【 御主人様のお気に召すまま-023 】



「イワン君、くれぐれも無理はしないでおくれよ?」

今回アルベルトと任務を共にするのは彼の盟友セルバンテスだ。

イワンも同行予定にはなっていたのだが、孔明という鶴の一声によって、同行から潜入という形に切り変えられていた。

曰く、前回残月と共に当たった任務(第六話)での働きぶりが素晴らしかったからとの事。

ものは言い様でそれ即ち「任務」なのだが、策士には逆らえない。

イワンは了承したのだが、目的地に向かう車の中で、セルバンテスが心配だ心配だと騒いでいるのである。

逆にアルベルトは我関せずだ。


「イワン君可愛いから心配だよ・・・・・・!」

「ご、ご心配有難うございます・・・・・・・・・」


困ったように笑って運転を続けるイワンに、後部座席のセルバンテスは盛大に溜息をついた。


「あぁ〜・・・・よりによってあの男のところにバトラー(執事)として行くなんて・・・・アルベルト!君心配じゃないのかい?!」

「煩い」


思い切り切り捨てられて、セルバンテスはがっくり肩を落とした。


「心配だよ〜・・・・・・・・・!」





「お帰りなさいませ」

微笑んで男を迎える。

ここに来てたった十日で、イワンはターゲットの男の側仕えを勝ち取っていた。

理由は至極簡単。

彼以上に男の命令に機敏に行動できる者がいなかったのである。

しかも彼はピアノも中々の腕、音楽や美術の話にも着いてこれる。

もう完全にお気に入り、だった。


「浴室を暖めておきましたのでいつでもお入りになれます」

「ああ、ありがとう。やっぱり君は優秀だ」


にこりと笑う男は中々の美丈夫だ。

長い髪を一つに纏めている。

だがセルバンテス曰く鬼畜S属性のこの男、実直で優しげなイワンを苛めたくて仕方がない。

非常に質が悪い事に相手を困らせて最終的に自分に屈服させるのが大好きなのだ。

だが、どんなに唐突で気紛れな命令にもイワンはあっさり応えてしまう。

卵とミルクを全て始末してから外出を禁じ「ホットケーキが食べたい」なんて言ってもちゃんとやってのけてしまう。

作るのも眺めていたし、食べてみたがまったく出来の良いホットケーキでしかなかった。

とはいえここで逆ギレしたりはしないのがこの男。

きっちり食べて、褒めて。

すべて計算のその態度は相手を懐柔する。

一味違った飴と鞭だ。

とはいえ。

イワンは非常に相手の嗜虐心を刺激してしまう仕草が多い。

それは粗相ではないし意識してのものでもないが、確かに存在する。

後ろ姿を見ればその無防備な白い首筋に歯を立てたくなる。

微笑んだ顔を涙に暮れさせてみたい。

その清純な瞳を恥辱で・・・・・・・・。

そう考えて、男はふと首を傾げた。

手帳を取り出して開き、指で日付を辿る。

十日後にはRの文字。

三日前にはバツ印。

不意に口に笑みが浮かぶ。


「ねぇ、イワン」

「はい」

「君は機械も弄れたっけ」


男の言葉にイワンは困ったように笑ってみせた。


「特殊なものでなければ・・・・・・・」

「スープサーバーがね、駄目になってしまったんだ」


いつも使っていた「とても綺麗で良い温度にあたためてくれる」のが。

十日後には「それを楽しみに」してくれていた友人が集まるのに。


「・・・・・・・・何とかしてくれるかな?」





「・・・・・・・・・・・」

十日後、イワンは酷く後悔していた。

三日前から忙しくてコーヒー位しか摂っていなかったのが災いしてか体がうまく動かない。

だが明日は休みを与えられているから何とか・・・・・・・・・。


「顔色が悪いよ?」

「あ・・・・・・・・」


声を掛けられて弾かれたようにそちらを見ると、男が苦笑している。


「不甲斐ありません・・・・・・・」


でも、大丈夫ですから。

そう言おうとすると、手を取られた。


「一緒に」


来てくれるかな。

その笑顔が余りにも歪んだ欲を湛えていて、イワンは反射的に手を引こうとした。

だが。


「っ、かは・・・・・・・・・っ、」


腹部に一撃たたき込まれて息が詰まる。

気絶したりはしないが、弱った身体には十分なダメージだった。

引きずられて、外に連れ出される。

男の愛車のトランクに押し込まれ、イワンはとうとう連れていかれてしまったのだ。





無機質な部屋に押し込まれ、押さえ付けられて身体を清められる。

抵抗したかったが貧血気味の身体は言うことをきかない。

床に這わされて、イワンはギッと男を睨んだ。


「何を・・・・・・・!」

「言ったよね」


スープサーバーがね、壊れてしまったんだ。

とても綺麗で良い温度にあたためてくれるのが。

その手が弄ぶチューブの先を見て、イワンはぎょっとした。

大量のクリームスープが揺れている。

だがそれは不自然に氷で冷やされていた。


「友人達は割と注ぐのが好きらしいんだよ」


僕は温めているところを眺めるのが好きなのだけれどね。

そう言って脚を持ち上げられるにあたり、イワンはやっと意味を正しく理解した。

「スープサーバーが駄目になった」のは壊れたのではない。

おそらくは死んだのだ。

食事も与えられずに繰り返しスープを温めさせられて。

イワンは顔を青ざめさせて身を捩ったが、男はチューブの端をひと舐めして、イワンの中に突っ込んだ。


「っ!」

「痛いよね。でも緩んでいると零れてしまうから」


痛みと衝撃に、最奥は確かにきつく締まっていた。

ぐり、と奥に入れ、途中にあるポンプを作動させる。


「っ!!!」


イワンの目が見開かれ、口がはくはくと開閉する。

足の先はきゅうと丸まって、手の指は爪が剥げそうなくらいに床に突き立てられていた。


「ぁあ、あ、あぁああ・・・・・・・・・・!」


冷やされたスープがごぽごぽ流れ込んでくる。

内臓は悲鳴を上げてぐるぐると唸り、冷や汗が吹き出す。

イワンは狂ったように床をかきむしった。

嫌だ、苦しい、狂ってしまう・・・・・・・!

腹部は酷く膨れ上がって、まるで赤子の一人も孕んでいるかのようだ。

身体はひくひくと痙攣を起こしており、焦点の定まらない目からは涙が落ちている。

男は血の滲んだ指先を取り軽く口づけた。


「うん、中々良さそうだ」





「いやぁ、中々奇抜な催しをする男でしてね」

社交界は友人から友人にと広がるものだ。

落ち合うはずだったイワンから連絡が来ないためそのまま乗り込んだアルベルトとセルバンテスだったが、正直このイカれた裏パーティには眉を潜めた。

遇す女は小娘から熟女まで動物の仮装をしているが、胸も茂みも露なままだ。

勿論ゲストはそれを好きに扱っていい。

アルベルトとセルバンテスは一応形として女を連れていたが、纏わりつくに任せて放っておいた。

そこに、長髪の男が現われる。

今日の催しの主催だ。


「楽しんで頂けていますか?」


内心溜息が出るが、笑顔で肯定しておいた。

セルバンテスが対応して、アルベルトは適当に女を構っておく。

去りぎわに男が言った一言でセルバンテスの頬がぴくりと引きつる。

おそらくは自分しか気付かなかった程微細な盟友の動揺に、アルベルトは葉巻をくわえなおして同じ方向を見たのだが。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


テーブルの上に全裸で晒し者にされているイワンを認め、僅かに眉を潜めた。





「っ」

膝立ちにさせられ、眺め回される。

腕は拘束されていてどうにもならない。

男の友人の中でも特にこれが楽しいらしい者が集まっていた。


「へー、前のは綺麗系だったけど今度のは可愛い系?」


腿を撫でられて身を竦ませると、誰かが口笛を吹いた。

嫌がって顔を背けると、腿を撫でていた手が這い登ってくる。


「これ抜いちゃっていーい?」


軽い口調の男が押し込まれた硝子の栓を軽く引っ張る。

イワンは小さく身体を震わせて目を閉じた。

力なく拒否の答えに首を振る。

堪え忍ぶその表情にぞくりときた。


「折角だから、スープもらっていいよね?」


ズル、と栓が引き抜かれる。

ぎり、と歯を食い縛る音がした。

だがそれだけだ。


「・・・・・・・・へえ、たいしたもんだ。普通これだけ腹に液体入れられてりゃ漏らすもんなのに。余程理性が強いか、締まりがいいか。はたまた両方か・・・・・・・」


男の手がイワンの雄に伸びる。

反対の手には、ジッポ。

恐怖に震えるイワンの目の前で点火し、ちりとした痛み苛む火傷と恐怖ギリギリの位置で手にしたそれを炙って遊ぶ。

意識がそちらに傾き身が強張った瞬間・・・・・!


「っあ・・・・・・・!」


ボタボタとクリームスープが落ちる。

イワンは余りの恥辱に唇をわななかせた。

だが幾ら頑張っても一度溢れだしたそれはとめどない。

痛め付けられた内臓はそれを排除したがっている。


「っう、っ・・・・・・」


それでも何とか力を入れて流れを止めた。

男が感心したように笑う。


「ふぅん。前のは締まりの無い尻と膣した女だったけど・・・・・今度のはいいな」


言いながら皿に受けたスープに指を浸し、ひと舐め。


「ん、温度もいい」


その言葉に、他の輩も近寄ってくる。

イワンは身を強張らせた。

が。


「これだけ集まったロクデナシを一網打尽に出来るなんて、気分が良いよねぇ」


ちっとも気分が良さそうにない声音が響き、イワンはテーブルから攫われていた。

身体を包むクフィーヤ。

イワンは安堵から唇を僅かに開いた。

窓から飛び出すセルバンテスに抱えられたまま、イワンは背後で館が崩れ落ちる音を聞いた。


「あーあ、アルベルト怒ってるねぇ」





直ぐにでも飛空挺でBF団本部に向かいたいところだが、生憎天候が悪かった。

強まってきた風に、セルバンテスは帰還は無理と判断。

オイルダラーとして使っている屋敷の一つに向かった。

特殊無線は嵩張るので、今回は傍受避けを施した携帯を使っている。

アルベルトに連絡を取り、場所を教えると、セルバンテスは毛布を纏ってぐったりとソファに座り込んだイワンに近づいた。


「よく頑張ったね。本当は今日欠席者が多かったんだ。『スープサーバーが壊れた』と知ってね。でも君の頑張りで全員が出席したんだよ?」


優しい言葉に、イワンは力なく微笑んだ。

セルバンテスは親指でイワンの目尻の辺りを撫でた。

イワンの身体は小さく震えていた。

視線を下げると目に入る、異様に膨らんだ腹部。

赤子の一人も孕んでいそうな程に膨れ上がり、酷く不自然で痛々しい。

セルバンテスは少し迷ったが、イワンを抱き上げた。

彼が苦しむ姿など見たくない。

浴室に行き毛布を剥がす。

そっとタイルに座らせて、見上げてくるイワンに微笑む。


「イワン君、後ろ手を付いてくれるかい?」

「?」


素直に手を付いたイワンの腹に手を当てる。

そして・・・・・・・

ぐいっ


「っひぁっ!」


ぶしゅっとクリームスープが噴き出す。

イワンは顔を真っ赤に染めて激しく首を振った。


「ぁあ、あ、あ」


だが限界がきていた身体はもうイワンの理性を押し流し、異物を排除する事に躍起になっていた。

セルバンテスの手の揉み込みも手伝って、もう止まらない。

あまりの辱めに涙が出る。

セルバンテスは優しく腹部を撫でると、イワンを慰めた。


「泣いていいんだよ?私しか見ていないから・・・・・・・・・」


見ないであげるから、ではないところが正直鬼だと思う。


が、見たいものは見たい。

顔を真っ赤に赤らめて泣きながらスープを溢すイワンは余りに愛らしく、想像以上に色っぽかった。


「ふっ・・・・ひくっ・・・・・・」


粗方吐き出してしまって、益々自分の醜態に涙が零れてしまう。

セルバンテスは泣いているイワンの身体を軽くシャワーで流し、もう一度毛布で包んでベッドに運んだのだが・・・・・・・。


「あはは・・・・・・聞いてた・・・・・・・・・?」


白く霞む程葉巻の煙が充満した部屋で更に機嫌悪く葉巻をふかしまくる盟友は絶対に風呂場でイワンを泣かせたのを聞いている。

後で殴られるだろうなぁと思ったセルバンテスは、その「後で」を引き延ばすため、イワンを人身御供に差し出して部屋から逃げ出した。





「あ、の・・・・・・」

ベッドに縫い止められて、イワンは戸惑うように瞳を揺らした。

アルベルトの唇が首筋に触れる。

手が指が、脇腹を這う。


「っ」


触れられた部分が熱い。

どうしようもなく気持ちが良い。

アルベルトは酷く緩やかな愛撫を与えた。

時折胸の尖りを噛んだり、濡れた雄をキツく扱き上げて、イワンを鳴かせる。

抑えようとする声を上げさせる。


「ひぅっ」


身体がとろけ始めてくると、アルベルトは指先をぺろりと舐めて、イワンの中に差し入れた。

散々なぶられたそこは奥から伝い落ちてきたスープの残滓でぬめり、アルベルトの指を締め付ける。

指を二本三本と増やしても、長く締まっていることを強要されたそこは、混乱を起こしてひくひくと甘えている。


「あ、っ、あ」


ずるぅ、と指が抜かれ、あてがわれる。

入ってきたものは熱くて、入り口はそれに甘く噛み付くばかりだ。

ひくっひくっと締め付けられるのも中々良いと、アルベルトは唇を歪めた。


「あっぁ・・・・・・あっ!」


いつもと違って柔らかな締め付けは、緩やかに射精を促した。

中で長く吐き出される精液に、イワンの雄もとろりと蜜を吐き出す。


「は、ぁ・・・・・・・・・・」


イワンの手が、彼自身の腹部に置かれている事に気付いて、アルベルトはくつりと喉を鳴らした。

恍惚とした表情で腹の中に精を放たれた悦びに浸る姿は、無意識の愛らしさと淫らさがある。

アルベルトはゆっくりと、イワンの肌に口づけを落とした。





「いった・・・・・・・・」

後頭部をどつかれたセルバンテスは、イワンに氷嚢を作ってもらってそれを当てていた。

自業自得なので余り文句は言わない。


「君のものだって知ってるから、あんなに聞かせなくても良いじゃないか」


ここだけはさっきから文句を垂れているが。

ねぇ、と同意を求められ、イワンは曖昧に頷き、主に視線を向けた。


「何をお聞かせになったのですか?」


その問いに、盟友二人は動きを止めて顔を見合わせた。

ややあってアルベルトが口を開く。


「知らんでいい」


昨夜あれだけの声を上げたら隣室に逃げたセルバンテスに聞こえると・・・・・いや、知っていたらアルベルトの責め手と羞恥に泣いてしまうか。

妙なところで天然ボケを発揮するイワンに、セルバンテスは苦笑して氷嚢を当てなおした。


「可愛いねぇ」





***後書***

よい子は食べ物で遊んではいけません。