【 御主人様のお気に召すまま-155 】



度々述べているが、衝撃のアルベルトは絵が上手い。

特に人物画などのスケッチが得意な彼の前に、今。

一人の男が全てを投げ出して。

土下座していた。


「お願いします!」

「・・・・・別に構わんが」

「ぃやった!!」


小躍りする幻惑は、盟友の画力を良く知っている。

アルベルトはイワンに鉛筆と紙を持って来させた。

よく出来た恋人は、色鉛筆まで用意してくれた。


「和洋どちらだ」

「大自然の中で開放的に!」

「こちら向きか」

「うーん・・・・・・向こう向きで振り返る感じかな」


ちょっと考え、描き始めるアルベルト。

可愛い禿頭の形を取って、鼻頭からスタート。

大まかに描き込んでから、主線を決めてなぞる。

完成したものを渡すと、幻惑はそれは喜んで、サロン内の人間に片っ端から自慢し始める。


「見て見て、イワン君の【ズキュン☆】シーン!」

「貴様・・・・・否、もう何も言わんわ」


良かったなと棒読みするレッドと、覗き込んで笑っているヒィッツ。

CGには無い良さがあると、切々と語る幻惑。

描かれているのは、何処か曖昧なサバンナっぽいのに花が咲いている場所で、公開おトイレ中(大の方)のイワン。

本人が見たら卒倒すると思うが、彼はまさかそんな事になっているとは思いもせずにおやつを作っている。

今日はチョコぷりんらしい。


「ああ、やっぱりいいなぁ・・・・・もし実際見たら、それだけで4発はいけるよ」


うっとりしながら携帯で額を注文している幻惑は末期だ。

が、こんな素敵なオナニーアイテム欲しくないはずが無い。

無言で訴える怒鬼に負け、アルベルトが筆を取る。

が、この男の求めるものは絵に描きようが無い。

仕方が無いので座り込んだ従者を描き、マンガによくある『ぷーん』とか『つーん』のような模様を描いてみた。

前かがみになっている同僚も、盟友に負けず劣らず、かなりキていると思った。

続いて興味を示したヒィッツには、聞きもせずに怒り顔を。

怒鳴っている吹き出しを描き、好きに書き込めと渡してやる。

妙に気に入った様子の男を見やって一服し、次。

既に目の前には、長蛇の列が出来ていた。

先頭は、素早い狸の動きかどうかは知らないが、いつの間にか来ていた十常寺。

取り敢えず、彼の趣味を考えれば緊縛が良いだろう。

しかし、単なる荒縄など詰まらない。

そう言うわけで、ちょっと考えて網タイツ。

下着さえ無い丸裸を網タイツに包んで向こう向きに描き、厭らしい尻を突き出しているイワン。

絶対にあり得ない淫猥な目つきが心を擽る。

純情忍者には、単なる笑顔を描いておいた。

渡してやるが、仏頂面の頬が引きつっている。

素直に喜べばいいのに、並んだ癖して『貰ってやる』と言うレッド。

これでもオカズにして従者から少し離れろと、本気で思った。

単なる笑顔の絵で砲身がぴくぴくしているのが、スラックス越しにですら分かる。

この純愛っぷりはある意味変態じみているなぁと思っていると、レッドの後ろは幽鬼。

ちょっと思いついて、仰向けのイワンの尻に太目の棒、物干し竿のようなものを噛ませる。

少しイワンが小さいが、大丈夫だろう。

身体を蜜っぽく光らせ、棒付きイワンの完成。

さあ舐めろとばかりの顔も厭らしくて良い。

いそいそ持って帰る幽鬼を見送り、次。

カワラザキ。

どうやら幽鬼は順番を譲らなかったらしい。

まあ、譲れ譲らないなんて言い争う義理親子ではないが。

真ん中に餌を置いた親子馬と一緒で、親は後からゆっくり楽しむのかもしれない。

さて、カワラザキには何が良いだろうか。

囲われフェチの助平爺だが、縁側に猫抱いて座るイワンなんか描いたって仕方が無い。

第一それでは、まるでカワラザキとお似合いで腹が立つので、却下。

考えて描いたのは、美しい青地に白の蝶が鮮やかな着物を着て、抑え目だが一目でそれと分かる化粧を施した。

夜鷹イワン。

吉原や丘場所ではちと華やか過ぎる、ならばと選んだのは、粗悪な環境の袖引き、下級娼婦の代表夜鷹である。

暗い路地や橋の下に蓆を持って行っての行為なのは、安い代わりに病持ちだったり、病で顔が崩れていたりだからだ。

だから、こんなに可愛い上物は珍しい。

そういう変な興奮を呼ぶイラストだった。

受け取って意気揚々と引き上げていく爺様を見送って、次は強敵だ。

混成魔王樊瑞、属性は『痴漢』『露出狂』『幼女趣味』『コスプレフリーク』であり、何とも扱いにくい。

此処まできたら、どうにかして前屈みにさせたやりたい。

前屈みかは人によったが、今までの7人は全員勃たせてやった。

あと二人で、コンプリート!

変な勝負魂に火がついて、アルベルトは従者を呼びつけた。

プリンを冷蔵庫に入れたイワンは、言われるままに、主の前に立った。

勿論、今まで忙しく働いていた彼は何をやっているかなど知らない。

アルベルトはイワンの周りをぐるぐる回って観察し、構想をまとめた。


「うむ・・・・・・あれでいくか」


描き始めたのは、何かの標本のように首から下を真空パックされたイワン。

少し汁を入れて何とも密閉感が上がったイワンは、可愛い乳首も雄もぴっちりビニールではっきりさせられて照れている。

此処で初めて、自分を勝手に着せ替えしたイラストを配布されていると知ったイワン。

それもどう考えたって変な格好で、笑いしか誘わない。

実際は笑いより興奮を誘うのだが、イワンがそんな事を理解できるはずが無い。

だが、単なるイラスト、写真ですらないので強くも出られない。

そうやって葛藤している間に、ラスボス登場。

白昼の残月!!

笑顔が本気の若年寄に、アルベルトも本気で迎え撃つ。

まず、イワンは裸。

これは決定事項だ、若い残月には安直でも煽り要素が要る。

次に背景。

これは、洗濯物の山で決定。

何でも良いから洗濯物を積んで、イワンを半分埋める。

そして、口にはちょっと汚れた靴下を咥えさせ、可愛い笑顔。

でも、ちょっと覗いているお尻からはピンクの使用済みゴムが覗いている。

恐らく入れっ放しにして萎えてから抜いたのだろう、ゴムだけ引っ掛かって外れ、挟まった上に、白濁がドロリ。

靴下を嬉しそうにはむはむする可愛いイワンに、描いた本人すらムラムラする。

が、残月は至って普通。

きちんと礼を言って受け取って、落ち着いた様子でサロンを出て行った。

が、扉が閉まった瞬間駆け出す足音。

幻惑所有のカメラで一番近くの男子トイレを覗けば、個室に籠もって早くもシコシコしている白昼の残月(19)

ああ、やっぱり若いんだなという回数を、イラスト眺めてシコり続ける白昼に、皆感心している。

イワンは茫然としていたがしくしくと泣き始め、アルベルトは自分へのご褒美作成中。

まさに一生懸命といった様子でひとりえっちをするイワンを描いてみたが、やっぱり実物の方が良いと思い直して、紙飛行機にして投げた。

キャッチに走る8人の同僚を眺めていると、何とか立ち直ったと言うか、諦める事に成功したイワンが袖を引く。

もじもじするからどうしたのかと思えば、自画像はお描きにならないのですかと言う。

自分なんて書いたって面白くもないが、何故拘るのか気になって描いてみた。

笑顔なんぞ描く気も無いし、色々考えるのも面倒くさい。

そう思って簡単な寝顔を、これまた適当な線引きで描いた。

荒っぽいが、出来あがったのは素敵なおじさま。

だが、アルベルトは興味なし。

矢張り詰まらなかったし、自分で持っている気になれず、ゴミ箱にぽい。

そのままイワンに肩を揉ませ、その内に眠ってしまった。





サロンで寝過ごしたアルベルト、真夜中になって自室へ帰った。

従者は薄い掛け布団をかけていてくれたが、起こしたって良かろうに。

そう思って、シャワーを浴びてから従者の部屋に。

ドアを開けようとして、首を傾げる。

おかしい、と感じ、そっと中を覗く。

勿論、鍵は音もなく破壊した。

中を見て、だらしなく笑ってしまう。

くしゃくしゃになったティッシュを握りしめて、苦行に耐えるように自慰をする従者兼恋人。

息を弾ませて唾を呑み、苦しげに雄を扱いて絞ろうとしている。

恋人は何故か自慰がぎこちなく、酷く苦しげにやる傾向がある。

にやついて見ていると、今までティッシュだと思っていたものを見つめるイワン。

よくよく見ると、それは昼間描いた自分の寝顔。

一瞬惚けたが、次の瞬間部屋に押し入り、アルベルトは冷たい声で問うた。


「・・・・・何をしている」

「アル、ベルト、様・・・・・・こ、これは、その・・・・・」

「ワシが捨てたものを勝手に拾うとは良い度胸だな」

「ご、ごめんなさい・・・・・・」


真っ青になるイワンから、紙をむしり取る。

泣きそうな顔で取り返そうとする目の前で破り捨てると、イワンは泣きだしてしまった。

アルベルトが吐き捨てる。


「ふん、ワシを置いていった上に紙が良いなら、暫く放っておいてやる」

「アルベルトさま・・・・・?」

「勝手にしろ」


癇癪起こして出て行ったアルベルト、腹を立てているのでなく、悔しいのだ。

すっかりぶーたれ、イワンに構わない事5日間。

イワンは相変わらず、自分を見つめながら色気を振りまいている。

益々臍を曲げたアルベルト、更に3日放置。

が、我慢できなくなって、9日目の夜に従者の部屋を訪ねる。

そろ、と中を伺うと、イワンはベッドで苦しそうに寝がえりを打っていた。

入りこんで様子を見るが、何だかもじもじして脂汗を掻いている。

心配になって触るが、熱は無い。

代わりに酷い寝汗をかいていたから、着替えを探してきて脱がせる。

アルベルトは目を丸くした。


「・・・・・・・・・・・・・?」


何のつもりか、恋人は自分の雄を縛り上げて就寝していた。

相当溜まっているらしく勃起しているから、縄が酷く食い込んで、見ているだけで背筋が寒くなる。

こんな事をすれば不能になる危険すらあるのにと腹が立って叩き起こすと、イワンは一度起き、泣きながらまた寝ようとする。

一体何なのか、怒っているのはこちらなのに当てつけかと問い詰めると、寝ぼけたうえ激痛で訳が分からなくなっているイワンがぐずる。


「あるべるとさまがおこるからっ、もう、しないっ!!」


何なのか意味が分からない。

だが、断片的な癇癪を良く良く繋ぎ合せると、どうやら自分への操立てに夢精すら禁じているらしい。

ちょっと路線がずれているが、何とも可愛い操立てをされては許すしかない。

おまけに機嫌まで回復させ、アルベルトは恋人にのしかかった。

イワンはこれが夢と思っているらしく、まだごねている。


「いやっ!ゆめのなかまででてこないでっ!!」


どれだけ痛いのか分からないが、顔が白くなり始めている。

自分を見て感じている事実が嬉しくて紐を切ると、一気に血が集まって勃起した。


「だめ、いや、やめてっ」


泣くどころか癇癪起こし始めたイワンを宥めるように抱くが、扱こうとすると酷く怒る。

どうやら『彼の夢の中にわざわざ出てくる、快楽を煽って苛める幻影』だと思っているらしい。

現実だと言っても聞かないだろう、かなり混乱しているから。

そう思って、優しく扱いてみた。

イワンが嫌がって腰を捩る。

押さえつけてやんわり扱くが、まだ頑張る。

自分の一言がここまで恋人を駆り立てたかと思うと、嬉しさと同時に不安を感じる。

自分にそんな価値は無いのに、考えずにものを言う事だって多々あるのに。

恋人が自己拷問して死ぬのでないかと危機を感じた。

実際、イワンはアルベルトが命じれば死ぬ。

消えろと言えば姿を消すだろう。

一人でだって、心は死んでも生きていける。

だが、快楽や貞操、性的な話になると、イワンは非常に幼く頑なで、不器用だ。

アルベルトが言えば誰に奉仕する事も我慢し、自慰を禁じれば切除になるまで、縛ってだって堪えるだろう。

完全無欠な人間などいないが、恋と性に関してこういう状態だと、目を離せない。

とんでもない事にならないよう、なるべく早く躾けねば。

そう思いつつ、優しく耳を舐める。

イワンは顎をがくがくさせながら、まだ堪えていた。

ゆっくりと絞って、優しくこする。

嫌がる恋人を諭し、宥め透かしていかせる。

吐き出された精液はとんでもなく濃く、多量で、酷く厭らしい匂いをさせていた。

ごくりと唾を呑んだが、思わずそれを口に運んでいると、イワンが激しく暴れ始める。

意味の分からない喚き声をあげて癇癪を起し、夢の中だからと決めつけてそれはもう暴れる。

射精してしまった、悪い事をした、いけないことだ、また叱られる、怒られる、嫌われてしまう。

そういったような事を喚き散らしてぐずられ、ほとほと困った。

あやしてキスを繰り返すが、益々嫌がるばかり。

抱えて風呂場に行って、シャワーで温めてやる。

イワンはえぐえぐしながらお湯に打たれて座りこんでいるから、その間に浴槽に湯を張って、自分も濡れた服を脱いだ。

抱えて沈み、宥め透かして泣きやませようとした。

しかし、イワンはどうせ怒られるのだ、もう嫌われるのだと泣きだし、それならいっそと、固くそそり立ったアルベルトの男根を受け入れようとし始める。

まだ和らいでいない後孔に益々癇癪を起し、アルベルトがやめさせようとしても聞かない。

代わりに指を入れてやると、腰を擦りつけて貪り始める。

余程溜まっているのか、反響する喘ぎ声はかなり大きい。

自棄になったように喘いで身体をくねらせ、快楽を貪る姿。

初めてかもしれない。

こんなに素直に快楽を貪る姿は。

草原を疾走する鹿のように、生き生きと美しく、身惚れる。

汗と湯の雫を飛ばして激しく身を震わせ、まるで獣のように。

美しく、清々しく、そして艶やかに。

激しく身を震わせながら掠れた声で咆哮し、イワンは意識を飛ばしてしまった。

何だか鼓動が収まらず、どきどきしながら従者の顔を上げさせてみる。

寝顔は愛らしいのに戻っていたが、何だか。

知らない一面を発見したようで、嬉しいと、思った。





翌朝、アルベルトは自室で一人、鉛筆を持っていた。

恋人はまだぐっすり眠っている。

傍らに座って絵を描いているのだが、どうも満足いかない。

昨日初めて見たあの顔が、描けない。

同じような表情のはずなのに、あの美しい輝きが無いのだ。

目の前の恋人と照らし合わせても、同じ寝顔を描いても、全く駄目だ。

矢張り、生の恋人が一番素晴らしい。

そう思いながら、なんとなく窓の外を見る。

まだ薄明るい程度で、外より室内や自分がはっきり映る。

ふと思いついて、自分の顔を描いてみた。

少し笑ってみて、窓に映る自分を写すように描く。

4つ折りにして、恋人の枕の下に押し込んだ。

幸せそうに眠る恋人の額に、柔らかいキスを。

そして唇に、目覚めのキスを。





***後書***

自分の夢を見せると言うより、後で発見してこっそりオカズにしろという無言の要求。