【 御主人様のお気に召すまま-136 】
「いや、まさかあんな事になるとは・・・・・・」
携帯の待ち受け設定を弄られ、知らないうちに変えられていた。
その女性との2ショットとかならまだしも、そうでなく。
その女性の好きなひよこキャラクター。
それがヒィッツの趣味でないと一発で見抜いた別の女性は行動が早く、すぐさま出刃包丁装備。
また、刺された伊達男。
年何回かある騒ぎだが、彼の給料が減俸になるだけなので問題は無い。
しかし今回は背中に馬乗りで滅多刺しされたため、流石の伊達男も援護要請。
女性には基本的に手を上げない男が、ぴよこが可愛い携帯で殺人狂召喚。
が、殺すのはNGと言うのは同じで、単に忍者を雇って場を凌いだのである。
取り押さえられた女性はあっさり包丁を投げ捨て、もうひと刺ししたかったわ、と言いつつ歩いていってしまった。
医務室に歩きながら、隣の忍者に財布からスタンプカード。
某ワッフルショップのそれは、さらに別の女性と通い詰めた。
30個たまると非売のおまけワッフルがもらえるが、使わないでいてよかった・・・・。
この敏腕忍者は現金などでは動かないのだから。
と言う事で、事件から6日後の現在、ヒィッツはサロンでイワンに包帯交換をしてもらっている。
消毒してもらい、一息。
お疲れモードの伊達男を、レッドがからかった。
「直系の待ち受けをもらえ」
「直系のの?何なんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
すーっと差し出される携帯。
待ち受けは、ブルーチーズ。
「・・・・まぁ、分からんでない。だが嫌だ」
伊達男の生意気な拒否に、レッドが片眉を上げる。
「幽鬼のはどうだ、貴様の好みだぞ」
「不安なんだが」
「ああ、まぁ、多分そうだろうな」
差し出される携帯画面は、完全に目がイってしまっている女性の笑顔。
どこでとか、誰とか、聞いても無駄だし聞きたくない。
黙ってノーセンキューすると、残月が紫煙を吐いた。
「矢張り、想い人関係が良かろう。当人だとまずいがな」
私は恋敵の写真だ。
その言葉に、セルバンテスが苦笑する。
「アルベルトの写真が携帯いっぱいとかいやだなぁ」
「私とてご免だよ」
スライドさせた携帯に映るのは、洗濯機。
ああ、確かに彼の、彼だけの恋敵だ。
取り敢えず愛想笑いをしておき、話を進める事に。
「カワラザキは?」
最近は腕を上げてプラモから割り箸削り出しになってきた彼のちび刀作り。
今日は正宗の資料を開いている。
「わしは単なる単色じゃ」
言って開いたが、やや甘い鳶色一色。
どう考えても、助平爺の大好物。
それも女の乳ではない。
「写すのに1時間かかった」
「1時間かかったって、まさかイワン君がOK出したの?!」
「いや」
封筒に白い写真を入れて、念じる事1時間。
「ね・・・・念写・・・・・?」
「うむ」
それは願望の具現と言えないだろうか。
とは言え、本人がそのつもりなら良いだろう。
彼がイワンの乳首を念じたという事実が重要なのだ。
「じゃあさ、十常寺は?」
縄を編んでいる十常寺に問えば、携帯を投げてよこす。
開けると、肌色一色。
「なにこ・・・・・・もしかして頭?」
「是」
よりによって、彼の禿頭のドアップ。
つるるんと可愛い頭が画面いっぱいなんて犯罪だ。
セルバンテスが非常に真剣な顔をした。
年数回しかない顔だ。
「これトレードしない?私、イワン君のリップクリームがうっすら残ったグラスの写真があるんだけど」
「交換」
何て薄ら寒い話だろう。
禿頭の接写とリップクリームの跡。
もうマニアとかいう次元を超えている。
強いて言うならイワンマニアだ。
「レッドのとかよりは、よっぽど燃えるよ」
「・・・・・・変態と一緒にされるくらいなら燃えんで構わんわ」
パカッと開いた携帯は、満面の笑みのイワン。
何とも愛らしい。
が、怒鬼が反応した。
「な、何だ」
「・・・・・・・・・・・・・」
怒鬼がフォルダを開いて表示したのは、汗だくのイワン。
手にはんだごてを持っているが、時期も夏のようだ。
此処まで甘く芳しい汗が薫りそうな一枚。
レッドは自分の携帯を見た。
臭気マニアがこれを何故・・・・・・。
「きっ、貴様まさか・・・・・」
これを撮ったのがいつか知っているのか?!
ふっと笑って頷いた怒鬼。
幽鬼が首を傾げた。
「・・・・・・フライドガーリック?」
そう、実はこの時イワンは食堂でフライドガーリックを食べていた。
主は任務中、明日は休日、食べたくなったが吉日。
嬉しそうににんにくを食べているのを向かいのローザの背後から撮ったのだ。
怒鬼はそれを見ていたか・・・・・またはイワンとにんにくという最高にそそられる組み合わせに鼻をひごひごさせていたか。
だが、しかし。
この汗だくイワンは一生懸命作業をしていて可愛い。
悩んだ挙句、交換。
自分のがなくなるわけでないが、自分だけのものではなくなるのだ。
「魔王は、どちらだ」
「ああ、仕事中はサニーだ。プライベートはイワンだがな」
殺伐とした仕事中は、愛娘。
自由満喫中は、好きな人。
こまめに待ち受けを変えるのも意外だ。
「愛らしいだろう」
開けた先には、泣き叫ぶイワン。
拘束されて、局部だけもろだし。
変質者をレイプしているようにも見えるが、変質者コスプレさせた強姦前と言った方が正しそうだ。
「愛らしいだろう、堪らなく」
「貴様の精神を疑うわ」
「まぁ、樊瑞らしいんじゃない?」
レッドの侮蔑の視線とセルバンテスの微笑みに、樊瑞は不思議そうに首を傾げただけだった。
天然変質者を舐めてはいけない。
セルバンテスが携帯を弄る。
「じゃんっ、私のとっておきイワン君!」
一度閉める。
オープン音まで設定しているらしい。
『この印籠が目に入らぬかぁっ』
何故か某時代劇のオトモの声だった。
が、画面は。
陰嚢。
最低なギャグだ、身体を張っているとしか思えない。
もしくは精神マゾなのか、ああ、単なる変質者だったか・・・・・。
生温かい視線をもらいつつ、セルバンテスは胸を張っていた。
外見だけでなく頭の中身まで御目出度い男だ。
「君は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぱかりと携帯を開けた盟友に、覗き込む。
「・・・・・ハメ撮り?」
「ああ、中々良く撮れた」
可愛げの欠片もない男根を咥えさせられた、可憐な窄まり。
いっぱいに開ききって飲み込む姿は何ともいやらしい。
十傑全員による競売がスタートしたが、落札したのはイワンだった。
誰かの手に渡るくらいなら、主と自分で済んだ方が良い。
これまでのはまだ我慢できたが、これだけは絶対に嫌だ、恥ずかしい。
切り札のぱいずりまで持ち出してやっと競り落とした。
すぐさま自分の携帯に送られた画像を消去していると、セルバンテスがそれをひょいと取り上げた。
「イワン君は?」
「えっ・・・・・だ、だめですっ」
PWRボタンで待ち受けを一発呼び出し。
写るのは、睡眠中まで眉間にしわを寄せている盟友の寝顔。
イワンが携帯を回収する。
「あ、あの、これは・・・・・・その・・・・・・」
恥ずかしがる、というより怯えるような様子に首を傾げる。
イワンがこくんと唾を呑んで主を見つめた。
「や、やはり、消さなければ駄目でしょうか・・・・・」
勝手に撮った事を咎められると思っている、そして叱咤されても良いから残しておきたいと思ってお伺いを立てている。
余りの愛らしさに、頬が緩んだ。
「・・・・・それはくれてやる。但し」
今夜、ワシにも貴様の寝顔を寄越せ。
御主人様の命令に、イワンは眼を瞬かせ、頬を染めて嬉しそうに笑った。
***後書***
幻惑と魔王は時に残月より酷い。残月は普通に見えるが、真意が異様なので彼に適うものはいない。よって残月の勝ち。