ小説と思しい。
セルバンテスはページを捲りながら続けた。
「内容はまぁ、痴女ものなんだけど」
冒頭にて処女喪失を天狗のお面でしちゃうんだ。
その言葉に、今迄生返事すら寄越さなかった十傑達が顔を上げる。
セルバンテスはいかにもいい人っぽく笑った。
「イワン君にね、あげてみたんだ」
「また妄想か?」
完全に妄想癖と浣腸マニアのイメージがついている幻惑は、ちちっと指を振った。
「そこだよ。彼が無意識にドキドキするように特注したんだ」
「・・・・・?」
紅茶を口にしていたアルベルトは、次の瞬間盛大にむせた。
「アルベルトが絶好調の状態の反りと角度と太さにしてみたんだっ」
鼻から一筋逆流したのを乱暴に拭い、アルベルトは盟友に噛み付いた。
「馬鹿か貴様は!」
「形は普通の天狗面、何か問題あるの?」
「・・・・この暇人が・・・・」
呆れてソファにもたれると、セルバンテスがサロン常備品のスクリーンを引いた。
映し出されるのは従者の私室。
盗撮カメラをまた最新型に交換したらしく、映像はどこまでも鮮明だ。
イワンは長ソファに転がって面を眺め回している。
ハイネックの上が捲れて、可愛いへそが丸見えだ。
舐め回してやりたくなる。
イワンは俯せに返って、天狗面をまじまじ見つめた。
「これ・・・・どうしたらいいんだろう」
頂いたんだから飾ったほうが・・・・いや、この部屋に置くととんちんかんな感じになるし、お気に召さないかな・・・・。
迷惑な贈り物を真剣にどうしようか考えてしまう実直な優しさ。
それも少し困っているが、嫌そうではない。
「・・・・・セルバンテス様は、お優しい方だから・・・・」
何かをねだるのが不得意な自分に、ねだる必要のないくらい与えてくれる。
前に『代わりにならなくても、淋しさは紛れるから』と頭を撫でてくれた。
部屋が埋もれるほどの薔薇をくれたこともある。
どこかに行くたびに土産をくれる。
淋しいのを埋める事は確かに出来るのだ。
優しいあのひとは、土産と一緒に沢山思い出を話してくれる。
必ず『アルベルトがね』と。
土産のそれを抱いて、主に想いを捧げられるように。
あの人が自分には勿体ないほど心を割いてくれているのは知っている。
きっぱり断ろうとしたら、淋しそうな瞳で、ふざけたように笑っていた。
「片想い中って思わせてほしいんだ」
叶うかもしれないって、甘く浅はかな夢を見せておくれよ。
涙が出そうだった。
黙ってうつむくしか出来なかった。
「・・・・セルバンテス様・・・・」
優しく切なく笑み、イワンは面をテーブルに置いた。
が、もう一度それを見た瞬間、頬がぱっと染まる。
横から見たらもろに似せているそれに、狙い通りドキドキしてしまったらしい。
『キタっ!』と拳握る十傑。
画面の中のイワンは微妙に目を逸らして耳まで赤くしている。
「な、何を考えているんだ・・・・」
はしたない・・・・最低だ。
そう呟いて、ソファの上に体操座りしてしまう。
恥ずかしいくせに、時々目が行ってしまっているのが可愛い。
「せ、セルバンテス様はこういうつもりだったのだろうか・・・・・い、いや、まさか・・・・」
渡される時に囁かれた『君の役に立つと思うんだ』という言葉を思い出す。
面が役に立つというのもおかしな話だと思ったが・・・・。
「そ、そんな恥ずかしい事・・・・・」
自分で自分にい含めている姿が何とも可愛いではないか。
小さな吐息は色が付きそうなほどに甘く、頬も甘そうな色。
「う・・・・・」
そろ、と手が伸びる。
でも、引っ込んだ。
早く手にとってイヤラシイ事始めんかい!と息荒い十傑は画面に釘付けだ。
「ちょ、ちょっと触るくらいなら・・・・・・」
きゅ、と真っ赤な鼻を握る白い指。
僅かに弾む息が余りに奥ゆかしい興奮だった。
「ぁ・・・・・」
無意識に上下にスライドする指。
先の太い部分を包んで擦る様にする。
両手で包み込んで本格的に扱き始めようとして、慌てて手を離した。
ソファの上に小さくなって、顔を真っ赤にする。
「わ、私は何を・・・・・・」
ちっ、正気づいたか。
サロン内に舌打ちがいくつか聞こえたが、イワンはそんな事知る由が無い。
「・・・・・あるべるとさま・・・・・」
手を見詰め、甘い溜息。
手に残る冷たい感触は、それでも太さも反りもそっくりで。
「・・・・・もう、少しだけ・・・・」
もう一度手を伸ばし、触ってみる。
形こそ違うが、太さも反りも完全に一致する。
こくんと喉を鳴らし、イワンはそれを持ち上げた。
そっと目を閉じ、鼻先に口づける。
「・・・・・ん・・・・・」
ピンクの柔らかそうな舌が、天狗面の鼻先を這う。
濡れて行くつるりとした漆塗り。
意地悪な主に自慰を禁じられて10日。
主は毎夜奉仕はさせてくれても、入れてくれない。
指でいかされてばかりで、酷く物足りなかった。
「ぁ・・・・ふ・・・・・」
蕩けた目で面を舐める姿はとてつもなくいやらしい。
嬉しそうに微笑む口元が愛らしさを損なわないために卑猥ですらある。
主の言いつけを破るのはいけないと思いつつ、興奮に飲まれて行く貞淑な人。
夢中で赤棒に舌を這わせ、潤みきった目で情けを請うている。
実際無機物相手なのだが、それがまた何とも色っぽかった。
ソファにうつ伏せて腰だけ上げ、今度は天狗面の鼻の根元まで舐め始める。
上がった腰を滑り落ちて行くジーパン。
引っかかるともどかしげに白い手が押し下げて行った。
乾いた指で窄まった孔をゆっくりと擦り、甘い吐息。
上下に擦ると腰がびくつく。
「んぁ・・・・・は・・・・・っ」
意地悪しないで・・・・・小さく呟かれた言葉にサロン内の熱が一気に上がる。
自分で焦らしプレイをする姿など初めて見た。
意地悪な主の指にされているつもりで弄っているのだ。
「ぁ・・・・っ・・・・・!」
垂れ落ちる蜜を掬った指で、ゆっくりと焦らすように撫でる。
ぶるぶる震える尻。
我慢出来ずに差し込まれる指。
「ひっ、あ・・・・!」
じくじく疼く鈍痛。
涙ぐんで唇を噛み、中を掻き混ぜ始める。
急いた様な動きは、興奮が高まっている証拠だ。
「ぁは、あ・・・・んくっ」
クチュクチュと掻きまわし、軽く抜き差しする。
頬を真っ赤にして舌を覗かせながら耽る姿はとんでもなく淫猥な光景だ。
「ぁん、ぁ、ん・・・・・」
早くなる指の動きと、激しくなっていく水音。
二本で弄っていたが、我慢できなくなったのか、急性に引き抜いた。
ソファの背に縋って座り、宛がう。
「ぁ、や、や、やぁはっ・・・・!」
ず・・・・ずぐぐっ、と入った冷たい感触。
太い先端を含ませた時は身が裂けそうな痛みだったが、根元に行くにつれやや細まって行く形状。
奥を押し広げられる快楽は例えようなく、失禁しそうなほどだった。
喘ぎ喘ぎ腰を揺らし、中をぐりぐり押される快楽に酔う。
「ふぁ、は・・・・・」
右手で面の額を押さえ、左手でソファに縋りつく。
引き抜いていくが、もったりと絡みつく淫肉で上手く引きぬけない。
両手で押さえて何とか腰を上げる。
真空状態の筒から栓を抜く様な強さで絡む肉は、疑似でも構わぬと男根を求めた。
「ぁっ・・・・あっあっ、あっ」
激しく揺れ始めた身体。
その下に鎮座する天狗面。
その赤鼻はピンクに濡れたあたたかい孔の中に飲み込まれ、締めつけられている。
「あっ、あんんっ・・・・」
あるべるとさまぁ・・・・・。
甘ったれた声で名を呼ばれ、身体がかっと熱くなる。
こんな声で呼ばれた事など無い。
いやらしく濡れた甘い声が耳から離れない。
「あぁ・・・・そんな奥に・・・・・」
自分で腰を擦りつけるようにして咥え込みながら、嫌々と首を振る。
きゅうと締めながら、甘く喘ぐ。
「そんな、に、硬くしないで・・・・」
中拡げられたら、出ちゃう・・・・・。
快楽でうまく喋れぬから、甘ったれた子供口調。
普段のきっちりとした時との落差が激しく興奮する。
「あるべるとさまの、硬い・・・・おちんちん・・・・もっと気持ちいのに・・・・」
物足りなさそうに潤む瞳。
「・・・・・・中に、出して欲し、のに・・・・・」
面から離れて唇をなぞる左手の指。
「熱い精液、中に・・・・・」
おなかが破れるくらい、種付けして・・・・・。
本人かと疑う様な卑猥な言動。
だが、彼だって成人した男。
いやらしい事を考えない筈がない。
いつもはストイックな精神構造に押さえられているものが、連日の欲求不満で爆発したのだ。
爆発した、というには到底ささやかな自慰だが。
もっと変態的な行為だって知っている筈だ。
毎夜のように強いられているのだから。
それなのに、選ぶ言葉は中出しを請うだけ。
あまりに、いじらしい。
「・・・・・あるべるとさま・・・・・」
濡れた瞳が伏せられ、面を押さえて引き抜いた。
「アルベルト様じゃなきゃ・・・・いらない・・・・」
甘くいじらしい呟き。
苦笑の十傑がアルベルトの方を見やる。
が、ソファはもぬけの殻。
スピーカーから焦った
『あっ、アルベルト様っ・・・・こ、これは、その・・・・』
という声と、いやらしい言葉責めが開始されるのが聞こえる。
「あーあ、元気だねぇ」
笑う幻惑がわざとだったのか予想外だったのかは。
その目を見れば、分かる事だった。
「あんまり欲求不満な顔で歩かせないで欲しいねぇ」
我慢、できないだろう?
***後書***
物の間違った使用方って興奮するんです。