【 御主人様のお気に召すまま-123 】



いつも、イワンは我慢している。

それはアルベルトの気に召すままであると同時に、これ以上愛して失ったらという無意識の恐怖からの防衛でもある。

捧げ続け、狂おしい愛を押し殺す。

いつも、アルベルトは待っている。

イワンが望みを口にするのを、甘えるのを、そして愛を告げ愛を乞うのを。

待って待って、待ち切れずにいつも、狂おしい愛の赴くまま傷つけてしまう。

だから、お互い。

甘やかしと甘えのバランスが、必要だ。





「・・・・・・・・・あの」

「今忙しい」

「はあ・・・・・・・」

ギュッと両手を括られて、ベッドに横たわっているイワン。

前の話がすでに危ぶまれる状況下だ。

それとももうキレて折檻の準備なのか。

だが、それにしてはアルベルトは穏やかだ。

イワンが傷ついたり痛みを感じないように確かめつつ、軽く拘束していく。


「今日は、甘やかしてやる」

「あ、あの、そんな」

「ワシがやると言っている」


有無を言わせず言われてはどうしようもない。

思わず頷くと、満足げに頷き返された。


「ん・・・・・・・・」


まず、キス。

甘い口づけは口から順に顔中柔らかに降り注ぎ、とても嬉しい。

くすぐったいし、恥ずかしい、でも、とても幸福感がある。

嬉しくて口元を緩めている従者に、アルベルトも満足感を感じていた。

こうやって愛らしい笑みを浮かべている顔が好きだ。

頬を軽く吸い上げると、擽ったそうにする。

縄が小さく軋むから、身体を痛めぬように軽く押さえつけた。

眦を、眉の終わりを、額を、唇で辿って。

最後に、トレードマークの鷲鼻の鼻頭を軽く甘噛み。

ぴくんと震えて、頬をピンク色にして、嬉しそうな恋人。

気分が良くなって、何度か繰り返した。

そうしながらするすると服を脱がせ、鼻頭をちろりと舐める。

そこでやっと、上の服を乱され下は一糸纏わなくなっていると気づいたらしい。

脚を縮めて隠そうとするから、やんわり掴んだ。

目を合わせ、唇に接吻を。

舌を軽く絡めながら、少しずつ脚を開かせた。

唇が離れた時には完全に御開帳で、イワンの頬が赤らむ。

だが、優しい愛撫に絆されてしまっているせいか、抵抗は少なかった。

やんわり閉じようとする脚を軽く押さえ、首筋に舌を這わせる。

ぞくんと走る微量の電流に身を震わせるのが初心だと思った。

何度繰り返しても慣れ切らない心と、すっかり熟れて甘く芳香する身体。

若い娘のような仕草と、手慣れた玄人の女のような身体。

愛しく思いながら、舌と唇で味わっていく。

甘い肌は舌にすらなめらかで、きめ細かさが際立つ。

ふわりと粟立っても、上等の焼き菓子のように優しいさざめき程度。

なんとも良い体だと思いつつ、何度も唇を落としていく。

胸の尖りを、いびる様にではなく、甘やかすように甘噛み。

やんわり吸い上げると、僅かに震える吐息が吐かれるのが聞こえた。

身体を軽くさすりながら、進める。

さする手つきも、官能を煽るというより宥め透かすような穏やかなものだった。

身体を小さく震わせるイワンも、段々と身を任せ始める。

上半身を愛撫されている間にすっかり油断してしまって、身を預け切っていた。

今度は脚先から可愛がって行く。

足の指も舐めてやりたかったが、そうすれば酷く泣くだろう。

妥協するかと我慢し、くるぶしや膝裏を何度も愛撫する。

柔らかい唇での愛撫と、掴んでいる大きな手の力強い握力。

主の、恋人の、逞しさと強さを感じてしまって、心が震えた。

女でもないのに、でも、恋人が自慢なのは同じで。

気恥ずかしいけれど、とても誇らしかった。

その手で身体を開かれて、唇で愛してもらって。

嬉しくて、ドキドキして。

ぞくりと、する。

いやにおとなしい従者を気にしながら、アルベルトは立って蜜を零す雄を口に入れた。

押さえている腰が跳ねる。


「ん、っ、んっ、く」

「は・・・・我慢する必要もなかろうが・・・・・」


ぢゅる、と舌を使ってしゃぶられ、腰が重く痺れてしまう。

ちゅぶと吸いつかれると、音と主の口の中という背徳感にますます蜜を漏らしてしまった。

駄目だと思うほど、優しい愛撫と促す言葉に甘えて蜜を漏らしてしまう。

でも、そうなると段々もどかしくなってくる。

それは、快楽に対する欲望ではない。


「や、ぃやっ、やだ、や、だ・・・・・!」


突然嫌がり始めたイワンに、咥えたまま目を向ける。

酷く切なげな顔をして、嫌と繰り返す姿。

少し泣いて、甘ったれた泣き声で。

でも、言葉自体は拒絶。

些か腹立たしくなって吸いを強めると、イワンが初めて抵抗した。

身を捩り、腰を引こうとする。

腰を掴んで奥まで吸い込むと、泣きながら仰け反った。


「やぁ、や、や、だ・・・・・・」


強情に嫌と言い張って、射精を我慢する恋人。

意地になってきてますます攻め手を強めると、とうとう激しく泣き出してしまった。


「やだ、や、やだや、だ・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・・・」


溜息をついて顔を上げ、何が気に食わないと問おうとした。

が、泣き濡れた瞳ですがるように見つめられ、泣き事じみた要求をされた。


「アルベルトさまに、触りたいっ・・・・・・・」

「っ・・・・・・」


とうとう言葉遣いもなっていない状態になりながら必死に要求され、思わず息がとまった。

まずい、にやけてしまう。

なんとも可愛いと思いながら柔くキスをし、縄を解く。

イワンは必死に縋りついてきた。

両手でしっかりしがみつき、なめらかな肌を惜しみなくこすりつけてくる。

よくよく考えれば、互いに男なのだ。

自分がイワンを愛撫したいなら、イワンだって自分を愛撫したい欲望があろう。

いつも奉仕に積極的なのも頷ける。

余りに必死に擦り寄られて、やはり我慢できずにやにやしてしまう。

キスしようと顔を上げさせようとしたら、酷く抵抗した。


「や、ぁ・・・・・!」


ひき剥がされるのだと勘違いして、ますますしっかり抱きついてくる。

その上、ひき剥がされぬうちにと首にキスし始める。

愛らしい仕草に機嫌を良くし、軽く抱いてやる。

が、イワンはすっかり意地悪をされるのだと思い込んでしまい、ぎゅうぎゅうしがみつくばかり。

必死に男の肌に接吻を繰り返し、ちゅうちゅうと柔く吸いついてくる。

くすぐったいが、心地よくなくもない。

キスしたくても少しも離れないから出来ないが、不満ではなかった。

柔らかい頬が、胸の辺りに擦りつけられる。


「アルベルト様・・・・・」


うっとりと自分の名前を呟く、やや高めのアルト。

なんとも愛らしいではないか。

キスをさせんか、と柔く叱ると、イワンがそっと顔を上げた。

さっき泣いたせいでまだ潤んでいる瞳。

眦も赤く、鼻頭も少し赤い。

戦慄く薄い色の唇。

キスを繰り返したせいでとろりと濡れたそれに、吸い寄せられるように接吻を。

食んでも甘く柔らかで、しかし飽きの来ない心地の良さ。

ゆっくりと舌を絡めあわせ、愛してやる。

イワンはその優しい感触に酔いながらうっとりと目を閉じていた。

主の昂ぶるものの感触を腰骨の辺りに感じ、そっと握る。

口づけに、低いうめきが混じった。

軽く、リズムをとりながら扱く。

アルベルトは眼を細め、褒めるように少し強く唇を吸った。

そして、イワンのものに手を這わせる。

指に蜜を絡め、扱こうとすると阻まれた。

自分のものを扱いているのとは反対の手が、秘められた蕾に導く。

蜜の絡んだ指を差し入れると、口づけながら呻くのが分かった。

少し指に力を入れて差し入れていくと、イワンが両手で男根を扱き始める。

自分の好みを良く心得た扱きに、腰が引きつる。

それに焦らないように心がけながら、イワンの蕾を柔らかくしていく。

与えられる快楽に、互いに時折手を止めながら、高めあう。

すっかり解れたのを確認して脚を開かせると、イワンの背がベッドに深く沈みこんだ。

軽く口づけ、あてがう。

イワンが息を吐くのをはかって、ぐっと押し込んだ。


「んぅ、ぅ・・・・・ふ、ぅ・・・・・」

「っは・・・・・・・っ」


ず、ず、ず、と寸ずりで入っていく男根は、我慢汁でどろどろに濡れている。

きゅうきゅう締めながら柔らかく呑み込んでいく肉孔は、とろとろに蕩けて絡みついていた。


「は、んっ、く・・・・・・」

「・・・・・・・っ」


しっかりと奥まで填め込んで、腰を密着させる。

そのまま腰を揺らしたいのは山々だったが、考え直してイワンの背を支える。


「縋れそうか」

「は、い・・・・・・・んっ・・・・・」


腕を回す時に軽く締めてしまい、互いに息が詰まる。

だが、胸を合わせて心音を混ぜながら抱きあうのは心地が良かった。

繋がった部分と合わせた肌から伝わる暖かい鼓動。

縋るイワンをしっかり支え、腰を揺らす。


「あ、あっ、あ・・・・・あんっ」

「は・・・・・手を離しても、支えてやるぞ」

「あ、あ、だ、め、そんなの、や、ぁ・・・・・・」


ぎゅうとしがみつくのと同時に引き絞られる肉の管。

とっさに歯を食いしばったが、堪らず迸らせる。


「っ・・・・・・・!」

「あんん、ぅ、く・・・・・・・」


びゅっびゅっと中に出されていく熱い精液に、イワンも興奮を禁じえない。

熱い感触と、中に射精されているという事実に酷く感じ、精液を噴き零した。

力を失っていく幹に伝い落ちていく白濁。

それを眺めていると、身体を引かれた。

滑り落ちそうになっている手が震えながら引っ掛かっている。

顔を見れば、もの言いたげに戦慄く唇。

それが言うところと、そうしたい欲望を同時に満たせる甘い甘い接吻をおくり、アルベルトはイワンを強く抱きしめた。


「一生、手放しはせん・・・・・・」


従者の許容範囲ぎりぎりのそれ。

必死になって頷く事しか出来ない従者が、益々愛おしいと思った。





***後書***

らぶえっち書けないわけじゃない。頭の中はいつだって変態えっちでいっぱいだ!(謎の発言)