【 御主人様のお気に召すまま-013 】



「露特工」

独特の呼び方で呼ばれ、イワンはさっと姿勢を正して振り返った。


「御用でしょうか、十常寺様」


イワンの返事に、十常寺が頷く。


「露特工に頼みたき事。身長等の計量を望む」

「構いませんが・・・・・・・」


不思議そうなイワンに十常寺が言葉を補う。


「服を仕立てる故・・・・贈りたき人有り。露特工と体型似通ったり」


どうやら誰かに服を仕立てたいので体付きの似たイワンの身体のサイズを測りたいという事らしい。


「私でよろしいのですか?」

「是」


先に立って歩きだした十常寺に付いていく。

初めて入る彼の私室は綺麗に整頓されていた。

メジャーを持ってきた十常寺に言われて上着を脱ぐ。


「差し支え無き事ならば出来得る限り薄着が良し」

「はあ」


薄着と言われてもと困っていると、十常寺が頷く。


「衝撃独占欲強し。肌に花弁散れども不思議無し。噛み跡是然り。揶揄う事無し」

「す、すみません・・・・・・」


見透かした言葉にイワンが赤面する。

初々しく奥床しい彼の態度はいつ見ても楽しい。

怖ず怖ずとワイシャツを脱いだイワンの肌にはそこかしこに花弁が散っていた。

脇やへその周りが若干多いのに当人達は気付いているのだろうか。

何だか少しアルベルトが変態臭い。

噛み跡は特に喉と肩に目立つ。

獲物を仕留めるのは本能として、肩口は噛みやすいからか。

取り敢えず肩幅と上半身の縦を測る。

胸囲は後ろからメジャーを回して前に留め、肩越しにサイズを見て測った。

・・・・よく考えてもらいたい。

実はこの体勢かなりおいしい。

後ろからイワンを抱き締めた格好になるのだ。


「露特工過ぎたる華奢。食事は如何にしている」


そのまま腹周りを測りながら訊ねると、イワンは軽く首を傾けた。


「ええと・・・・・朝はアルベルト様の朝食の準備がありますから、コーヒーを飲むか飲まないかといった程度です。

 昼は本部内の食堂で、夜はアルベルト様のベッドメイクを終わらせてから自室で軽いものを作るくらいでしょうか・・・・・・」


つまり朝までアルベルトに放してもらえなければ朝は絶食、夜もベッドメイクの後に捕まれば摂れない。

・・・・・・・・よって一日一食の日が週に何日もある、という事だ。

流石の十常寺もこれには驚いた。


「・・・・時に茶と共に点心振る舞う事有り。せめてその時は食すべし」

「有難うございます」


微笑んで軽く振り返るイワンはとても愛らしい。

スラックスの上から臀部を測る。

今度は目盛りが後ろに来るように測り、手の甲でさり気なく張りがあり柔らかな尻を楽しんだ。

日頃の行いが良いからこそ出来る芸当である。


「・・・・了。謝々」


全て測ってから、十常寺はイワンに服を着ても良いと頷いた。





「ねえ、ちょっとくらい良いじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「君ばかりイワン君を独占してずるいよ」

サロンでテーブルに肘をついて手の甲で頬杖をついたセルバンテスがアルベルトに食い下がっている。

何でも最近イワンに触るとアルベルトに睨まれるらしい。


「別に胸とかお尻とか触るわけじゃ無し・・・・・・」

「露特工、肌雪の如く。胸部柔らか、臀部瑞々し」


ぼそりと入った言葉に、皆ぎょっとして十常寺を見やる。

彼は茶を注ぎながら続けた。


「露特工忙殺に依り一日一食週数回。甚だ健康に悪し」

「ちょ・・・・・待ってよ、何で十常寺がそんな事知ってるんだい?!」

「聞く機会有り」


事もなげに答えた十常寺に、レッドが鼻を鳴らす。


「尻の感触も聞いたのか?」

「否」


触れる機会有り、と言った十常寺が思い切り真っ黒な悪い笑顔を浮かべたのには、全員「このクソ狸」と思ったという。

しかし十常寺を舐めてはいけない。

彼はそつのない後始末もちゃんと考えている。


「それ全て此仕立てる為ゆえ容赦を望む。是非に露特工に着せるべし」

「な・・・・何だと?!」

「十常寺・・・・・いい仕事したね!」


レッドの驚愕とセルバンテスの賛辞。

べろりん、と広げられたのは、十常寺が自ら縫い合わせたチャイナ服だったのだ。

生地は上品な光沢の黒絹。

裾はロングで刺繍された蝶が美しい。

スリットはかなり深目で、白い脚を十分楽しめそうだった。


「返却不要。存分に汚すべし」


つけ加えられた言葉に、皆の頭を一瞬卑猥な妄想が過る。

ある者は床に倒れ裾を押さえて怯えた目で見上げてくる姿を。

またある者は白濁塗れになったチャイナを身につけたまま気怠げに伏せっている姿を。

余りに卑猥な妄想が次々と頭に流れ込んでくるのに耐えられなくなった幽鬼が倒れたのに気付いた者は・・・・いなかった・・・・。





「ローザ、流石にこれは見苦し・・・・・」

「あんたふざけた事言ってると鳩尾殴るわよ?何よこの脚!腹が立つくらい綺麗じゃない!」

「お前仮にも女だろう・・・・・・。私の脚など撫で回・・・・スリットから手を入れるな」

「えー」

聞こえてくる話し声は弟子と従者のものである。

チャイナの着方などアルベルトもイワンも知らない。

そこでローザに白羽の矢が立ったのだ。


「ほら、アルベルト様がお待ちかねよ!」

「・・・・・・絶対に御気分を害されると思うんだが・・・・・」

「その時はあんたが身体張って機嫌取りなさい。ほら!」

「わっ!」


ばたんとドアが開いて、イワンが転がり込む。

どうやら突き飛ばされたらしい。


「じゃあ、アルベルト様、楽しんでください!」


イイ笑顔で言って、ローザは頭を引っ込めドアを閉めた。

アルベルトが立ち尽くすイワンに視線を向けると、彼はびくりと身を竦めた。

どうやら自分の姿が見苦しいと思っているらしい。

アルベルトはくつりと笑って脚を組み替えた。

少し俯き加減の従者はやはり立ち姿が良い。

すっと伸ばされた背筋がハイヒールによって引き立てられる。

腰は縫い方が工夫されているようで、艶めかしい柳腰はまるで裸の時と遜色ない。

スリットはかなり深く切れ込んでいるが・・・・・・。


「・・・・・下に何か着ているのか?」


下着のラインや端が見えないのに気付いて何気なく訊ねると、イワンはぎくりと身体を強ばらせた。


「ローザに、取り上げられました・・・・・」


あの気の強い娘は下着が見える方が見苦しいと言って脱ぐよう言ったらしい。

容易に想像できる弟子と従者の様子に、アルベルトは喉の奥で笑った。


「来い」


立ち上がって命じたアルベルトに、イワンが近付く。

抱き寄せて唇を奪うと、おとなしく腕の中に収まった。


「ふ・・・・・は・・・・・・・」


甘い吐息を吐き出した従者の目は潤んで伏しがちだった。

薄桃に染まった頬に二回程唇を落とし、そのまま耳に口づける。

柔らかい耳たぶを唇で挟むと、抱いた身体がひくりと跳ねた。

軽く吸うと、ヒュ、と喉を鳴らす。


「ん・・・・・アルベルト様・・・・・・・・」


首筋の襟から出た部分に跡を付け、左手を背から腰に這わせる。

柔らかだが引き締まった尻たぶをぐっと掴むと、イワンがびくっと身体を強ばらせた。

あまりハイヒールで立たせておくのも酷かと考えて、アルベルトはイワンを抱き上げベッドに下ろした。

柔らかい寝具の上でバランスを取るために、イワンは無意識に、少し脚を開いていた。

いつものスラックスなら問題は無かったろうが・・・・・・。


「あ!」


イワンが慌てて両腕を脚の間に挟む。

前の垂れが脚の間に滑り落ちてしまったのだ。

白い脚が無防備に晒される。

はた目に見てもどうしようかとおろおろしているイワンの肩を軽く押して倒すと、アルベルトはもう一度口づけた。

イワンの身体から徐々に力が抜け、ベッドに沈み込む。

唇を離すと軽く咳き込むイワンを見ながら、アルベルトは薄い布地に小さく尖る突起に触れた。


「んっ・・・・・!」


小さく声を漏らすイワン。

滑らかな布の上から触れられるのは違和感があるのか、もじもじしている。

太腿にも手を這わすと、なめらかな肌が心地よい。

ローザが撫で回すのも分かる。


「期待しているようだな」

「っ・・・・・・・・」


顔を覗き込んで意地悪く笑むと、桜色だった頬がぱっと赤に変わり、泣きそうに顔を歪めて俯いてしまう。

垂れ込んだ布を押し上げる雄を右手で撫でると、ひくん、と腰が跳ねた。


「何時まで経っても小娘の様に恥ずかしがる癖に身体は淫らなものだ」

「っ、あ、の・・・・」


イワンが頬を染め上げて、泣きそうな声で聞く。


「お嫌い、ですか・・・・・・?」


身体の奥が熱くなるような問いだ。

何時の間にこんな誘い文句を覚えたのか。


「いや、悪くない・・・・・」


耳元で囁いてやると、イワンが安心したように僅か微笑む。


「あっ・・・・・・」


その顔を甘く淫らにとろかしたくて、アルベルトはスリットから手を入れて彼の雄を握り込んだ。

人差し指で先を弄りながら平と指で擦り上げる。


「あっ、ん・・・・・・・・!」


イワンは余り大きな声を上げない。

かなり控えめだ。

少しぐらい乱れてもいいと思うのだが。

ベッドサイドのオイルを取って指をぬめらせると、ひくひくしている最奥に触れる。

イワンの呼吸を計って差し入れると、きゅうと絡み付いてきた。


「あ・・・・・ぁ・・・・・・・!」


辛さと甘さが混ざり合った声が耳を擽る。

熱い媚肉の襞を掻き分けて擦ると、誘惑するように甘く締め付けてくる。


「・・・・・・・這え」


少し身を起こして命じると、イワンが潤んだ目のまなじりを染めながら、力の入らない身を反転させて膝を立てる。

顔をシーツに埋めて震えているのは羞恥のせいだろう。


「ぁ・・・・・・んんんっ」


背から覆いかぶさったアルベルトが自身を挿し込むと、堪えきれない悲鳴が上がる。

初めての後ろからの行為に、戸惑うように入口がひくついた。

大きく腰をグラインドさせると、甘い声が耳を打つ。


「んっ、ぁんっ!」


びくっと肩が震えるのと同時に最奥が締まる。

全く大した身体だ。

こんなに男を狂わせる身体をよく持て余さないものだ。


「ぁ・・・・・アルベルト様・・・・・・・・・・・・!」


切羽詰まった声に、ぐいと奥を突いてやる。

身体を痙攣させて精を放ったイワンの身体を支えながら引き寄せ、奥深くにたっぷりと吐き出す。

引き抜くと身体の間にわだかまっていた後ろ垂れが尻を滑り落ち、じわっとアルベルトの残滓が染み込んだ。

クイと押すと、染みが広がる。


「ぁ・・・・は・・・・・・・・」


くたりと俯せているイワンの耳を少し強く噛む。

イワンがはんなりと笑った。


「どうぞ、お気の済むまで・・・・・・・・」





「・・・・・・・写真の一枚くらい見せて欲しかったなぁ・・・・・・・・」

大変不服そうな顔で行儀悪くストローを噛むセルバンテスに、イワンが控えめに「余り御気分のよろしいものでは・・・・」と言ってみる。

だがそんな程度でこの迷惑な意味で子供のようなオッサンを宥められはしない。


「だって相当可愛かったんだろう?実際服は駄目になったんだから」

「っ」

「見たかったなぁ〜・・・・」


駄々をこねるセルバンテスに引きつった笑いを浮かべ、イワンは唯黙ってアイスティーを作っていた。

苦労人イワン。

今回オイシイ思いをしたのは彼の主と・・・・・・・・・・十常寺である。





***後書***

十常寺GJ!なのか?

これってセクハラ・・・ですよねー!

バンテスおじさんが段々行儀悪くなってる。