【 御主人様のお気に召すまま-025 】



朝起きたら、真っ暗だった。

体内時計は正確な方だからおかしいと気付いた。

手に触れる、シーツの感覚。

顔の前に手をかざしても視界は真っ暗なままだった。





「古傷の影響らしいのですが・・・・・・・・」

有給を取ったイワンの許を訪れたアルベルトは、何も映していない黒い瞳を眺めた。


「一時的なものということです」


困ったように笑うイワン。

アルベルトはイワンを拾った時の事を思い出していた。





「・・・・・・・・・」

瓦解した建造物はもはや美も利便性もない。

その中を歩いていたアルベルトは、耳に届いた微かな音に首をめぐらせた。


「・・・・・・・・」


ピアノの音だ。

これは・・・・・・・


「・・・・・・・アイネクライネ・ナハトムジーク」


美しい調べは何故かシ#がとんでいた。

興味を引かれて足を向ける。


「・・・・・・・・・・」


瓦礫の中に奇跡的に残ったピアノ。

自分より些か若い青年が奏でていた。

白い指が動くたび耳に柔らかな音が響く。


「・・・・・・・・・・?」


半端な所で音は止まった。

青年はこちらには気付いていない。

慈しむようにピアノを撫でて、微笑む。

酷く、儚い笑みだった。

青年は立ち上がり、辺りに転がった酒瓶の中から無事なものを選び始めた。

十本程集まっただろうか。

それをピアノに掛け始める。

ふわふわとアルコールの香りが漂った。

ぱしゃ・・・・・ぱちゃ。

青年の服にも酒が染み込む。

だがそれは意図してのようだった。

その手が半壊したテーブルの上のマッチを取る。

一瞬の躊躇もなく擦ろうとした手を、思わず掴んでいた。


「・・・・・・・・・」


突然現れて腕を掴んだアルベルトに、戸惑いと警戒を含んだ目が向けられる。

その目を赤い眼が射抜いた。


「ワシと共に来い」





・・・・・・・今考えると途方も無く勝手で無謀だ。

だが虚無に囚われていたイワンはアルベルトについてきた。

思えば三娘を亡くして間もないあの時既に・・・・・。

物思いに耽っていたアルベルトは、イワンの手がテーブルの上を彷徨っているのに気付いた。

20cm程離れた所に未開封の錠剤がある。

黙って渡してやると、イワンが困ったように微笑んだ。


「お手数を・・・・・・・」


甘えようとしない恋人に焦れるのは世の男の大半だろう。

アルベルトも若干不服であったため、意趣返しに頬に触れたのだが・・・・・・・・。


「っ」

「・・・・・・・・・」


思いの外過剰に身を引かれて驚いた。

だがよくよく考えてみれば、闇の中を手探りで進んでいるような状態で突然触れられればかなり驚くだろう。

宥めるように耳を撫でる。


「アルベルト様?」


習慣的に見上げてきたイワンの唇を指でなぞる。

薄く開いたそこに、唇を重ねる。


「ん・・・・・・・・」


イワンが小さく喉を鳴らした。

柔らかい唇は甘く、アルベルトを惑わせる。


「ふ・・・・・・・・ぁ」


下唇を含んで吸うと、肩がぴくりと跳ねた。

唾液に濡れたそこを舐め、今度は上唇を吸う。


「んっ・・・・・・・・・」


深く、吐息の絡み合う口づけ。

イワンの目は何もうつさないままだが、潤みとろけていた。

何時もなら物欲しげに唇を見つめてしまう瞳は、闇に沈んでいるために恥ずかしげに逸らされてしまった。

俯いた身体を抱き上げると、慌ててアルベルトのスーツを掴んだ。


「っ・・・・・・・」


シーツに縫い止めてスラックスの上から太腿を撫でる。

何時もなら頬を染めるだけだが、今日はいやに落ち着きが無い。

嫌なのかと思ったが、どうやらそういう訳でもないらしい。

ワイシャツの釦に手を掛けると、イワンの身体が小さく震えた。


「どうした」

「い、いえ・・・・・・・」


声を掛けると少し落ち着いた様子を見せる。


「・・・・・・・不安か」


誰に抱かれているのか、判らなくて。

イワンは怖ず怖ずと頷いた。

アルベルトの口端が上がる。


「イワン」


耳元に唇を寄せて名を呼んでやると、まなじりが赤く色づく。

はだけた胸元を指で辿り、唇で白い肌を味わう。

強く吸い上げて花弁を散らすと、イワンがそこに指を這わせた。

見えていないのに、的確に辿っている。

不思議に思って別の花弁に指を当てると、そこは熱を持っていた。

内出血を起こしているのだから当然だが、イワンは噛み締めるように指でなぞっている。

そんないじらしいところも気に入りだ。


「イワン」


貴様もつけてみるがいい。

アルベルトの言葉に、イワンは頬を染めて目を瞬かせた。

だがアルベルトが本気でさせる気らしい事を悟ると、少し身体をずらして主の胸元に唇を寄せた。

ちゅ、と小さな音がして、僅かな痛みが走る。

イワンが付けた痕は薄いもので、数日で消えてしまうだろう。

イワンは恥ずかしげに俯いていた。

その顎をすくい上げて、唇を奪う。


「ん・・・・・・・」


ちゅく、と音がして、舌が絡み合う。

心地好さそうに目を細めた様子が可愛い。

少しだけ唇を離して、舌を頬に這わせる。

そのまま左目の古傷をねぶってやると、イワンが小さく鳴いた。


「ぁ・・・・・・」


傷跡は他の部分に比べ感覚が鋭いものだ。

ましてや顔の、目にかぶさっている。

目が無事なのが不思議だ。


「は、ぁ・・・・・・」


ぞくぞくとした痺れに身体をわななかせる。

甘い吐息が濡れた唇から零れた。

もう一度軽く口づけながら、アルベルトはイワンのスラックスを脱がせて雄に触れた。

敏感な箇所に触れられて、イワンの腰が小さく跳ねた。


「ぅあ・・・・・・」


とろとろと濡れたそれを扱いてやると、イワンが擦れた甘い声を上げた。

ピアノもブルースハープも中々の腕のイワンだが、アルベルトはこの細い喉から発せられる声が一番気に入っている。

その声を求めて焦らすように扱ってやると、イワンは小さく首を振った。


「あ、っ・・・・ゃ、っん・・・・・」


とろっと透明な先走りを溢れさせてひくつく雄。

鈴口はぱくりと開いて中の粘膜を垣間見せていた。

少し身を起こし、オイルを取る。

度々このイワンの部屋で身体を重ねているが、毎回先走りや精液を使っていた。

アルベルトの部屋には香油を置いているが、此処には無かった筈だ。

恐らく気をつかって置いたのだろう。

指に纏わせる。

少し温めて差し入れると、イワンが小さく吐息を漏らした。


「ふ、ぁ・・・・・・・んぁっ」


ぐり、と入口を拡げてやると、もじりと腰が動く。

中で曲げてやると、入口がぎゅっと締まって、中が絡み付いてくる。

入口の厚く強い筋肉を十分に柔らかくすると、アルベルトは服を脱ぎ捨てた。

イワンの脚を折り、あてがう。


「・・・・・・・イワン」


名を呼ぶと、嬉しそうに微笑んだ。


「アルベルト様・・・・・」


柔らかな声に身体が熱くなる。

ぐっと挿し入れると、イワンは目を閉じて眉を寄せ、切なげに息を吐いた。


「ぁあ、は、ぁ・・・・・・・」


ぴったりと押し包む肉は熱く柔らかく、淫らにうねる。

精を搾り取る器官のように、男に快楽を与える。


「んっ、あ、ふっ」


ズッズッと粘膜を擦る音を立てながら突いてやると、イワンはシーツに爪を立てて喘いだ。

ぶるぶると身体を震わせて、耐える。

禁欲的な雰囲気のイワンが最も艶やかに色香を纏う瞬間。

絶頂が近い事を汲み取って、アルベルトはペースを上げた。


「ぁあぁ、ぅあ、っ!」


ぶるりと身体を震わせて、達する。

それの反射の肉管のうねりに、アルベルトもイワンの中に欲望を吐き出していた。

引き抜くと、とろりと糸を引く。

ひくひくしながら一筋白濁を零すそこに、喉が鳴る。

また頭をもたげ始めた自身に小さく笑って、アルベルトはイワンの首筋に花弁を散らした。





「ぅわ、病気みたいだねぇ」

首が不気味な紫の斑点だらけになっているイワンをしみじみ眺め、セルバンテスは感想を述べた。

赤を通り越して紫になった花弁は独占欲の強さだろうか。

居たたまれない様子のイワンは既にその事について十傑全員に何らかの言葉を掛けられていた。


「それ全身?」


絶対に下心ありでイワンのネクタイを解こうとしたセルバンテスの後頭部に、衝撃派が炸裂した。

盟友の思考と行動のパターンなど分かり切っているアルベルトだ。

が。


「あぁイワン君!頭が痛いよ!膝枕をしてくれたまえ!」


ちゃっかりイワンの膝に頭を乗せてソファに寝転がったセルバンテスの方が一枚上手だったようだ・・・・・。





***後書***

盲目+花弁付合+傷跡舐+膝枕=ぐだぐだ。

詰め込み過ぎたようです。