【 御主人様のお気に召すまま-130 】
「・・・・・そんなに執着する事か?」
女の胸の話に熱くなっているカワラザキとヒィッツ。
熱くと言ってもこの二人なので飄々としてスカシているが。
そんなに胸と言うのは魅力的か。
確かに、柔らかい乳房は心地よい。
だが、無ければ無いで構わない。
従者の柔らかく平たい胸で十分興奮する。
そう言ったら、やれやれと頭を振られた。
「あれが一番上等なのだから、当たり前だ」
男の弾力と、女の柔らかさを兼ね備えた絶妙な感触。
微妙にどちらの性とも違う、何とも言えぬあの触り心地。
「あれをいびりたくてな」
衝動のに、ご教授願っているのだよ。
言っている事は分かる、欲望も分かるし尤もだ。
だが、話題の人間は自分の恋人だ。
一体何のつもりでそんな話を目の前でやっているのか。
ヒィッツが目を嫌な感じに細める。
「いや、まともなSMも出来ん恋人では身体が寂しかろうと思ってな」
くっくっくと笑われ、物凄く腹が立った。
だが、言い返せない。
1度目はピアノ線を使い、同僚から『何の拷問だ』と総攻撃を受けた。
2度目は、通常鞭で叩き通常蝋燭でいびり傷と火傷だらけにして泣き叫ぶのを押さえつけた。
それ以来、やっていない。
当たり前と言えば当たり前だが、イワンはあれが相当な恐怖だったらしく、蝋燭や鞭を出そうものなら全く立たなくなってしまうのだ。
しかも真面目で直向きな彼は、必死に自分の意向に沿おうと恐怖を押し殺し、立たないものを無理に扱いて。
全く立たないものを擦り過ぎで真っ赤にして、悲しそうに泣いていた。
あんな可哀想な姿を見せられては、流石に自分の方も立たない。
何というか、配慮が足りず浅慮だったとしか言いようもないわけで。
SMごっこは封印中。
だが、ヒィッツはさらに引っ掻き回してくる。
「まぁ、気を落とすな。人には向き不向きがある。得意な者に任せておけばいいじゃないか」
完全に喧嘩を売られている。
従者に手を出すと言っているのだ、この男は。
ぎろりと睨むと、ヒィッツは肩を竦めて見せた。
「それとも、イワンがSMを克服できないで悲しんでいるのを見ていたいのか?」
それもある意味筋金入りだと言われ、黙るしかない。
が、カワラザキが口を挟んだ。
「まぁ、そうつつくものでない。イワンが安定しておらんと、わしらもちょっかいかけられんのだからのぅ」
目があったカワラザキが、片眉上げて悪そうに笑う。
「加減じゃ。怖がったら、甘やかせば良い。蕩けてきたら、苛めてやる」
SMなど、動物の躾と同じじゃからの。
ある意味極意とも言える言葉に、ヒィッツも頷いている。
そして、アルベルトの目の前に袋を突き付けた。
「まぁ、あれだ」
恒例の、餞別。
カワラザキからも押しつけられ、部屋に戻って開封。
矢張り伊達男と夜の帝王はナマで渡す事はしない心づかいがあった。
出てきたのは、まず。
ヒィッツからの、房鞭と低温蝋燭。
房は滑らかな革だが、甘い白。
蝋燭は、ほんのりとしたオレンジ。
手錠と首輪もあるが、どちらも可愛いピンクのファーが付いていて、恐怖感が少なそうだった。
もし自分が渋れば、完全に自分で行くつもりだったのだろう。
まぁ、伊達男は退き時を弁えているから有難いのだが。
続いてカワラザキからもらった袋。
ピンセット。
救護用の、先が丸めに削ってあって細くなっているもの。
そして、スポイト。
医務室や理科室にありそうな組み合わせだが、使用法を考えると何とも楽しい。
という事で、この前から短期のヨーグルト恐怖症を患っている従者を呼びつけた。
イワンは主の傍に寄り、慌て始めた。
一般的な感覚のイワンは、テーブルの上のピンセットとスポイトを見て矢張り医務室を連想したらしく、怪我を心配し始めたのだ。
怪我はしていないと言い、ベッドを指差す。
イワンの顔色が変わり、唇までもほの青くなっていく。
鞭と、蝋燭。
首輪と手錠はファーでただの輪っかにもみえるが、色が変わっても鞭は鞭、蝋燭は蝋燭。
怯えてうまく息が出来なくなっているイワンを引き寄せ、膝に抱いた。
「怖いか」
「あ・・・・だ、だい、じょ、う、ぶ・・・・で、す・・・・・」
身体をすっかり冷たくしているくせに、必死で自分に付き合おうとする。
それは嬉しいが、そこまで必死に合わせる必要もないのに。
今求めているのは身体と心であり、それは任務で無い。
即ち上司と部下の欲望の処理で無く、恋人としての対等な情交を求めているのだ。
うまく言えぬから、一言一言言い含めて言い聞かせる。
イワンは、泣きそうな顔で頷いた。
そして、ぎゅうと胸元のワイシャツを握りしめてくる。
「わ、私も、アルベルト様と対等な感覚で求めているのです」
「ならば・・・・・・」
「わ、我儘です。怖くても、我慢しますから、して頂きたいのです」
つっかえながら言う姿と、甘くも直向きで純な要求。
可愛くなって、柔らかい唇に吸いついた。
甘い唇だ。
柔くしゃぶってやると、うっすらと開く。
後頭部を引き寄せて深く唇を含み、上下交互に吸ってゆっくりと舌を差し入れてやる。
「ん・・・・・ふ・・・・・」
とろりと濡れた口の中は、甘ったるくも心地よい。
舌を絡めあわせながら探り、擦り合わせてやる。
気持ち良さそうな顔を見ていると、舌先を吸われた。
丁度吸える位置にやっていたらしい。
キスがあまり上手でない従者は、偶然差し出されていた舌に必死に吸いついている。
痛くは無いが、少し痺れた。
赤子のようにちゅうちゅうと吸いついているのが可愛くて、暫く好きにさせた。
が、余りに夢中なので、意趣返しに退いてやる。
「あ・・・・・・・・」
ちゅ、と離れた唇に物欲しそうな視線が絡みつく。
濡れそぼった唇を見ていると、従者が自分で指を咥えた。
どうしたのかと思っていると、人差し指をちゅうちゅう吸っているばかり。
自分の指ですらない、彼自身の指。
どうやら惚けてしまった頭で、口寂しさを紛らわそうとしたらしかった。
幼子のように指をしゃぶって、それでもどこか寂しげなもの欲しい顔で。
見ている先は、自分の唇。
余りに愛くるしくて、引き寄せ接吻する。
夢中でキスに酔っているのがなんとも愛らしかった。
そっとベッドに運べば、離さないでとしがみついてキスを。
宥めるようにちゅくちゅくと唇を吸い、離れる。
そっと首に首輪を回すと、僅かに震えた。
服を脱がせて、手首をやんわり掴んで手錠を。
ファーで飾り立てられた身体を眺め、もう一度キス。
イワンの瞳が蕩けるまで繰り返し、力の抜けた身体をベッドに横たえた。
初めは、ピンセット。
テーブルから取ってきたそれで軽くつまんでみる。
「ひんっ」
「・・・・・痛むか?」
「ん・・・・・・・」
首を振って否定するイワンの頬は赤らんでいた。
手はしっかりとシーツを握りしめ、きゅっと唾を呑み込む。
「だ、大丈夫です・・・・・・・」
恥ずかしいのを我慢してそう言うのに気を良くし、軽くつまんで苛めてやる。
くにゅりと押しつぶして軽く引っ張ってやると、びくんと腰が跳ねた。
「あ、あ、ち、千切れ、ちゃ・・・・・ぅ・・・・」
なんとも可愛い事を言う。
嬉しくなって悪戯に引っ張って遊んでいると、手錠ががちゃがちゃ鳴った。
「あ、う、う、あ」
もじもじしている脚を開かせれば、甘そうに濡れた雄がぴくぴくしていた。
余り多くない皮をピンセットで軽く引っ張ると、鈴口がくぱりと開いて蜜の芳香をさせた。
そのまま出させてもよかったが、考え直してスポイトを取る。
きつめに空気を抜き、胸の尖りに押し当てる。
「あんっ」
ぷにゅ、と吸いこまれてしまった尖りにもじつく腰。
痛かったのは初めだけで、今はもう吸引される甘い疼きに変わっていた。
息を荒げて耐える従者を見ながら、蝋燭を。
蟠っている従者の衣服からジッポを取って、火をつけた。
不安げな瞳を感じて、宥めるように口づけた。
舌を絡ませたまま、腹の辺りに一滴落としてみる。
「んんっ」
キスの合間にくぐもった悲鳴を上げたが、そこまで痛くは無いらしい。
唇を離さず、指で幹をトントンと叩いて蝋を落としていく。
「ん、ん、ふ、んん・・・・・・」
ぴくぴくと跳ねる身体を軽く撫で、唇を離す。
イワンは薄オレンジの蝋塗れの身体にぎょっとしたようだったが、目の前で落ちた滴が余り痛みを感じさせないのにほっとしたようだ。
腹や尖りの周りを蝋攻めしてやると、蜜の匂いが濃くなった。
開きっぱなしの鈴口からはとろりと先走りが溢れて伝い落ち、甘く香っている。
蝋燭の火を消して置き、柔く耳を噛んだ。
「・・・・はしたなく蜜を垂らした仕置きを受けたいか」
最終確認。
それは今拒めば許してやるという逃げ道の提示で。
イワンは、こくんと唾を呑んで僅かに微笑んだ。
「お仕置き、してください・・・・・」
愛らしい受入れに、褒美のキスを。
そっとうつ伏せにさせ、腰を上げさせた。
緊張に引きつっている尻を軽く手で叩き、鞭を持つ。
パシッ
「あっ・・・・・!」
じぃん、と痺れる熱さ。
ひりひりとした痛み。
だがそれはあの時のような堪えられない激痛ではない。
意外と鳴った音に、少し怖気づいている主に気付き、恥ずかしいのを我慢して、ちょっと尻を振って見せる。
「もっと、お尻をぶってください・・・・・・」
何とも健気な事だ。
こんな可愛い犬では、酷くぶったりできない。
軽く、しかし痛みが無いほどで無く、鞭を振るう。
「っあ・・・・あ、あっ・・・・んくぅっ」
真っ赤になった尻は、酷く痛々しく腫れている。
だが、蚯蚓腫れや傷は無い。
そっと触れると、反射のように尻を振った。
矢張り、痛いのは痛いのだ。
撫でまわすと、手の中の柔らかい肉が痙攣するのが分かる。
押し開くと、可愛い窄みは固く窄んでいた。
ぺろっと舐めると、益々小さくなってしまう。
スラックスの中で痛みを感じるほど大きく育ったものを取り出して扱きつつ、舐め上げる。
「あ、あっ、やぁっ・・・・・」
嫌と訴えるが、抵抗は軽い。
かまととぶっているのでなく、自分に許しを請うているのだ。
駄目だ許さんと目だけで言って、強く吸いつく。
「ぅあぅっ」
ぱたた、と蜜の落ちる音がして顔を上げれば、甘い匂いが鼻先に漂う。
下を覗き込めば、勢いよく射精していた。
シーツに広範囲に飛び散った精液はまだ温かく、ごくごく微かにだが湯気を立てていた。
「あ・・・あ・・・・ご、ごめ、なさ・・・・・・」
目をうるませて謝る従者に苦笑し、白い臀部にチュッと口づける。
「叱っておらん。我慢しろと言った覚えもない」
「で、も・・・・・・」
お尻舐められて、なんて・・・・・・。
漸く理解したが、従者はどうやら後孔に吸いつかれて射精した事を酷く後ろめたく感じているようだった。
気持ちが良いのならよかろうと思うのだが。
別に食糞や塗布するわけでなし・・・・・。
綺麗好きなこの男のここを舐めるのに抵抗は無いし、先述のような異常な趣味でも無い。
正常とも言い難いが、別段不潔極まりない事をやっているわけではないのだ。
そう思っていると、イワンが頬を赤らめて上目で見てくる。
「あ、あの、私もした方が良いのでしょうか・・・・・」
・・・・・まぁ、なくはない。
ナシかと言われればまあ、アリかもしれない。
肛門を舐めさせるのが好きな男もいる事はいる。
が、自分は興味がない。
恥ずかしくは無いが、興味がない事に時間を費やすよりも、この可愛い窄みに構っていた方が余程有意義だ。
「いやいい。それよりもう少し緩めろ。舐めにくい」
あっさり却下したアルベルトだが、もっと舐めさせろと要求している。
イワンは出来ないと首を振った。
余りに恥ずかしすぎる。
舐めてもらうために緩めるなんて。
半泣きで許しを請えば、主は退いてくれた。
指で愛され、解される。
女性だったらよかったと思う事はたまにある。
それは子を拵えたいという事ではない。
サニーがいなければそれも考えてしまうが、もうアルベルトには愛娘がいるわけで。
自分の願望で、あの二人をぎすぎすさせたくは無い。
もし、というのは、この手間の事。
勝手に濡れないから、濡らさなければならない。
緩めないといけない。
それは怪我云々以前に、入れ難さや挿入側の痛みの話だ。
自分が痛くても主が気持ち良くなれる膣が無いのが、少し。
そう思っていると、軽く、しかし結構な痛みを伴うように尻を叩かれた。
驚いて主を見れば、少し怒っているようで。
「下らん事を考えていると、抉じ開けて中まで舐めまわすからな」
「も、申し訳ありません・・・・・・」
「違う」
気を逸らしたこと自体でなく、考えている内容が下らんのだ。
叱られて、涙より微笑みが浮かんでしまう。
自分が男でも良いのだと言ってもらえて、嬉しかった。
「あるべるとさま・・・・・・・」
お慕いして、います。
これは引け目で無く、恥ずかしくてうまく言えない精一杯なのです。
可愛い主張に、思わず目を瞬かせて動きを止めてしまった。
我に返り、片手で髪を乱す。
「・・・・・・誘うな。我慢がきかん」
「お気に召すままに、為さってください」
ほっぺたをピンクにしながら、くいくい、と尻を振ってくる、小悪魔。
本人は茶化しているつもりらしいが、何とも色っぽい仕草だ。
「・・・・・力を抜いておけ」
「はい・・・・・っ、ぁ・・・・・・・」
ず、ぐ・・・・・と入りこむ男根は、興奮露わに育ち切っていた。
熱くなり、先走りすら乾き始めている。
それをゆっくりと押し込まれる痛み。
開いていく肉孔は、元々受け入れる場所ではない。
ずきずきと痛むし、熱い。
だが、かりを含んでしまえば痛みは和らいだ。
中を擦りながら進んでくるものは太く硬く、締めても大きく開かされたまま。
苦しくて大きく息を吐きだすと、探る様に角度を変えてくれる。
進みが良い方向に直して、もう一度。
奥へ奥へと入り込んでくるのが怖く、そして酷く気持ちが良かった。
犯されていく喜び、侵されていく悦び。
ぐぐっと奥まで嵌めこまれると、丁度いいところに亀頭が来て中を圧迫する。
堪らず締めてしまうと、主が低く呻くのが聞こえた。
痛かったかと思うと、中に感じる熱い粘り。
中に種付けされている。
主の精液を流しこまれるのが堪らなく気持ちが良い。
心が震えて泣きそうになる。
駄目だと思うが、我慢できずに漏らしてしまった。
ぴちょっぴちょっとシーツに落ちる白濁に気づき、アルベルトは驚いた。
だが、なんとも可愛い。
こみ上げる愛しさのまま、後ろから抱き締め、腰を揺らす。
甘い泣き声を堪能しながら、何度も何度も貪った。
「カワラザキ様っ」
「ん?また機嫌が悪そうじゃのう」
機嫌が悪そう、というのは当たらずも遠からずだ。
イワンは怒っているのではなく、半泣き。
後ろからは悠々とヒィッツが歩いてきている。
「ひ、ヒィッツカラルド様がっ」
「苛められたか?」
「蝋燭をっ・・・・・・」
ヒィッツを見やれば、そう意地悪い笑みで無く苦笑している。
「いや、何。金の斧、銀の斧だ」
持っているのは、3本の蝋燭。
オレンジと、ピンクと、水色。
何ともファンシーな色だ。
「オレンジは気持ち良かったらしいから、正直者には3本ともやろうと思ったのだがな」
アルベルトに渡そうとしたら、止められてしまった。
ヒィッツが堪えられぬ笑いを肩をゆすって表現すると、カワラザキがふむと頷く。
「まぁ、たまにでよかろうな」
「そうかね、残念だ」
笑っている二人に頬を染め俯くイワン。
通りかかったアルベルトが首を傾げるのは、5分ほど後の事である。
***後書***
小悪魔イワンさん、絶対可愛いと思う(真顔)