【 御主人様のお気に召すまま-157 】
「断然下着派」
「全裸派」
「破れた派」
同僚のメカニックに混じって作業をしていたイワンは、やれやれと苦笑した。
同僚と言っても40も上から15も下と幅広い同僚たちだが、今日一緒に作業しているのは昔からの知り合い。
時折飲みにも行くし、他愛の無い話や相談もする古い付き合いだ。
似たり寄ったりの年齢のが固まっている、おまけにみんな男。
話は勿論、下ネタ。
好みの裸はどれかと言う割とソフトな話だが、純情気質のイワンはちょっと恥ずかしい。
が、それを目敏く発見されてしまった。
「あれ、お前この話も駄目なのか?」
「い、いや、その・・・・・す、好きに話してくれ、気にしないで良いから・・・・・」
犬だったら耳をピコピコさせて焦るような慌てっぷりに、皆工具を持ったまま顔を見合わせる。
この純情気質のメカニック部署一のアイドルを弄るのは面白い。
「んん?じゃあ、お前はどんなのが好きなんだ?」
「下着とか水着っていいでしょ?」
「いやいや、破れだよね?」
「え、あ、な、何で脱がせてしまうんだ・・・・・?」
「おやぁ、着衣が好きです発言?」
やーらし、と笑うと、イワンが目を瞬かせて顔を真っ赤にする。
「ち、違う。その、脱がせなくったって十分・・・・・その・・・・・」
ちょっと想像しているらしく、もじもじして恥ずかしがる。
何とも純情だ、本当に33歳で同性かと疑ってしまう。
「どんなのがお好みかい、金髪?長髪?巻毛?」
「お洋服は看護婦さんと女王様がありますがー?」
「か、からかわないでくれ・・・・・」
作業が終わらないと逃げる事も出来ないし、悪乗りした同僚にからかわれまくる。
嫌な感じはしないが、何だか自分の好みを話すのは恥ずかしい。
「まぁそう恥ずかしがるなって。・・・・・あ、そっちのボルト一個くれ」
「ああ、投げるぞ・・・・・・だって恥ずかしいものは恥ずかしいだろう」
「何で?・・・・・・145367螺旋余ったけど使うトコある?」
「こっちパス。・・・・・純情気質のメカニックアイドルに聞いてやるなよ。恥ずかしがり屋さんなんだ」
「お前達な・・・・・私は普通の成人男子で、33歳で禿頭だ。顔も映えないし、そういう・・・・・」
「イワンちゃんは俺らの癒しだしぃ?」
けらけら笑って、鼻頭のオイルを拭ってくれる。
拭ってくれた布も大概オイル塗れだが。
でも、この匂いが好きだ。
「正直、今は忙しくて時間がない」
「あのー、それってどっちで取れば良い?」
「?」
「忙しいのはお仕事?恋?」
「・・・・・・・・・・・・・えっ、あ、し、仕事だ!」
意味を理解した瞬間慌てながら、イワンの手指は器用に工具を使っている。
メカニック連中はその繊細なのに自分たちと同じ事がこなせる指が好きなのだ。
元々楽器の修理をやっていたらしいが、こちらの方が向いているのではあるまいか。
「まぁ、良いけどな。どっちにしろ、お前が嬉しそうに笑ってられりゃあいいのよ」
「そそ、俺達狙いにも取りにもいかないモブだし?どっちかって言うとあれか」
「あー・・・・うちわとかはっぴとか、ブロマイド?」
「今年入ったのもかなり持ってるだろ、神棚用」
「ああ、焼き増しかかったとか」
「イワンちゃーん、こっち向いてー!って囃すのが得意だし・・・・親衛隊?」
ねー?と全員から笑顔を貰い、イワンはとても不審そうな顔をした。
「・・・・・・・・・・一休さんか?」
「ぶっはは!!!」
すっきすっきすっきすっきすきっすき、愛・してる!みたいな愛嬌の話だと思ったらしい。
確かに頭もそんな感じだが、あの小憎たらしい小僧より十倍は可愛い我らがアイドルだ。
勿論ドラマ要員で無くバラエティで弄られに特化した天然アイドルと言う意味で。
「もー、イワンちゃんのそういうとこ好きっ!」
「ああ、やっぱこれじゃないとな」
「癒されますわぁ・・・・・」
「?」
何だか分からないが、全員に頭を撫でられてしまった。
作業が終わっていないのは自分だけ、それも今繋いでいる配線で終了だ。
皆で出て、ウラエヌス・・・・・今まで居たのはウラエヌスの内部だったのだが・・・・・動作の不具合がないかの点検をする。
良さそうなので、皆で飲みにでも行こうと話していると、仕切りの無い隣の空ラボに駆けこんでくる影。
「うわー・・・・こりゃ酷い・・・・・」
「貴様が大丈夫と言ったのだろうが・・・・・」
「そんな事言ったっけ?もう下着の中までびちゃびちゃだよ」
「・・・・・・・・・・・・・貴様は適当に生きているのだったな・・・・・」
どうやら何かの用事、または飲みに出も出ていたのであろう盟友組。
雨でスーツはびしょびしょ。
上着を脱げば、ワイシャツが透けて肌に張り付いている。
姿勢を正していたメカニック組が、ニヤニヤして視線を交わした。
『脱がさなくっても素敵なお身体の御主人様か?』
『でしょうなぁ』
イワンを見れば、駆け寄りたいがオイルで汚れているし匂いも酷いだろうと戸惑う姿。
何だか可愛い生き物で、男だ女だというより、イワンと言う生き物のような感じがする。
やれやれと溜息をつき、一人が声を張り上げた。
「申し訳ありませんっ、オロシャのイワンをお借りしていましたため、ご不便を!」
「え・・・・・あれ、イワン君?」
「・・・・・・・・・・居たのか」
「あ・・・・・・お、おかえりなさいませ・・・・・」
つなぎに着替えるほどではなかったかもしれないが、もうスラックスにもワイシャツにも匂いがしみている。
オイルの匂いに包まれた恋人に手が出かけ、しかし踏みとどまったアルベルト。
だが、その盟友はもっと堪え性がなく手が早い。
「わぁ、今日のイワン君メカニックっぽいね、格好良いよ」
「あ・・・・・ありがとうございます」
手をぎゅっと握られ、イワンが俯く。
あれ、と顎を掬ってみると、頬を赤らめて嫌がる。
「どうしたの?何か嫌?今日の香水そんなに・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・セルバンテス」
「何で睨むの、いいじゃない、ちょっと手をギュッてするくら・・・・・・あっ」
もしかして、私の身体にどきどきしてるの?
にこーっと笑って問い詰めてくる男と、そうだったら性折檻まで一直線するつもりの男。
2人で国一つ潰せる男達では、メカニックが集まっても先ず勝てない。
メカニックたちはさてどうしたものかと視線を交わしたが、アルベルトが手を出す方が早かった。
がっとイワンを抱えて担ぎ、すたすた歩いていく。
イワンが助けを求めるように手を伸ばしたが、誰一人として動かない。
と言うか、全員良い笑顔で手を振っている、幻惑含め。
孤軍奮闘のイワン、持って行かれた先が主の自室であるのに肝を潰した。
こんなオイルの匂いの身体、汗もかいた身体を差し出せない。
逃げようともがくと、服を剥かれてベッドにぽい。
アルベルトがにぃっと笑ってネクタイを緩める。
余りの格好良い男っぷりに、イワンは内心めろめろだ。
雨で乱れた髪、濡れた首筋。
どぎまぎしていると、アルベルトがワイシャツを脱ぐ。
くらくらしてしまって、見つめるしか出来ない。
逞しい裸体にこくんと唾を飲むと、アルベルトは従者の様子に首を傾げた。
てっきりセルバンテスに見惚れていると思って折檻してやろうと思っていたが、先程より今の方が余程・・・・・・。
「っ・・・・・・・・」
思い当った事に、思わず目を逸らす。
矢張り恋人が自分に身惚れるというのは、誇らしさもあるが気恥ずかしい。
しかし、イワンは純な瞳で惚れ惚れと見つめている。
気を取り直し、押し倒した。
「イワン・・・・・・・・」
「だ、駄目です、汚・・・・・」
「構わん」
オイルの匂いは染みついているし、服にも少し付着していた。
しかしそう問題はないし、もう目の前の身体は丸裸、オイルの匂いも中々そそる。
べろっと舌を這わせると、白い肌がさぁっと粟立つ。
その感触を手のひらで楽しみ、一度顔を上げて髪を掻きあげる。
落ちてくるのが邪魔だ。
が、視線を上げると、恋人は益々見惚れてしまっている。
どうもやりにくいが、やるしかない。
胸の尖りをちゅっちゅっと吸ってやると、イワンがもじもじと腰を捻る。
そろそろと手を這わせて確かめると、勃起していた。
優しく握って、柔く扱く。
じっと見つめるのをとろかして有耶無耶にしようという作戦だったが、それは作戦ミスだった。
真剣な顔の素敵な御主人様に夢中のイワンは、頬を赤らめて息を弾ませながら必死で見つめてくる。
性戯を受けながらカメラ目線の女優のようで興奮する、もっと言えばそれよりずっと厭らしく純情だ。
互いに夢中になって見つめあっていると、お座成りになっていた手淫が甘くなり、イワンを生殺しにしていく。
アルベルトも勃起しているが、半端な刺激を受けていない分楽ではある。
イワンの表情は益々艶やかになり、それに興奮を隠せないアルベルトの男臭さも増し。
良い意味での、悪循環。
堪え切れずにアルベルトが指を差し入れるまで、20分近く続いた。
指を入れても、イワンは快楽に悶えながら必死でアルベルトを見つめている。
此処で微笑んでやるなんて言う小技もない駄目な男は、それゆえ非常に格好良い。
見つめあったままに身体を開かせ、宛がう。
差し入れていくと、亀頭も飲まないうちに目が眇む。
アルベルトの赤い目も、イワンの黒い目も。
アルベルトは持って行かれぬように、堪えるようにだが、イワンは痛みに耐えるもの。
そのまま亀頭を埋め込むと、かりの返しで急激に感覚が変わる。
かりの裏を擦る柔らかな入口の肉に息を詰めて見やると、イワンも息を詰めていた。
口の端を僅かに強張らせ、一番大きな部分を飲んだ直後の激痛をやり過ごす。
幹を沈めていくと、その苦悶の滲む顔が徐々に恍惚と蕩け初め、最終的には堪らぬ表情になる。
うわごとを呟くように開閉する唇からは熱い吐息が出入りし、頬は赤らんで果実のようだ。
鼻頭もほんの僅かに色づき、眦も。
眉は切なげに寄り、睫毛は震えている。
純過ぎて厭らしい表情に我慢できず最後まで差し入れると、目を閉じて痛みを堪える。
だが、馴染むまで待ってやると、互いの中に響く互いの鼓動。
敏感な肉管に与えられる命の振動に、イワンがもじりと腰をずらす。
その腰を掴み、突然突き上げた。
「ひぁぐっ!」
「っは・・・・・・」
極悪人の悪い笑みに、イワンの鼓動が跳ねる。
どうしよう、アルベルト様が格好いい。
好きで好きで、凄く気持ちが良い。
そんな可愛い事を考えていれば、当然顔に滲み出る。
必死にシーツを握っているイワンの指を自分の肩にかけさせ、激しく突き始める悪い男。
「あぁっ、あっ、あ」
「ふ・・・・・・良い顔だな、っ」
「うぁ、は、ああ、あ」
ぢゅっぢゅっと粘膜が擦れ合う音がして、興奮を煽る。
悪くはないがいつもと微妙に違う締まり方に首を傾げると、イワンはまだ自分を見つめていた。
セックス中の恋人の顔に、酷く感じている。
一方的にでなく、互いに。
堪らぬ事実に息を荒げ、抱きつぶすほど力を込めて抱きしめる。
奥の奥に種付けすると、イワンが甘ったるい吐息を吐いて吐精した。
「はふぁ・・・・ぅ・・・・・」
「っは・・・・・・・・っ」
ぢゅぽっと引き抜くと、濃い精液が糸を引く。
一滴垂れ落ちたが、締まりの良い孔はそれ以上は零さなかった。
厭らしいと思いつつ顔を上げ、思わず苦笑する。
恋人はまだ自分を見つめていた。
射精の余韻に浸る顔を見て、そして苦笑する優しい顔に。
はんなりと、微笑んでくれた。
***後書***
イワンさんは、メカニックチームの清純派アイドル。