【 御主人様のお気に召すまま-021 】
その日イワンは国警北京支部の近くを歩いていた。
今回は特に国警に用があった訳ではない。
別任務で偶々近くを通り掛かっただけだ。
賑やかな繁華街を抜け、若干治安の悪い辺りに差し掛かる。
「・・・・・・・・・・・あの男」
その声は憎しみでなく呆れだ。
イワンの視線の先には、酔い潰れて道端で爆睡している神行太保・・・・主の宿敵戴宗がいたのである。
「ん〜」
「頼むからしっかりしてくれ・・・・・・」
取り敢えず放置も出来ないので、ビジネスホテルに入った。
まさか国警には連れていけないし、道端で死なれたりしたら主がどんなに怒り狂って荒れることか。
想像しただけで背筋が凍る。
「神行太保、水を飲め」
ベッドに寝かせた戴宗に水を差しだす。
戴宗はけらけら笑いながら水を干した。
「あんたアルベルトの従者じゃねーか」
「見たくない顔で悪かったな。兎角酒は程々にしておけ。お前が死んだらアルベルト様が・・・・・」
「アルベルトアルベルト、って、あんたあいつのコレかぁ?」
小指を立ててにやにやする酔っ払いに、イワンは深い溜息を吐いた。
「そんな訳・・・・・・・・・」
「でもその首の跡ぁ、あいつがつけたんだろ?」
はっと首を押さえるイワン。
戴宗が笑う。
「ふーん、あんたがあいつの、ねぇ」
カマを掛けられたのに気付いたがもう遅い。
戴宗に腕を捕まれる。
「野郎の裸なんか興味ねえが、あいつが執着するもんは見てみてえな」
「ちょ、放せっ!」
引きずられていったのは風呂場。
何故風呂場なのかはこの酔っ払いにしか分からないだろう。
「脱いだ脱いだー」
「やめろと言っている!」
コートもスーツも脱がされてしまう。
なにせアルベルトの宿敵を張る男だ。
酔っていても力は強い。
「ほー、女みてえな肌だな」
「っ触るな!」
結局靴下を残して衣服は奪われ、戴宗の無遠慮な視線に晒される。
伸びて来た手を叩き落とすと、戴宗がむっと眉を寄せる。
「ケチケチすんなよな。減るもんじゃなし」
「減るとか減らないとかいう・・・・・・」
「あぁ、あいつに怒られんのか」
イワンの顔に朱が差す。唇を噛んで視線をずらした仕草に、悪戯心が沸き上がってくる。
「んじゃ、折角だから叱られとけ」
「は?・・・・・・っ!」
背から抱き込まれて固定され、その手が茂みを撫でる。
ギョッとして腰を引こうとすると、シェービングジェルを塗りたくられた。
「何を・・・・・・・」
「動くと怪我すんぞ?」
「!」
ざり、と音を立てて毛が剃り落とされる。
戴宗の手には鋭利に輝く剃刀が握られており、動くのは確かに危険だ。
抵抗が無いのをいい事に、作業は続く。
「っ・・・・・・・・・!」
「おー、綺麗に剃れたな。しかし大の男が無毛っつーのも何か・・・・・・」
「っ・・・・・・・」
戴宗が剃刀を置いたのと同時に、イワンが腕の中で振り返る。
顔を赤らめて、涙を浮かべ、怒りに身を震わせながら戴宗を睨み付ける。
その手が物凄い威力の平手打ちを繰り出した瞬間、戴宗は床にダウン。
お花畑を走り始めていた。
「あれ?イワン君は?」
昨日帰ってきたんじゃないの?ときょろきょろする盟友に、アルベルトは一言「有給だ」と言った。
定例報告が終わったばかりで、全員が孔明のお小言の疲れをサロンで休めている。
「イワン君の紅茶が飲みたかったんだけどな」
残念だなぁと言いながら炭酸水を飲むセルバンテスにアルベルトが口を開きかけたのだが・・・・・。
「アルベルト様」
「・・・・・・何だ」
エージェントの声がドアの向こうからする。
アルベルトが答えると、エージェントは恐る恐ると言った様子で切り出した。
「あの・・・・・・・国警の神行太保からお電話です」
「・・・・・・・・・は?」
どこの世界に敵対する悪の秘密結社に電話してくるエキスパートがい・・・・・ここにいたか。
いやそれ以前にどうやって番号を調べた。
「・・・・・・・・まわせ」
少し待ってサロンの受話器を取る。
樊瑞に視線を向けると頷いたので、スピーカーホンを押した。
「あー、おっさん?」
「・・・・・何用だ」
「いや、あの従者の人帰ったか・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・?」
イワンなら昨日帰ってきたが、何故この男がそれを心配する。
「いや昨日な、あの人の平手打ちであの世に逝きかけた」
・・・・・・・・・は?
十傑衆全員が目を見開いた。
仮にも衝撃のアルベルトのライバルを張る男に平手打ちを命中させて昏倒させた?
悪いがイワンは然程強いというわけではない。
それが何故・・・・・・・・。
「相当怒ってたんだろうな。音が聞こえたのどう考えても殴られた後だったし」
それはもしや音速を越えていたと言うことではなかろうか。
「貴様は何をしたのだ」
アルベルトの問いはもっともだ。
何がそこまでイワンを駆り立てたのか。
たっぷり二十秒置いてから、戴宗は口を開いた。
「いや・・・・・・無理矢理下の毛剃り落とした・・・・・・・」
ひんやりとした室内。
だがアルベルトは冷静だった。
「手を出したのか」
「いや、それだけ。酔ってたんだよ」
「戴宗」
後日礼をしに行く・・・・・・・・・。
感情の無い声より余程怖い感情たっぷりの声で告げ、アルベルトは受話器を置いた。
「あの・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ただならぬ主の様子に思わず後退ったイワンは、結果ベッドの上に追い上げられていた。
アルベルトの威圧感は半端ではなく、無言の圧力が肌に痛い。
「脱げ」
「!」
主の言葉にイワンは目を見開いた。
どうあっても言い逃れできないこの身を晒すことなど出来ない。
第一何と言い訳すればいいのだ。
神行太保に剃られましたなどと言える訳が無い。
それなら変態の烙印をおされようがまだ自分で剃ったと嘘をついた方がましだ。
「その・・・・・今日、は・・・・・・・・」
隠し立てする従者の肩に手を掛ける。
縋るように見つめてくる従者に意地悪く笑って、アルベルトは彼のアイボリーのトレーナーをたくし上げた。
胸の尖りに舌を這わせると、小さく身を捩る。
「往生際が悪いぞ」
「っ・・・・・・・・・」
イワンの頭の中はフル回転していた。
どうにかして切り抜けなければ・・・・・・・・!
「っご奉仕・・・・・・・・」
「先に脱げ」
アルベルトの手がベルトに掛かる。
イワンは急激に顔に血が集まるのを感じた。
「ぁ・・・・・・・・」
「これはどうした」
まじまじと見られて、恥ずかしさに身が竦む。
涙を滲ませて、イワンは一気に言い切った。
「っ自分でやりました・・・・・・・・・!」
アルベルトはイワンの首筋に舌を這わせてから、その耳に唇を寄せた。
「何故そんな変態じみたことをした?」
もう自棄だ、とイワンは固く目を閉じた。
「そ、剃りたかったのです・・・・・・・・・!」
「くく・・・・・・そうか」
アルベルトが、互いの唇が触れそうな至近距離で囁く。
「三日も我慢出来ん上に妙な趣味に走るとはな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
羞恥に唇を噛むイワンの無毛の下腹部を撫でる。
「剃り落として何がしたかった。見られたかったか?舌を這わされたかったか」
親指で敏感な肌をなぞられ、イワンの眉が軽く寄る。
「み、見て頂きたかったのです」
自分を堕としても、戴宗に剃られたと言いたくないらしい。
恐らく自分の所為で主達の純粋な命の奪い合いに影が差すのを危惧しているのだ。
まったく可愛いものである。
しかしここまで苛め倒せる状況を捨てるのは惜しいしそんな仏心毛頭無い。
「ふっ、ならば貴様の希望通り存分に観賞してやろう」
少し身体を離して座り、葉巻に火を点ける。
「見られたいのだろう?脚を開け」
「・・・・・・・・・・っ」
シーツを握り締めた手が震えている。
今にも泣きだしそうな顔で、イワンは脚を開いた。
「どうやって剃った。クリームか?」
「・・・・・シェービングジェル、です・・・・・・・」
「剃刀は」
「普通の・・・・・・」
「髭ならともかく、こんな場所をセーフティ無しで剃るとはな・・・・・・・・・」
スリルが欲しかったのか?と笑われて、膝が震える。
「当たる刃に感じていたのだろう・・・・・・?」
「は、い・・・・・・・・」
もう受け答えの声さえ震えている従者に唇を笑ませ、アルベルトは葉巻をくわえ直した。
「持ち上げて裏も見せてみろ」
「っ」
「見られたいと言ったのは貴様だ」
茫然と主を見つめるイワンの目から涙が落ちる。
だがアルベルトは尚もしつこく追撃した。
「・・・・・・・・それとも全ては嘘か?」
イワンは横顔をシーツに埋めて手を伸ばした。
小さな嗚咽を零しながら。
「ふむ・・・・・・・上手く剃り落としたものだ。鏡でも使ったか」
「・・・・・・・は、い」
「貴様のような変態にはさぞ刺激的な行為だったのだろうな?」
アルベルトの唇から紫煙が吐き出される。
「それで?一人で遊んでいたのか」
「は、い」
擦れた声で答えるイワンは、堪え難い羞恥に全身を桜色に染めていた。
アルベルトの手が葉巻を揉み消す。
「ぁっ!」
局部に熱い吐息を感じ、イワンは主を見た。
無毛の局部に舌を這わされて、肩が跳ねる。
「あ、ぁっ、あ」
幹や袋を舐められている訳でもないのに、酷く感じてしまう。
アルベルトはアルベルトで、あるべき茂みが無い事に妙な興奮を覚えていた。
きつく吸い付いて跡を残すと、イワンの指が髪を乱す。
「っあ、あ・・・・・・・・・・!」
既にイワンの雄は立ち上がって蜜を零していた。
直接触れていないのに相変わらず敏感な身体だ。
熱い息を吐き出している口に指先を掛ける。
イワンは素直にそれをくわえて舐め始めた。
恥ずかしげに染まった目元が愛らしい。
「ん、ふ・・・・・・・・・」
十分に唾液を絡ませると、アルベルトは指を引き抜いた。
そしてゆっくりと後孔をなぞる。
「剃った後にここにも触れたか?」
意地の悪い質問に、イワンの唇がわななく。
「は・・・・・い・・・・・・・・・」
アルベルトの中指が、僅かに入り込んだ。
「っ・・・・・・・・」
「入らぬな。緩めろ」
イワンは必死に息を吐いた。
にゅぐ、と男の指が入り込んでくる。
「ん、んっ、ん」
根元まで入り込んだ指が中をまさぐる。
柔肉を掻き分けられて腰が跳ねた。
間髪入れずにもう一本指が入ってくる。
目を閉じてひたすら力を入れぬようにする。
その健気な様子に、アルベルトは唇を歪めた。
「目を開けろ」
「はい・・・・・・・・・」
視線を絡ませた上で、アルベルトはイワンの手を己のいきり立ったものに触れさせた。
「これが欲しかったのか?」
にぃと笑って問えば、イワンは泣きそうになりながら頬を染めた。
「欲しかったです・・・・・・・・・・」
もう嘘で嘘を塗り固めるしかないイワンはどんな淫らな問いにも「Yes.」と答える他はない。
アルベルトは満足気に目を細めて雄をねじ込んだ。
「っは、ぁ・・・・・・・・・っあ!」
息を整える間もなく抜き差しが始まる。
イワンは思わず自分のたくし上げられたトレーナーを掴んでいた。
「あっ、ぅ、んぁ」
粘膜を太い雄に擦られて、堪えようの無い快感が身を灼く。
「ひっ、ぁ・・・・・・・・!」
ゴリゴリッと好いところを擦られて、イワンは熱を吐き出した。
締まった最奥に、アルベルトも熱液を注ぎ入れる。
「ふ、ぁ・・・・・・・・・・」
ビュクビュクと腹の中に吐き出される熱い精液に、イワンは身を震わせた。
飲みきれなかった唾液を顎に伝わせて恍惚とするその耳を舌先でなぞりあげる。
「わざわざ電話などかけてきた戴宗は嘘を吐いていたことになるな?」
イワンは目を瞬かせた。それではこの方は全てを知って・・・・・・・・。
「安心しろ。決闘に今回の事は挟まん」
安心したように微笑んだ従者に口づけながら、心の中で付け加える。
一度落とし前はつけに行くがな。
二日後、北京支部の戴宗の部屋にそれは見事な大穴があいたそうな。
「悪かったっておっさん!」
「悪かったで済めば国警などいらん。やめてしまえ」
***後書***
性格悪いアル様。