【 御主人様のお気に召すまま-159 】



ロシアン薬品ルーレット大会。

何だか出来が微妙な効果のものばかりを集めた大会。

レッド、幽鬼、怒鬼、十常寺の調合品で、全部で12種。

ルーレットと言いながら、番号の振られた薬品を各自があみだで引く。

一番手、幽鬼。

彼は赤いドクロ印を引いてしまった。

言わずもがな、レッドの薬品である。

常なら大変不安だが、この場合はかなり安全だ。

レッドは攻撃系の薬品が多いから、失敗という事は通常のステータス異常の可能性大。

幽鬼のは状態異常系が多いので、曲がり間違うと飲んだ瞬間胃の辺りが爆発なんてものが混じっている。

十常寺は狙いかそうでないかが怪しいが、死ぬ事は無い・・・・と思う。

問題は怒鬼であり、彼の不思議過ぎる薬品の失敗がどんなものかは未知数だ。

そんなものでロシアンルーレット大会をする十傑も十傑だが、間違いがあっても良い孔明は兎も角イワンまで入れるのか。

鬼のような話だが、今まで死者は出ていないので大丈夫・・・・・だと良いなと思う。

そういうわけで、幽鬼は赤いドクロ印の瓶を一気に干した。


「・・・・・・・・・・・・プリン味?」

「ああ、味はな」


3分待って、幽鬼は呟いた。


「・・・・・・・・・腹が張ってきた・・・・・いや、痛いとか下したとかいうよりこれは・・・・・・」


ヨーグルト、海藻、蒟蒻・・・・・いや、それより・・・・・・。


「乳酸菌錠剤的な感じがするんだが・・・・・・」

「そうか、私も効果は分からん。それで済むなら詰まらんが、まぁどうでも良い」

「ああ・・・・・次に行こう」


仲が良いのか悪いのか分からないガキ大将と引き籠り。

怒鬼がヒィッツに視線をやり、ヒィッツが『香典・・・・・五万で良いんじゃないか?』と言っていた。


「よし、次は誰だ」

「ああ・・・・・私が行こう」


ヒィッツカラルドの手には、枯葉マークの小瓶。

言わずもがな、幽鬼の作品である。

錠剤タイプのそれを水で飲み下し、3分待機。

時間とともに、胃の辺りがかっかしてくる。


「・・・・・・爆発とか言うなら遠慮だが、完全に胃酸過多だ」

「そうだったのか・・・・・自分で飲んだがまるで調子が良いだけでな・・・・・」


胃酸の薄いもやしっ子には大変良かったようだが、肉でも魚でもオリーブオイルをかけてワインと楽しむ男は至って胃酸は普通。

逆に、身体検査では量は兎も角酸性度がかなり強いと言われている。

それが過多、下手をしたら胃痛では済まない。

すぐさまイワンが牛乳を用意し、それを飲む事に。

牛乳は胃壁を保護するから、かなり楽だ。

胃酸が出続けている間は牛乳をちびちびやる事にして、次。

怒鬼が進み出て、赤のドクロの小瓶を一気。

3分後、彼は小さく頷いて幽鬼に何かを伝えていた。

どうやら無言で色々自白しているらしい。

問われなくても吐きたくなる自白剤は画期的だ。

幽鬼が備え付けのホワイトボードに書き出すが、殆どの話がとても小さな懺悔だ。

蟻の巣に水責めして遊んだ幼少期、カマキリの腹を裂いて針金虫を引っ張り出した少年期。

しかしそれに混じって懺悔されたもの。

3日前、イワンの部屋に忍び込み、彼の枕を窃盗したと言う。

毎日のように頭を乗せ・・・・髪さえ無い彼の禿頭をだ、そして寝ている間に体臭と柔らかめの汗を吸い、本体はほぼ100%洗濯されない・・・・・。


「ひぃぃぃっ!かかか返してくださいっ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


返す事は出来ないと首を振る怒鬼。

懺悔はしても、改心する薬品ではないのだ。

自分の数年愛用した枕で何をされているかは薄らと想像がつき、身体中が痒い。

眼球をほじくって洗って、皮を剥いで洗濯機に入れたいほどに痒い。

そして同時に寒い。

そんな変な方向に走っている上司、いつか何かされるかもしれない。

でも大丈夫、この人には血風連というストッパーが居る。

大丈夫、大丈夫、大丈夫、怖くない、怖くない、怖くない!

動物の立場のイワンが彼自身にナ●シカ戦法をかけている状況だが、普段通りなので誰も気にしない。

さらっと流して次に行く。


「私は十常寺のを引いた」


レッドが持つのは、『この道路は動物が横断する可能性があります』の標識(狸ver.)のマークがついた小瓶。

錠剤をあろうことか噛み砕いて飲み下し、待つ事3分。


「・・・・・・・・川の向こうで手を振っている男が・・・・」

「よし、そのまま行け!」


ゴーサインを出してしまったのは幽鬼だったが、落とし穴があった。


「不健康そうで、やや痩せ型で、揉み上げが伸び放題、顎に特徴あり・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこかで聞いたような・・・・知り合いかもしれん」


考え込んでしまった幽鬼に、誰も鏡を見るよう言ってやらないのが痛い。

レッドが何の風景を見ているのかに疑問が残るが、十常寺が爽やかに笑っていたため、皆黙った。

なんて恐ろしいものを見てしまったんだろうか、爽やかな十常寺なんて初めてかもしれない。

続いては、カワラザキ。

手には、同じく狸マークの小瓶。

粉薬を飲もうとして、十常寺に止められた。


「・・・・・・・花街での服用を推奨する」

「おお、そうか・・・・・明日が丁度休みでな」


何で要らないものを与えるんだ!

孔明が床に崩れ落ちて絶叫したが、アルベルトが衝撃波で器用に相殺したため小さな呟きになってしまった。

花街100人斬り伝説を作るのは勝手だが、花街の機能が停止する遊びっぷりは何とかならないのか!

しかしもうこうなっては取り返せないし取り返しもつかない。

涙を飲んだ策士が手にするは、枯葉マークの小瓶。

液状タイプのそれを一気すると、3分後に彼は呟いた。


「・・・・・・・・・今なら何か・・・・頭の良い事が言えそうな気がします」


地球を手の中で転がす程の頭脳が言う『頭よさげな事』とは一体何ぞや。

それが既に不思議過ぎるが、恐らく聞いても理解できない崇高な話だろう。

聴くだけ無駄と思ったが、孔明は高らかに言い放った。


「天上天下唯我独尊!!」

「・・・・・・・・・だから?」


まったくもって普段の彼を表しているとしか言いようがない。

元々の意味だって、仏と同じように私の魂も貴いのです・・・・の様な話なわけで、自分大好きな孔明に言われても今更だ。

確かに漢字だけが8文字続いて何だか格好良いとか、暴走族の旗っぽいとか、学ランの裏の刺繍向きとか・・・・。

だが、元々彼の母国は何百文字でも漢字だけが続くのだし、結局話にならない。

強いて言えば、薬は頭が良くなるのでなく乱心するかやや知能が低下する効果だったと言う事くらいか。

はっきりは分からないが誰も調べる気が無く、仕事上困るが私的にならこの程度の孔明でも十分扱いにくい。

2の半分は1だが、20000の半分は10000だよなぁと気づかせる良い機会にはなったが。

さて、気を取り直して次の挑戦者。

白昼の残月。

彼に渡ったのは猫のマークの小瓶。

きっと衝撃画伯に原画を起こして貰ったのだろう。

愛らしくもファンシーなのにどこか生々しい猫。

目力が半端ない三毛猫だ。

シールタイプに印刷しているらしく、瓶には強力に張り付いていた。

4種のマークの中で一番恐ろしい代物を、年若い青年は全く躊躇なく、唇を笑ませたままに一気。

この度胸は半端ない、さっさと泳げと樊瑞に怒られた金づち青年は一体どこへ・・・・・単に面倒くさかっただけかもしれない。

3分後、彼はとてつもなく怒っていた。


「だから何故突然豚になる?!雲の中から帰還したらそうなっていたで誰が納得するんだ!第一あんな格好良い豚食用に出来ん!!」

「知るか!ジ●リの見過ぎだ!豚でなかったら何が良いのだ!」

「断然馬だ!!」

「蹄で操縦できるわけがなかろうが!」

「ハッ、これだから素人は!豚だって蹄だ、だが操縦は出来る!手が人間仕様だからな!」

「だから何なんだ。では貴様が勝手に紅の馬でも作れ!暮れないの馬面でも良いがな!!」


引き合いに出された幽鬼は黙って鏡を見ていた。

馬面云々と言うか、川の向こうの自分に思いを馳せているらしい。

喧々囂々のレッドと残月。

二人をイワンが正座させ、レッドにお兄ちゃんでしょうと諭し、残月にはお兄ちゃんに喧嘩を仕掛けてはいけませんと言っていた。

それと同時進行で、十常寺が手にする猫マークの小瓶。

ぐっと飲めば、3分後、彼は全く同じ姿、状態のまま、窓に映る自分を見つめて呟いた。


「・・・・・・・・・・懐かしき姿」

「どういう事?懐かしいって・・・・・」

「20年前・・・・・・」

「ごめん、もういいや」


十常寺に渡っても何の意味も無い薬。

20年前に初めて見た時から、そういえばまったく変わっていない。

写真を見ても、日付が昔なだけで、傍の同僚は全く変わらないのだ。

実は人形に魂を移し換えて延々生きているんじゃないかなんて考えつつ、次。

樊瑞が飲むのは、赤ドクロマークの薬。

3分後、彼は薬の作者に向かって突進していた。


「ま、マフラーをくれ!!」

「な、何だ?!」

「ああ、もういい!今から国警に奇襲をかけて韓信を・・・・・・」


・・・・・どうやら赤いものに反応しているらしい。

単なる猛牛が出来てしまったが、悪乗りしたレッドが闘牛を始めてしまう。

マフラーを使ってやってみたが、そこで孔明が出た。


「貸しなさい」


奪い取って始めた策士、肉体派でないからすぐ潰れると思っていたら、意外にも彼は上手かった。

と言うか、いつもの片手が後ろスタイルが既に闘牛士っぽい状態で、後はその頭で単純な猛牛をさばいているのだ。

余りに面白い闘牛に、暫く大会は中止。

走り回っていた樊瑞がダウンしたので、孔明が優雅に一礼して幕は下りた。

再開された大会、次は幻惑。

それははしゃいで手に持つのは、狸マークの小瓶。

ぐっと呷って3分後、事件は起こった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・イワン君なんか、嫌い」

「えっ」


不安げなイワンに、幻惑がツンとそっぽを向く。


「べ、別に凄く嫌いなんじゃないよ、でも、私に構ってくれないし・・・・・別に構って欲しくないけど、でもっ」

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」


凄く面倒なツンデレが出来てしまった。

普段話術が上手い分、ツンなんて殆どする必要が無い男。

ツンデレの能力は皆無に等しく、何とも悲惨だ。

ツンデレたい気持ちが先走って、全然ツンデレていない。

延々20分可哀想なツンデレっぷりを聞いていたが、突然薬の効果が切れた。

その瞬間、セルバンテスがイワンに抱きつく。


「ごめん、ごめんね、困らせて。でも、私はただ・・・・・君が好きなんだよ・・・・・」


薬が切れた瞬間遺憾なく発揮される巧みな話術。

それも本心からだからますます磨きがかかり、流されやすいイワンは危うく頷いてしまうところだった。

主に回収され、薬の瓶を渡される。

狸マーク。

ちょっとどきどきしながら目をつぶってごくっと飲み込むと、3分後、瓶が手から落ちた。

割れたりはしなかったが、イワンは自分の手を見つめてきょとんとしていた。

自分の身体に触り、困ったように笑う。


「あの、触覚が機能していません」

「それは・・・・・・」

「体内の感覚は残る故」


口を出した十常寺に、全員顔を見合わせ、にたぁっと笑う。

イワンはすぐさま捕獲され、下半身を晒して四つん這いにさせられる。

暴れても抵抗しても容赦は一切無い。

アルベルトも少しはイワンサービスしてくれるらしく、今日は怒らない。

ローションに浸したコード付きローターを一個二個と沈めていき、徐々に内部が圧迫されていく。

入口の感覚が無いので緊張も無く、割とするする飲み込んでいく。

が、腹の中は感覚があるから、ローターを11個も入れられればごろごろしてかなり苦しい。

11人の男はそれぞれ色の違うコードの先のリモコンを持っている。

そして始まった悪戯は、皆が好き勝手にスイッチを入れたり切ったりというもの。

色とりどりのコードを垂らした孔は激しく蠢き、イワンは悶え狂っている。

涎を飲み下す事もままならず、口を閉める事すらできない。

目の前が白く弾けて、体内だけに感じる振動に悶え苦しむ。


「ああああーっ」

「イワン君、感じ易いねぇ」

「ああ、あ、だめ、だめぇ・・・・・ああーっ」


激しく身体を震わせて射精してしまったイワンの頬を、アルベルトが優しく撫でる。

そしてそのまま自分の分の小瓶を呷り、大会はお開きとなった。





ふらふらしながらの帰り道。

イワンは主の視線が道行く女性を追っているのに気付いた。

いつもより熱心に見詰めていて、それも特定の女性ではない。

どうしたのかと思っていると、自分を見、直ぐにふいと目を逸らす。

そして、また別の女性を目で追う。

イワンは主が薬を飲んだところを見ていないから、大変な誤解をしてしまった。

きっとさっき、あんなにはしたなく乱れたから、呆れているのだ。

今見ていた女性と自分を見比べ、矢張り劣ると視線を逸らしてしまったのだ。

悲しくなって、俯いてついて行く。

実際は、そうではない。

アルベルトの薬の能力は透視であり、イワンを見て慌てて逸らしたのは、まだ仄かにピンクの身体に勃起しそうになったから。

女性達を目で追っていたのは、日中よく見ると従者には殆ど無いほくろが結構あるのだと感心していたから。

そんな動作を繰り返して、屋敷に帰る。

イワンはすっかり委縮して、しょぼくれていた。

それに気付き、何が悪かったかなんて珍しく考えてみたアルベルト。

一連の自分の動作にしまった、と顔をしかめた。

あれではまるで、従者と女を比べていたようではないか。

おまけに従者からはすぐに目を逸らしたし、きっと誤解している。

そろそろと抱きしめると、怯えるようにびくんと緊張する。

抱いて自室に帰り、ソファに座る。

抱えた従者は右の腿に座らせたが、そう重くは無い。

十傑の感覚での話だが。

睦みあうように、違うのだと言って鼻を擦りつける。

頬に口づけ、お前だけだと囁いた。

イワンは涙ぐんでいたのを拭き、照れたように笑ってくれた。

そっと唇を吸ったが、今はここまで。

ドアを見やり、溜息をつく。


「・・・・・・服の裾が出ている」

「えっ?!」


実際は、裾が出るほどの隙間もない。

だが、ドアの隙間から大人の秘密を期待しているのがアルベルトには透けて見えるわけだ。

怒られるかな、とちょっと慌てている娘に溜息をつくが、叱りはしなかった。

慌てて降りようとするイワンを強く抱き、嬉しそうにしつつも羨ましそうな娘を左膝に引き上げ。

恥ずかしがる従者と嬉しそうな娘を。

割と長い事、眺めていた。





***後書***

両膝に華の衝撃氏。