【 御主人様のお気に召すまま-119 】
「皆様反省なさってください!」
久し振りにキレたイワン。
彼の前には十傑が雁首そろえて正座。
もう2時間もお説教を受けている。
きっと相当怒っている。
大人しく怒られていたが、とうとう残月がキレた。
「もっと罵ってくれ・・・・・!」
気持ち悪い。
が、この男はMではない。
殆ど欠点の無い彼は、自分を罵る言葉がそれであると知っているのだ。
「この変態っ」
「ああ、たまらん・・・・・!」
変態と認識され気味悪がられる事に快感を覚える姿は完全な変態だ。
もっとと強請る彼に惜しみなく変態の烙印を押しまくる。
が、あんなに嬉しそうだとちょっと試してみたい。
残月を罵る趣味はないが、イワンに罵られるのは興味があった。
それに、怒り心頭の今なら我を忘れてきっと侮蔑してくれる!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
すーっと目の前に立って顔を覗き込んでくる怒鬼に、イワンの目がつり上がる。
「座りなさい、お座敷犬!」
言ってしまった。
素晴らしい組み合わせだが、これは・・・・・。
怒鬼の足先から頭のてっぺんに向かってざざざっと毛が逆立つ。
彼は満足げに頷き、元のように正座した。
良かったのか。
じ、自分も!
そう思うのは当たり前の大きな子供達。
レッドがイワンを見上げる。
何か言うのもあれだから反抗的に見上げていると、イワンがきっと睨む。
「貴方お幾つでしょうね、レッド様!」
ぴっと身体に走る電流。
うん、キモチイイと言うには弱いが、まぁ悪くはない。
隣の幽鬼に頷くと、幽鬼はじとっとイワンを見上げた。
文句ありげな目に、イワンが眉をひそめる。
「私を舐めるのは結構ですが、おいさめは聞いて頂きます!」
なめる。
気持ちの面でというのは分かっている、分かっているが、舐めていいと言った!
飛びかかろうとする幽鬼を押さえつけるのは、ヒィッツ。
小馬鹿にする様な彼お得意の目で見やれば、イワンがツンとそっぽを向いた。
「馬鹿にして頂いたって結構です。ぶたれようが蹴られようが、言わせて頂きます!」
なんとも良い言葉ではないか。
ぶたれたって構うものかという強気さと、蹴られても言ってやると言う心意気。
堪らないそれに口笛を吹きそうになるのを堪えると、十常寺がイワンを見上げる。
隈取りに隠された動物の様な目に、イワンが冷めた視線を向ける。
「私は、恐怖に縛られません。貴方様の為と信じます」
いや、信じるなら縛らせてくれ。
肌に荒縄を食い込ませたい。
そう言いたかったが、黙って隣に目くばせするにとどめた。
隣のカワラザキが苦笑すると、見つかった。
「何をニヤニヤしておいでです。大方おっぱいのことでも考えているんでしょうっ」
癇癪じみてきたが、可愛いものだ。
それに、当たらずとも遠からず。
イワンの乳の事を考えていたのは一応正解だ。
元リーダーの情けない姿に溜息をついて目を付けられたのは、樊瑞。
イワンが叱りつける。
「露出ばっかりしていると馬鹿になりますよ!」
それは漫画ばっかり読んでいるととか、シコシコしすぎるととか言う話ではなかったろうか。
第一露出狂なんて馬鹿というより変質者だ。
思わず笑ってしまったセルバンテスはもっと怒られた。
「セルバンテス様もですっ!いつもいつも酔うと「浣腸ファックさせて」と迫って!」
「・・・・・・私、そんな事言ったの・・・・?」
うわぁどうしよう、という顔をした盟友に今さらだと言い、アルベルトは葉巻に火を付けた。
が、速攻で取りあげられる。
イワンを睨むと、それはそれは怖い、だがそれでも可愛い顔で叱り飛ばされた。
「人の気持ちを考えてください!」
それは、説教中に葉巻を吸うなという事だったのだが。
アルベルトは口を半開きにしてイワンを見詰めるしか出来なかった。
イワンはそれに気付かずに怒っている。
「いつだってそうです、我儘で自分勝手、気まま、気分屋!」
それは、任務中の勝手をいさめる言葉。
「身体だって、もう少しお考えになれませんか?!」
飲酒や、睡眠の話。
「扱い方をはかりかねられているのは知っています、ですがもう少し優しく出来ませんか?!」
それは、サニーの話。
アルベルト含め、十傑には分かっていた。
話の内容がそれを指すと。
だが、アルベルトの頭の中を回る声は、イワンにしている仕打ちを詰られているようで。
感情が高ぶって泣きだしたイワンを呆然と見つめていた。
分かっているのに、すり替わる。
もう嫌だ、苦しいと泣き叫ぶ恋人。
泣きじゃくるイワンをセルバンテスが軽く抱いてあやす。
それは、単に優しい気持ちだったのだけれど。
アルベルトは、その腕からイワンをひったくった。
盟友がイワンに対して狭容で独占欲が強いと知っているセルバンテスが苦笑する。
が、彼はアルベルトが取った行動に呆然とした。
「嫌になったのか?!そんなに苦しいか?!」
泣きじゃくっているイワンを激しく揺さぶって問い詰め始めたアルベルトは正気で無い。
慌てて止めるが、彼は完全に自失していた。
「手放すものか!そんなに嫌なら今ここで殺してくれる!!!」
咆哮するアルベルトは完全に瞳孔が開いて、気を酷く高ぶらせていた。
暴れてイワンを手に掛けようとするのを、9人がかりで取り押さえる。
本気で暴れるアルベルトは手ごわかったが、何とか昏倒させた。
イワンは突然の事に益々激しく泣いていて、すっかり怯えきっている。
サロンの端に座り込んでびくびくしている姿は余りに可哀想だった。
セルバンテスがゆっくり近づくと、後ずさろうと足を運ぶ。
だが、もう隅に背がついているから身体を丸めるしかない。
「大丈夫、もう、怖い事はないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
イワンは黙って震えていた。
呟きは同じ事を繰り返している。
「あるべるとさま・・・・・」
それは本当に恋なのか。
否、恋なのだろうが、余りに刹那的だ。
狂気がかった愛で縛り合う主従。
手に持って離さず虐待じみた愛を強いる主と、全て捧げて他に何も認識できなくなっている従者。
それは確かに強い、強いが脆い。
だが、二人を引き離す事は出来ない。
引き離せば死んでしまう。
この二人は、二人で一つの生き物だから。
きっと前世で魂が割れてしまったのだ。
半端なそれが二つの肉体に分かれてしまったのだ。
そうでもないと。
こんなに惹かれあって傷つけ合う筈がない。
傷つけ合って、魂を剥き出しにして。
また、ひとつになる為に。
殺し合う。
そんな事にならぬようにと祈るが。
幻惑の邪眼に、未来は残念ながら映らなかった。
***後書***
ギャグから発進して何でこんな話になったか。書いた本人もノリで書いてるから説明できないw