【 ご主人様のお気に召すまま-121 】
部屋に行くと、レッドが植物を引っ張り出していた。
植物というか、乾物。
何か分からなかったが、聞いてみると『ずいき』だと。
複雑な思い出が甦ったが、レッドはまったく普通。
そして。
「食ってみるか?」
全力で遠慮したい。
あんな痒い思いもうしたくない。
死ぬほど苦しかった。
そう思ったのがつい顔に出ていたらしい。
レッドは目を瞬かせ、次いできまり悪そうにした。
「・・・・今のは、他意があったわけではない」
一度やっておいて、何を言うと思うかも知れんが。
ちょっと拗ねたような顔をするから、気になった。
どうやら今回は意地悪をするつもりはなかったらしい。
不思議に思って、何だかそのまま出ていけなくて。
レッドを信じることにして。
お言葉に甘えさせてくださいと言ってみた。
途端機嫌良くなり、座っていろとソファを指さすレッド。
おとなしく座っていると、戻ってきた。
30分ほどせんと戻らん、乾物だからな。
そう言うから、30分間膝枕。
そして、台所に立つのを見送って。
20分ほどで帰ってきた彼の手には、オムレツ。
何か混ぜ込んでいるらしい。
一緒に食べると、変わった歯触りのものが。
乾燥した茄子・・・・のような・・・・・。
ちょっと行儀悪いが引っ張り出して見ていると、レッドが笑う。
「ずいきだ。もともとこれは忍びの携帯食でな」
塩やカロリーは、兵糧丸と呼ばれる味噌玉で摂る。
だが、そればかりでは精神的に不満が募る。
腹を満たす面で使われるのがこのずいきだ。
これは里芋の茎を干したもの。
煮込んで兵糧丸を放り込めばいいみそ汁になる。
レッドの職業に馴染み深い話。
意外だと思いつつ聞く。
「その・・・・そう言う目的で使われるものとは知らなかったです」
「まあそうだろう。それに加味してくのいちを陥落させる性具の役割を担ったからな。そのイメージの方が強かろう」
言いながら、オムレツをもう一口。
「大奥などでもご用達だったらしいが・・・・将軍の子種と言うより間男との逢引を楽しむためだろう」
「・・・・・関係が?」
「ああ」
イワンの手がお留守になっているから、可愛い口にそっとオムレツを押し込んでやると、素直にもぐつく。
「強壮の効果があるとされている。膨張率が上がるとな。根拠がないから何とも言い難い。
まぁ、女の昇天が速くなればそう感じるかも知れんが・・・・巻いて入れればかなりきつい責めだしな」
「はあ・・・・・確かにそうでしょうが・・・・・・」
痛そうだなぁと思っていると、レッドが鼻を鳴らす。
「あんなものに頼るのが間違いだ。拷問の快楽攻めでもないのだから、技術で十分だろう。過ぎれば苦しめるだけだ」
「そうですね・・・・・」
それが万人に向けられる言葉でないと知っている。
レッドの相手をする女は入れ替わり立ち替わり、みな一様によく首を絞められると言う。
締まるからと。
レッドは自分の興味が向かないものを玩具としか認識できないのだ。
確かに、それでもいいからこの美形の忍びに抱かれたいという女たちだ。
レッドはヒィッツのように追いかけて恋愛ゲームをするわけでないのだから。
商売の女性を、殺したって文句が言えぬ程の金で買って。
遊び倒して、放り出す。
それはある意味清々しい遊びだ。
粋とは違うが。
複雑な思いを感じながらオムレツを口にする。
茄子のような芋のような不思議なそれを味わいながらレッドを見ると、彼は些か不服そうだった。
何か不満があったかと首を傾げていると、レッドが呟く。
「・・・・・やはり、卵はおまえのが一番いい」
苦笑して、お皿を寄せるイワン。
レッドにこれは私の分です、と笑って、席を立つ。
袖を折りながら、問いかけ笑った。
「卵をいくつかいただいても?」
「!」
すぐさま頷いたレッドにもう一度笑って、台所へ。
もう大人のレッドにとやかく言う気はない。
彼には相応の能力があるのだから。
ただ黙って、願いを込めて。
甘い甘い、たまごやきを作った。
基本的に主従は大変間が悪い。
主従としては阿吽だが、恋人としては最高に足並みが揃わない。
そして、今日。
イワンがずいきの本来の使用法の話を聞いていた時。
奇しくもアルベルトは話の後半部分の話題をカワラザキから聞いていた。
何故と言われれば偶然そういう話になったとしか言えないが、その上それもお裾分けされてしまった。
つまり、膨張率が上がるかもしれないと言う事と、巻きつけてごりごりやること。
そう言うことを聞いてしまうと、試したくなる。
と言う事で、イワンを呼びつけた。
イワンは話を聞いて複雑そうに苦笑したが、アルベルトの言葉に素直に従った。
服を脱いで、ベッドに上がる。
俯くので顔を上向かせようとしたが、珍しく嫌々をした。
へそを曲げたのかと思って押し倒し、軽く愛撫する。
甘えるように口付け甘やかすように撫でる。
イワンはどこかぼーっとしたままそれを受け入れていた。
扱かれて腰が跳ねるのをシーツをつかんで我慢する。
はっはっと息をつきながら、目を閉じて足を開く。
主が巻きつけていくのが見えた。
その間に自分で解した。
褒美のように口づけられる。
後ろを向かされ、差し入れられるもの。
少し痛かった。
解しが足りないのでなく、引っかかってしまって。
入れたまま動かずにいられ、段々と痒みが出てくる。
そこをごりごりやられ始めては、たまったものでない。
激しい悦楽に思わずもがくと、背中を押さえつけられた。
優しい手つきで、暴れて体を痛めないように。
嬉しいが、やはり少し苦しい。
「あ、ああ、あぐっ、あ、あぅ」
ごりゅっと奥を突かれ、激しく締めてしまった。
痛みの混じった快感を堪えずに放たれたものは、確かに熱い気がして。
充血した粘膜にしみた。
苦しい、痛い、きもちいい。
こんな感覚なら、きっと良い具合に締まっているはず。
もっと気持ち良くなって欲しい。
いっぱいだして、満足するまでして欲しい。
苦しいのを隠して腰を振る。
背後位でよかったと思った。
歪んだ顔を見られないから。
お気に召すように、お気の向くままに、お気の済むように。
本気で一滴の疑いさえなくそう願い、イワンは我慢して腰を揺らした。
だが、アルベルトがそれを見抜けぬはずがない。
思うところは分からずとも、自分に合わせていることはわかるのだ。
そして、今日はそれが何だか悔しかった。
意趣返しに、サイドボードのグラスをとる。
中の水はまだ割と冷えていたから飲み下し、空のグラスを従者の雄にあてがう。
グイと突き上げると、勢いよく精液が噴いた。
グラスに2回分貯めて、従者の口に押し付ける。
イワンはもう意識が霞んでいた。
訳が分からなくなっているのをアルベルトは分かっていなかった。
こくん、こくん、と素直に飲み下すのに驚いていると、とうとう意識が落ちてしまった。
アルベルトはそこそこの満足感とともに男根を引き抜いた。
どろりとしたずいきの粘液とともに、とろとろとこそがれた腸液が溢れてくる。
痒みを考え軽く洗浄したが、目を覚まさない。
そのまま、従者を抱いて眠った。
次の日。
アルベルトはまたしても間の悪いことに、レッドからイワンとの会話を聞いた。
さらに悪い事に、自分はレッドが否定したことをやったのだ。
どれだけイワンが傷ついたのかを考えることすら恐ろしい。
もしや、今度こそ捨てられるかもしれない。
残月に頼まれた書物を持ってサロンに入ってくる姿。
残月にそれを渡して自然に自分の茶のお代わりを淹れようとする。
それを、捕まえた。
腕を掴み、問う。
イワンは十傑の前で語られる赤裸々な情事に恥ずかしがったが、怒りは見せなかった。
いいのです、私は。
どんな扱いでも、嬉しいのです。
アルベルト様が楽しんでいらっしゃれば、それで。
その言葉に歯噛みする。
怒鳴りつけそうになるのを何とかこらえる。
セルバンテスは隣で困ったように笑っていた。
「ワシが楽しければ自分の精液を飲まされてもそうやって笑っていられるのか」
余りの悔しさに奥歯を噛みしめ吐き捨てる。
茶の満たされたカップを取ろうとして、手が宙を切った。
イワンがカップを取り上げたのだ。
だがそれは気を引くために無意識にやったらしく、彼は半ば茫然として復唱した。
「じぶん、の・・・・・・」
「・・・・・・昨日飲ませただろうが」
がちゃん、とカップが落ちる。
イワンはふらふらサロンの隅に行き、蹲ってしまった。
よほどショックだったらしい。
まさか知らなかったとは思っていなかったから歩み寄ると、イワンがますます身を縮めた。
「・・・・・イワン」
痛々しく震える肩。
嫌がっている。
気に召すままにと許容できない嫌悪を示している。
それがとても。
アルベルトの気に召した。
「そんなに嫌なら」
今夜から毎晩飲ませてやる。
そう言った瞬間、後頭部を椅子で殴られた。
「な、何をする!」
「君最低だね!嫌って言ってるでしょ!!」
「だがこうでもせんとこやつは意思表示をせん!」
「ああ、馬鹿だね、本当に馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿男!!」
まくし立て、セルバンテスは非常に冷ややかにアルベルトを見詰めた。
「君曰く『意思表示をしない』イワン君が『嫌』っていうのがどれだけ苦痛を訴えてるか分からないの?」
「・・・・・・・それは・・・・・」
「レッドからあんな話聞いた後じゃ、大概君の事疑うよね。愛どころか、神経をね。拷問じみたセックス強要して、楽しい?」
君、イワン君をどうしたいの?
壊したいの?
遊んでるの?
「遊びだったら私にくれないかな。いくらでも代わりの綺麗なの探してくるから。私はイワン君じゃなきゃ要らないしね」
ほら、万事解決でしょ?
そう言って微笑むセルバンテスは本気で。
だが、レッドが口を挟んだ。
冷たい声だった。
「馬鹿は貴様も変わらん。結局貴様らは我を通しているだけなのだ」
「・・・・・君は違うって?」
最近おとなしいからってしゃしゃり出ないでよ。
殺されたい?
そう言うと、レッドは苦無を弄びながら鼻を鳴らした。
「そんな苦痛に耐えても一緒にいたいと言うのを引き離して閉じ込めておままごとをしたいのか」
「っ・・・・・・・・」
「そうだろう。そいつは苦しくても辛くてもいいから捧げていたいのだ」
それがそやつの精一杯の愛情だ。
口に出せない執着を、捧げることで、身体で引き留めようと。
「それが分らぬ貴様には靡かんだろう。それが分らん衝撃のはそのうちそいつを壊す」
レッドがうっすらと笑った。
「壊れればそいつはどうされたって幸せなのだ。何もわからんのだからな。そうしたら私は躊躇無く攫うぞ。
貴様の側を離れて傷つかないなら、私は愛されずともかまわん。愛して可愛がって、一緒にいる」
一触触発のぴりぴりした空気を、残月の溜息が破る。
紫煙が漂った。
「まあ、分からんでないよ。皆言い分も望みもわかるさ」
若造の私が言うのもなんだがな。
「幻惑に忠言しよう。欲しい衝動に呑まれると理性をなくしてイワンを壊す。慎重になれ。
レッドに助言しよう。壊れたイワンと暮らすなら衝撃からうまく奪うことだ。追ってこられぬようにな。
衝撃のに忠告しよう。あまり安心していると、愛想を尽かされるぞ」
殺してやると脅しても、死んでやると言っても、お気に召すようにと答えられるやもしれぬ。
「その時後悔しても、遅いぞ」
薄く笑う残月の助言は的を得ていた。
そして、この男もイワンを獲りにいっている。
アルベルトは黙ってイワンを抱き上げた。
イワンがしがみついてきた。
皆の仲違いを嫌がる彼にこの言い合いはかなり辛かったのだろう。
震えながら、泣いていた。
でも、これは。
譲れない言い分。
たとえお前とて、遮らせはしない。
皆、お前が愛しいのだ。
皆。
自分が一番愛していると思っているのだ・・・・・。
***後書***
ギャグで落とそうかとか色々考えた結果、皆イワンさんが好きなんだと言う落ちになりました。