【 御主人様のお気に召すまま-115 】



怒鬼は基本的に坊っちゃん気質だ。

物を無くす。

道を覚えられない。

詐欺にあいやすい。

自力で起床したり仕事は問題ないが、悪い意味で坊っちゃんだ。

今日も今日とて幽鬼に詐欺られ、薬を巻き上げられてしまった。

普段レッドが幽鬼を虐めているのを傍観している。

苛めを止めないのも虐めです。

実際、何も考えていない。

薬ほしいの?いいよ。薬品棚も一杯だし。

程度の感覚でしかない。

考えている事は残月から貰ったイワンの靴下が中々良い匂いだったのに薄まってきて悲しいとか、そんな事。

そして、薬を巻き上げた幽鬼は、イワンの部屋に直行していた。

噴射タイプで昏倒させるそれを、出会い頭に噴き付ける。

もんどりうって倒れる体を抱きとめて心を読んだが、倒れる瞬間の頭の中に自分を認識した様子はない。

うきうきしつつ部屋に持って帰り、服を脱がせた。

そして、目隠し。

明るい部屋に裸で、目隠しされているイワン。

ベッドに転がし、首輪を。

これは拘束でなく趣味だ。

繋いでいる、捕まえている、逃げられない、という錯覚が何とも良い感じだ。

さて、準備ができたら歯磨き。

おやつは歯を磨いてから良く味わい、食べ終わっても口をもぐもぐさせるタイプの幽鬼。

先ずは、この柔らかいほっぺた。

べろり、と下から上へ舐めあげる。

堪らない味だ。

甘くて爽やかで、もっと欲しい。

低く笑って、今度は耳。

穴の中まで舌を突っ込んでべろべろ舐めまわし、耳を口に含んでしゃぶる。


「ふ、ふふ、ふふっ・・・・・」


何とも嬉しそうな気の触れた笑いを零し、舐めまわす。

顔中べろべろ舐めた後は、つるんとした頭。

デコから耳の裏、側頭、前頭、後頭部、そして舌先で頭頂をぺろり。

ドロドロにされた首から上は何とも艶めかしくそして異様だ。

腕も甘噛みしつつ舐め下ろし、肘の内側は舌をしつこく往復させる。

指先は一本一本丁寧に吸いつき、爪の間まで舐めた。

胴体は後に回し、次は脚。

脚先から舐め始め、指の間も良く舐めねぶっておく。

味が薄いのに気落ちするが、まだ腋やへそがある。

たっぷり時間を掛けて両足を舐めまわし、膝も十分可愛がり。

脚の付け根に顔を埋めた。

それでも、境しか舐めない。

興奮で溢れる唾液を飲み下し、いったん胸に戻す。

白い部分から徐々に攻める範囲を狭め、薄く色づいた部分を吸った。

瞬間、組敷いた身体が跳ねた。

薬が切れてちょうど覚醒したらしい。


「あ、え、だ、誰だっ!」


答えず、声と気配を殺し、笑む。

そして、舌先だけで尖りをくすぐった。

だが、こんな恐ろしい事態に身体が高まる筈がない。

一気に身体から冷や汗が吹き出してくる。

そのわずかな甘いしょっぱさを楽しみつつ、腹を舐めながら脚を上げさせた。


「ひっ」


べろぉっと萎えた雄の表を先から根元に舐める。

嫌がって腰を振るのを押さえつけ、咥えもせずにぴちゃぴちゃ舐めた。

イワンはがたがた震えながら悲鳴を上げて抵抗している。

脚を大きく開かせ、蟻の戸渡りをれろりと舐めた。


「ひぐっ」


怯えた体に力が入り、目の前の蕾がひくひくしている。

堪らずそこに舌を伸ばせば、恐怖に益々竦んでいく身体。


「や、やだっ、い、いや・・・・・!」


真性異常者に捕まったと思っているイワンは余りの恐怖に呼吸さえ上手く出来ないでいた。

実際確かに異常性癖な男が掴んでいるが、よもや知り合いだとは思っていないらしい。

激しく震えながら怖がるイワンに口元を笑ませ、蕾を舌先でこじ開ける。


「う、ぅく」


甘い体液。

真面目な人は、主である男と情交しても、出勤前に身を清める。

中まで漱いでしまうのは嫌悪でなく、そうしないと次の情交までに体調を崩すから。

綺麗に洗われてしまってやや水っぽいが、それでも興奮は十分だ。

一度顔を離してイワンをうつ伏せに返し、尻を思い切り押し開く。

そして顔を埋めて、舌を奥までねじ込んだ。


「あ、あぐ、あ」


喉が引き攣っているのが聞こえるが、心の中はまだ壊れるまではない。

痛くなってきたのでスラックスを緩めて開放し、だが扱きもせずに目の前の可愛い肉孔を舐め続ける。


「い、いや、いや・・・・・」


荒い息と男の先走りの匂いがする。

尻の穴を舐めまわされているのが分かる。

総合すると、気絶中から今に至るまで、変質者に体中を舐めまわされていて、その男は勃起して興奮している。

あまりに恐怖を感じる状況に、イワンはとうとうパニックを起こした。

今まで良く持ったが、流石に幽鬼には勝てない。

気が狂ったように暴れる。

が、特に何のアクションもなく、凄まじい力で押さえつけて尻の穴を舐めまわしてくる男に、段々気力が萎えてきた。

小さな声で「許して下さい」と繰り返す姿は、半ば気が触れかけだ。

そろそろ限界と悟って、幽鬼は口元を拭った。

件の薬をもうひと噴きして眠らせてしまう。


「ふふ、久しぶりに興奮したな」





「・・・・・と、言う事がありました」

何かを察知した主に捕獲されたイワンは、変質者に捕まって体中舐められたと白状した。

サロンで語られた異常な行為に、皆無言。

口の悪いレッドが軽口叩けぬドン引きだ。


「・・・・・あの、何にもされてないんだよね?」

「・・・・・はい・・・・・」


だから一層怖いのだ。

怒鬼のがっつかなさや孔明の余裕とは違う。

それ自体が既に気持ちいいなんて変質者に他ならない。

何とも気持ち悪いと思いつつ、セルバンテスは口直しに飴を含んだ。

十傑にも配り歩き、イワンには口移ししようとしてアルベルトにシバかれた。

が、幽鬼が机に置いたのに首を傾げる。

そういえば、ここに来た時から口をもごもごさせている。


「幽鬼、何食べてるの?」

「・・・・・・・いわん」


変換が御想像にお任せすぎる。


「・・・・・ちょっとこっちで話ししようか」


ゆらと立ちあがったセルバンテス。

他も同様だ。

カワラザキは放任主義なので我関せずで虎鉄削りだしプラモを作成中。

幽鬼を見もせず、問いかける。


「幽鬼、恩は」

「倍返し」

「恨みは」

「千倍返し」

「良し」


スパルタ教育で育った幽鬼は、変な教えも受けていたらしい。

乱闘を始めたが、充電120パーセントで口に仙人豆を含んでいる幽鬼に敵はない。

八傑おされ気味だ。

こういう事に関して飲み込みの悪いイワンは、一瞬よぎった考えに頭を振った。

そして、疑った自分を恥じた。


「まさかそんな・・・・幽鬼様がそんな事をする筈が・・・・・」


一瞬目が合い、ね、と微笑まれる。

流れ込んでくる自分を信頼しきった心。

流石の幽鬼も、これは堪えた。

八傑が一瞬でアイコンタクトを取る。


「イワン、実は、私が・・・・!」

「はいはい、黙ろうねぇ」


口を塞がれた。

首を振って振りほどく。


「いやだ、言わせてくれ!あんなに信じられたら、信じられたら・・・・!」


心が読めるヤンデレに効果的な純情さと信じる心。

だが、八傑は許さない。

振り込め詐欺に遭いかけのおばあさんのように「後生だ、言わせてくれ!」と叫ぶ幽鬼を黙らせる。


「うあああああああああああああああああ!!!」

「ぃよっし壊れた!」

「ふっ、馬鹿が」

「仕方なし」

「何とも無様な・・・・・」


絶叫して床に倒れて痙攣を始めた幽鬼。

駆け寄るイワン。

そこに、セルバンテスがトドメをさした。


「イワン君、さっきの変質者は幽鬼だよ」


はっはっはー、自業自得!と笑うセルバンテスを、イワンがきっと睨みつけた。


「嘘をおっしゃらないでください!」


凄い剣幕で叱られ、セルバンテスが目をまたたかせる。


「へ・・・・ほ、本当だって、嘘じゃない!」

「信じません!」


イワンは痙攣する幽鬼を抱きしめた。


「今までのは、他愛ない優しいものでした。なのにどうして今日に限ってそんな酷い嘘を」

「・・・・・・・日ごろの行いって事かな」


ぼんやりと呟くセルバンテスの自慢の邪視は遠くの何もない場所を見つめていた。

だが、イワンに庇われる度に幽鬼は追いうちがかかり、既に瀕死だ。


「イワン・・・・・・」


ぱたり。


「あぁっ、幽鬼様!」


完全におちた幽鬼の身体が、イワンの腕からすり抜ける。

ふわふわと回収される先は、カワラザキ。


「やれやれ・・・・・たるんでおるのぅ」


少し叩き直してやるか・・・・・。

目の光が怖すぎて、皆目を逸らす。

が、元リーダーがそんな小細工でどうかなる筈がない。


「全員鍛え直してやるかのぉ・・・・・・」


くっくっくと笑う男は完全にリーダー時代に戻っていた。

10年程度で老いる男ではないのだ。


「明朝5時に日本支部に集合、一週間、合宿じゃ!!」

「ほ、本気か?!」


レッドが慌てて逃げ出そうとし、捕獲された。


「イワン、おさんどんを頼むぞ」

「は、はいっ!」


カワラザキに嬉しそうに頷くイワン。

主が本気で暴れられるのは嬉しいし、十傑の世話だけが出来る一週間。

彼にとって仕事と言う名の有給で、真面目な彼もやはりちょっと嬉しいわけで。

傍から見れば、こんな10人の世話する位なら真面目に働くと言われる仕事だが、彼は嬉しく思っている。


「皆様、頑張ってください」


にこにこするイワンに何も言えず、皆白旗を上げた。


「幻惑のセルバンテス、参加します」

「衝撃のアルベルト、参加する」

「・・・・・マスクザレッド」

「十常寺、参加」

「素晴らしきヒィッツカラルド、参加で」

「白昼の残月、参加しよう」

「混世魔王樊瑞、参加させてもらう」

「・・・・・・・・・・・・・・・(こくこく)」

「では、全員参加じゃの」


傍らの幽鬼を肩に担ぎ直すカワラザキ。

素手で熊と戦う武者修行を繰り返していた腕力は今も健在らしい。


「献立は、何にしようかな」


若妻のようにレシピを考えてうきうきするイワン。

彼は非常に頑丈なため、頭の中から先の変質者の事を完全に追い出してしまった。

それは、日々主に変態プレイを強制されている彼が最近身につけたスキルである・・・・。





***後書***

幽鬼って、べろが長そう。アレも長い設定。もしかしたら、遅漏のけもあるかもしれないと勝手に心配中。