【 御主人様のお気に召すまま-131 】
「皆様反省為さってくださいっ!」
ぷんすこ怒る可愛い生き物。
オロシャのイワン33歳。
見れば見るほど母親じみた怒りっぷり。
仕草まで完全におかあさんだ。
正座しているのは、残月、怒鬼、樊瑞、十常寺、セルバンテス、孔明、ヒィッツカラルド、カワラザキ。
幽鬼とレッドとアルベルトはお咎め無し、後者二人に至っては飛び火を恐れて自室待機中。
幽鬼だけはこの場に居残って叱られっぷりをじっと見ている。
心が読めるから、矛先が向けられてもすぐに脱出できる彼だ。
とくとくとした説教は、洗濯物を取っていくのは泥棒であるという事からスタート。
臭いを嗅ぐのは程ほどにしないとお里が知れる、スク水を握りしめているのをサニーが見たら何と思うか。
縛りたいならチャーシューかロールキャベツ(日本式干瓢版)だけに我慢なさい。
浣腸ばかりしていると馬鹿になりますよ、尻を叩くなら樊瑞様の尻を叩いて仕事をさせなさい。
苛めっ子にはいつかしっぺ返しが来るんですよ、おっぱいの事ばっかり考えていると本当に助平爺になりますからね!
怒っている内容はもっともだが、最初と最後の事実以外は何とも言い難い。
洗濯物ハンターはイワンが本気で怒るべく脱いだ上着を握って離さないし、助平爺は怒っているイワンを楽しんでいる始末。
座敷犬は漂う匂いの中からイワンの匂いを嗅ぎ分けてくんかくんかしているし、樊瑞は今日はブルマを握りしめている。
緊縛師はおとなしくロールキャベツを作り始めているが、まだ説教中だし、キャベツの亀甲縛りなんて神業見たくなかった。
スカ将軍ははーい、と良い返事をしながらイワンに馬乗りになって浣腸しようと息荒く。
孔明は浣腸したら貸せと言いながら靴べらで素振り中。
苛めっ子は傍観。
イワンがとうとう、本気で、物凄く怒った。
「実家に帰らせていただきますっ!!」
実家、とは故郷でない。
アルベルト様のところに帰る、と半泣きなのだ。
私的な部分もままある今回の説教はピシッと怒れず、どこかおどおどしていた。
それに付け込まれておちょくられ、可哀想なイワンは。
残月からスーツをむしり取ってドアへと歩いた。
それをおろおろして見ている男たち。
「ま、待って、イワン君っ」
「わ、悪かった」
口々に謝るが、イワンはツンとそっぽを向いたまま。
その上やや俯き加減の目元は赤くなって、今にも泣きださんばかりだ。
「・・・・・・・・・・・・・・詫び、の印などどうだ」
幽鬼がぼそりとつぶやく。
「衝撃のにたっぷり可愛がられたのだろう?」
キッと睨んでくるイワンに首を傾げ、薄らと笑う幽鬼。
「どうだ、皆でコスプレさせて縛りあげて」
イワンの好きに可愛がらせてやれば良い・・・・・。
ぞわっと毛を逆立てて、7傑と策士が抗議する。
「何言ってるの幽鬼!イワン君が突っ込めるわけ・・・・・」
「やってみらんと、分からんぞ」
イワンも男だしなぁ?
身体中舐めまわしてやりたくなくもなかろう?
にたぁぁ、と笑う幽鬼に、イワンが俯いたまま頷く。
「わ、私だって・・・・・アルベルト様を・・・・・」
衝撃的過ぎて言葉が出ない。
が、止めようにもイワンがそう言うのだからどうしようもないわけで。
役割分担を決めた7傑は、次々と哀愁を背負って旅立って行った・・・・。
ヒィッツに喧嘩を吹っ掛けられたアルベルト。
廊下だったので無視しようと思ったが、余りに腹が立つ事を言ってくるので衝撃波をくれてやろうと構えた。
すると突如念動力で拘束され、洗濯物ハンターに服を抜かれた。
なんで廊下で素っ裸にならねばならないのか。
次には樊瑞が白のタキシードを取り出して深いため息をついた。
「ああ、詰まらん・・・・・興味がわかん・・・・・」
そう言うならやめろと言いたい。
こっちもやってほしいなんて言っていない。
双方のためにもやめろ。
そう言いたいが、口には孔明がテニスラケットを噛ませてきているので喋る事は不可能。
そして怒鬼に着替えさせられた。
進み出た十常寺に手首を拘束され、最終で出てきたのはシケた顔の盟友。
何があったか聞きたいほどに疲れた顔で、自分を担ぎ。
廊下の道行には会話もなく。
放り込まれたのは、自室。
ベッドの上に放り出され、傍にはジャックナイフ持って恥ずかしがっている従者。
あれだ。
完全にあれだ。
唆された人魚姫がそうハッピーでないハピエンから外れて割とすっきりするバッドエンドに走っている。
刺殺されるのか・・・・・・そうか、とうとう・・・・・・。
頑張って、ちょっとくらい怪我させたって怯んじゃ駄目だ。
応援する盟友を殺してやろうかと思ったが、イワンは恥ずかしがりながら頷いた。
何をされるのか。
ハラワタ引きずり出されて自前の糞入りソーセージを食わされるのか、いや、フォアグラの可能性も・・・・・砂ずりは無いが。
ああ、それとも目玉くり抜きか、乳首切り取りか、いや去勢かもしれない。
どんどん悪い方向の想像に顔色が悪くなっているアルベルト。
イワンはタキシードが似合う素敵なおじさまのお膝に乗った。
「・・・・・・・アルベルト様・・・・・」
「な、何だ・・・・・?」
すり、と頬を包まれて緊張する。
まずは髭剃りだろうか。
髭を剃った顔に惚れ直して思いとどまってくれはしないだろうか・・・・いや、もう38だしなぁ。
どきどきしているアルベルトに、イワンは恥ずかしそうに頬を染めて口づけた。
柔らかな唇が押しつけられ、離れていく。
「アルベルト様、格好良いです・・・・・」
「そ、そう、か・・・・・・」
ほわっとほほ笑むイワンは愛らしく、少し照れている仕草を見せた。
アルベルトも色んな意味でどぎまぎしつつ、矢張り照れないでもない。
恋人に容姿を褒められて悪い気がするはずがなかった。
「赤い目が、ルビーのようで・・・・・」
ちゅ、と瞼に柔らかなキス。
「鼻筋が、綺麗で・・・・・・」
眉間から鼻頭に向けて滑る唇。
「顎も、綺麗・・・・・・」
髭に当たる、唇の感触。
首筋を甘く噛みながら唇は伝い落ち、シャツと上着を引き裂く音。
ジャックナイフが、器用に滑る。
だが、曝け出されたそこに口は付けず、手を取る。
括られた両手に愛しげに頬ずりして、指先を口に含む。
「爪は、緋扇貝・・・・・・」
指は、伽羅・・・・・・。
とろりと甘い声が、自分を褒める。
気恥ずかしいというか、むず痒いというか。
イワンはすっかり心地よさそうにしながら、アルベルトの指をちゅっちゅっと吸っていた。
軽く引くと、素直に離す。
胸元を辿って、胸の辺りをちろっと舐める。
尖りを掠めてもあまり感覚は無いし、やや痒いというか。
イワンは別段そこに執着は無いようで、逞しい胸筋を何度も甘噛みしていた。
「格好良い・・・・・・」
「・・・・・・・・・っ」
うっとりと呟かれ、息が詰まった。
愛らしい、抱きしめたい、なのに、同僚の縛りは見事過ぎて解けない。
破れたタキシードにしわを作りながら後退すると、なんとも愛らしい女王様が追ってくる。
「お逃げになっても、逃がしません・・・・・・」
自覚のない女王様は、色っぽい白猫のように手を伸ばして絡みついてくる。
スラックスのボタンに口許を寄せ、愛らしい白い歯で噛み千切る。
かつ、と釦を唇から落として、微笑む。
「アルベルト様を、愛させてください・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・本気か?」
笑えない。
突っ込む気か。
正気か。
38歳の髭に入れるのか。
言いたいことは山ほどあるが、黙って溜息をつくに留めた。
一兆歩譲ってやれば、抱かれるのも我慢できないではない。
一億歩では無理だが。
自分が従者を抱きたいのだから、従者だって抱きたかろう。
男なのだから当たり前だ、むしろそれは正常な願望だ。
それにそれは、自分を愛しているという証拠でもある。
気分的に、楽しんだり射精は出来なそうだが、従者の願いを叶えてやりたくもある。
観念して、許しを与えた。
イワンは嬉しそうに擦り寄って、アルベルトのスラックスを抜いた。
溜息をついて目を閉じると、足先に触れられる。
が、妙にくすぐったくて目を開け、思わず足を引いた。
「あっ・・・・・・・・」
「そんなことをせんでも良い」
足先を舐めていたイワンが、不満そうな顔をする。
珍しい事だ、それに不満というより物足りないと言った方が良いかもしれない。
寂しそうに口をむぐむぐさせ、足を見つめ。
そろ、と近づいて、また咥えようとする。
奉仕というよりそうしたいらしいと察し、黙って足を放り出す。
イワンは嬉しそうに脚にむしゃぶりついてきた。
くすぐったいが、気持ちが悪くは無い。
初めての経験だが、割と心地が良かった。
生ぬるい舌が指の間に割り込んでくるのは何とも言えない。
湿地で役に立たなくなった靴を脱ぎ沼を進んだ時の事を思い出す。
それよりずっと上等だが。
ちゅぅ、と親指に吸いつかれ、びくっと脚が引きつった。
「アルベルト様・・・・・・・・」
うっとりと脹脛に頬ずりし、膝頭に額を当て。
濡れた唇が紡ぐのは恋い慕う主の名前。
イワンの目が、ゆるく立ち上がった男根にいく。
「ここも、放っておいては・・・・・」
「っは・・・・・・・っ!」
ぬるぅ、と含まれて息が詰まる。
歯を噛みしめても、うまく我慢できそうにない。
淫蕩な行為に純愛の睦言、そして身体を舐めまわされて興奮しない筈がない。
がちがちになった男根からは先走りの匂いがしていた。
イワンはまだ、スラックスもワイシャツも脱いでいない。
余裕があるのか、今日の奉仕は、甘やかだった。
吸ったり飲み込むというより、たっぷりと唾液を含んだ舌で舐めまわす。
「ぁ・・・・・おぃしい・・・・・・・」
「っ・・・・・・・・」
わざとかと言いたい卑猥な言動は、完全に無意識の呟きだった。
ぐっと唾を呑みこんで、可愛い唇に男根を出し入れして戯れる従者を見つめる。
暫くそうしてから、イワンは身を起こし、するりと衣服を脱ぎ捨てた。
「アルベルト様・・・・・・・」
そそり立ったものはそう色も濃くないし、標準。
大丈夫だ、自分の尻はそんなにヤワではない・・・・・筈だ。
ちらっと医務室での言い訳を考えたが、アルベルトは従者の行動に目を瞬かせた。
「あ、ん・・・・・ん・・・・・・っ」
少し痛そうにしながら、後孔自慰を。
柔らかく解す仕草は、たまに自分でさせる時と同じだ。
「はふ、ぁ・・・・・・・・」
唾液を絡め直した指が、ピンクの窄みを出入りする。
柔らかく開いた孔を指でなぞって確かめ、こくっと唾を呑んで自分の男根を見つめている。
入れたいが、自分に痛みを与えてしまうのでないかと我慢している。
入れる自分より入れられる従者の方がはるかに痛むはずだ。
ならば、気が昂ぶるに任せた方が精神的に楽なのに。
自分を気遣って、もうすこし、まだ、と、緩めようとしている。
余りに愛らしくて、痛いくらいの恋慕に息が苦しくて。
唸るように、乗れと命じる事しか出来なくて。
膝に乗って腰を下ろしていく従者の顔は、酷く溺れていた。
気が昂ぶった状態で、望みのままに振る舞えるという興奮。
その癖、突っ込むなんて言う考えもない。
愛したいというのは、イコールで突っ込みたいというわけでもない。
受け入れて愛してくれる恋人が愛しい。
腰を揺すると、甘い悲鳴を上げて縋ってきた。
見上げるから唇を吸おうとすると、かわされる。
「今は、駄目です・・・・・・・」
お名前を、呼ばせてください・・・・・。
愛らしくせがまれ、苦笑してそれを許す。
あるべるとさま、とうわ言の様に呟くやや高いアルト。
抱きしめも出来ず、唇も奪えぬままに。
夜が明けるまで、愛し可愛がってもらった。
「・・・・・・・・なんだその顔は」
「ううん、ただ、ね・・・・・・・」
髭の盟友が38歳で破瓜するとは思わなくて、さ・・・・・・。
しんみりしたサロンで、低い笑い声が響く。
間違ってもセルバンテスでない。
処女喪失するくらいなら首を括る盟友と知っている男は、そこまで冷血漢ではなかった。
笑っているのは、本人。
アルベルトが肩を揺すって手を振るのに、皆恐怖を感じた。
壊れたか、いや、目覚めたか・・・・・。
が、アルベルトはやけに楽しげだった。
語られる内容に、一同は差はあれど羨みの視線を向けた。
「なにそれ・・・・・やっぱり君が良い思いしたんじゃない」
そんな可愛い女王様に可愛がってもらうなんて。
「ずるいなぁ、ずるいずるいずるいっ」
「煩い。貴様等も加担したのだから喚くな」
「だってぇ・・・・・・・」
入ってきたイワンの手前話は打ち切り。
怒られてすぐに刺激するのは控えた方が良い。
が、やっぱり視線は、可愛いばかりでそんな大胆な女王様ごっこが出来そうには見えない人を追ってしまう。
「いいなぁ・・・・・・・」
溜息をつく九傑と策士。
悪い子には、御褒美がない。
顕著な例である。
***後書***
イワンさんが迫っちゃうのも書きたかった。が、あんまり押せてない。