【 御主人様のお気に召すまま-015 】



「♪」

ノートパソコンを開くセルバンテスはやたらと楽しそうだ。

今日のサロンには珍しく十傑集全員が首を揃えているのだが、幻惑の機嫌の良さは間違ってもそれが原因ではない。


「ふふふ、見たまえアルベルト!」


びっしとPC画面を指差すセルバンテスを軽く無視って、アルベルトは本のページを捲った。

普段なら煩くなるのがセルバンテスだが、彼は今日全く騒がなかった。


「別にいいよ。イワン君が休日に何してるのかは私が楽しむから」

「ああ勝手に・・・・・・・・・・・・何?」


案の定流しかけたのを踏み止まって食い付いた盟友に、セルバンテスはふっと笑みを浮かべる。


「実はイワン君の部屋に隠しカメ・・・・・・ちょ、皆押さないでくれるかな?!」


ガッツリ掛かった男共。

だが予想の範囲内だったため、セルバンテスはいそいそと簡易スクリーンを引いて投影し始める。

映ったのは、薄い黄緑のパジャマで眠っているイワン。

どうやら休日に惰眠を貪っているらしい。


「う・・・・・ん・・・・・・・・・・」


こてんと寝返りを打つ。

掛け布団を抱き込んだためにパジャマが捲れてへそが見えた。

柳腰が眩しい・・・・・!


「ん・・・・・・・・」


薄らと目が開き、目を擦りながら起き上がる。

釦が二つ目まで外れている所為で肩をずり落ちたパジャマが妙にいかがわしい。

小さな欠伸をして、イワンはベッドから降りた。

どうやら寝起きはいいらしい。

台所で珈琲を煎れてソファに座り、啜る。

朝の空きっ腹にブラックのストロングは如何なものかと思うが、彼が平気なら構わないだろう。

飲み終わると流しでカップを洗い、着替える。

全員イワンの着替えに釘づけだ。

何せ彼の私服など一度も見た事はない。

さて、イワンが本日チョイスしたのは薄黄色のパーカーと細身のジーンズ。

中々可愛い。

彼は着替えたらさっさと行動を開始した。

まずは愛用の拳銃を持ってきて手入れをする。

それも解体してだ。

どうやら機械系以外に銃器の知識もあるらしい。

きちんと細部まで整備して、仕舞う。

次に掃除を始めた。

掃除機をかけて化学雑巾を扱う姿はさながら新妻だ。

次には洗濯機を回し、イワンは掛け時計を見た。

少し考えていたが、鍋を取り出したところを見ると昼食を作るらしい。

湯を沸かしてパスタを茹でながらフライパンでソースを作る。

どうやらジェノベーゼのようだ。

少し味を見て塩を足し、湯から上げたパスタとゆで汁少しを入れる。

さっと絡めて皿に盛ると、冷蔵庫からパックのオレンジジュースを出してテーブルへ。

意外にも行儀悪く雑誌を見ながら食べていた。

それでもだらだらとは食べず、食べ終わるとあっさり雑誌を閉じて洗い物。

それが終わると丁度来客があった。


「イワンー!」


ローザである。

彼女は土産のケーキをイワンに渡すと勝手知ったる、と上がり込んでソファに座った。


「アイスティー!」


と聞かれてもいないのに元気よく言い、イワンは普通に希望のアイスティーを煎れている。

どうやら彼等にはこれが普通らしい。

イワンがケーキとアイスティーをテーブルに置いてソファに座ると、ローザがにやにやしながらイワンの顔を覗き込んだ。


「・・・・・・何だ?」


不審そうな顔をするイワンに、ローザがにまっと笑う。


「あんた最近色っぽいわよねー」

「・・・・・・・・・・は?」

「気を付けなさいよ?あんた機械系とバランス感覚は飛び抜けてるけど、わりかし非力だし鈍感なんだから」


暗がりとか、人気の無いところとか。

そこで漸く娘の言いたい事が分かり、イワンはこめかみを押さえた。


「・・・・・・・・・あのな、私は男だし器量もよくない。そんな物好き・・・・・」

「ふーん、アルベルト様は『物好き』なんだ?」

「ぅ・・・・・・・・・」


言葉に詰まるイワンに、ローザはアイスティーを啜りながら問う。


「あんたさあ・・・・・あ、紅茶美味しい。ちゃんとやってる?」

「ちゃんと・・・・・・・?」

「誘ったりしてる?」

「っ?!」


ケーキを口にしていたイワンの口から硬い音がした。

どうやらフォークの引き時を間違えて噛んだらしい。


「な・・・・・・な・・・・・・・・・・・」

「何言ってるの、はあんたよ。何?受け身でマグロなの?」

「っ・・・・・時々、ご奉仕はさせて頂いている・・・・・・・・」


鼻先まで赤くして俯くイワンに、ローザは小首を傾げた。


「そんなティーンみたいなので続いてるって事は、あんたもしかして凄く具合良い・・・・・・」

「ローザ!」


嗜められて、はいはいと黙る。

自分より幾つ年上なのか疑わしい程の純情っぷりだ。

ローザは色々と勝手に考えながらアイスティーを飲んでいたのだが、何を思ったかイワンの隣に移動する。

そして彼の手を取り。


ふにゅん


「・・・・・ローザ」

「ん?」

「何をしている」

「イワンにおっぱい触らせ「もういい」


柔らかな膨らみに触れさせられていた手を引く。

何でこの娘はこんなに恥じらいが無いのかと嘆いていると、ローザがじーっと見つめていた。


「何・・・・・・・」

「ふーん、あんたこんな可愛い女の子のやわらかぁい胸よりアルベルト様の厚い胸板の方が好きなんだ」

「な」

「だって」


あんた少しも慌てないじゃない。

言われて、イワンは茫然とした。

ローザが笑う。

柔らかく、優しく。


「試しただけよ。あんたが男好きって訳じゃないのは知ってるわ。いいんじゃない?それだけアルベルト様に夢中なんでしょ?」


あーあ、あたしもそんな恋したいわ。

紅茶を飲み干して、ローザがソファから立ち上がる。


「取り敢えず、たまには誘ったほうがいいわよ」

「・・・・・・しかし」

「でもとかしかしとか情けない事言ってんじゃないわよ。腹括ってガッツリ行きなさい」


女の逞しさ満載で言い切り、ローザは台風のように去っていった。

イワンが小さく溜息を吐き、微笑む。


「お前がアルベルト様との事を笑わないでいてくれて、嬉しいよ」





「・・・・・な、何て可愛いんだイワン君・・・・・・・!」

「家事もそつ無いのう」

「中々一途ではないか」

「あの小娘、やるな・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「露特工いじらしき事この上なし」

口々に言い立てるは本日の感想である。

・・・・・・・そう、こいつら仕事を放り出して一日イワンを観察していたのだ。

しかもリアルタイム。


「・・・・・・・貴様等仕事をしろ」


一人だけ書類を手にして一日過ごしたアルベルトのツッコミは限り無く弱かった。



★本日の書類整理と成果★


混世魔王樊瑞…0枚 充電完了

幻惑のセルバンテス…0枚 充電完了

激動のカワラザキ…0枚 充電完了

暮れ泥む幽鬼…0枚 充電完了

マスクザレッド…0枚 充電完了

直系の怒鬼…0枚 充電完了

素晴らしきヒィッツカラルド…0枚 充電完了

命の鐘の十常寺…0枚 充電完了

白昼の残月…0枚 充電完了


衝撃のアルベルト…1枚 充電120%





***後書***

おまいら仕事しろ。上の皺寄せがイワンさんに来るんだよ!

普通にカメラを仕掛けてしまうバンテスおじさんとおっぱい触らせてしまうローザちゃんにオッパ・・・乾杯!