【 御主人様のお気に召すまま-026 】



「チェスをしないかい?」

「やらん」

とてもいい笑顔で言ってきたセルバンテスに目もくれず、アルベルトは手にした本のページを捲った。


「貴様が勝つに決まっているからな」


そう、アルベルトはセルバンテスにチェスで勝てた試しが無い。

逆にポーカーでは負けた事が無い。

得手不得手がはっきりした二人である。

結果の分かり切った勝負は受けても仕掛けてもそう面白みのあるものではない。

セルバンテスだって承知している筈だ。

余程暇なのか。


「じゃあ、イワン君相手しておくれよ」


矛先をかえたセルバンテスに、イワンは苦笑いを零した。


「余り強くはありませんが・・・・・・」


お暇なのであれば、ご教授願います。

あくまでも控えた態度に、今度はセルバンテスが苦笑する。


「構わないよ」





「チェックメイト」

健闘したイワンだったが、一時間程で負けてしまった。

打つ手もなく、投降の意を示すと、セルバンテスが満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、罰ゲームだね!」

「・・・・・・・・・・ぇ?」


聞いていない。

だが抗議できる立場でないし、よしんばしたとしても聞いてはくれないだろう。

イワンは早々に諦めた。


「お手柔らかにお願いします・・・・・」

「ふっふっふっ、何にしようかなぁ」


機嫌よさげなセルバンテス。

相変わらず読書を続けていたアルベルトがティーカップを取る。

一口含んだ瞬間に、セルバンテスはにこやかに宣言した。


「じゃあ、今夜素肌にエプロンだけを身に付けてアルベルトの部屋に特攻!」


アルベルトがむせた。

同時に撃ち出された衝撃派を躱して、セルバンテスがさも嬉しそうに笑う。


「アルベルトが嫌なら私の所に来てもいいんだよ?」


・・・・・どちらにしても裸エプロンは決定らしい。

イワンは悩んだ。

真剣に迷った。

主にそんな姿を見せて不興を買うくらいならセルバンテスに笑われた方が良い気がする。


「あの、何時にお伺いすれば良いでしょうか」


セルバンテスに訊ねたイワンに、サロンにいた人間の動きが止まる。


「・・・・・そこは衝撃のの所に行くべきではないか?」


残月が笑いを堪えて紫煙を吐く。

皆イワンの至った考えに笑いたいのを我慢していた。

アルベルトが不憫すぎる。

解っていない恋人に頭痛を覚え、アルベルトは眉間に人差し指を当てた。


「・・・・・11時半に来い」





「・・・・・・・・」

グラスを傾けて苦みのある液体を嚥下する。

蒸留酒だが味など分からないし酔いもしない。

時計を見て、こめかみに手を当てた。

あと1,2分でイワンが来るはずだ。

・・・・それが嫌な訳ではない。

それに手を出す自分がセルバンテスの思うつぼで嫌なのだ。

だが腑甲斐ない事に我慢できるほどイワンに対しての自制心は強くない。

こんこん。


「・・・・・・入れ」


そろりとドアを開けたイワンに、アルベルトは小さく溜息を吐いた。

嘘をついてもセルバンテスはすぐ見破るだろう。

だが馬鹿正直にカフェエプロン一枚で来なくともよかろうに。

だがその実直さが余りに可愛らしい。

ロングのカフェエプロンは細い腰から下に一重半巻かれており、前からも後ろからも脚は見えない。

だが焦茶の生地に引き立てられた白い肌が目を引く。

怖ず怖ずとアルベルトの顔色を伺い、目が合うと俯いてしまう。

アルベルトが溜息を吐くと、イワンは深く頭を下げた。


「あの・・・・・っ、これでセルバンテス様からのお叱りはないと思いますので・・・・・・っ」


踵を返した従者に思わず葉巻を落としそうになった。

この格好で!

この状況で!

こんな時間に呼び付けたのに帰る?!

それはない。

絶対にない。

あってたまるか!

閉めようとしたドアを抉じ開けて、イワンの腕を掴む。

びっくりたように目を瞬かせるのには正直呆れた。

こんな刺激的な格好の恋人を前にした男の心理が分からないのだろうか。

蕩々と説教してやりたいところだがまぁいい。

ズルズル引き摺ってベッドに放り投げると、裾から白い足首が覗く。

俯せに引っ繰り返して、尻に手を這わせながら項を噛む。

白い背に舌を伝わせながら跡を残すと、イワンの肩が震えた。


「ぁっ!」


腰骨と背骨の継ぎ目に歯を立てると、イワンの脚がシーツを蹴った。

左手で腰骨の側面をなぞり、右手は尻を揉む。

唇で骨の継ぎ目を攻めながら、皮膚を髭がなぶる。

イワンの指がシーツに食い込み、僅かに開いた唇から甘い溜息が零れた。


「ぁ・・・・・・ぁっ」


切なげに寄せられた眉。

色づいたまなじり。

アルベルトは右手だけを伸ばしてサイドテーブルのオイルを取った。

慣れた手つきで指に絡めて、カフェエプロンを少し緩める。

隙間から手を入れて内腿を擦り上げながら、後孔に触れた。


「ぅ、ん・・・・・」


皺をなぞるように指を滑らせ、焦らすようにゆっくりと、浅く指を潜り込ませる。

ひくつく孔を楽しみながら細かい抜き差しを繰り返すと、イワンが熱い吐息を吐いた。


「は・・・・・っあ」


もどかしげに指がシーツを掻き集める。

腰を押しつけたくて堪らないのを我慢している所為で、時折腰が跳ね上がる。

アルベルトは酷く質の悪い笑みを浮かべ、服を脱いだ。

シーツに縋り付いているイワンを持ち上げて場所を入れ替え、仰向けの己の腰にまたがらせる。

カフェエプロンの下で、繋がる卑猥な音がした。


「あぁ、っあ、ぅ」


ぐぶっと飲み込まされ、イワンは身体を震わせた。

半開きの口からは飲む事のままならない唾液が伝い落ち、その感触がまた身体を蝕む。

ヒクヒクと締め付けてくるのに口角を釣り上げ、アルベルトはイワンに命令した。


「捲って見せてみろ」


イワンが泣きそうな顔をした。

彼はここを見られるのを嫌う。

だがアルベルトは許しはしなかった。

目を細められただけでイワンの身体は竦み、従わなければと震えだす。

唇をわななかせながら、イワンはカフェエプロンの裾を掴んだ。

たっぷり二分掛けて上がったのは僅か十五センチ。

だが薄暗い中に男根を頬張る孔を認め、アルベルトはイワンを見上げてにぃと笑った。


「あの小さな孔がよくこうも拡がるものだ」


耐え切れぬ羞恥に、イワンの目に涙が滲む。

連動してきゅぅと締まったそこを眺めながら、腿を撫でる。


「淫らな動きだな」

「・・・・・・・・・っ」


イワンは目を堅く閉じて顔を背けた。

反動で涙が落ちる。

顔どころか全身が薄らと染まり、酷く熱い。

声も出さずに涙を流す従者の仕草に、アルベルトの腰が動いた。


「ぁっ・・・・!あっ、ぁ、っんぁ」


慣れない下からの突き上げと、体重が掛かった事による深い結合。

不安定な揺れに、バランスをとるイワンの肉管が引き絞られる。

熱く濡れた柔らかな肉をこすり上げ、アルベルトは欲望のままに精液を放った。

奥に出し切り、倒れ掛けるイワンを引き留める。

だがそれは次の行動の予兆だ。

支えたイワンを組み敷き、抜け切らぬ快楽の余韻に痙攣を起こしている身体を激しく突き上げる。

耳に悲鳴が届いたが、もう止められはしない。

アルベルトは本能の吠えるままに、泣き叫ぶイワンを空が白むまで凌辱した。

一向に弛まない責めによって、気を失っては覚醒する地獄を味わったイワンが気絶ではなく昏倒するに至り、漸くアルベルトはイワンを解放したのである。





「・・・・・・・・・君ねぇ。あんまり度が過ぎると愛想尽かされるよ?」

案の定イワンが有給を取ったので盟友をからかいまくったセルバンテスだったが、内容の酷さと長すぎる継続時間に、思わず真面目な忠告をしてしまった。

あの恥ずかしがりのイワンにストリップじみた事を強要し、泣かせ、更に泣き叫ぶのを無視して何度も付き合わせ、失神してもやめずに最終的には昏倒。

裸エプロンでけしかけたのは紛れもなく自分だが、それはあんまり可哀想だ。

しかも話によると有給を手続きしたのはアルベルト。

イワンは目を覚ましていない上熱を出したらしい。

ローザを付けたのは賢明だ。

下手に傍にいて弱ったイワンに欲情でもしたら事だ。

これ以上無理をさせたら彼が壊れてしまう。


「・・・・・お見舞いは何がいいかなぁ」


身体も心も全く平気だが流石に反省はしている様子のアルベルトを眺めながら、セルバンテスは頬杖をついて呟いた。





***後書***

二人とも反省してください。

イワンさんが過労で死にそう。

ギャグ路線を頑張ってみましたが伝わらないと思います(死)