【 御主人様のお気に召すまま-020 】



寝苦しい夜にブランデーのグラスを傾けていたアルベルトはふと思い立って従者の部屋に足を向けた。

まだ時刻は然程遅くはない。

ノックすると、慌てた返事があった。

許可など待たずに入ると、そこには艶めかしい姿。


「も、申し訳ありません。着替えておりまして・・・・・・・・」


クローゼットの前にいる従者はワイシャツが透ける程汗を掻いていた。

張りついたワイシャツが色っぽい。

目で楽しんでいると、ふわりと鼻先に届く甘い薫り。


「・・・・・・・・・?」


花のような、蜜のような、それよりもっと魅惑的な・・・・・・・・・。


「あの・・・・・・・・?」


張りついたワイシャツに苦戦しているイワンに近づく。

ああそうか、これは・・・・・・・・・。


「貴様の匂いか・・・・・・」

「す、すみません。今窓を・・・・・・・・」


開けようとした手を、掴む。

そんな事をしてはこの薫りが逃げてしまうではないか。

この、薫りが・・・・・・・。


「あ」


首筋についと舌を這わせる。

塩辛い筈なのに、何故か甘い。


「おやめください・・・・・・汚い、ですから・・・・・」


従者の控えめな制止を無視して味わう。

軽く吸い付くと肩が小さく跳ねた。


「あの、為さるのでしたらシャワーを・・・・・・」


浴びてきます、と言うのを無視して肩口に舌を這わせる。

甘い味と薫りが心地よい。

腕を回して胸の尖りを指先で挟む。


「ぁ・・・・・・・」


小さく零れた吐息も矢張り甘く。

男を誘惑する色香が全身から薫り立つ。


「ん・・・・・・・っ」


くにっと指先でしこり始めた突起をなぶると、イワンの吐息が震える。

どこもかしこも敏感だが、胸も中々感じるようになってきた。

変わっていく身体をイワンは怖いと感じていた。

淫らで、はしたないと。

だがアルベルトは中々気に入っている。

この貞淑な男の身体をここまで淫らに作り変えたのは間違いなく己の手のみであり、この男は間違っても己以外に身体を許すまい。

自分だけの為に淫らに堕ちる、恋人。

それが嫌なはずはない。

むしろもっと淫らに乱れさせたい。


「あ・・・・・・・!」


膝が笑っていたのがとうとう崩れ、壁に手を伝わせて座り込んでしまう。

息を上げ、まなじりを染めて後ろを見上げてくる姿に、喉が鳴る。


「アルベルト様・・・・・・・・・・」


汗ばんだ身体を気にしているのが分かるが、逃がしてやる気はない。

この魅惑的な薫りの中で、抱きたい。

抱き上げてベッドに下ろす。

イワンが戸惑うように主を見上げた。


「アルベルト様・・・・・・・・」


抱き締めると、イワンはとても恥ずかしそうに名を呼ぶ。

情事の初めや事後にいつも割増になる恥じらいの色が、今なら分かる気がした。


「貴様の鼻は大きいだけでなく性能もよかったか」


暗に体臭にどぎまぎしているのかとほのめかせば、イワンがびくっと身体を竦ませる。

顔を覗き込むと、恥ずかしさを堪えた気まずそうな表情。


「あ・・・・・その・・・・・・・・・」


どうやら彼にとってそれは隠しておきたい事だったらしい。

アルベルトの口端が笑みの形に歪む。


「奇遇だな」


ワシも貴様の匂いは気に入っている・・・・・・そう言って首筋に鼻先を埋め、くん、と鳴らす。

イワンの頬に一気に血が上った。


「あ、あの、わ、私はそんなに好ましい匂いは・・・・・・」

「それはワシが決める事だ」


有無を言わせずに言い放つと、イワンは顔を赤らめたまま黙った。

既にボタンの外されたワイシャツの前を広げ、汗の浮いたなめらかな腹に口づける。

この男の筋肉はしなやかで弾力があるため、余り割れたり隆起したりしない。

軽く歯を立てると、小さく痙攣した。


「ぁっ・・・・・・・・・」


甘い声が耳を擽る。

へそに舌を差し込むと、アルベルトが割り込んだために少し開かれた脚が主を挟み込む。


「あ、ぁ・・・・ぅ・・・・・・」


控えめな声は快楽を内包している。

無遠慮に舐め回すと、爪の食い込んだシーツがぎりっと音を立てた。


「くく・・・・・・・・・・・感じ易いものだ」


胸の辺りに当たるスラックス越しの雄は熱くなっている。

だがそれには触れずに意地悪く、胸の尖りに手を伸ばす。


「っん・・・・・・・・・!」


クイと摘むと、身体が軽く丸まる。

人差し指と中指で摘み親指で弄り回すと、耐えようと変に力の入ったイワンの身体が強ばった。


「あぁ、ん・・・・・・っ」


コリコリと押し潰し、反対はねろりと舐め上げる。

指先にも舌にも心地好い感触だ。


「は・・・・・はぁ・・・・・・ふ・・・・・・・・」


首筋に新たな汗を浮かべて耐える従者の様子は酷くストイックだ。

聖職に身を置く者を穢すような気分になる。

もう少し身体をずり上げて、僅かに開き熱い息を吐く口に口づける。

ゆっくりと深く舌を絡ませると、小さく呻いた。


「ん・・・・・・・・・」


唾液を交換して、口内を舌先でなぞる。

唇を離してぐっと抱き締めた。


「は・・・・は・・・・・・・・」


荒い息が収まるまで、抱く。

身体を撫で擦りながら抱いていると、イワンがもじりと腰をずらした。


「どうした」


分かっていながら、聞く。

主の薫りと葉巻の香りに欲情した身体を必死に隠そうとするのが奥ゆかしい。


「あっ」


スラックスの上から雄に手を這わせる。

布越しにゆるゆると擦ると、イワンが腰を引いた。

だがベッドとアルベルトの身体に挟まれていてはそう動く事も出来ず、結果アルベルトの手にいいように翻弄されてしまう。

スラックスを下ろされて追い立てられながら小さく喘ぐ姿に、アルベルトの口端が歪む。

蜜で濡れてくると、アルベルトは濡れた指先をイワンの後孔にクイと差し入れた。


「っぁ・・・・・・・・・」


辛いのだろう、眉を寄せて抑えた悲鳴。

しかし必死に息を吐いて主の行為を妨げまいとしている。

褒美のように口づけてやり、奥まで指を入れる。


「っふ、ぅ・・・・・・・!」


柔らかな内壁を擦ると、入り口がきゅうっと締まった。

開かせた脚は指先までぴんと伸びて震えている。


「心地好いか」

「ぁ・・・・・・」


潤んだ瞳で見つめられて喉が鳴る。

昂ぶる衝動を馴らしながら、見せ付けるように服を脱ぎ捨てる。

従者が情事の際に己の姿にも胸を震わせているのは承知していた。

自分の方が余程艶めかしい身体をしているくせに、だ。

くつりと喉奥で笑って、脚に手を掛ける。

ぐいと上げさせると、次の行為を悟って息を深く吐いた。


「ぁ、あぁ、あっ・・・・・・・!」


ぎちぎちと身を裂きながら入ってくる男に、思わず声が上がる。

下手に止めても苦痛を長引かせると心得ているアルベルトは、構わずに全てを収めた。


「っあ、は、ぁ・・・・・ひぅっ!」


ずるっと勢い良く引き抜かれて、イワンの身体が跳ね上がる。

その身を抑えつけて凶悪に笑い、腰を使う。


「あぅ、あ、はっあ・・・・・・・・!」


うねり絡み付く肉管を擦り上げて鳴かせる。

気を抜けば持っていかれそうな快楽にあらがうように。


「っあ・・・・・・・・!」


イワンの身体がしなり、肉管が激しく収縮する。

奥に突き入れてたっぷりと注ぎ込むと、イワンの身体が嬉しそうにひくついた。


「ん・・・・・・」

「夜はまだ長い」


首筋に噛み付き、従者の薫りで肺を満たしながら、アルベルトは小さく笑った。





***後書***

ごめ・・・匂いフェチやってしまった・・・・。

だってイワンさんきっといいにおいする・・・!

衝撃も葉巻と体臭混じってやらしい男のにおいする・・・・!