【御主人様のお気に召すまま-033】



「何で君はそう食わず嫌いなのかなぁ」

テーブルに肘を突いたセルバンテスは不満げに盟友を指差した。

その指先は少しだけ茶色に汚れている。

テーブルの上には、氷をいっぱいに敷き詰めたガラスボウル。

その上には綺麗に細工が施されたチョコレートが乗っている。


「美味しいのに」

「菓子はそう好きではない」

「はいはい、イワン君のブルードネージュが一番だよね。私はフロランタンの方が好きだけれど。勿論イワン君の」


言いながら、セルバンテスはまた一つチョコレートを口に運んだ。

毎回土産の菓子類は自分の腹の中だ。

一度くらい盟友に甘味を美味いと言わせてみたい。

甘いチョコレートを噛み砕いていると、卓上のハニーポットが目に留まる。


「まあでも・・・・・どんなに甘くても美味しくてもイワン君にはかなわないんだよねぇ・・・・・」


言ってはたと気付いた。

別にそれ自体に砂糖が含まれていなくても菓子は菓子だ。

例えば甘くないワッフルに蜂蜜をかけるように。


「・・・・・・・蓮華に桜、色々あるけど。どれにしょうかなぁ」





「やぁ、呼び付けてすまないね。君が絶対に美味しいって言うお菓子を用意したから!」

チョコレート事件から五日後の夜。

セルバンテスに屋敷に来て欲しいと言われて出向いたアルベルトは、一つの部屋の前にたたずんでいた。

鍵を渡され、冒頭の言葉。

正直ここまで強硬に菓子を食べさせたがるとは思っていなかった。

適当に一つ二つ摘んでおけばこう面倒な事にはならなかったなと思う。

溜息を吐いて鍵を開けたアルベルトは・・・・・絶句した。


「アルベルト様・・・・・・・・・」


ベッドにイワンが転がされていた。

ワイシャツごと縛り上げられ、白い生足が剥き出し。

恐らく下着も身につけていまい。

常ならさらりとした肌が、ぬらりと妖しく艶めいている。

それは照明によるものだけではない。

枕元にはバスケットボールでも中に入りそうな大きさのハニーポット。

蜂蜜壺だと解るのは表に「HONEY♪」と書いていたからだ。

蓋の把手にはカードが下げてある。


『好みで掛けたまえ』


・・・・・・・・やられた。

確かにこの菓子ならば美味いと言わざるをえまい。

味が極上であることは分かり切っているし、食べずに突き返すことなど不可能だ。


「あの・・・・・・・・」


どろりとした蜂蜜が染み込んで透けたワイシャツから見える淡い尖りに目を奪われる。


「セルバンテスから何か聞いているのか」


ベッドに膝を付き、従者の頬に親指を這わせる。

イワン酷く困った顔をした。

頬は桃色に染まっている。


「・・・・・その、・・・・・と・・・・」

「はっきり言え」


口の中で言うようでは聞こえないと言うと、イワンが泣きそうな顔で益々頬を赤らめた。


「蜂蜜を掛けて・・・・ご奉仕するようにと・・・・・・・・・」


アルベルトは思わず笑っていた。

あの男の発想は一癖二癖では済まない。

アルベルトがイワンを「食べる」のは勿論、行為の余興にまで蜂蜜尽くしだ。


「ただでさえ砂糖菓子のような貴様に蜂蜜か・・・・・・・・」


チュ、と淡く透けた尖りをワイシャツの上から吸う。


「っ!」


イワンがびくっと身体を竦ませた。

少し強かったのだろう、痛かったらしい。


「甘いな」

「ん・・・・・・・・っ」


蜜などとうに舐め取ってしまったのに、アルベルトの舌は甘い尖りを放さない。

舐めねぶり吸い、齧る。

かみかみと細かく甘噛みすると、イワンの口から甘い吐息が漏れる。


「あ、は・・・・・・・っ」


アルベルトはハニーポットの蓋を開けて、中に手を入れた。

指に絡み付く蜂蜜を、イワンの唇に塗り付ける。


「・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・」


不思議そうなイワンの唇を味わう。

柔い唇を唇で挟んで吸うと、僅かに口が開く。

甘ったるい舌を絡ませると、イワンがまなじりを染める。


「ん・・・・・・は・・・・」


指を下ろして首筋に蜂蜜をなすり、舌で舐める。

鎖骨を軽く噛むと、イワンの身体が小さく震えた。


「ぁ」


一度身を起こし、もう一掬い蜂蜜を取る。

太腿に流し掛け、泣きそうな顔をして赤くなっているイワンと視線を合わせたまま舌を這わせた。


「っアルベルト様・・・・・・」


引こうとする脚を掴んで、仕置きのようにきつく吸う。

びくりと引きつる脚に何度も繰り返し、また蜂蜜をかける。


「花弁に蜜、か」


散った深紅の花びらと、伝い落ちる金の蜜。

上げさせたために伝う蜜を追って脚の付け根に舌を伝わせた。


「アルベルト様・・・・・」


甘くかすれた声が名を呼ぶ。

ちらと目を向けると、イワンは恥ずかしそうに視線をシーツに落とした。


「っ、ご奉仕を」


律儀にセルバンテスに言われた事を実行しようとする従者に小さく笑い、アルベルトは身を起こした。


「蓮華と桜、どちらがいいのだ」

「蓮華と、桜・・・・・・・?」


アルベルトはハニーポットを少し傾けた。

中は二つに仕切られており、たゆたう蜂蜜に歪んだ底面には「蓮華」と「桜」の文字が揺れている。

市販品は大抵花の区別のない「混合」だが、セルバンテスはわざわざ調達してきたらしい。

イワンは少し迷い、蓮華を選んだ。

縛られたまま主のベルトを噛んで引っ張り、バックルを外す。

それを見てやっと縄を外され、ハニーポットに手を入れた。

甘い香りの蜂蜜を掬う。

とろとろと主の男根に蜜を掛ける。

真黒な下生えに蜜が絡んで酷く淫猥だ。

恥ずかしくて顔は見れないが、笑っているようだった。


「ん・・・・・・・・」


舌を這わすと、いつもの塩辛さも獣臭さもない。

ただ甘い香りが鼻孔を擽り、舌に乗る蜜もひたすらに甘い。


「ん」


伝う蜜を舐め取り、軽く吸い付く。

ビクビクと硬く反った男根に甘く柔らかに奉仕する。


「・・・・・今度は桜にするか?」


からかうように聞いたアルベルトに、イワンは甘く濡れた目をとろけさせて首を振った。


「まだ、甘いですから・・・・・・」


アルベルトは思わず喉奥で笑った。

蜜などとうに舐め切っている。

今イワンの舌を甘く痺れさせているのが蜜だというならば、それはアルベルトの精蜜だ。

自分の先走りに酔う姿が可愛くない筈がない。

アルベルトはイワンの舌が誘うままに熱を吐き出した。

だがすぐに引き抜く。

最初の蜜を口の端から零しながら必死に飲み込む従者の顔は勿論、首やワイシャツのずり落ちた肩まで精液で汚した。


「蜂蜜より余程似合う」


奉仕で少し酸欠気味のイワンを組み敷き、掬った蜂蜜を後孔に塗り付ける。

オイルや精液より粘度の高いそれを使って指を差し入れると、ぬぷっと卑猥な音がした。


「ぁあっ」


恥ずかしがる姿が可愛くて、何度も蜂蜜をなすっては指を入れる。

中に少し蜂蜜が溜まってきたので少し指を曲げたまま抜き差しすると、ぐぷっくぽっと音がする。

イワンは羞恥に耐え切れず、シーツに半顔を埋めて啜り泣いていた。

それでも一言も拒絶しないのに頬が弛む。


「ぁ・・・・・っああ!」


耳たぶを含まれて声が口を突いた瞬間、押し当てられて突き込まれる。

慣らされてはいたが衝撃に息を呑む。

先だけを呑んだ状態だったが、かりは含み切っていたため、甘いぬめりに助けられた男根はぐずぐずと根元まで埋められた。


「あ、ぁ・・・・・・・・」


ぶるぶると体を震わせて締めてくる従者に、アルベルトは甘く口づけた。

蜜に酔ったのか快楽に酔ったのか、艶めかしく吐き出される吐息。

引き出すとぬちゃりと蜜が溢れた。


「あっあっ、あ、あぁっ」


粘度の高い蜂蜜を潤滑にしたため些か動きにくいが、それはそれで肉の擦れ合う感覚がいい。

ヌプヌプと細かく抜き差ししながら強く奥を擦る。

そのたび甘ったるい悲鳴が上がる。

奥深くを微妙に斜めに突いた時、イワンが射精した。

アルベルトも奥に吐き出す。

何度か抜き差しして完全に絞り出し、引き抜いた。


「ぁ・・・・・ん・・・・・・」


金の蜜と白い蜜の混じったものを零す綻んだ蕾。

アルベルトは小さく笑い、それとは違う、イワンの腹の上にわだかまった蜜に指を這わせ、舌先で舐め取った。





「さあアルベルト!今日こそは「美味しかった」って言ってもらうよ!」

自信満々で言うセルバンテスに、アルベルトは葉巻を取り出し火を点けた。


「・・・・・・・・まあまあだな」

「ちょ、そんなわけ・・・・・・・」

「同じ蜜なら」


あやつの蜜の方が美味い。

がちゃんとティーポットを落とす音がしたが、盟友達は気にしない。


「・・・・・・・あー!失敗した!」

「詰めが甘い」


絨毯に染み込んでいく紅茶を茫然と眺め、イワンは羞恥で死にそうになりながら涙を堪えた。





***後書***

怒ってもいいと思うよ、イワンさん。

あのおっさん調子乗ってるから。