【御主人様のお気に召すまま-031】
「・・・・・・・・っ」
たたっと僅かな足音を立て空き部屋に滑り込む。
イワンは持ち得る運動能力の全てを消音ダッシュに注ぎ込んで、己を賭けた鬼ごっこに臨んでいた。
・・・・・己を賭けた、とはプライド等の比喩ではない。
単純に貞操が懸かっているのである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
息を殺し、ドアの向こうに聞き耳を立てる。
5、6分程そうしていただろうか。
捕食者の足音が聞こえない事に安堵の溜息を吐き、イワンは手を着けていたドアを背にしてもたれたのだが。
「ひっ」
振り向いた向かいの壁ににたぁと笑う十傑衆きっての問題児、マスクザレッドを発見し、イワンは肝を潰した。
そこに居た事は然程驚く事ではない。
十傑一の非常識な身体能力を誇るレッドにB級エージェントのイワンが追いかけっこでかなう筈が無い。
怖いのは袋・・・・・・レッドがぶら下げた袋の中身だ。
レッドの闘争本能を駆り立てるのが逃げるイワンなら、イワンの逃走本能を駆り立てるのはレッドが持った袋の中身。
無地の紐で締めた袋を触らされたのは30分前だ。
中身を当てろと言われた。
解らなければ実地で教えてやると。
どう考えてもそれが勃起した男性器の形を模した物だったため一瞬口にするのを躊躇った。
すると執拗に問い詰められ、言えないのか、何だと思っている、と引っ掻き回され言うに言えなくなってしまった。
散々苛め倒してイワンが覚悟を決めたらあっさり「時間切れだ」。
そして「解らないようなおぼこには教えてやらんとなぁ?」である。
斯くして冒頭の追いかけっこに到るのだ。
イワンは直ぐ様ドアノブに手を掛けた。
だが背中から回った手を喉に添えられて息を呑む。
「レッドさ、ま」
首の斜め後ろの辺りに生暖かな舌が伝う。
動けないイワンの項を舐め上げ、レッドは彼のベルトのバックルを外した。
手を入れて反応の無い雄を柔く揉み、耳の側で囁く。
「握り潰してやろうか?」
「っ・・・・・・・・・・・・」
イワンの喉が小さく鳴った。
手の動きにスラックスがずり落ちる。
レッドの笑みが深くなった。
「主に触れられても立たなくなるぞ?・・・・・それともこちらを犯されれば充分か?」
堅く閉じた後孔に指が触れ、イワンは身体を強張らせた。
くに、と押されて腰を捩る。
レッドは追わなかった。
だが逃がしたわけではない。
自分の指に唾液を絡め、再び触れる。
イワンが止める間もなく、それは拒む孔を抉じ開けて潜り込んできた。
「ぅんっ、ぁ、レッ・・・・・・」
唾液を塗り込め、堅い蕾を手際良く解す。
浅い出し入れで指を増やし、レッドは一度自分の手指を愉しませる為に奥を撫で、殊更ゆっくりと引き抜いた。
イワンの背がくんっと反る。
「っ・・・・は・・・・・」
座り込みそうになっている身体を片手で立たせ、レッドは袋から中身を出した。
それはイワンの予想に違わず張り型だったが、薄く水の張られたビニールに入っていた。
幹には植物を加工したらしきもの・・・・・と言うか干して水で戻した茎が巻かれている。
取り出すとどろぉっと糸を引いた。
これぞ日本古来の性具「ずいき」である。
基本的には里芋の茎を干した食品だが、このように水で戻し張り型等に巻き付けて「入れる」のだ。
これは気持ち良い悪いというより「痒い」。
粘膜を刺激されて堪えられない痒みが生じる。
そこを男根でごりごりやられたら一発昇天と言うわけである。
レッドは一瞬の躊躇もなくイワンの中にずいきを巻いた張り型をねじ込んだ。
ずいきを使用する事が目的の為、些か細めの物を選んだが、イワンのそこは異物を拒絶し中々受け入れなかった。
強引に突っ込むとイワンの身体がぎくんと引きつる。
「自分で取るのも良かろう。勿論一人遊びに興じるも自由だが・・・・・私が相手をしてやっても良い」
主にそれがばれると不味かろう?
耳に注ぎ込まれる言葉に、イワンは顔を背けた。
レッドがニィと口端を釣り上げる。
「いつまで我慢できるか見物だな。今に犯して欲しいと縋る事になろう」
レッドがイワンを泳がせ始めて40分後、死に物狂いで仕事にひと区切りつけたイワンは部屋に戻ろうと歩いていた。
とても入れたまま走れない。
じわじわと痒くなってきたあれに時折後孔がひくっと締まった。
抜き取って爪を立てたい。
がりがりやりたい。
兎角我慢し難い。
無意識に腹部に手を当てていると、鼻先に慣れた薫りが届く。
顔を上げると、主が彼の盟友と廊下を歩いてくるのが見えた。
イワンは任務の話らしいのを邪魔しない程度に軽く頭を下げて道をあけた。
二人が通り過ぎるとまた歩きだす。
その後ろ姿を、立ち止まったセルバンテスが眺める。
「どうした」
「・・・・・ああ、いや・・・・・」
彼はきっと頑張ったから、その辺手心を加えてあげないと可哀想だよ。
盟友の言葉に大体のところを察知したアルベルト。
葉巻の吸い口を軽く噛むと、さっさと話を済ませるべく、よそ見している盟友の名を呼んだ。
「セルバ「でもああいう禁欲的な色気って燃えるよねぇ」
「んっ、ふ、ふくっ・・・・・・」
アルベルトに奉仕しながらイワンは泣きそうになっていた。
部屋に戻ると直ぐにウラエヌスのラボから電話があり、冷却水の交換の日程を聞かれた。
手帳とカレンダーを見て応答し、電話を切ったら今度は主に捕まった。
体調がすぐれないのでご奉仕だけと願うと、アルベルトは了承してくれた。
が。
手指で扱き舌で舐め上げ唇で吸い付き・・・・・持ち得る最大の技術で奉仕しても主が達する気配はない。
いや、男根は興奮も顕だ。
血管と筋が浮き立ち、ねばい先走りをじとりと垂らしている。
要は堪えて楽しんでいるのだ。
イワンも必死で頑張るが、若い頃盟友と夜の街で遊び倒した男にはギリギリ堪えられる波だった。
「んっ、ん」
ちゅぱちゅぱとかりを吸いながら、イワンの腰は無意識に床をずっていた。
揺らめくと言うより擦りつけられる動き。
はらわたを引き出して刻みたい程の衝動に、イワンの後孔は異物をくわえたままでいるのに限界を訴えていた。
身体が言う事をきかない。
口が男根から外れ、それに頬を擦りつけたまま主の腰に縋り付いてしまう。
身体が強張り肉管が張り型に絡んだ。
「ぁっ、ぁっ、っ・・・・・・・・っ」
深く呑み込んだ物を激しく締め付けてしまい、中で角度が変わる。
イワンの指がアルベルトのスーツをきつく掴んだ。
「っぁ・・・・・・!」
スラックスの中に生暖かい感触が広がる。
服も乱さす、触れもせずに、男根に奉仕しながら射精した従者に、アルベルトはくつりと笑った。
イワンは熱くそそり立つものに頬を当てたまま身体を震わせている。
腰の動きを見れば後孔に何か含まされているのは明白だった。
「入れば何でも悦いらしいな」
顎に指を掛け上向かせると、イワンは主を見上げて緩慢に目を瞬かせた。
数瞬後に漸く理解したらしく、さぁっと血の気を引かせてスラックスの前を押さえる。
くちゅ、と小さくぬめる音が立った。
「あの・・・・これは・・・・・・・・」
「何を仕込まれた」
ベッドに引き上げられてスラックスと下着を抜かれる。
下着と糸を引いた雄は甘くだが再び立ち上がっていた。
脚を上げさせると、そう大きくはない張り型。
僅かに出た部分を引っ張る。
「っあぁ・・・・・!」
イワンの腰が跳ねる。
余程心地いいらしい。
薬かと思ったが、めくれた粘膜が酷い充血を起こしているのに気付き、アルベルトは張り型をゆっくりと引き抜いた。
「痒いか」
ずいきから出た粘液が指先に付くと微かに疼く。
粘膜に長く挿れられていたら相当きつい筈だ。
放っておくと自分で内臓を傷つけそうな従者の中に指を挿れ、柔く掻いてやる。
「あっ、あぁ、あ」
唾液を口端に飲み零して悶える従者は半ばイッてしまっている。
身体はぶるぶる震え、後孔の収縮は激しい。
知らなかったとはいえここまで我慢させたのは可哀想だったかもしれない。
アルベルトはイワンの身体を俯せにさせ、膝を立てさせた。
指を抜いて代わりに取り出した自身をあてがうと、何でも良いから刺激が欲しくて堪らない後孔がひくひくと蠢く。
ゆっくりと押し入ると、嬉しそうに絡み付いてくる。
「あっ、あーっ」
イワンは余りの心地好さに身も世も無く泣いている。
身体は時折びくつき、嗚咽と交じってアルベルトに快楽を与える。
「・・・・・・イワン」
本腰入れて攻め始めようと身を起こした視界に映ったものに、アルベルトは口端を歪めた。
後ろからイワンの顎を掬い、前を向かせる。
「何が見える」
主の問いに、イワンは伏しがちになっていた目を前に向けた。
「っ・・・・・・!」
「くく・・・・・そんなに締め付けるな」
姿見に映った自分の姿に、イワンの後孔がキツく締まる。
アルベルトが僅かに痛みを覚える程に。
男に後ろから犯されて涎を垂らした自分の姿は相当ショッキングだろう。
顔を背けるイワンの顎を掴み「見ろ」と強制する。
「貴様を抱いているのはどんな男だ」
緩く突き上げ返事を促す。
「あっ、あ、アルベルト様、です」
「どんなと聞いている」
「んっんっ、か、髪短、くて、髭、あっあ」
生殺しの状態でイワンを攻め、言わせる。
もう右も左も分かっていない状態で泣きながら、イワンは自分を抱く男の容姿を説明した。
黒いスーツに、口髭。
逞しい体躯に大きく優美な手。
黒い短髪。
赤い瞳。
順序もなく説明させ、それ以上説明しようがないのをまだ苛めると、髪を乱したその姿がとても格好良いのだとむせびながら吐いた。
アルベルト自身は自分の容姿など気にしたこともないが、恋人に格好良いと言われて頬が緩まない筈もない。
へたりそうになっているイワンの腰を掴んで、やっと彼が求めたように激しく突いてやる。
焦らされた後孔は周辺が熱く熟れて浮腫んでいた。
出入りする男根に掻き回された粘膜が濡れて泡立つ音を立てる。
「あっあっあっあっ」
揺さ振られながら、イワンは主に命ぜられるままに鏡を見ていた。
紅潮した顔で口端から涎を垂らした己の顔を見つめたまま、白濁を噴き上げる。
達する瞬間の快楽に溺れた顔と中に注がれる精液に悦ぶ淫らな表情の情けなさに啜り泣いていると、背に口づけられ耳を舐められる。
「貴様がワシの容姿に心音を高める様に」
貴様のその顔がワシの体温を上げる。
しゃくり上げながら、イワンは耳まで赤くしてアルベルトを見つめた。
泣き濡れた瞳が振り仰ぎ見上げてくる視覚効果はかなり凄い。
アルベルトは少しきわが腫れた目を瞬かせている従者に意地悪く笑むと、もう一度耳に口づけた。
「・・・・・・・何故真っ先に疑いが私に掛かるのだ」
何回目か分からないパンダ痣を拵え、レッドはサロンのソファで真剣に悩んでいた。
「お前が一番怪しい」
「質の悪さから類推出来る」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヒィッツと幽鬼から一瞬の躊躇もなく言われ怒鬼に力強過ぎる頷きを貰い、レッドは呟いた。
「・・・・・・・うむ、矢張りその場で食っておくべきだったか」
「こいつは今の話を聞いていたのか?」
「話自体おかしくないか?疑い云々じゃなくばれただけだろう」
「・・・・・・・・・・・・・」
頑張れ若人!
***後書***
「入れば何でもいいのだろう」って言うアル様と括約筋でイッたぅイワンさんが今回の目的でした。