【 御主人様のお気に召すまま-162 】



主従は大概間が悪い。

自分は淫らだと自身を責めるイワン。

縋ってきたところを落としにかかれば38歳の自分でもいけると踏んだアルベルト。

休暇を取って引き籠っているイワン。

休暇を取ったらしいから狙いは今夜と時間差で効く薬物を投与したアルベルト。

部屋の中、擦れる服さえもどかしい自分の身体に嫌悪が募って泣くイワン。

従者が他の人間のところにいかず自分に縋るよう、イワンの部屋の前で待機中のアルベルト。

我慢のしすぎで小水まで出なくなってしまったイワン。

まだ出てこないのかとそわそわしているアルベルト。

膀胱が限界で勝手に漏れる小水に、悲しさが募ってもう涙さえ出ないで呆然とするイワン。

まだかまだかとうろうろしているアルベルト。

窓からこっそり侵入したのは。

セルバンテス。





「イワン君、どうしたの?」

漏らしちゃったなんて君らしくない、どこか悪いの?

心配そうに言われ、イワンは茫然と俯いたまま頷いた。

手も投げ出したアヒル座りのまま、パジャマのズボンを湿らせてしまっている。

息は必死で繰り返しているが酷く熱く、震えている。


「苦しいかい?水は飲める?」

「・・・・・・・・・・・・・・はぃ・・・・」


どちらもまとめて『yes.』の答え。

掠れた返事と、僅かに上下する頭。

可哀想になって、台所から水を持ってくる。

ひとつだけ氷を入れて僅かに冷たくした水。

渡したが、余りに手が震えて恐らく落とすと思った。

やんわり手を離させ、上向かせる。

唇にそっとグラスを当ててやると、疲れたように目を閉じた。

小さな音を立てて飲み込まれる水。

グラスを離し、一筋伝う水をそっと指で拭ってやる。


「・・・・・落ち着いたかい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・はい」


余りに下手な嘘。

皮膚を食い破って出てきそうな肉欲の衝動。

男に蹂躙されたがる身体。

愛を求める心。

優しく頬を撫でると、掠れた声が呟いた。


「・・・・・・私は、10年の間に何をしたのですか・・・・?」

「うん?」

「こんな身体になるまで、一体どれだけ快楽を貪ったのですか・・・・?」


泣きそうに歪んだ瞳が、縋るように見つめてくる。

セルバンテスは困ったように笑った。

内心では、苦笑だ。

確かに相当な回数はこなしている、だが、純情に一人の男を受け入れるばかりの身体。

そっと頬を包み、額を合わせる。


「君はね、アルベルトの恋人になったんだ」

「えっ・・・・・・・まさか・・・・・」

「本当だよ。私含め、十傑も孔明も、振られてしまった」


酷く戸惑って信じられないと言った風のイワンに、優しく言い含める。

どんなに自分が愛しているか、どんなに盟友が愛しているか。

どんなに自分が優しくしてもらっているか、どんなに盟友が愛されているか。

切なくも悲しい事実を隠す事が、どうしても出来なかった。


「もし君が許すなら、私は君を攫いたい。でも、何より君の幸福を願うから攫えない」

「セルバンテス様・・・・・・」


余りに優しい言葉に我慢できずに泣いているひとは、矢張り若いと思う。

今の彼は、泣くのを必死で我慢できる悲しい術を覚えてしまっているから。


「イワン君、大好きだよ」





「・・・・・・・・・・・・・・」

「大丈夫だよ、変な事はしていないから」

開いた扉に振り返ったら盟友が出てきて睨みつけたアルベルト。

セルバンテスが苦笑する。


「本当は食べちゃおうかなって思ってたんだけどね」


アルベルト様、って泣くから、何だか気が削がれちゃった。


「今、泣き疲れて眠っているよ。随分泣いたから、上手くいけばそろそろ記憶が戻るかもね」

「・・・・・・・・・・・・・・そうか」


目を逸らす盟友が妙な事を言い出す前に、釘をさす。


「私では彼を幸せには出来ないよ。彼が私を好きになれば別だけれどね。君を愛している彼を、幸せに出来るのは」


君だけだ。

すれ違いざまの、無機質な声。

振り返りさえせずに歩いて行く盟友は、いつもの調子で振り向きもせずに手を振っている。


「じゃあね、今度チェスでもしよう」

「・・・・・・・・・ああ」





泣き疲れて眠っているイワンの頬をそっと撫でる。

温かな頬は少し熱っぽく、開けっぱなしの窓に薄まった僅かな異臭。

不快と言うほど濃くないのは、投与した薬品が排出されるための、水分と薬ばかりの小水だからだ。

少し迷ったが、薬品と塩分で皮膚が傷むのは可哀想だと思った。

そっと脱がせて、綺麗に拭ってやる。

一般的には普通、しかし11人+αの男は可愛いと思うであろう柔らかい雄。

手が出かけたが、我慢。

半立ちでぴくぴくしているのは思わず口に含んでやりたくなる。

ごくりと唾を飲み、ベッドに座って頬を撫でてやる。

しかし20秒に一回はそこを見てしまう。

が、イワンが起きる気配がして目を離した。

少し重そうに目を瞬かせ、見上げてくる。

とろんとした目に、スラックスの中の男根がかなり痛い。

黙って頬を撫でてやると、うとうとしながら擦り寄ってくる。

性的に揺らめく腰は、この愛撫と呼べぬ指の感触にすら敏感な身体を表している。

武骨な人差し指の先に吸いついて、ちゅぅちゅぅ吸い始める。

夢現ならもっと乱れればいいのに、指を吸って気持ち良さそうにしている。

それが例えようなく厭らしい。

やんわり口の中を掻き混ぜてやると、びくんと腰が跳ねる。

震える手で必死に指を掴んで、口に出し入れする恋人。

深く含んで苦しかろうに、立ちあがったものはぴくぴくして汁を垂らしている。


「んん・・・・・ぁふ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「んんんっ」


ぐぐっと喉の奥に指を入れ、掻き回す。

苦しそうな声を上げるのに構わずやってやると、直ぐに白濁を噴き零した。

ずるりと引き抜いた指は粘度の高い唾液に塗れ、イワンはすっかり蕩け切っている。


「はぅ、ふ・・・・はふ・・・・」

「・・・・・・・」


ジッパーを下ろして、かなり痛かったものを開放する。

突っ込むのは流石に控えようと思っていると、イワンが這って腿に縋る。


「イワン?」

「ん・・・・・・・・・おちんちん・・・・・」

「っ・・・・・・・・」


ちゃぶりと口に入れて舐め始めるのに躊躇はみられない。

だが、どこかぎこちない。

記憶が戻りかけで混線しているのだとは分かったが、そうなるとこちらからは出方が難しい。

黙って頭を撫でてやると、幸せそうに男根をしゃぶる。

片手で支えて、頬の裏に先を擦りつけて。

反対の手は、崩れそうな膝の癖に自慰を始めている。


「ん、んっ、おひんひん、おいひぃ・・・・・・」

「い、イワン?」

「ん・・・・・・いつものより、すき・・・・・・」


いつものより、と言われて一瞬思考が停止した。

待て、いつもは誰のを咥えている。

問い詰め方を図りかねている間にも、イワンはまるでキャンディをしゃぶっているような事を喋っている。

腹が立つ前に、訳が分からない。

流石に精神面がそうではイク事も出来ず、ただ上下する頭を見つめる。


「あぅえうろひゃま・・・・・・」

「だ、誰だ?」


思わず膝に座らせて顔を覗き込む。

イワンはまだ夢現に漂ったままだ。


「あるべるとさまの、おちんちん・・・・・・」

「い、いつもは」

「・・・・・?」


イワンの視線が下がって、身体的には限界ぎりぎりに高まっているものを見る。


「・・・・・・・いつも、これ・・・・これしか知らない・・・・これしか、要らない・・・・」


もの欲しげに唇をもぞもぞさせるのに、精神的に感じた。

目の前で白濁を噴き始めたものに、イワンが駄々をこねる。


「あ、あっ、零れてる、放して、舐めるっ」

「そ、そうか・・・・・・」


手を離してやると、いそいそと男根をしゃぶり始める。

可愛いも可愛い、最早犯罪級だ。


「ん・・・・・・・おいひぃ・・・・・」


夢じゃないかと思う。

まるでAVの女性か商売の娘のようだ。

だが、邪気がないから何も知らない子供、もしくは動物に何かしているような罪悪感がある。

男根をもぐもぐしてもう一度絞ろうとしている従者をそろそろ抱き起そうとするが、何の躊躇もなく。

引っ掻かれた。

邪魔をするなとばかりにぎっと睨んでいるのはまるで動物の様で可愛いが、男根をしゃぶってその顔は正直どうかと思った。

無理強いでもないし、強いて言うなら襲い受けだろうか?

そんなに怒るほどの事か、そんなにそれが好きなのか。

従者が自分に惚れ切っているのは知っているが、何割が息子のおかげなのか。

まだ枯れるわけにはいかないと強く心に刻んで、そのまま。

8発抜かれて、地獄を見た。





「はっはっは!最初は何回やったのか、返答によっちゃ殴ってやろうと思ったんだけれど。それは君の負けだね!」

ソファに座っているのがやっと、しかし意地で盟友とチェスをしているアルベルト。

先ず勝てそうにないが、どちらにせよ勝てる確率は限りなく低いのだから構わない。


「・・・・・・・可愛かった」

「そうだよねぇ、わざわざ焦らして先走りも堪能してたし」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「良いじゃないか、盗撮くらい」


別に構わないが、嬉しくもない。

勝手にしろと言って、ナイトを動かす。


「チェックメイト」

「あ」

「待った無しだ」





***後書***

イワンさんからおてぃんてぃんを取りあげたら威嚇される、そんな俺得話でした。