【 御主人様のお気に召すまま-112 】
雑誌を開いていたレッドが、不意に視線を上げた。
「おい、真空馬鹿」
「そんな男いたか?」
本人に流されたが、レッドは片眉をあげただけだった。
「子供が泣いています、どうしますか」
流されたのを流して強硬に話を進める。
だが、こんなのがいつもの十傑だ。
ヒィッツは詩集から顔も上げなかった。
「指パチの刑」
鬼のような答えだが、この男ならやりかねない。
「大事にしていた笛から音が出なくなりました、何の音が出なくなった?」
「シ♯」
「花束と口紅、あげるならどっち?」
「口紅はこだわりがある可能性があるな。花束」
「コードリール、使う派?」
「使う派」
「寝るときに豆球」
「点けない派」
「蕎麦を啜る音、どう思う?」
「初めて聞いた時は体中の毛が逆立ったが、もう慣れた」
「小さい頃の夢はどちらかと言うと『パイロット』それとも『警察官』?」
「・・・・・パイロット、か?」
「・・・・・・総合18点」
レッドは雑誌のページをめくった。
「貴方は【ドS】タイプ!いじめっ子を苛めるのが大好きな貴方は完全いじめっ子体質!
女の子にはもてるのに本命には全然振り向いてもらえない!お料理が得意で洗濯が下手な貴方!
早く本命を料理しましょう!ラッキー料理は女体盛り!」
らしいぞ。
その言葉に、残月が本から顔も上げずに笑った。
「大体当たっているじゃないか」
「では、白昼のがやってみたらどうだ?」
ヒィッツの言葉に、残月はやっと顔をあげた。
「構わんよ」
レッドが雑誌のページを戻す。
「子供が泣いています、どうしますか」
「良い感じだったら、脱がせる」
「総合146点」
結果が早いが、泣いている子供を脱衣させるような輩はタイプ云々というより単なる変質者である。
「貴方はズバリ【洗濯物ハンター】!脱ぎたての洗濯物についつい手が伸びる!そんな貴方は真性変質者!
変態と罵られても興奮するだけ!薄暗い部屋でぱんつを握り締めているだけで気持ちいい!
靴下で口直ししつつ、枕カバーに大興奮!綺麗な顔して最低な貴方!
地図を描いたシーツを指を咥えて見ているだけでいいの?!ラッキーアクションは箪笥開放!」
良かったな、とレッドに生温かい視線をもらい、残月はふむと頷いた。
「地図シーツか・・・・・・まだコレクションにないな」
いらぬ情報を与えてしまった感があるが、流しておく。
「直系の、どうだ」
怒鬼に声をかけ、幽鬼に視線を向ける。
レッドが寝転がったまま足を組みかえた。
「子供が泣いています、どうしますか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「泣きやむまで見ている、だそうだ」
「世界には埃の匂いのアロマオイルがありますが、ほしい?」
「・・・・・欲しいらししい」
「玄関の匂いが気になる、今すぐ芳香剤を買いに行く?」
「永遠に放置」
「部屋にカメムシ発見!潰す?」
「潰す」
「これ食べられるか不安」
「匂いを嗅ぎまくる」
「総合56点。貴方は【体臭興奮癖】があるようです!匂いフェチが悪化して好きな人をドン引かせる貴方!
黙っていれば美男だけれど、頭の中はおっさん!調合スキルを上げて狙い通りのものを作る努力が大切!
うっかりさんだからトイレに入る時はちり紙を確認してから用を足しましょう!
そして本命のトイレからはちり紙をくすねる事を忘れずに!ラッキー芳香はするめいか!!」
堕ちるところまで落ちた感じがする。
残月といい勝負を張る気もする。
だが、無言と言うだけで相当まともに見える。
「次いくか」
「あっ、私やりたい!!」
手を上げて振っているセルバンテスに、レッドは雑誌に視線を落とした。
「子供が泣いています、どうしますか」
「飴をあげて、話を聞くよ」
「貴方は家庭教師のバイト中。教え子がトイレに行きたそう」
「我慢してくれるよね!!」
「公衆トイレが混んでいる」
「私だったらビルでも買ってそこ使うかな。イワン君だったら黙って見てる」
「便秘だと相談されました」
「今夜が待ち遠しいなぁ!」
「総合、78点。【浣腸オタク】一寸ずるいのはご愛嬌、いい人なのに嗜好が変態まっしぐらな貴方!
優しげなのにワイルドなのを生かして、少し強引に押し倒しましょう!
たっぷりつけたお種をわざわざ浣腸で出させるより、浣腸液を排出するのを阻んでブチ込み強制ファックも良いと思いませんか!
今日のラッキー体位はバックファイヤー!」
一体何の雑誌なのだろうか、すごく不安だ。
バックファイヤーってただの背後位なのに。
第一そんな臨界突破の我慢を強いたら失神しそうだ。
だが、セルバンテスはとてもいい笑顔だった。
「わかってないなぁ、絶叫しながら噴射するのが可愛いのに」
「・・・・・気分が悪くなった」
次。
「子供が泣いています、どうしますか」
「心を読む」
「怯えて逃げました、どうしますか」
「捕獲」
「噛みつかれました、どうし」
「根性叩き直す」
「また泣きだ」
「監禁してやる」
「聞く必要性を感じんが、79点。【ヤンデレ】好きな人を束縛して監禁したい貴方!
監禁は犯罪です、貴方が悪の組織の一員なら止めませんが、根が優しい場合大変後悔しますよ!
とはいえ貴方のようなタイプは往々にしてカリバニズム心中をうきうきで準備するのが常!もうとめますまい!
好きに監禁して凌辱しなさい!壊れたら食べてしまえ!ラッキーな場所は地下室!」
幽鬼のためだけにあるような結果だと思いつつ、ぽてちをつまむレッド。
幽鬼がカワラザキを見やる。
「・・・・・・爺様」
「ん?」
話を聞いていなかったカワラザキは、菊一文字削りだしプラモデルから顔をあげた。
「子供が泣いています、どうしますか」
「理由を聞くのぅ」
「とてつもなく生意気です、どうしますか」
「慣れておるよ。放っておこう」
「迷子だと泣きだしました」
「面倒見てやろうかの」
「親御がえらい色っぽい未亡人でした」
「お近づきになっておくかのぉ」
「・・・・・100点。【ゴッドハンド】仲間内ではかなり普通の嗜好な貴方!でも執拗におっぱいを弄って責めるのが大好きですね!
でも、相手は優しいばかりじゃ物足りないのかも!たまには洗濯ばさみやピンセットでちょっと痛くしてあげて!
泣きそうになったらたっぷり舐めて摘んで、陥落させてあげましょう!まあ、貴方に言う必要もないでしょうが!
ラッキーナンバーは69!」
取り敢えず何の突っ込みのない。
現役夜の魔王に何を言ったって痛い目見るのは自分である。
幽鬼に9個のカップが投げつけられ、蟲に阻まれ落ちて割れた。
次のチャレンジャーは十常寺。
「子供が泣いています」
「黙らせる事」
「犬が歩いています」
「机と椅子以外の4脚は食ってよし」
「肉の塊入手!」
「絶対叉焼」
「33点。【緊縛師】柔らかな肌を荒縄で拘束し食い込む様子にぞくぞくしてしまう貴方は緊縛マスター!
好きな人に飛び掛かり縄で拘束するのをオススメします。緊縛されてもじついていればゴーサイン!
大開脚で縛り上げてザーメン責めにしてあげましょう!きっと悦んでくれるはず!ラッキー縛りは勿論亀甲!」
どんどん診断結果が口悪くなっている。
これはレッドが言うからなのか、そう書いているのか。
「次いくぞ。子供が泣いています」
「む・・・・・頭を撫でてやる」
「子供には『長靴派』それとも『麦藁帽子派』?」
「断然長靴だ」
「満員電車を避けて時間を早める?惰眠をむさぼる?」
「満員電車は苦痛なのか?」
「お嬢さん・・・・・この後なんて続く?」
「良い物を見せてやろう」
「総合42点。【露出狂】見られるのでなく見せる事にこそ意味がある!言い切れる貴方は露出狂に違いありません!
ぼろろんと露出したものはきっと興奮で直ぐにカチカチになるはず!シコシコするより、見せているだけで、た、たまらん!
携帯がよく死んでいる貴方のフォルダには露出しやすい裏路地が網羅されているはず!ラッキー服装はコート生装備!」
痛々しい結果になったが、樊瑞は隣の残月に満員電車の何が苦痛なのか聞いている。
残月は獲物に目移りして大変苦痛だと答えた。
次は、珍しくサロンで休憩している孔明。
「子供が泣いています、どうしますか」
「黙らせます。煩い」
「ケツバットと浣腸、どっちがまし?」
「ケツバット」
「恋人がオイタ」
「尻叩き」
「75点。【スパンキング狂】ヒス体質な貴方!いつも冷静な分切れると大暴走!
尻を出させて叩きまくる姿は完全にイメージ崩壊!
叩いている事、叩かれている様子、二つが合わさって完勃ちですが、前屈みなどならずに尻をシバいてあげましょう!
ラッキー装備は下敷き!」
大変涙を誘う結果が概ね当たっている事が何とも言えない。
孔明はそれについて特にコメントせず、隣を見遣った。
「では、衝撃のアルベルトはどうでしょうね」
「子供は、イワンに任せる」
「では、友人が泣いています」
「イワンに任せる」
「鳴かぬなら?」
「殺してしまえ」
「・・・・・パンがなければ?」
「菓子を食え」
「分かり切っていましたが・・・・【帝王】得意科目は帝王学!俺様気質でやりたい放題の貴方!
ついてくる犬コロを自慢するのもいいですが、ちゃんと首輪をつけて置かないと連れて行かれてしまいますよ!
可愛いわんわんは、ミルクが大好きですね?!可愛いお口でぺろぺろして、ちょっと苦しそうに苦いザーメンをごくん!
たまには焦らさないで、すぐさまブチ込んであげましょう!種付けによがり狂う姿を楽しみましょう!
ラッキープレイはわんわんプレイ!」
最早診断と言うより著者の願望としか言えない。
しかし、ミルク大好きは当たっている。
食堂でよく牛乳を飲んでいるし、それを色々やって噴かせるのが何とも良い暇つぶしだ。
眼福もあって、一石二鳥。
主にセルバンテスとレッドが主犯だが、過去にぱんつを握りしめた残月が通りかかって噴いた事がある。
慌てて腰に手をやって顔を青ざめさせるのがなんとも可愛かった。
きっとあのぱんつはもぎたて、いやスリたてだったのだろう。
「・・・・・・」
「・・・・・・おい」
雑誌を奪われ、レッドがアルベルトを睨む。
アルベルトは立ったまま、レッドに視線を移した。
「子供が泣いている」
「・・・・・ふん、そのうち泣きやむ」
「初デートは『映画館』か『動物園』か」
「・・・・・・動物園」
「今日のチャーハンに、違和感」
「旗がない」
「オムライスには」
「ケチャップで『大統領』」
「・・・・・・・【純愛】最近おとなしい貴方!子供で感情面が拙いためにうまく押せない!
前より好きになってしまったから強く出られない、でも本当はいやらしいことがしたい!
いっぱい気持ち良くしてとろとろにして、可愛い顔でイクのが見たい!願望は限りなく純愛!
きっと相手は貴方に癒されています!うまいことやればタナボタかも!ラッキーカラーは赤!」
次の瞬間粉砕された、雑誌。
「な、何をする!まだ読んでいないのだぞ!」
「黙れ!貴様など逃がした鰻の代わりに松茸を持っていく狐の話でも読んでおけ!!」
「・・・・・私はキツネではないが・・・・・」
「煩いわこの変質者!!」
「・・・・・・せっかく罵ってくれたが、髭の38歳では興奮せんな・・・・」
話に強制突入してきた残月と騒ぎ始めたアルベルトを一瞥し、レッドは今日の朝から独占膝枕中のままに上を見上げた。
「ぷりん」
「はい、どうぞ」
テーブルの上いっぱいのおいしそうなプリン。
差し出された匙を咥えれば、甘い手作りの味。
理由は、イワンしか知らないのだ。
***後書***
残月兄さんは無駄に察しが良くてかなり迷惑です。