【 御主人様のお気に召すまま-168 】
「もうね、凄く良い時間だった!」
目が血走っているのでイワンが膝枕をして宥めているが、セルバンテスのテンションは下がらない。
「私があげた玩具で慰める大胆な姿もさることながら、意識の無い君に乗っかって始めちゃう姿と言ったら!」
「・・・・・・・・・待て、何と言った」
「ああ、イワン君ね、君の身体を使ってエッチな事してたんだよ」
勢い良くイワンの方を向くアルベルト。
イワンは泣きそうな顔で震えていた。
「も、申し訳ありません・・・・・・・」
今にも消え入りそうな声で、泣くどころか自決しそうな声だ。
まさかそんな大胆な事が出来るとは思わなかったが、すこぶる機嫌が上昇してしまう。
そんなに可愛い事をするなんて、思ってもみなかった。
「セルバンテス、保存してあるのか」
「もっちろん!見るかい?」
言っている途中から再生が始められ、イワンが潰れた悲鳴を上げる。
その膝に乗せた頭を動かさないのと、イワンの隣に移動したアルベルトの手。
阻むには十分なそれで、強制的に自分の無様な姿を眺める事になる。
目の前で再生されると、記憶に増して酷い行為。
記憶の無い主の身体を勝手に使うなんて、最低だ。
泣きたいのに泣く事すら出来ないほどに精神が張り詰めてしまって、唇を噛む。
身を縮めて怯えているイワンに、盟友二人は顔を見合わせた。
何をそんなに怯えているのか。
こんな可愛い事をされて嬉しくない筈が無いのに、何を怖がるのか。
セルバンテスがやんわり引っ張ると、イワンはとうとう泣きだしてしまった。
子供のようにごめんなさいと繰り返し、何でもするから愛想を尽かさないでほしいと訴える。
怒らないで、でも見当外れだが、おまけに愛想を尽かされると思っているのには驚いた。
大丈夫だと宥めるが、ぐずりっぱなしで聞かない。
そこでセルバンテスが取り出した細長い箱。
優しい笑顔で、イワンを諭す。
「イワン君、アルベルトもきっと許してくれるから」
はい、これ使って。
ティッシュなどという優しい発想が先ず無い盟友組を舐めてはいけない。
それはまたしても懲りずに張型であり、それもどう見たってという形に、三人の視線が集中する。
盟友組は、イワンの顔。
イワンは、自分の視界に移るもの。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・鼻か」
「そうそう、きちんと採寸したからね、もうばっちり」
意味が分からない、何の性癖なんだ。
何故自分の鼻の形のもので自慰をしなければならないのか、おまけに話の流れからして、この二人は目の前で公開自慰をさせるつもりだ。
「まあ、礼も含めて今回は見せてやる」
「日頃の行いって大切だよねぇ」
全然話にならない。
お礼が自分の自慰なんて、絶対におかしい。
そう思ったが、強く出られない弱みがある。
目の前で再生されている自分の醜態。
泣きそうになりながら二人を見ると、悪い笑みで微笑まれる。
「さっきのだって、君のなんだよ?」
あれはね、君のの形をとったんだ。
自分ので気持ち良くなっちゃうなんて、悪い子だねぇ。
からかうような口調はいつも通りなのに、顔がいやに悪いから、凄く格好良い。
起き上がってマフィアのボスの様な顔でニヒルに笑う隣には、また種類の違った同じ職が出来そうな男。
特にその葉巻虫の顔に弱いイワンは、耳まで赤らめて俯いてしまった。
目を潤ませている姿はすっかり従う体勢になっているが、矢張り恥ずかしさは否めない。
だが、主が言う以上逆らう事は出来ない。
それだけの事を自分はやってしまったのだし、従うのが精いっぱいの。
誠意だ。
こくんと唾を飲んで、そっと服を脱ぎ落とす。
駆けこんだ浴室で纏ったのはパジャマだったから、直ぐに素肌が晒された。
顔を上げる事が出来ないが、突き刺さる視線は嫌でも感じてしまう。
恥ずかしさに耳を熱くしていると、小さく笑われる。
びくんと震えてしまうともう一人にも笑われてしまい、決まりが悪かった。
裸になってしまって床に座ろうとすると、ソファに座って足を開くよう言われる。
ぎゅっと唇を噛んで、ソファの上に上げている脚を開くと、後孔まで丸見えの状態になってしまう。
恥ずかしさと緊張で締まってしまうのを感じながら、どうする事も出来なかった。
ひくひくしているのが自分でも分かるし、ちらと見た視線の先の二人が口元を笑ませているのにも気づいていたし。
その欲望の視線に心が震えてしまう。
口許にやった指を咥えて濡らしていくが、中々それを口から離せない。
離したら始めなければならないと思うと、躊躇してしまう。
その焦れるような間すら楽しめる男二人は、ゆったりと座って見ている。
目が合ってびくっとしてしまうと、優しく先を促された。
こくんと唾を飲んで、指を這わせる。
さっきまで悪い遊びに興じていたそこは柔らかに開いて指を包んでいった。
熱い肉が自分の内部だと思うと矢張り嫌悪があるが、それを望まれるならば頑張りたい。
両手の指で柔らかに解す度に中の肉色が伺える事すら知らないままに、イワンは必死で主の意向に沿うていた。
柔らかくなってきたのを感じて、傍らの箱をそっと開ける。
自分の鼻だと思うと全然興奮しないが、逆にあからさまな形でもないからそこまでの嫌悪は無かった。
カーブの内側が前向きになるように宛がい、少し力を込める。
何の起伏もないそれが意外に勢いよく滑り込んで、背中が背もたれについた。
「う、んっ」
身体がびくびく震えて、手が滑る。
歯を噛みしめて押し込むと、違和感と共に快楽が這いあがる。
「はぁ、っん」
顔が熱さを増していき、脚がもぞりと身じろいでしまう。
疼くような快感はもどかしく、だが人目の手前と気質から、乱れて快楽を追う事が出来ないイワン。
控えめに抜き差しして喘いでいると、不意にその手を掴まれる。
酷く高揚しているらしい主が盟友に目くばせしながら、イワンを抑えていた。
「サービスしてやる」
「珍しいね」
嬉しそうに張型を掴んだセルバンテス。
アルベルトの膝に上げられて赤ん坊の排尿の様な姿勢にされたイワンが、慌てて主を見つめる。
アルベルトは片眉を上げてにやと笑い、イワンの耳を噛んだ。
「安心しろ、本番はさせん」
腰に感じるものが勃起していて、欲望の滲んだ声に心が震えて仕方が無い。
張型がゆっくりと動かされ始めて、イワンは体をのけぞらせた。
「ぁ、ぅんっ、ぁは、っ」
人の手による予測も加減も出来ない快楽は、瞬く間にイワンの身体を焔に巻いた。
一気に熱くなる身体に恥ずかしさが募って、思わず主の逞しい腕を握り締めていた。
緩やかに抜き差しされていたのが段々とリズムをとっての軽快な突き込みになり、腰が跳ねあがる。
「あん、あんんっ、んぅくっ」
「良い声だねぇ。顔も可愛い、仕草もだ。やっぱりイワン君は愛らしいね・・・・・」
口づけようとした額を押しやられて苦笑し、それは駄目だという顔の盟友に笑いかける。
ごめんごめんと口では言っているが、全然悪びれていない。
それでも悔しさを感じないわけではなく、優しく激しい手淫にそれを変換する。
「ああ、あ、ああっ、あ」
口の端から飲めない唾液を伝わせて喘ぐ姿に微笑んで、手を速める。
此処への刺激だけでいきそうになっている姿を眺めながら、奥にぐっと押し込んだ。
「ああ、あ、っ」
びゅっと噴き零れる白い液を指ですくって舐めると、甘く苦い味がする。
くすりと笑った顔に切なさと暗い欲望が渦巻くのに気付いたのは、ただその本人と盟友だけだった。
「お疲れ様、イワン君」
気を失っているイワンを自室に抱いて帰り、よく考えると大概酷い自分の服に呆れて苦笑する。
シャワーを浴びて着替え、イワンの身体を拭ってやるアルベルト。
疲れた表情で眠るイワンは色気より愛らしさが勝る気がして、そっと頬を撫でる。
嬉しそうに僅かな笑みを象った唇を見つめていると、頬が手に擦り寄せられる。
唇に触れるとはむりと食いつき、ちゅうちゅうと吸い始める。
可愛い姿に笑み、その隣に寝転がる。
抱いて目を閉じ、別れ際の盟友の言葉を思い出す。
『あんまり隙があるのも考えものだよ?』
目が笑っていない男は、隙あらば恋人を攫って行く気だ。
自分は大概恋人に惨い行為を強いているから、その絶対の愛が揺らいだ瞬間全てが崩壊すると知っている。
大事にしたいのに、甘える事しか出来ない。
甘やかしてやりたいのに、大事にされてばかりだ。
悔しいが、嫌な気分ではない。
嫌な気分ではないが、危機感は感じている。
安らかに眠るイワンの身体を抱き直してそっと額に口づけ、愛していると呟いた。
聞いていない筈のイワンの顔が微笑むのが、何だか嬉しくて切なくて。
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
***後書***
どういう興奮なのか分からない、鼻型というお話。