【御主人様のお気に召すまま-029】
「余り魅力的なのも考えものだのう」
「面目ありません・・・・・・・・・」
カワラザキの任務に同行していたイワンは、潜入先から助けだされて身を縮めていた。
毎度よろしくターゲットに「お持ち帰り」されて撫で繰り回されたのである。
カワラザキが来なければ美味しく頂かれていただろう。
情けなさにうなだれるイワン。
カワラザキは苦笑して彼の頭に手を置いた。
「いやいや、最近の任務は中々質の悪いものが回されておるからの」
「前とそう違いはない筈なのですが・・・・・・」
本当にそう思っているらしいイワンに、カワラザキは苦笑いを零した。
最近イワンに回される任務は所謂「色」の任務である。
それもかなり変わった性癖の男ばかり。
知らぬは本人ばかり。
女性エージェントが少ないBF団において益々彼女等を減らす事は極力避けたい。
色くらいでやめる甘ちゃんもいないが、兎角頭を悩ませる変態男の相手はもっぱらイワンに回ってきているのだ。
それもここ数か月・・・・・・彼が主と結ばれてから急増している。
匂い立つ色気のイワンに仕事を回せて策士孔明はご機嫌だ。
逆にアルベルトは不機嫌MAX。
だがそれは衝撃派の威力割り増しに繋がるのでやはり孔明はご機嫌なのである。
・・・・・任務明けのイワンに必ず有給を都合する事にはなるが。
逆に言えばそれだけでこの利益が上がるのだから、年中十傑の我儘放題に胃を痛め、十倍返しの嫌味で気を紛らわすしかない彼のささやかな満足を誰も邪魔はしない。
・・・・・・とはいえウラエヌスをはじめイワンにしか扱えないロボ、機械多数のBF団、調整は結構厳しい。
ついでに言えばイワンしか扱えないものの最たるものが「衝撃のアルベルト」であるのは言わずもがなである。
・・・・・話を戻そう。
本日もイワンは食われる寸前だった。
つまり相当身体をいじくり回されたのである。
心は伴っていないとはいえ、未だ身体は熱を孕んでいた。
「今、離陸させます」
壁に手を突いて立ち上がったイワンに、カワラザキは苦笑いを零した。
「そんな状態ではこちらが不安じゃの」
念動力でイワンを浮かせ、自分に背を預けさせた状態で膝に乗せる。
慌てるイワン。
「か、カワラザキ様っ」
「若い時分は遊んだものでな。男相手はなかったが」
激動のカワラザキといえば元十傑衆リーダーだ。
面倒見良し、決断力あり、顔は・・・・・若ければ多分良し。
そりゃあもてたのだろう、遊んだのだろう。
だがイワンは技術を心配しているわけではない。
カワラザキの手を煩わせたくないのだ。
それ以上に主に知れたらただでは済まない。
「わ、私は大丈夫ですので・・・・・っあ!」
カワラザキの手が太腿を撫でる。
二の腕を擦られ、イワンは身体を震わせた。
「ぁ・・・・・あ・・・・・・」
柔らかな快楽に、腰が痺れる。
だが達しそうなわけではない。
脇腹を擽られ、身体を弱い電流が駆け抜ける。
「ぁ・・・・・・っ」
イワンの身体から力が抜けた。
言うなれば、ある程度の快楽で熱が冷めてしまった状態。
疲れないし、割とすっきりする。
「大丈夫かな?」
「は、い・・・・・・」
少しまなじりを赤らめたまま、恥ずかしげに微笑って、イワンは操縦席に逃げ込んだ。
「・・・・・わっぱどもがこぞってちょっかいをかけたがるのも無理はないのぅ」
「イワン君〜!」
帰還するなり抱きついてきたセルバンテスの胸の中で、イワンは何とか首を上向かせた。
「どうかなさいましたか?」
泣き真似する幻惑使い(38)のうざさは半端ない。
だがイワンは慣れているため普通どおりだ。
「アルベルトが機嫌悪い〜!」
一刻も早く盟友の機嫌を回復したい(そして何かさせたいのだろう)セルバンテスに手を引かれるままサロンへ向かう。
だがサロンのドアを開けながら言われた一言に、イワンは血の気を引かせた。
「樊瑞がサロンに引いた無線つけっ放しだったからアルベルトが怒っててねぇ」
サロンに踏み込んだ形のまま、イワンは身体を固まらせていた。
顔を上げることすら出来ない。
いや、不義は働いていない。
働いていないがアルベルトが許してくれるかは分からない。
と言うか十中八九許してはもらえない。
冷や汗すら出ないまま、そろりと顔を上げる。
「ひっ」
普段余り笑わない主の薄ら寒い笑み。
イワンの喉から悲鳴が上がる。
一言も何も言わないのが更に恐怖を煽る。
アルベルトがソファから立った。
相変わらず一言も喋らない。
因みに報告書を提出に行っているカワラザキを除くメンバーは今日もサロンに揃っているが、触らぬ神に祟りなし、もとい面倒事に関わりたくない、ぶっちゃけここでイワンを助けるより苛め倒されたあとで慰めた方が株が上がる等という考えの駄目男どもが揃っているのが実情だ。
イワンの追い詰められた小動物のような目に、微笑み手を差し出してくれる者はいない。
瞳孔が開いた薄い笑みで手を伸ばしてくる悪魔はいるが。
「〜!」
声にならない悲鳴を上げて引きずられて行くイワンに腹の立つ笑顔で手を振ってくれたのは、主とそんなに精神回路の変わらないナマズ髭の男だった。
「イワン君頑張ってね〜!」
「アルベルト様あのっ」
「・・・・・・・(にた)」
「ひぃぃっ」
怒っている。
猛烈に怒っている。
手つきが異様に優しいのが怖い。
薄ら笑んだまま動かない表情が怖い。
「申し、訳、ありま、せん・・・・・・・」
「何を謝る?不義を働いた訳でもあるまい」
アルベルトの指が鎖骨をなぞる。
肩のラインを辿る。
「ぇ、と・・・・あの・・・・・」
言われてみれば何と言えばいいのか分からない。
達したわけではないし、肌すら直に触られていないのだ。
「その・・・・・・・っぁ!」
脇に指を突っ込まれて、思わず身体が竦んだ。
くいくいっと指を動かされて、イワンは擽ったさに身体を捩った。
すると腕を取られて上げさせられ、脇を甘噛みされる。
「んっ、あ、アルベルト様!」
性的というより変態的な攻め方に、イワンは声を震わせた。
一般的な嗜好しかない彼はこの手の変質的な攻めに弱い。
酷く背徳感に苛まれてしまうのだ。
一方アルベルトは淡泊に見えて全くそうでない。
いや、女性に対してはそうだ。
まぁ楽しまなくもないが、溺れる事もない。
だがイワンに対しては欲望は尽きる事が無い。
甘やかして鳴かせたい日もあれば、酷くして泣かせたい日もある。
しつこく愛撫して焦らすのも良いし、変態じみた行為で乱すのも捨てがたい。
アルベルトはワイシャツの上からイワンの脇に吸い付いた。
イワンが堪え切れずに身体を捻る。
「っあ・・・・・!」
きつく寄せられた眉。
涙の滲んだ目。
わななく唇。
アルベルトはイワンのスラックスを脱がせ、すらりと伸びた脚を持ち上げた。
イワンの右足の土踏まずを左手で持つ。
「・・・・・・・・・?」
潤んだ瞳で不思議そうに見上げてくる従者にニィッと口端を釣り上げ、アルベルトはイワンの足の甲に舌を這わせた。
「!」
イワンの目が驚きに見開かれ、全ての動きが停止する。
アルベルトは薄く笑んだままに、イワンの足の親指を口に含んだ。
「あ・・・・っ・・・・・・!」
ぬるりと指の間に舌を這わせられ、イワンは歯を食い縛った。
仕える主人が自分の足に舌を這わせる視覚的攻めに耐え切れず、顔を背けて目を閉じる。
「アルベルト様っ、どうか、そのような事は・・・・・・・っ!」
ぢゅっと吸われて指がシーツに食い込む。
恥ずかしさと後ろめたさで、イワンの目から涙が落ちた。
「ぃや、です・・・・・っ」
ひくっとしゃくりあげるイワン。
アルベルトは毎回不思議に思う。
男ならば相手を屈伏させるのが征服欲を満たす。
女は男に愛を誓わせたがる。
だがイワンはどちらも望まない。
男であり、女役を担っている彼は。
「ぁ・・・・・・・・っ」
オイルでぬめらせた指を差し入れると、小さく悲鳴を上げた。
きゅうきゅうと締め付けてくる後孔。
入り口近くで細かく緩やかに抜き差ししてやると、指を拒んでいたそこが緩んでくる。
そのための器官ではないのに、何度も繰り返し男を受け入れさせられたためにそうなってしまった身体。
もう女性とのセックスでは満足出来まい。
身体を擦られ、胸の尖りを弄られて感じる。
男に犯され、蹂躙されて鳴く。
奥を突き上げられ、種付けされて射精する。
男としては余りに憐れな身体だ。
だがそれを堪えて自分に尽くすのが余りに愛しい。
「んんっ」
三本の指でぐりぐりと掻き回すと、イワンが辛そうに眉を寄せた。
痛いというより不快感が強いのだろう。
揃えて奥を撫でると、びくっと身体が跳ねた。
「っあ・・・・・」
潤んだ目が薄く開いて主を見つめる。
アルベルトはイワンの脚を抱え上げ、灼けた楔をねじ込んだ。
強い抵抗を示す孔に喉が鳴る。
嫌がる身体を開かせる事により満たされる部分が確かにあるのだ。
僅かな痛みを代償に与えられる快楽は喩えようもない。
甘美で、強い中毒性を持つ。
受け入れるイワンは、その身に痛みと快楽の責め苦を受ける。
身体の苦痛は二の次だ。
恋い慕う主を受け入れる喜びを。
男に犯される苦痛を。
その心に一身に負って。
アルベルトはイワンの手を取った。
身体をひくつかせる従者の指を、結合部に触れさせる。
触れた瞬間に、きちゅっと最奥が締まった。
触れられた事に驚いたのだ。
だが動きを止めた主に薄らと目を開いたイワンは、そこに触れているのが己の指であることに気付き悲鳴を上げた。
「ひ・・・・・・っ」
首が僅かに拒否を示して振られる。
ぎゅうぎゅう締め付けてくるそこは相当な力だが、根元まで深く食い込ませているので然程痛みはない。
イワンの指先を少しめくれた粘膜と男根の境に触れさせると、手を引いて嫌がる。
「どうか、どうかお許しください・・・・・・!」
涙声で懇願され、アルベルトは漸く手を放した。
時折確かめたくなるのだ。
自分を受け入れている身体を、イワン自身が受け入れているのかを。
それが諦めならば意味はない。
だがイワンはいつも許しを請う。
好きにすれば良いと身を投げ打ってはいない。
アルベルトは漸く機嫌を直し、イワンの腰を掴んで突き上げ始めた。
激しい動きに、イワンの腰が軋む。
限界まで拡げられた孔を出入りする男根に血管が浮き立った。
「っあ、あ・・・・・・っ!」
「皆こぞってあれを構う気持ちが分かるのぅ」
笑いながら日本茶を啜るカワラザキに、幽鬼が首を傾げる。
「爺様は派手な美人が好きとか言ってなかったか?」
「そうだっかの?」
リーダー引退後は割合アバウトなカワラザキ。
まぁ引退したのは「リーダー」だけで現役十傑衆なのだが。
「あと二十年若ければのぉ」
続いた不穏な言葉に、アルベルトはちらとカワラザキを見てみた。
古狸は相変わらず笑っているだけだ。
笑っていてもただ煩いだけの盟友の方がまだましな気がする。
魅力的過ぎる従者兼恋人に、アルベルトは今日も頭を悩ませるのだった。
「アルベルト!サニーちゃんとイワン君のどちらかを私の奥さ」
「煩いわ!」
***後書***
イワンさんのおみ足をにゃめにゃめ。
皆に狙われる奥様を守れるのか、アル様。