【 御主人様のお気に召すまま-165 】



「あ、アルベルト様・・・・・・」

頬を染めて恥ずかしがる姿が愛らしい。

戸惑うような仕草は毎回変なプレイばかりだからだろう。

変わった事ばかりだった時に、唐突に普通にされると恥ずかしいものだ。

眉根を下げて困った顔をするから、キスをしろと命じてみた。

吃驚したように目を瞬かせたイワンだったが、おずおずと唇を押し当ててくる。

何故そこで頬なのかが不満だが、奥床しさににやけない事もない。

顎をしゃくって口にしろと言えば、視線を下げてそっと押し当てる。

そのまま離れた唇を目で追うと、自分から離れるように一歩下がる。

頬を染めて、僅かに震えて、視線を床に彷徨わせて。


「・・・・・・・あ、あの、帰ります」

「・・・・・・・・・・・何故だ」

「ご、御様子がおかしいですし、お疲れでしょうし・・・・・」


おろおろとした様子に、口端が笑む。


「疲れが一定を超えるとどうなるかは貴様も分かろう」

「で、ですが」

「最初から最後まで、貴様が面倒を見ろ。それが今日の命令だ。寝ているかもしれんが、最後までやれ」


我儘放題で何様の発言だが、イワンにとってアルベルトは心酔する唯一の御主人様。

自分に対する命令で、それもこれは叶えられないわけではない。

誰にも迷惑をかけないのだから、叶えて差し上げたい。

一人がけのゆったりしたソファに座るアルベルトの傍により、イワンは静かに頭を下げた。


「・・・・・・・御奉仕させてください」

「・・・・・・・・・・・・・・・良かろう」


膝まづいて、チャックを下ろす。

そっと押さえて挟まないようにしながら取り出したものは大きく、恥ずかしさが募る。

そっと持ち上げて取り出すと、なんともまあ可愛げの欠片もないものが出てくる。

むわりと男の匂いが漂って、酷く心が震えてしまった。

先をそっと咥えて幹を扱くと、割と直ぐに硬くなる。

しかしここからが長いのだ。

我慢がきく上に焦らすのが好きなアルベルトは、いつも堪えてイワンの身体を先走りまみれにする。

身体に擦り付けても、口に入れても、下から差し込んでも、手指で扱かれても。

自分の体液が恋人の身体を汚すのが好きな男は、焦らしに焦らしてくるのだ。

先の丸みを舌で丁寧に舐めていると、甘苦い味がし始める。

喉に押し込んで頑張るが、矢張り味がきつい。

他の男性の味なんて知らないが、前に舐めさせられた自分のものよりは断然濃いと思う。

ぎゅっと溜まった唾液を飲み下し、亀頭を全部口に入れる。

再び溢れる唾液を使って音を立てながら舐めると、益々硬くなっていく。

愛しさと嬉しさを感じ、奉仕に一層愛が籠もっていく。

自分の口や指で快楽を得てくれるのが堪らなく嬉しいし、興奮してもらえるのが心地いい。

じゅるじゅると音を立てて舐めていると、溢れた唾液が顎を伝い落ちた。

先走りと混じって変わった匂いがするが、それすら心地が良い。

スラックスの中の自身が痛むが、我慢して奉仕を続ける。

口から出すと唾液が糸を引き、ぼたりと床に落ちた。

そっと膝に乗り、主のワイシャツを肌蹴る。

現れた逞しい胸に無意識に微笑んでいる自覚すら無い。

その愛らしくも興奮する仕草に、そそり立つ男根がぴくりと動く。

胸元に唇を寄せ、一瞬の躊躇の後に柔らかく噛みつくイワン。

はみはみと甘噛みを繰り返し、なめらかな頬を擦り寄せる。


「あるべるとさま・・・・・」


濡れた声に喉が鳴る。

抱きそうになる腕をひじ掛けに戻して見つめていると、幸福そうに頬を染めた従者が首筋を優しく愛撫する。

痕さえつかぬ柔らかな吸いあげは、くすぐったくも心地よい。

痕をつけてはくれないと知っているが、黙って好きにさせた。

かりりと筋を噛まれ、口許が笑んでしまう。

髪が無い分暖かな体温をより感じられる。

実は恋人の禿頭が気に入っているアルベルト。

此処にキスをするのも、結構好きだ。

何度も首筋を愛撫され、少し体温があがってくる。

喉仏をつぅっと舐め上げられて、低い笑い声が零れる。

それでも指示は出さずに見ていると、イワンが指を舐め始めた。

どうも、従者は自分の指が好き過ぎる。

うっとりと目を細めるほどの魅力が何なのか全く分からない。

味もしないし、硬い男の指だ。

唾液の滴り具合から相当興奮を感じているらしいが、一体何故。

大事そうに手を持っている彼自身の指までびちゃびちゃになるほどに唾液を滴らせ、必死になって指をしゃぶる。

いい加減焦れてくるのをひたすらに我慢していると、暫くの後にやっと指を放した。

少しふやけ始めているそれを眺めていると、イワンが一度膝から降りて服を脱ぐ。

ワイシャツは残したところが如何にもらしいと思ったが、もう一度膝に乗った彼が腕を掴んだのに気付く。

慣らしてやるくらいはかまわないかとも思ったが、イワンがそれでバランスを取っている事に気付いた。

片手で身体を支え、反対の手で自分の後孔に触れているらしい。

自分でやっている癖に触れた瞬間驚いたように腰を跳ねさせるのが可愛いと思った。


「ん・・・・・・・っ」


指を差し入れる濡れた音がする。

きつそうな音が嬉しくて、ワイシャツから覗く半勃ちのものを眺めてやる。

ワイシャツを押し上げているものは根元と袋を見せびらかしながら、大事な部分はワイシャツに隠している。

その癖先にしみを作ってどんどん硬くなっているのが、厭らしい。

切なげに顔を歪めて指を出し入れするのに興奮を高めるが、手を出すのはぐっとこらえた。

見えないがゆえに勝手な妄想が先走り、音だけでその肉の色を考えてしまう。

ピンク色に濡れた肉が柔らかく開いて包んでくれるのを想像していると、それと殆ど誤差が無い時間で、イワンが腰を下ろす。

中腰のまま宛がって位置を合わせ、膝をじりとずらして、息をつく。

掴まれた指に緊張感と力が籠もるのが分かり、いつも気付かない、否、考えていたより慣れていないのに気付く。

こくんと唾を飲んで腰を下ろされ、暖かな肉に先端が埋まっていくのを感じた。

心地好い圧迫感に喉を鳴らすと、ゆっくりだが躊躇はなく腰が下ろされていく。

きっちり嵌まると、腕に食い込んだ指に一層力が籠もる。


「は、っ・・・・はぁっ、っ・・・・・・」


頬を真っ赤にして苦しそうに顔を歪めているくせに、腰がびくついてしみが広がっている。

腰を掴んで激しくしてやりたいのを堪えてじっとしていると、イワンと目が合った。

困ったように微笑んだイワンが、掠れた声で『直ぐに御奉仕を』を呟いた。

腰をずらして嵌まりを良くし、ゆっくり腰を上げる。

が、体勢か角度が悪かったのだろう、腰が上げづらいらしい。

彼は数度で諦め、自身に手を伸ばした。

此処を弄ると、端的に締まりに出る。

そっとワイシャツをめくる時に、しみに耳を赤くするのが可愛らしい。

糸を引きながらめくった布の下の雄に指を絡め、左手で扱く。

右手は亀頭を包んで、人差し指が先端を擦っている。

先走りがぬめる音がして、中が強く締まった。


「はぁ、っぁ、は」

「っ・・・・・・・・・・・」

「んんっ」


びくんと管が震えて、ぎゅいと締めあげられる。

心地良い感覚に目を細めて舌舐めずりすると、泣きそうな喘ぎ声が耳に入る。


「ぁは、ぁっ、んくぅっ」


そう言えば、恋人は自慰が苦手だった。

とても苦しげに、泣きながらしている事が多い。

それを見ると楽しむ前に押し入って始めてしまうのが常だが、矢張りこの顔は愛らしいと思う。

唇を戦慄かせながら唾液を伝わせ、唇自体にもぽってりと濡れた光が乗っている。

切なげに寄せられた眉は勿論、洟を垂らさないように鳴っている鼻も愛嬌がある。


「あ、あんっ、んっく、ぅく」


手の動きが早まっていたのが、唐突に離れる。

どうしたかと思えばその手が両方とも自分の腕を掴んで、ぎゅっと唾をのむ音がした。

半ば夢中と言える蕩けた表情で、イワンが呻く。

ぎゅっと締められ、思わず息が詰まった。


「ぁ、ぁっ、うんんっ」

「っ・・・・・・・・・」


雄を放り出してしまった事にまた自分を優先するのかと思って気分が下降しかけていたアルベルトの気分が、一気に上昇する。

可愛い恋人は、締める事で酷く感じていた。

身体をびくつかせながら締めては汁を零し、腰をくねらせて締める。

断続的な締めは反射と意思が入り混じり、余りに厭らしい。

強い快感と興奮に、歯を食い縛ったがそう持たなかった。

中に出される熱い汁に身体をびくつかせ、僅かに笑んだ唇から唾液が落ちる。


「ああ、あ、あ・・・・・」


語尾にハートマークがつきそうな勢いの声に、とうとう我慢の限界が来る。

差し入れたままベッドに運んで押し倒すと、反射のようにシーツを握っているのが目に入った。

苦笑して肩に回させると、素直に縋りついてくる。

びくびく締まっている中に勢い良く付き込めば、鳴き声のような悲鳴を上げて身体を震わせた。


「たっぷり可愛がってやろう」





「何その羨ましい話!!」

締めて感じる可愛い恋人の話を零したら、根掘り葉掘り聞かれてしまった。

隠す気もないし、羨ましがられて満更でもない。


「いいなぁ、イワン君どんどん厭らしくなってるのに、全然清楚さが抜けないし」

「・・・・・・・・・貴様の好みではなかろう」

「そりゃ開放的な子が好きだけれどね、イワン君は、別格」


言い切られて、溜息しか出ない。

葉巻を咥えて先を飛ばすと、何故か着火してくれた。

これはいつものだろうと見やると、満面の笑みで強請ってくる。


「ちょっと、イワン君とデートしたいな」

「・・・・・・・・・・・駄目だ」

「どうして?!変な事しないからっ!」

「貴様の変な事は非常に少ないからな」


殆どの事が普通に分類される男に、恋人を任せられる筈が無い。

酒を注いでやり、鼻で笑う。


「イワンが貴様と逢引がしたいと泣いて頼めば考えんでもない」

「うわ、やな男だね。私が彼に幻惑かけられないって知ってる癖に」

「そこを信頼していると考えればよかろう」


好きだから、偽りの幻惑がかけられない。

好きだから、一度でも幻惑をかけてしまったら全てが崩壊する。

好きだから、私はそれが出来ないでいる。


「本当、酷いねぇ」


君も、君しか愛せない彼もさ。




***後書***

普通のプレイをすると冒頭で書いた割に、そういうプレイ。